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第3章
新しい家
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【ホテルのロビー・早朝】
スマホが震え、ユートはすぐに応答ボタンを押した。
表示されたのは「風間」の名。
『……よう、早いな。今、いいか?』
「こっちも準備できてる。どうだった?」
『大きく3つ、完了した。まず家だ。郊外の住宅地に2LDKのメゾネット。家具も基本揃えておいた。戸建てに近い構造で、隣も空き家。騒がしくしても問題ない』
「助かる。……2人の身分は?」
『通した。今回は“兄妹設定”でいった。名前はそのまま、バルト・サカキとティナ・サカキ。
設定は、“アメリカ人の父と日本人の母のハーフ”で、榊春都の異母兄妹ってことになってる』
「……ハーフ?」
『金髪と青い目の説明がそれで済む。
国際的な事情に疎い人間にも通じやすいし、お前の名字で兄妹ってのも通りがいい。……悪くないだろ?』
「完璧だ。……ありがとう」
『3つ目。藤堂修一についてだ』
ユートはすっと背筋を伸ばした。
「見つかったのか?」
『ああ。今は山梨の山奥にある“別荘”に住んでる。ただし、居場所としてはそこが拠点。実働は別だ』
「……どこだ?」
『都内にある“地下闘技場”。名前は伏せてあるが、リングネーム“魔王”で呼ばれてる。
一般人じゃまず近づけない場所だが、実力者の集まる真っ黒な世界だ。たぶん、“身体を動かしてる”ってだけじゃない』
「……何かを探ってる?」
『可能性はある。あるいは、“力を試し続けている”のかもな』
風間は言葉を濁した。
『連絡は取れない。修一のやつ、電話もGPSも遮断してる。別荘の電気は生きてるが、あれはただの隠れ蓑だ。
本体は“地下”にあるって見ていい』
「分かった……そこに、行ってみる」
---
【ホテルの一室】
ユートが報告を終えると、ティナとバルトが部屋の隅でパンをかじりながら待っていた。
「新しい家、決まった。今日からそこが拠点になる。
2人の身分も用意された。俺の……異母兄妹ってことになってる」
「お、なんかそれっぽくね? 兄妹ってのはまぁ、性格バラバラだけどな!」
「アメリカ人の血が入ってるって設定。髪も目もそのままでいいし、多少の言動も“そういう育ち”で済む」
「じゃあ、これから堂々と街歩けるのね。……ありがと、ユート」
---
ユートは上着を羽織り、玄関に向かいながら口を開いた。
「そして、修一――俺の師匠の居場所も分かった。
今は山奥の別荘にいるが、活動は別の場所。……地下闘技場だ」
「……闘技場?」
バルトが目を輝かせる。
「強い奴が集まる場所ってことか?」
「そうだ。力と暴力が支配する、法の外の世界。……師匠は、そこにいる」
ティナはそっと表情を引き締めた。
「何をしに?」
「それを確かめる。俺を異世界へ送った“理由”を」
---
【郊外・新居】
タクシーが止まったのは、静かな住宅地の一角だった。
駅からは少し離れているが、周囲には公園もあり、落ち着いた雰囲気だ。
「ここか……」
ユートが降りると、2階建てのメゾネットが迎えてくれる。
白を基調としたシンプルな外観、鉄柵の門、電子ロックの玄関ドア。風間の仕事は抜かりなかった。
中に入ると、木目調の床と真新しい家具の匂いが漂った。
「わぁ……広い!」
ティナが両手を広げて小さく回る。
「こっちの世界でも、こんなに立派な家に住めるんだな……!」
バルトもリビングのソファにどかっと座り、天井を見上げる。
ユートはキッチンと風呂場、ベランダの施錠確認を済ませると、深く息をついた。
「……ここが、俺たちの拠点になる」
---
【夜・作戦会議】
リビングのテーブルに、風間から送られた資料が並ぶ。
そこには地下闘技場の概要、会場までのルート、登録方法、そして――リングネーム「魔王」。
「地下闘技場“ライオンズデン”。表に出ない興行で、出場者は仮名。リング上での力だけが評価される世界」
「……魔王、ね」
ティナがその名を読み上げ、静かに呟いた。
「師匠が、その中で王座にいるんだな」
「本名じゃなくて、顔も隠してる。でも、戦い方で気づくはずだ。
ただ、観客席からじゃ話せない。――なら、どうするか」
ユートはバルトに目を向ける。
「お前を“試合に出す”」
「……へぇ。いいじゃねぇか、それ」
バルトはニヤリと笑った。
「強い奴とガチでぶつかる機会なんて、なかなかないしな。で、俺が勝ったらどうすんだ?」
「勝ってもいい。ただ、相手が師匠だった場合、“倒す”んじゃなくて“会話に持ち込め”。
あの人は、戦う中で相手を“認める”タイプだ。お前なら……食らいつける」
「任せろ」
---
【翌日・地下闘技場】
倉庫街の奥。見た目はただの鉄工所のような建物。
だが、地下へ続くエレベーターの先には、異質な熱気と喧騒が満ちていた。
「――出場者は? 本名は不要。リングネームは?」
受付の男が無表情に聞く。
「“ブレイカー”で」
「OK。書類にサインだけ。ルールはノーウェポン、ノーマジック、タイマンのみ。勝敗はダウンかギブアップ」
「了解」
---
バルトが控室でストレッチをしている横で、ティナがそっと応援を送る。
「いい? 手加減はしなくていいけど、倒すなよ? ユートの師匠なんだから」
「分かってるって。俺も楽しみにしてるんだ。
ユートが勝てねぇって思う相手――どんな奴か、見てみたい」
---
【リング上】
アナウンスが響く。
「――続いてのカード! 挑戦者、“ブレイカー”! 対するは……五連勝中の王者、“魔王”!!」
闘技場に重い音楽と共に現れた男は、黒いマントのフードをかぶり、仮面で顔を隠していた。
観客は一斉に沸いた。
「魔王だ!」「今夜も圧勝か!?」「殺るぞー!」
バルトはゆっくりとリングに歩を進め、真正面から“魔王”を見据えた。
(……確かに、ただ者じゃねぇ)
目に見えぬ気迫と、戦い慣れた動き。静かな立ち姿の中に、爆発的な力が潜んでいる――そう直感した。
試合開始のゴングが鳴った瞬間――
“魔王”の拳が消えた。
バルトの頬をかすめた風圧が、すでに“常識外”の速さだった。
【地下闘技場・試合開始】
ゴングが鳴る――その瞬間、空気が震えた。
“魔王”の拳が、視界から消える。
(早――っ!)
バルトが反射的に腰を落とした。
次の瞬間、目の前を裂くように拳が風を切る。紙一重。
避けなければ、頭ごと吹き飛ばされていた。
だが、その攻撃は続く。すぐさま繰り出される左右のラッシュ。拳、肘、膝、回転。隙のない連撃。
(こいつ……重いだけじゃねえ! 技の精度が……)
バルトは後退しつつ、カウンターのタイミングを図った。
――見えた。
右フックを外したその瞬間、脇腹が開いた。
「――おらァッ!!」
フルスイングの拳が炸裂する。
命中。だが、“魔王”は後ろに滑るように飛んで距離を取っていた。
(……動じねぇ?)
明らかに当たった。それなのに、“魔王”は呼吸すら乱れていない。むしろ――笑った気配がした。
(楽しくなってきた、って顔だな……!)
---
観客席が熱狂に包まれる中、2人は再びリングの中央でぶつかる。
拳と拳、足と足、肉と骨が鳴る。
正面から撃ち合うたび、空気が弾け、床が鳴る。
「はッ!」
“魔王”の踏み込み――早い。低い。鋭い。
その拳がバルトの腹に突き刺さる。
「ぐ……!」
内臓がよじれる。だが、バルトは踏ん張った。拳を交差し、カウンターのアッパーを放つ。
「おらああぁぁッ!!」
だが、“魔王”はその拳を読んでいた。
頭を傾けるだけで避け、逆に拳を下から叩き込む。
衝撃。
バルトの身体が浮く。背中からマットに激突。
「っ……まだまだ!!」
受け身で跳ね起き、今度は自ら仕掛ける。
連撃、回し蹴り、フェイント――どれも実戦で鍛えた本気の技だ。
だが、“魔王”はすべてを見切っていた。
(――読まれてる!? いや、違う……)
“見えてる”んだ、この人には。動きの起点、重心、癖、すべて。
---
額から汗が垂れる。
観客は大歓声をあげている。だが、バルトの意識はもはやリングにしか向いていない。
「……強ぇな、アンタ!」
“魔王”は無言のまま構えを変えた。重心が下がり、次の一撃が“決定打”だと悟らせる構え。
「なら――こっちも全開でいくぜッ!!」
踏み込む。全身の筋肉が爆発的に収縮し、一撃に力を乗せる。
目の前に迫る“魔王”の姿――その拳――
――交差。
次の瞬間――
「ッがああぁっ!!」
バルトの身体が、弾かれたように後方へ吹き飛んだ。
だが、倒れない。膝で踏ん張り、拳を震わせて立ち上がる。
「まだ……いける……!」
(――あ、やべ……)
ここでようやく、バルトは思い出した。
(……ユート、言ってたな。“会話を忘れるな”って)
完全に忘れてた。
だが、ここまでやり合ったからこそ、伝えられるものがある。
バルトは構えを解き、大声で叫んだ。
「……“ユート”を、知ってるかッ!! “ユート”だッ!!」
その言葉に、“魔王”の動きが――ピタリと止まる。
初めて、仮面の下から人の気配が滲んだ。
「……ユート」
低く、抑えた声。まるで確認するように。
「そうだ……! アンタの弟子が、ここにいる! だから――」
バルトが言い切る前に、“魔王”は静かに仮面を外した。
現れたのは、鋭い目を持つ中年の男――藤堂修一。
「そうか……ユートの“仲間”か」
観客の歓声が一気に静まり、リングに緊張が戻る。
修一は一歩、バルトに近づいた。
「――ついて来い。話そう」
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スマホが震え、ユートはすぐに応答ボタンを押した。
表示されたのは「風間」の名。
『……よう、早いな。今、いいか?』
「こっちも準備できてる。どうだった?」
『大きく3つ、完了した。まず家だ。郊外の住宅地に2LDKのメゾネット。家具も基本揃えておいた。戸建てに近い構造で、隣も空き家。騒がしくしても問題ない』
「助かる。……2人の身分は?」
『通した。今回は“兄妹設定”でいった。名前はそのまま、バルト・サカキとティナ・サカキ。
設定は、“アメリカ人の父と日本人の母のハーフ”で、榊春都の異母兄妹ってことになってる』
「……ハーフ?」
『金髪と青い目の説明がそれで済む。
国際的な事情に疎い人間にも通じやすいし、お前の名字で兄妹ってのも通りがいい。……悪くないだろ?』
「完璧だ。……ありがとう」
『3つ目。藤堂修一についてだ』
ユートはすっと背筋を伸ばした。
「見つかったのか?」
『ああ。今は山梨の山奥にある“別荘”に住んでる。ただし、居場所としてはそこが拠点。実働は別だ』
「……どこだ?」
『都内にある“地下闘技場”。名前は伏せてあるが、リングネーム“魔王”で呼ばれてる。
一般人じゃまず近づけない場所だが、実力者の集まる真っ黒な世界だ。たぶん、“身体を動かしてる”ってだけじゃない』
「……何かを探ってる?」
『可能性はある。あるいは、“力を試し続けている”のかもな』
風間は言葉を濁した。
『連絡は取れない。修一のやつ、電話もGPSも遮断してる。別荘の電気は生きてるが、あれはただの隠れ蓑だ。
本体は“地下”にあるって見ていい』
「分かった……そこに、行ってみる」
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【ホテルの一室】
ユートが報告を終えると、ティナとバルトが部屋の隅でパンをかじりながら待っていた。
「新しい家、決まった。今日からそこが拠点になる。
2人の身分も用意された。俺の……異母兄妹ってことになってる」
「お、なんかそれっぽくね? 兄妹ってのはまぁ、性格バラバラだけどな!」
「アメリカ人の血が入ってるって設定。髪も目もそのままでいいし、多少の言動も“そういう育ち”で済む」
「じゃあ、これから堂々と街歩けるのね。……ありがと、ユート」
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ユートは上着を羽織り、玄関に向かいながら口を開いた。
「そして、修一――俺の師匠の居場所も分かった。
今は山奥の別荘にいるが、活動は別の場所。……地下闘技場だ」
「……闘技場?」
バルトが目を輝かせる。
「強い奴が集まる場所ってことか?」
「そうだ。力と暴力が支配する、法の外の世界。……師匠は、そこにいる」
ティナはそっと表情を引き締めた。
「何をしに?」
「それを確かめる。俺を異世界へ送った“理由”を」
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【郊外・新居】
タクシーが止まったのは、静かな住宅地の一角だった。
駅からは少し離れているが、周囲には公園もあり、落ち着いた雰囲気だ。
「ここか……」
ユートが降りると、2階建てのメゾネットが迎えてくれる。
白を基調としたシンプルな外観、鉄柵の門、電子ロックの玄関ドア。風間の仕事は抜かりなかった。
中に入ると、木目調の床と真新しい家具の匂いが漂った。
「わぁ……広い!」
ティナが両手を広げて小さく回る。
「こっちの世界でも、こんなに立派な家に住めるんだな……!」
バルトもリビングのソファにどかっと座り、天井を見上げる。
ユートはキッチンと風呂場、ベランダの施錠確認を済ませると、深く息をついた。
「……ここが、俺たちの拠点になる」
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【夜・作戦会議】
リビングのテーブルに、風間から送られた資料が並ぶ。
そこには地下闘技場の概要、会場までのルート、登録方法、そして――リングネーム「魔王」。
「地下闘技場“ライオンズデン”。表に出ない興行で、出場者は仮名。リング上での力だけが評価される世界」
「……魔王、ね」
ティナがその名を読み上げ、静かに呟いた。
「師匠が、その中で王座にいるんだな」
「本名じゃなくて、顔も隠してる。でも、戦い方で気づくはずだ。
ただ、観客席からじゃ話せない。――なら、どうするか」
ユートはバルトに目を向ける。
「お前を“試合に出す”」
「……へぇ。いいじゃねぇか、それ」
バルトはニヤリと笑った。
「強い奴とガチでぶつかる機会なんて、なかなかないしな。で、俺が勝ったらどうすんだ?」
「勝ってもいい。ただ、相手が師匠だった場合、“倒す”んじゃなくて“会話に持ち込め”。
あの人は、戦う中で相手を“認める”タイプだ。お前なら……食らいつける」
「任せろ」
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【翌日・地下闘技場】
倉庫街の奥。見た目はただの鉄工所のような建物。
だが、地下へ続くエレベーターの先には、異質な熱気と喧騒が満ちていた。
「――出場者は? 本名は不要。リングネームは?」
受付の男が無表情に聞く。
「“ブレイカー”で」
「OK。書類にサインだけ。ルールはノーウェポン、ノーマジック、タイマンのみ。勝敗はダウンかギブアップ」
「了解」
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バルトが控室でストレッチをしている横で、ティナがそっと応援を送る。
「いい? 手加減はしなくていいけど、倒すなよ? ユートの師匠なんだから」
「分かってるって。俺も楽しみにしてるんだ。
ユートが勝てねぇって思う相手――どんな奴か、見てみたい」
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【リング上】
アナウンスが響く。
「――続いてのカード! 挑戦者、“ブレイカー”! 対するは……五連勝中の王者、“魔王”!!」
闘技場に重い音楽と共に現れた男は、黒いマントのフードをかぶり、仮面で顔を隠していた。
観客は一斉に沸いた。
「魔王だ!」「今夜も圧勝か!?」「殺るぞー!」
バルトはゆっくりとリングに歩を進め、真正面から“魔王”を見据えた。
(……確かに、ただ者じゃねぇ)
目に見えぬ気迫と、戦い慣れた動き。静かな立ち姿の中に、爆発的な力が潜んでいる――そう直感した。
試合開始のゴングが鳴った瞬間――
“魔王”の拳が消えた。
バルトの頬をかすめた風圧が、すでに“常識外”の速さだった。
【地下闘技場・試合開始】
ゴングが鳴る――その瞬間、空気が震えた。
“魔王”の拳が、視界から消える。
(早――っ!)
バルトが反射的に腰を落とした。
次の瞬間、目の前を裂くように拳が風を切る。紙一重。
避けなければ、頭ごと吹き飛ばされていた。
だが、その攻撃は続く。すぐさま繰り出される左右のラッシュ。拳、肘、膝、回転。隙のない連撃。
(こいつ……重いだけじゃねえ! 技の精度が……)
バルトは後退しつつ、カウンターのタイミングを図った。
――見えた。
右フックを外したその瞬間、脇腹が開いた。
「――おらァッ!!」
フルスイングの拳が炸裂する。
命中。だが、“魔王”は後ろに滑るように飛んで距離を取っていた。
(……動じねぇ?)
明らかに当たった。それなのに、“魔王”は呼吸すら乱れていない。むしろ――笑った気配がした。
(楽しくなってきた、って顔だな……!)
---
観客席が熱狂に包まれる中、2人は再びリングの中央でぶつかる。
拳と拳、足と足、肉と骨が鳴る。
正面から撃ち合うたび、空気が弾け、床が鳴る。
「はッ!」
“魔王”の踏み込み――早い。低い。鋭い。
その拳がバルトの腹に突き刺さる。
「ぐ……!」
内臓がよじれる。だが、バルトは踏ん張った。拳を交差し、カウンターのアッパーを放つ。
「おらああぁぁッ!!」
だが、“魔王”はその拳を読んでいた。
頭を傾けるだけで避け、逆に拳を下から叩き込む。
衝撃。
バルトの身体が浮く。背中からマットに激突。
「っ……まだまだ!!」
受け身で跳ね起き、今度は自ら仕掛ける。
連撃、回し蹴り、フェイント――どれも実戦で鍛えた本気の技だ。
だが、“魔王”はすべてを見切っていた。
(――読まれてる!? いや、違う……)
“見えてる”んだ、この人には。動きの起点、重心、癖、すべて。
---
額から汗が垂れる。
観客は大歓声をあげている。だが、バルトの意識はもはやリングにしか向いていない。
「……強ぇな、アンタ!」
“魔王”は無言のまま構えを変えた。重心が下がり、次の一撃が“決定打”だと悟らせる構え。
「なら――こっちも全開でいくぜッ!!」
踏み込む。全身の筋肉が爆発的に収縮し、一撃に力を乗せる。
目の前に迫る“魔王”の姿――その拳――
――交差。
次の瞬間――
「ッがああぁっ!!」
バルトの身体が、弾かれたように後方へ吹き飛んだ。
だが、倒れない。膝で踏ん張り、拳を震わせて立ち上がる。
「まだ……いける……!」
(――あ、やべ……)
ここでようやく、バルトは思い出した。
(……ユート、言ってたな。“会話を忘れるな”って)
完全に忘れてた。
だが、ここまでやり合ったからこそ、伝えられるものがある。
バルトは構えを解き、大声で叫んだ。
「……“ユート”を、知ってるかッ!! “ユート”だッ!!」
その言葉に、“魔王”の動きが――ピタリと止まる。
初めて、仮面の下から人の気配が滲んだ。
「……ユート」
低く、抑えた声。まるで確認するように。
「そうだ……! アンタの弟子が、ここにいる! だから――」
バルトが言い切る前に、“魔王”は静かに仮面を外した。
現れたのは、鋭い目を持つ中年の男――藤堂修一。
「そうか……ユートの“仲間”か」
観客の歓声が一気に静まり、リングに緊張が戻る。
修一は一歩、バルトに近づいた。
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