快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは本の虫

手紙

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 窓辺に届いていた手紙は3通。

 差出人は「サン」「リジェネ」「アンジュ」の3名だった。

 他に送った「クラウド」「スウェネ」「アストラ」からは何も送られてきていない。
 アンジュからの返事があったのは意外だった。あれだけ手紙を送っても返ってこなかったのに、今回だけは返ってきた。


「ビオン!起きろ、アンジュとサン、リジェネからは返事があった」

「えぇ!?アンジュちゃん、無事なの!?」


 ビオンはアンジュの名前を聞くや否や飛び起きた。昔からだが、ビオンはアンジュの事になるといつもこうだ。
 無事かどうかは手紙を開かないと分からないが、生存しているということだろう。


「アンジュの手紙、開けるぞ」

「う、うん」


 ビオンが生唾を飲む中、なんの躊躇もなく手紙を開く。
 中には、丁寧な字で文が書かれていた。


『初めまして。わたくし、アンジュ様を師といたしておりますレベルと申します。アンジュ様は現在、花が咲き始めてからはご気分が優れず日々床に伏せています。わたくしでは、アンジュ様を回復させることは叶いません。差出人の名を拝見致しましたところ、プラチナ薬師のセイカ様とお見受け致します。どうか、アンジュ様をお救いください』


 丁寧な字で返信をしてきたのは、アンジュ本人ではなかった。
 どうやら、床に伏せているらしい。
 通りで返事がなかったわけだ、3年も。

 隣のビオンを見ると、かなり焦っている様子だった。


「ビオン落ち着け。この様子なら2年は経っている。重篤な様子はない。まずは落ち着け、他も見るぞ」

「う、うん……」



 その次に、「星の街」を治めるプラチナ魔法使い、サンの手紙を開いた。
 その手紙は、見覚えのある細く小さい文字だった。


『久しぶりにお手紙くれたね。サンはうれしいよセイカ。サンはおうちにずっといるよ。セイカにまたあいたいな』

「無事そうだな」

「そうだね、間違いなくサンだ」

「じゃあ次はリジェネか」



 そのまま、水の街を治めるリジェネの手紙を開く。
 真面目な人柄が伺える筆跡で、短い文が綴られている。



『久しぶりだなセイカ。元気にしているか?手紙を寄越すということは元気なのだろうな。こっちも街の人間はもう居ないが、魔法使いだけは生き残っている状況だ。こちらに来る前にまた文を寄越せ、待っているぞ』

「リジェネも元気そうだな、よかった」

「そうだね。アンジュちゃん、どうしたのかな…」

「あいつの魔法は花の魔法だからな。何かしらあるんだろ」



 まだ、雲の街のクラウド卿、精霊の街のスウェネ、宝石の街のアストラからは返事が来ていない。
 待つしかないが、もし返事が来なかったとしたら安否確認をせねばならない。

 魔法使いとは言えど、仲間の安否を遠隔で確認することは出来ない。
 プラチナ程の魔法使いになれば、魔力の問題で花に侵されることはないだろう。だが、アンジュのように体調を崩し返事を書けないでいる可能性もある。



「まぁ、待つしかないな。1週間後、とりあえずは南西に向かうぞ」

「うん。そうだね」

「今返事が来た3人は、アンジュを終点にして全員通り道だ。とりあえずはリジェネ、次にサン、そんでアンジュだな」

「よし、そうと決まればもっと調べなくちゃね。クラウド卿が居たら、空模様は全部わかるのに…」

「そうだな…。俺は少し、マホを見てくる。その後はまた花について調べる」


「わかった。…なんだかんだ気にしてるじゃん?」

「うるさい」


 ビオンに少しからかわれながら、セイカは家を出た。
 村の中は相変わらず、畑仕事や酪農をする魔法使いで忙しそうだ。

 マホの家は端だ、そこに行くまでセイカは寄り道をしていくことにした。



「はぁ…いや~腰が痛いね、アンター!ちょっとそっちの畑早く終わらせてよ!」

「うるさいな!今やってるだろ!ったく、収穫が楽になる魔法…使えりゃあなあ」

「…手伝おうか。どっちも腰が痛そうだ。この湿布貼っておけ」

「?…あら!?せ、セイカ様!?」



 セイカは、村の中の大きな畑エリアの男女2人の手伝いをすることにした。何せ腰が痛そうだ。
 魔法使いと言えど、魔法を使うには知識や技量が必要だ。
 自分が得意な魔法もあれば、そうではない魔法もある。だが、原理ややり方さえ分かってしまえば「全てが」扱えるようになる。
 プラチナ魔法使いは、その「全て」を一通り扱える上に、自分の得意分野のスペシャリストなのだ。

 セイカは薬草を扱う上で収穫という作業も発生する。
 畑とは相性が良かった。



「俺は1週間しか居ない。だから収穫の時に役に立つ魔法を教える。今回は俺がやるから見ててくれ」

「あらま…ありがとうございますセイカ様…!」

「こ、この湿布すっげぇぞ!」

「アンタは話聞きなさい!!ってアラほんとだわ腰が痛くない!」

「腰痛は俺も悩まされてるからな。後で村人分用意する」



 畑仕事をしていた2人はその場にひれ伏した。ありがとうという意を込めて。

 セイカは畑に向け、杖を円を描くように振った。すると、畑の収穫時期になった作物が次々と抜け、荷台に運ばれていく。


「ハーブミシスという魔法と、単純な浮遊魔法、それと条件を絞ることが出来るグラシリオレムという魔法の併用だ」

「あんらまあ……あたしらにそんなことできるかしら」

「どうにもオレら、併用魔法なんざ使ったことがねぇ。どうしたらいいんだセイカ様」

「そうだな…たしかに併用魔法は簡単だとは言いきれない。この場合、まず最初にグラシリオレムを発動させる。それをずっと発動させたまま、次にハーブミシス。そして最後に、それらふたつを続けたまま浮遊魔法だな…簡単なふたつの併用を練習してみろ。そうだな…浮遊はできるよな?」

「え、ええ」



 女性の方が、自身の短い杖を振り浮遊する。男性の方も同じく浮遊するが、女性の方が魔法の扱いは長けているようだ。
 セイカも同じく、浮遊をする。
 そしてそのまま、自身の周りに魔法の壁を張った。



「これは、中級技術だ。浮遊しながら障壁を張って身を守る。こうすることで地面から足が離れている分、360度守りきることが出来る。どちらも単体は初級魔法だ、やってみろ」

「お、ぉ、…おんやまぁ難しいこと、落ちてしまうわ」

「要はイメージが出来ればいい。…お。おっさんの方は上手いじゃねえか」

「へへっ、妄想グセが役に立ちましたかね」

「まぁそうかもしれないな。あまり暴露するな。だが妄想だってイメージの話だ。奥さん、若い頃、空を飛びながら寝たいって思ったことねぇか?空を飛んでる間、丸いベッドに眠るんだ」

「…まぁ…!できたわ!何となく分かったわセイカ様!凄いわ!こ、これをでも、もうひとつ重ねるんでしょう?」

「そうだ。数が増えてもやることは一緒だ。マスターしたら何個だって重ねられる。んじゃ、まずはグラシリオレムだな。収穫したい野菜は何となくアンタらなら分かるだろ、それ全部に輪っかをかけるイメージだ」



 そうしてセイカが教えていくと、畑の男女はすぐにできるようになって行った。
 重ねがけの原理も分かってきたのか、楽しそうに収穫をしていく。
 収穫が一通り終わると、荷台にはかなりの量が積まれていた。



「こんな量、何日もかかる予定だったよセイカ様!ありがとうねぇ…」

「いいさ。それよりアンタら、妖精は?居ねぇのか」

「この村で妖精持ってんのは村長だけだぜ。あんな小難しい召喚魔法、誰も使えねえよ」

「……アンタらまさか、学院は」

「行ってないよ。この村の魔法使いは学院の入学試験を受けられないほど魔力が足りないんさ。村長でギリギリだね。その中でも特にマホは……って、アラ?マホの居場所がわかる…なんで?」

「あぁそれは…マホに俺の魔力を分けたんだ。花はどうやら魔力量によって耐性が変わるみたいだからな」



 分けた、と言う言葉を聞いて、男女は絶句する。そもそも、他人に魔力を明け渡すなど普通でもしない事だ。譲渡には最低の量が決められている。その最低量が、通常の魔力であれば半分程になってしまうからだ。
 だが、セイカの魔力が現時点で2人には見えていない。
 見えていないと言うよりは、見えているが端が見えない。


 その状況をしばらく2人で考え、ああ、と理解した様だった。


「ん…マホが走ってるな。こっちに来るぞ」


 ふと、感知した方向を見ると、こちらに向かってマホが走りながら手を振っていた。
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