異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第3章

とりあえず完成

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【開拓地・夕暮れ】

 空に夕日が差し込むころ、街は少しずつ、光の衣をまといはじめていた。

 細い旗が風にたなびき、花と布の装飾が道を飾る。建ち並ぶ新しい家々、整えられた広場。
 初めてこの地を踏んだあの日の、荒れた草地の面影は、もうどこにもなかった。

 ユートは、広場の中央に立っていた。

 小高いステージから見下ろす光景に、胸がいっぱいになる。
 小さな子どもたちが走り回り、焼き上がる肉の香ばしい匂い、魔法の光で照らされた空。人々の笑顔。

「これが……俺たちの、街……」

 つぶやいた声が風に溶ける。


---

【建街祭の始まり】

「皆さーんっ! 準備はできてますかー!?」

 司会の声が広場に響き、群衆から大きな歓声が巻き起こる。
 舞台では音楽隊が魔法の笛を奏で、子どもたちが鈴を鳴らしながら踊る。

「よっしゃあ! こっちは肉の準備万端だぜぇぇぇぇ!!」

 バルトの大声に笑いが起き、彼の焼く肉の列にはすでに人だかりができていた。
 その横ではティナが、地元の女性たちと並んで手作りの菓子を配っている。

「ゆーっくり並んでねー! やけどしないように!」

「ティナさん! その服似合ってるー!」

「えっ、えへへ……ありがとっ!」

 ティナの服は地元の織物職人が作った真っ白な民族衣装風のドレスで、祭りにぴったりの花飾りがあしらわれていた。
 照れくさそうにしながらも、彼女の頬は喜びでほんのり染まっている。


---

【ユートの挨拶】

 そして、場が静まり返る。

 ユートが、広場の中央でマイク代わりの拡声魔法を使い、口を開いた。

「……みんな、ありがとう」

 短い言葉が、ゆっくりと広場に響く。

「俺は、ここに来て……一人だった。何も分からなくて、何もできなくて……
 でも、仲間ができて、居場所ができて、こうして、皆と一緒に――“街”を作ることができた」

 歓声はなく、静かに、誰もが耳を傾けていた。

「まだ未完成だけど……これは、俺たちの第一歩だ。
 今日この日が、いつか“あの時が始まりだった”って笑って言えるように……この街を、育てていこう」

 数秒の沈黙。そして――

 ドン、と魔法の花火が夜空に咲いた。

 歓声が広がり、拍手が鳴り響く。
 光が空を彩り、人々の顔が笑顔に包まれていく。


---

【焚き火のそば】

 夜も更けて、祭りのにぎわいは少し落ち着いた頃。
 ユート、バルト、ティナの3人は焚き火の前で一息ついていた。

「……いやぁ、いい祭りだったなぁ……俺、肉30本はいったぞ」

「ほぼあんたが食べた分で在庫切れたのよ!」

「おおう……俺って罪深い男……」

 バルトがごろりと横になる。ティナはくすくす笑いながら、膝の上で花冠をいじっていた。

 ユートは焚き火の炎を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。

「なぁ、そろそろ名前、決めようか」

「名前?」

「この街の、正式な名前さ」

 ティナが少し考えて、やがて笑顔で言った。

「“アストレア”なんて、どう?」

 ユートが目を向ける。

「アストレア?」

「導きの星の名前。……なんとなく、ここにぴったりな気がして」

 風がやさしく吹き抜け、焚き火の火がゆらりと揺れる。

「……アストレア。いい名前だな」

「でしょ?」

 ユートは静かに立ち上がり、遠くに広がる街の景色を見つめた。

「ここは、“アストレア”だ。俺たちが作った、希望の星の街――」


---

 こうして、この街は正式にその名を得た。
 “アストレア”という名のもとに、仲間と共に歩み、戦い、笑い合う未来が始まる。

 まだ道のりは長い。けれど、この場所がある限り――きっと、進んでいける。


---
【視察の日・アストレアの門前】

 晴れ渡る空の下、アストレアの街はいつにも増して活気づいていた。

 道は隅々まで清掃され、家々の軒先には布飾りや花輪が揺れている。
 子どもたちはそわそわと行き交い、大人たちは真新しい服を着て背筋を伸ばしていた。

 ――グレイス伯爵が来る。

「なぁ……これって、ユートの顔が利くから来るってやつだよな?」

 バルトが鎧を磨きながらひそひそと耳打ちする。

「そのくせ、ユートはまるで散歩にでも行くみたいな顔してるけどね……」

 ティナの視線の先では、門前に立つユートがリラックスした表情で立っていた。
 どこか懐かしい友人を待つかのような穏やかさだった。

「伯爵が来てくれるのはありがたいよ。信用って意味でも、実利って意味でも」

 そう言ったユートの目に映ったのは、ちょうど現れた馬車――
 深緑に金の縁が映える、美しくも重厚な造りの貴族馬車だった。


---

【再会】

 馬車の扉が開き、グレイス伯爵が姿を現す。

 気品をまとった中年の貴族は、静かに馬車を降り、まっすぐにユートのもとへ歩み寄った。

「ユート。久しぶりだな。……元気そうで何よりだ」

「よ、伯爵。遠路はるばるありがとな」

 ユートは片手を軽く上げて笑った。

「君が“見せたいものがある”とわざわざ言うのだからな。期待せずにはいられなかったよ」

「だったら、その期待に応えるよ。全部、見せてやる」


---

【街の視察】

 ユートの先導で、伯爵はゆっくりと街を歩く。

 広場では子どもたちが遊び、住民が明るく挨拶を交わしていく。
 家々は整然と並び、小さな市場では品物が売買されていた。

「……これは、驚いたな」

 伯爵が立ち止まり、感嘆の声を漏らす。

「見ての通り、まだ未完成だよ。でも、人がちゃんと住んでる。ここに暮らしたいって思って、動いてくれてるんだ」

「ここには“生きている”空気がある。作り物ではなく、自然に生まれた生活の匂いだ。
 ……短期間で、これほどの“街”になるとは思っていなかった」

「なに、みんなが頑張っただけさ。俺はちょっと手を貸しただけ」

 ユートが肩をすくめると、伯爵はわずかに笑った。

「謙遜の裏に自負が見えるな。……それでいい。君らしい」


---

【広場にて】

 街の中心広場に戻ると、ユートは伯爵の視線を受け止めるように立った。

「名前はもう決めた。“アストレア”だ。導きの星って意味らしい」

「素敵な名だ。……この街にふさわしい。君たちが進んでいくべき道を、照らしてくれそうだ」

「そうだといいけどな」

 伯爵はしばし広場を見渡し、それからゆっくりと口を開く。

「この街の存在を、王都に正式に報告しよう。
 支援体制についても、整備を進める。君の望む“干渉しない支援”という条件も含めてだ」

「助かるよ。そういうことを言ってくれるのは、伯爵だけだ」

「他の貴族にはできんことを、私はするさ。君を信じているからね」

 ユートが目を細めると、伯爵は静かに微笑んだ。

「次に来たときには、どんな景色を見せてくれるのか……楽しみにしているよ、ユート」

「期待して待っててくれ。派手なのを見せてやるからさ」


---
【集会所にて/視察の後】

 視察を終えた伯爵は、街の中心にある集会所に腰を下ろしていた。
 新しい木の香りがまだ残る室内。ここが今後、街の行政を担う“役所”になる予定だ。

「悪くない場所だな。ちゃんと息づいてる」

 伯爵は椅子に深く腰をかけ、視線を窓の外に向ける。子どもたちの笑い声が、かすかに届いていた。

「で、本題だけどさ」

 ユートは伯爵の正面に座り、机の上に肘をついた。

「役所を作るつもりなんだ。住民も増えてきたし、商人も来てる。このままだと、何かあったときに対応しきれない。
 財務や税、法律……俺じゃ無理な分野を頼めないか?」

「なるほど。文官が欲しいってことか」

「そう。頭が固すぎないやつで頼む。あと、俺と喧嘩しないやつ」

「ふっ……贅沢な条件だな。けど、まぁ見繕ってみよう。ちょうど融通の利くのが数人いる。
 財務に強いのと、行政の経験者と……あとは、お前の“街づくり”に共感してくれそうなやつを選ぶよ」

「助かる」


---

 少し間を置いて、ユートが話題を切り替えるように身を乗り出す。

「もう一つ、気になることがあってさ」

「ん?」

「レジンって、いるだろ? あれ、殿下の命令で動いてるよな。こっちをずっと観てる」

 伯爵はわずかに目を細めたあと、深く頷いた。

「……ああ。確かに、殿下の配下だ。けど、監視というより“確認”だよ」

「確認?」

「お前がどこまでやるつもりなのか、それを見極めたいんだろう。
 お前の行動が、王国にとって脅威か、それとも力になるのか……殿下も判断しきれてないんだよ」

「そっか。まぁ、干渉されなきゃ構わない。俺も好き勝手する気はないしな」

「そこは殿下も分かってるさ。レジンも無意味に手出しするような奴じゃない。
 それに……お前のことを、それなりに気に入ってるらしいぞ?」

「マジか。意外だな」

「妙な奴だが、優秀だ。何かあったら直接話すのも手だな」


---

 ユートは椅子から立ち上がり、軽く背伸びをした。

「じゃあ、文官の件、よろしく頼む。こっちは受け入れ準備しておく」

「ああ。数日中には手配するよ。……面白くなってきたな、ユート」

「やるからには本気でやるさ」

 視線を交わし、ふたりは自然に笑みを浮かべた。


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