異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第3章

反発

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王都とアストレアを繋いだ鉄道が、経済を変え、物流を革新し、人の流れすら塗り替えた。
 それは同時に、長年“この国の秩序”と“利益”を支えてきた既存の構造を脅かすものでもあった。


---


 王都の上層街――白大理石の邸宅が並ぶ静かな区画の中、
 老舗の商会長や、代々の貴族たちが集う私的な会合が開かれていた。

「まったく、あの鉄の道……今や民は皆、“ユート、ユート”と浮かれておる」

「我らが長年築き上げた陸路や商隊網が、一月で風前の灯よ」

「運送費が半減すれば、当然、我らの取り分は削られる。これを見過ごせというのか?」

 皆が口々に不満を漏らすなか、ある男が言った。

「問題なのは、鉄道そのものではない。あれを民衆が“希望”と見なしていることだ。
 ――ならば、“恐怖”に変えてやればいい」

 場に、冷たい沈黙が落ちた。


---

 翌週、王都の一部の新聞に小さく載った。

> 「鉄の馬、魔力暴走の危険あり?」
「急ぎすぎた魔導技術、安全性は?」
「アストレアより搬入された薬草に“不純物”?」



 裏を取っていない、あからさまな揺さぶりだったが、
 一部の民衆は不安を覚え、過敏な商会は契約を見直し始めた。


---


「王都―アストレア間の鉄道、建設時の魔力汚染について正式な報告がなされていない!」

「このまま拡張が進めば、王都の景観や市民の生活が脅かされる恐れがある!」

 名家の出である議員たちが、次々に“技術と安全”を盾にした反対を唱えた。
 それは民意ではなく、“既得権益の保守”そのものであった。


---


「まったく、どいつもこいつも……危機感はあるのに柔軟性がない」

 ユートの報告を受けたグレイス伯爵は、ワインを傾けながら苦笑した。

「だが、放っておけば王都そのものが足を引っ張りかねん。
 ……いざとなれば、“表立った後ろ盾”が必要だな。王太子に動いてもらう」

 そして、王太子は即座に対応した。

「議会には我が名で通達する。“鉄道網の建設は、王国の未来に不可欠である”と」

「もしも“事故”や“暴動”が起きるようなら――“それを起こした者”が、王の敵だと知れ」


---

 ユートは、アストレアの自宅で鳴海や宮野と地図を囲んでいた。

「叩かれるのは当然だ。今まであった“古い道”を潰して、新しい道を通してるんだから」

 彼はレールのラインに指を置いた。

「でもな、俺は“誰のための道か”だけは間違えない。
 市民のためだ。街のためだ。……この国の、先のためだ」

「なら――潰す覚悟のある奴らには、真正面からぶつかってやろうぜ」


---
王都西駅からアストレアへと伸びる鉄道。
 その中間地点にある“ロザリオ橋梁”は、王国最大の鉄道橋であり、同時に最大の弱点でもあった。

 ――そして、それは狙われた。


---

 ある夜。警備班の魔導感知師が、アストレアから南の区間で異常な魔力の揺らぎを検知する。

「……地脈が、何かに干渉されてる?」

 すぐにユートのもとへ報告が入った。

「地脈干渉? 自然現象にしちゃ、不自然すぎるな……」

 ユートは即座に鳴海とティナ、バルトを連れて現場へと急行した。


---


 問題の地点に着いたユートたちが見たのは、レール脇の地面に刻まれた、異様な魔法陣だった。

「これは……地震を誘発する魔術陣だな。しかも、かなり古い禁術系の構造だ」

 鳴海が額に汗を浮かべながら図案をなぞる。

「橋脚に直撃すれば、魔力の震動でレールごと崩落する」

「しかもタイマー式か……誰がこんなもんを」

 ユートは歯を食いしばった。背後では、ティナが剣に手をかけ、警戒を強めていた。

「……今、見られてる」

 バルトが呟いた刹那――。


---

 森の中から、黒衣の影たちが一斉に飛び出した。
 武装した十数人の刺客。全員が魔力抑制の符を身に纏っている。

「消せ――“ユート”を」

「来いよ……ちょうど、鬱憤溜まってたところだ」

 ユートの手が火花を散らし、バルトが前へ躍り出る。


---

ユートはしゃがみ込み、指先でその図形をなぞる。

「なるほどな……地脈に干渉して、震動を起こす仕組みか。
 けど……これ、組み方が古い。破壊もできる」

 刺客たちが迫る気配を背に、ユートは一歩前に出て右手を掲げた。

「……消えろ、“ディスペル”!」

 その瞬間、空間が一拍だけ静止したかのように感じた。

 そして――

 パァンッ!!

 鮮やかな魔力の爆ぜる音と共に、魔法陣の光が一瞬で散った。
 複雑に刻まれていた魔紋は、まるで砂のように崩れ、風に消えていく。

「間に合った……!」

 背後からの襲撃に備えながら、ユートは構え直した。



 捕らえた数名の刺客は、皆、拷問にも等しい尋問でも口を割らなかった。
 だがその装備の一部から、ある男爵家の紋章が見つかる。

「……これは、王都北の“ベアロン男爵家”の印章だな。あいつら、以前からアストレアの物流を快く思ってなかった」

 ユートはすぐに報告書をまとめ、王太子とグレイス伯爵に届ける。


---

「王国の要所を破壊し、民を脅かした罪。
 ベアロン家には、正当な調査と処罰が行われるだろう」

 王太子の発言は短く、だが重く。

 一方でユートは、鉄道の全区間に常時監視魔法と感知魔法の併用を導入。
 “動かぬ影”への備えも万全に整えていく。


「鉄路はただの便利な道じゃない。“未来”そのものだ」

「だから、誰が妨げようが――折れない、止まらない。どこまでも、続けてやる」

証拠となる魔道具が押収された翌日――
 ユートは王都の王城、謁見の間の一室へと招かれていた。

 そこには王太子と、そしてその対面に、やや強張った表情のベアロン男爵が座していた。

 男爵の顔は青ざめていたが、それでもプライドを捨て切れない高貴の姿勢を保っていた。


---

「……ベアロン男爵。今回の件、貴家の名が破壊工作に関わっていた可能性があると、複数の証拠が示している」

 王太子の声は、静かでありながら、底に鋼の芯があった。

 男爵は唇を噛みしめていたが、ついに小さく頭を下げた。

「……ご迷惑をおかけしました。だが、わたくし個人が命じたものではありません。
 現地の代理執政官が独断で……不名誉な行動を」

 その言葉に、王太子はわずかに頷いた。

「……よろしい。では、責任を取る形として、ベアロン領の行政権を一時停止する。王国直轄の調整期間を置く。異議は?」

「……ございません」


---

 会話が終わった後、ユートは一言だけ口を開いた。

「今回の件、俺は恨みも怒りも抱いてない。だが――鉄の道は、誰のものでもない。
 “国の未来のための道”なんだ。それを壊すってのは……その未来を拒否することと同じだと思うぜ」

 男爵はユートと目を合わせることはなかったが、その言葉は確かに届いていた。


--

 王城を出たユートに、王太子が静かに告げた。

「……ありがとう。もし君が感情に任せていたら、事はこじれていた。
 私は、君が作ろうとしている“道”を信じているよ」

 ユートは小さく笑った。

「信じてくれるなら、それで十分っすよ。俺は、進むだけですから」


---


 街では、王都への列車が今日も定刻通りに出発し、到着している。

 市民たちは、鉄の道を“日常”として受け入れはじめていた。

 だが、それが普通になるまでの裏では、多くの調整と忍耐、そして――誠意があった。


「力でねじ伏せるより、ちゃんと話して分かってもらえたなら、それに越したことはない。
 ……でもまあ、次やったら、遠慮なくぶっ飛ばすけどな」

 そんなユートの軽口に、バルトとティナが笑い、アストレアの夕暮れに列車の汽笛が響いた。


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