異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第3章

おじさんの家へ。

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【BAR「BROOKLYN」・深夜】

「――頼めるか、風間」

 カウンター越しにユートが真剣な眼差しで言った。
 その横ではティナとバルトがグラスの氷をいじっている。

「2人分の“こっちの身分”と、住む場所も。しばらく俺の部屋じゃ窮屈だ」

 風間は短く鼻を鳴らす。

「ったく、面倒なもん背負い込んだな……分かった。明日までには用意する。
 ただし名前と年齢、職業の設定はこっちで決めるぞ」

「頼んだ。あとは俺の責任で動く。今から――師匠に会いに行く」

「……お前、また揉め事増やすなよ」

 風間の目が鋭くなるが、ユートはもう席を立っていた。


---


 ネオンが瞬くビル街を歩く3人。
 ティナとバルトは完全に“異世界観光モード”だった。

「なあユート! あの上を走ってるやつ、なんだ!? 火がついてる!」

 バルトが指差すのは――赤いブレーキランプのタクシー。

「車だよ。動力で動いてる乗り物。人間が乗って移動する」

「……馬車より速そうだな。魔力の気配がしないのに、どうしてあんなに動くの?」

「エンジンとガソリンの仕組みで……いや、説明難しいな……とにかく、火の魔法じゃない」

「ふーん……よく爆発しないわね」

「……たまに爆発する」

「おい……」


---

 さらに道を進めば、自販機が並ぶ歩道に。

「わっ!? この箱! 飲み物が……詰まってる? しかも中、光ってるぞ!」

「自動販売機だ。お金を入れてボタンを押すと飲み物が出てくる」

「お金入れて……ボタン? えっ、魔法使わないの? 誰か入ってるとか?」

「入ってねぇよ」


---

 そして、コンビニの前を通過。

「またなんか明るい店! 夜なのに営業してるのか? ずっと灯ってるのか?」

「24時間営業だ。食い物とか日用品とか、たいてい手に入る」

「じゅうよじかん?」

「休まず開いてるってことだよ……こっちの世界は便利なんだ。便利すぎて逆に怖い」


---

 駅のホームを見下ろす高架歩道に出ると、電車の音が地面を揺らした。

「な、なんだあれ!? 巨大な鉄の蛇がっ……!」

「大丈夫。あれは“電車”。人をいっぱい乗せて移動する、ただの乗り物」

「お前の世界、なんでこんなにすごいんだ……全部、機械でやってるのか?」

「そう。こっちには魔法がないからな。だから、その代わりに全部“作ってきた”」

 ティナがしばらく黙ったまま、遠くの駅ビルの光を見つめていた。

「……すごい。全部、魔力に頼らずに、ここまで……」


---

 やがて住宅街へ入り、静かな坂道を登っていく。

 ユートはふっと息を吐いた。

「……着いた。俺をあの世界に連れて行った、“あの人”の家だ」

 どこか緊張した面持ちで、ユートはインターホンに指を伸ばす。

ピンポーン。

 静寂の中、チャイムが鳴り響いた。


 ユートはインターホンをもう一度押した。

ピンポーン……
……無音。

 沈黙が続く。

「……いない、か?」

 バルトが玄関先の芝生を蹴りながら首をかしげた。

「寝てんじゃねぇのか? 夜だし」

「いや、この人は夜行性だったはずなんだけどな……」

 ティナがそっと窓を覗き込んだが、カーテンの隙間から見えるのは真っ暗な室内だけ。

 ユートはため息をつき、小さくつぶやいた。

「……悪い、おじさん」

 次の瞬間、玄関のドアノブに手をかけ――

「よいしょ……っ、はッ!」

 ドアを無理やり引き開けた。

ギギィ……パタン。

 部屋の中に踏み込むと、ほんのり残ったコーヒーの香りと、生活感の名残だけが漂っていた。

「……誰もいない。荷物も最小限しか残ってない。引っ越した、あるいは……」

「逃げた?」

「いや、行き先を決めて動いたな。あの人なら――計画性の塊だから」


---

【BAR「BROOKLYN」・明け方】

 ユートは風間に事情を話し、スマホのメモにある「旧住所」と「氏名:藤堂修一」を渡した。

「悪いが、調べてくれ。たぶん記録は何らかの形で残ってるはずだ。前にこの名前で何かやらかしてなければ」

「……分かったよ。こっちも探りは入れてみるが、相手が本気で消えてたら、多少時間かかるぞ」

「待てる」

「で、待ってる間お前らどうするんだ?」

 ユートは肩をすくめて笑った。

「観光でもするさ」


---

【ホテル・チェックイン】

 ユートが用意したのは、繁華街にほど近い中規模ビジネスホテル。
 個室を3部屋、手際よく風間のツテで押さえてもらっていた。

「ほぉ……この“宿”は、清潔だな。温泉はないのか?」

「ないけど、風呂とトイレはある。部屋に」

「ひと部屋に!? 貴族かよ……」


---

【翌朝・街中にて】

 快晴の下、3人は駅前通りに立っていた。

「よし、今日は観光日和だ」

 ティナが目を輝かせる。

「行きたいとこ、いっぱいある! 魔道具みたいな鏡の箱で服を選ぶとこ行きたい!」

「それ、ファッションビルな。あとで連れてってやる」

 バルトがパン屋のショーケースに張りついている。

「ユート……この菓子パンってやつ、全部違う味なのか? 名前もやたら書いてある」

「お金崩してから買えよ。店の中で走るなよ」


---

【午前中・ショッピングモール】

 ユートは2人を連れて、大型ショッピングモールの中へ入った。
 さっそく目に入ったのは、ずらりと並ぶファッションブランドのフロア。

「……すごい。店が、何十も……全部服屋?」

「そう。ここじゃ、いろんな種類の服を一気に見られる。選ぶの面倒だから、店員に任せよう」

 ユートは店員に声をかけ、ティナとバルトのサイズと要望を簡単に伝える。

「清潔感のあるカジュアルで、動きやすくて、あんまり派手じゃなくて。あと……下着も一式で」

 バルトはちょっと照れ臭そうに頭をかく。

「……下着、ってこういう店でも売ってんのか?」

「売ってるどころか、専門店もある」

 一方ティナは、試着室に案内されると嬉しそうにスカートやワンピースに目を輝かせていた。


---

【昼・ファミレス】

 3人が向かったのは、駅前のファミリーレストラン。
 ユートが注文を済ませ、しばらくすると料理が運ばれてきた。

「お、見た目はこっちの肉料理と似てんな。……って、これ“はし”ってやつか?」

「そう。箸。棒2本で食べる文化。慣れないならフォークとナイフ頼むよ」

 案の定、バルトは箸を握りしめたまま米をぶちまけ、ティナは慎重にチャレンジするもスープに箸を落とす。

「……無理」

「ナイフとフォーク、お願いします!」


---

【午後・バッティングセンター】

「この棒で球を打つの? なんか簡単そうじゃね?」

「最初はそう思う。でも球は速くなると難しいぞ?」

 バルトはバットを握り、ティナは軽装のままケージに入る。
 最初は“130km/h”で打ち損じたり空振りを繰り返していたが――

「うぉりゃぁぁッ!」

 “200km/h”に切り替えてからが本番だった。

 次々と飛び出す白球を――ティナもバルトも、軽々とスタンドに叩き込んでいく。

「ホームラン!」「ホームラン!」「……またホームラン!」

 周囲の客がざわつき、スタッフが駆け寄ってくる。

「え、200kmを? 女の子も? なにあれ、プロ?」

 ユートはサッとフードをかぶり、頭を抱えた。

「目立ちすぎだ……」


---

【夜・繁華街】

 ネオンの光がきらめく夜の街。ユートは少し疲れた表情で歩きながら、2人に言った。

「ここは“夜の街”。大人たちが娯楽や酒を楽しむ場所だ」

 ティナはバーの明かりやライブハウスのポスターに目を奪われ、バルトは焼き鳥の匂いに惹かれて露店に顔を近づける。

「いい匂い……おいユート、これ買ってもいいか?」

「財布は俺だからな。ひとまず、ひと通り歩こう」

 大通りから裏路地へと歩いていくと、音楽、酒、食事、騒がしさ、楽しげな笑い声が交差する。

「この世界、人は弱いけど……不思議と、活気があるな」

 ティナがつぶやいた。

 ユートは一度、足を止めて笑った。

「そう。魔法もスキルもないけど、それでも楽しく生きようと頑張ってる。だから俺も、こっちの世界を守りたいと思ってる」

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