快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは本の虫

才能

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 手を振りこちらに近付いてくるマホに、セイカは手を振り返した。
 そんなセイカを見て、セラは唖然とした。
 そもそも、先程から人に手を貸したり魔法を教えたりする時点で驚いている。


『ご主人…なんか、なに?どうしたの?』

「あ?なにが」

『いつもそんな事しないじゃん』

「…気まぐれだ、気まぐれ」

『ふーん?』


 そんな会話をするうちに、マホが到着した。
 嬉々としてセイカを見つめている。


「…なんだ?そんな嬉しそうに」

「あのねセイカ様!発動できたよ!」

「はっ?」

「魔法陣、発動できたの!でもね、妖精さん、どこか行っちゃった…」

「あぁ…そうか…。その妖精はもう消えている。もう一度出来そうか」

「うん!もうできるよ!」


 セイカは、ニコニコとしているマホを見つめた。どう考えても才能がある。
 妖精の召喚はたしかに難しい魔法ではない。だが、ダメ元で魔法陣を教えただけで、もし出来たとしても1週間。出来ない方に掛けていた。

 だがそれを、教えた翌日にマスターしてしまった。
 先程のようにやり方を教えたわけでない魔法であれば、翌日のマスターなど至難の業だ。


「おい、あんたら。マホって…」

「うん?マホかい?アンタひとつも魔法使えないじゃないか」

「でもねおばさん!マホ、妖精さん出せるよ!」

「本当かい?私らでもできないって言うのに」

「ホントだもん!ねぇねぇセイカ様、ここでやってみてもいい?」

「あぁ。…マホ、妖精は出たあと誓約を交わさないと使い魔にはならない。だからまず、出す前にどんな相棒になって欲しいのか、そして名前を考えろ。いいな?」

「わかった!!!おなまえ、おなまえ…」


 マホは、これから師となるであろうセイカの言葉を素直に受け取り実行する。
 とにかく名前を考えているようだ。


「俺の妖精はセラだ。理由はなんか。似た様な語感だからだ」

『ねぇ!ちょっとご主人!?それ初めて聞いたんだけど!ねぇ!!』

「うるさいな、ビオンのララだって契約したとき女神がラララ~とかって歌ってたから何となくララにしたんだぞ」

『かわいそう。ララちゃんかわいそう!!』

「いいだろ結果懐いてんだ」

「仲良しさんだねえ」

「小さい頃から一緒だからな。そら、準備いいか?」

「うん!」


 セイカが発動を促すと、マホは魔法陣を地面に描いた。
 もう既に魔法陣の形まで覚えていることに、さらに驚いてしまった。
 自分が渡した、紙に描いた魔法陣を持ってきているのかと思えば何も持っておらず、ただ記憶だけを携えていた。

 マホはそのまま、魔法陣に魔力を込めはじめた。
 所作ややり方は、何も知らないが故に粗雑だった。だが、与えただけの少ない魔力を有効に活用していた。

 すると、魔法陣の上にはいつの間にか妖精が居た。
 セラやララはピンクの身体をした妖精だ。ピンクの身体をした妖精はかなり上位種で、自身の言葉に加え、人格、知識も多岐に渡る。
 位が低くなっていくとそのクオリティも下がっていくが、上がるにつれて人間となんら変わりなくなってくる。

 そして、マホが召喚した妖精の体は


「……し、白……」

『うそ……』

「?できたよ!また白い妖精さんだ!」


 セイカとセラが唖然とする中、マホはニコニコとしていた。無知というものは無邪気である。


 白の妖精は、ピンクよりも上位である。
 そして、召喚できる妖精の中では最も高位である。
 この妖精を使い魔としている魔法使いは、最高位の生ける伝説、魔法使いの頂点であるこの国の陛下と、セイカの師であるクラウド卿しか居ない。


「大事件だ…………。マホ、名前と、どんな相棒になって欲しいかを伝えるんだ」

「分かった!お名前はリリィ!ママみたいで、お友達みたいな妖精さんがいい!」

『……私はリリィ。……わかりました、マホ。これからよろしくね』


 リリィは、美しい顔立ちをし、長く綺麗な白い髪を持ち、女神とも劣らない魅力を持った妖精に成った。
 そして、リリィはマホの肩に腰を落ち着けセイカを見た。


『あら、貴方知っているわ。セイカでしょう。有能な魔法使いしか生まれない泉で生まれた魔法使いね』

「……あそこそんな感じなんだな」

『ええ、妖精の間では有名よ貴方。だって陛下のお気に入りだもの』

「それは知らねぇ。そうだったのか」

『ええそうよ。クラウドが師匠よね?陛下とクラウドの使い魔妖精が、よくセイカセイカと話していたわ。貴方はマホの師匠なの?』

「あー……。まぁ、約束だからな」

「え!?本当!?マホ、着いてってもいいの!?弟子になっていーの!?」

「ああ。約束は守る。出発はあと6日後だ。準備しておけよ」

「わかった!!!リリィ!マホ旅に出られるって!!」

『よかったわねマホ。セイカ、マホをよろしくね』

「わかったよ」


 こうして、マホの弟子入りは確定した。マホは喜びからか、セイカの周りをグルグルと走って両腕をあげたり下げたりしている。
 セイカは、また田畑や家畜小屋に目をやる。今は2人に教えたからか、2人の担当区域の作業は終わってしまっている。だが、まだ畑は多くあり、家畜の世話もある。この人数でよく出荷量を管理していると感心せざるを得なかった。


「なぁ。あんたらの区域は終わってるが、まだ有るよな?」

「え?あぁ、畑も酪農区域もまだまだ仕事が山積みさね」

「……マホ、お前手伝いはしたことあるだろ?」

「うん!あるよ!」

「じゃあ今度は、魔法で大人たちを助けてみろ。やり方は教えるし、大人たちには俺があとでしっかり教えるからお前も参加しろ」

「はぁい!」


 先程セイカが大人に教えたものと同じ手順で、違う畑の収穫を手伝う。
 同じように教えたが、マホはすぐに理解し実践した。
 一瞬にして、荷車に作物が積もっていく。それを大人たちは口を開けて見ているしか無かった。


「マ、マホお前…なんで魔法なんて使えるようになった?寝込んでただろう」

「あのね!セイカ様が魔力を分けてくれたの!そしたら、マホ元気になったの!それにねおじさん、マホ、妖精さんも居るんだよ!」

「はぁ!?…ほ、ほんとだ…」

「…おっさんら、マホは才能がある。俺の弟子に貰っていくぞ」

「えぇええ!?!?」

「もし、マホがプラチナになれたら、この村を街にできるな」


 そう言い、セイカはマホの頭をぽんぽんと撫でた。
 その光景が夢では無いのかと、セラは頬と自身の羽根を引っ張ってみたが痛みを感じた。
 夢ではないようだ。


 そのまま大人たちにもやり方を教えると、理解は遅かったものの何とかできるようになった。
 これで、村の生産量も上がる事が期待できるだろう。

 マホとセイカは、次に酪農区域に赴く。牛や豚、鶏の小屋ではそれぞれに世話が行われている。
 掃き掃除をしている村人が、腰を痛そうに撫でていた。


「おっさん、掃除やろうか」

「は、ぇ!?せ、セイカ様!プラチナの方にそのようなことさせられません!」

「んじゃあ、マホは?」

「え?マ、マホなら…ですがマホも体が弱く…」

「マホ、元気だよ!」

「え?そ、そうか?じゃあ…」

「そらマホ、魔法でやるんだ」

「はぁい!!」


 小屋の村人はキョトンとした顔で2人を見ている。マホは魔法が使えないはずだが、このプラチナ魔法使いはわかっているのか?と。

 だが、目の前のマホは1度セイカの指示を受け、その通りにやって見せた。
 草や糞だらけだった地面は一気に綺麗になり、更にデッキブラシで磨く技もやって見せた。


「おぉ。そこまでやってみろと言ったができるとは思ってなかったぞ。よくやったなマホ」

「えへへ!!マホ偉い?ねぇリリィ、マホ凄い?」

『えぇ、とてもすごいわ。ふふ、流石私のマホね』

『スゴすぎるって…ねぇご主人?マジでなにほんとどうしたの?怖いんだけど』

「あ?気まぐれだってば」

『あそう…』


 唖然とするセラを差し置いて、この1日は村の人々を手伝うのだった。
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