快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは静かなる水

セイカと晴花

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「多分…こっちであってるよな」

『うん、合ってるよご主人』

「お前がそう言うならそうなんだろ」

『多分自分のこともう少し信用した方が良いよ』


 セイカとセラは、リジェネの女神がいる泉に向かって飛んでいた。歩くのも面倒、かと言って浮きながらも時間がかかって面倒。
 というわけで、そこそこのやる気で泉に向かって飛んでいる。

 果たして、女神が出てくるかどうかというところもあるが、大した情報が有るのだろうか。
 出来れば元凶や原因が聞けたら祝杯ものだった。

 3km、目的地まで飛んでみるとそこそこに大きな泉があった。枯れもせず、永遠と地下から新鮮な水が湧き続けている美しい水質だ。
 間違いなく、女神の泉だろう。



「っと…。女神さーん、いるかー?アンタの息子のともだちだ多分ー」

『言い切りなよ』

「ともだちー、だー」

『むりかあ~』



 呼びかけても、返事はない。出てこないつもりだろうか。
 セイカが痺れを切らしそうになると、ようやく泉の中央が光だした。


「ちょ、ちょちょっと待ってね!!リジェネちゃんのお友達よね!?ああどうしましょおばちゃんキレイ!?」

「混乱して変なこと言ってんな。ども。リジェネの多分友達のセイカだ」

「あらまぁ~~~~~あなたがセイカちゃんね~~~!!」

「ちゃん…。…なんだ?誰かから聞いてんのか」

「女神の間じゃ人気者よ貴方?だってそもそも、イスラちゃんの息子だもの」

「イスラ…俺の女神?あいつイスラっていうんだ」


 自身の女神の名前など知りもしなかったが、今知ったところで多分忘れるのだろう。
 要は、セイカは女神の間では有名で人気者らしい。どうも、そのイスラはあまり魔法使いを生み出すことが無く稀な上、100%優秀な魔法使いを生み出すのだから有名なのだと。
 そして、セイカという名前を付けたというところも人気の理由らしい。やはり、晴花は関係していそうだった。


「じゃあアンタら、この晴花とかいう変な花分かるよな。これなんなんだ」

「人間よ、…ってそれくらいは分かるか。安心して頂戴、手折っても死んでいるという訳では無いから」

「ふぅん…。なんで急にこんなもの咲き始めた?」

「ん~、特別急でも無いわよ。予言にあるもの」

「おとぎ話の事か?」

「そうよ。もう廃れちゃって人間も魔法使いも知らない子が多いみたいだけどね」


 女神は軽々と答える。なら、この発端や自分との関係も分かるはずだろうとセイカは質問を重ねる。


「じゃあ、この花が咲き始めた原因だとか発端は?」 

「ん~…そうねぇ…。リセット、かしら?分からないわ~そこまでは。女神と言えど、何でもは知らないわよ。これは大神様に聞くしかないわ~誰が聞けるか知らないけれど」

「チッ。じゃあ、この花と俺の関係は?」

「ああそれはね!イスラちゃんに大神様が命令を下したの!あなたにセイカと付けろって!イスラちゃん、珍しく少しだけ嬉しそうだったわ~~なんせ腕に抱いている子があの救世主様なんだもの!」

「救世…俺が?いやないない、あったとしても無理」

「あらまこの子ったら!無理も何もやるのよ!まぁ方法なんか知らないけれど。どこの着地点がこの世の救いになるのかなんて、私じゃ分かんないわよ」


 女神はそう言うと、これ以上教えられることはなさそうねと告げた。
 ただ1つ。と、続ける。


「同じ瞳を大切にする事ね。そしたら貴方は幸せよ。…勿論、他の人も全て大切にしなさい。悪い人は別だけれど、でも生き物全てに慈愛を持ちなさい。これが女神からあなたへのアドバイスよ」

「同じ、瞳…?」

「あなただって分かってるでしょう、女神のアドバイスは絶対よ。幸も不幸も全てね。あなたはそれしか幸せになれない。選ばなければ貴方は死ぬわ。何故かは教えられないけど、大切というもののやり方はあなたに任せるわ」

「…曖昧なアドバイスどうも。それじゃあ弟子が泣いてると悪いんで帰るわ」

「あら!可愛い弟子ができたのね?いくつ?男?女?」

「5歳の女。アレは天才」

「あらそうなの~~~~~!!ふふふ良い話のネタが出来たわ~!じゃあまたねー!」

「おー」


 セイカは女神に手を振ると、リジェネの屋敷に向けて再度飛び始めた。
 とはいえ、疲れるのでそんなにスピードは出ていない。


『ご主人、それでどーするの?』

「クソの役にも立たねぇ情報ばっかだったけど…まぁ、この感じじゃあ核の事についてはイスラか大神とか言うのしか知らねぇってことだ。じゃあまずはイスラからだろ。名前からして大神ってのは、神話に出てくるこの国の宗教の主神の事だ。そんなもんはどこ行きゃ話聞けるかしらねぇ」

『だねぇ。てことは、やっぱり今のルートで良い?』

「ああ。次はサンの街で良い」

『ここにはどのくらいいるつもり?』

「そーだな…。疲れたし、3日くらいは惰眠むさぼっても良いだろ」

『師匠としてどうなの』

「…教えることが思い当たらねえ」

『もう!ほら帰ったらリストアップするよ!!』


 うげぇ、という顔をしながらセイカは帰路を急いだ。
 急ぐ理由は特に無い。強いて言えば早く寝たい。

 急いだおかげか、リジェネの屋敷には思ったよりも早く到着した。
 屋敷の入口を開き、先程通されたリジェネの待つであろう客間に向かう。
 マホは大人しく待てただろうか、などと親のような考えが頭をよぎる。
 多分、もうビオンは帰っているだろうから、大人2人も居れば安心だろう。


「ただいま」


 客間の扉を開くと、本を読み紅茶を飲んでいるリジェネと、マホの隣で一緒にスイーツを食べているビオン、そして嬉しそうにスイーツを頬張るマホが居た。


「おかえり!セイカさま!」

「ただいま。いい子にしてたか」

「うん!!ね!マホいい子にしてたよね!リジェネさま!」

「ああ、とても静かに待てたな」

「そうか。えらいな」


 セイカに褒められると、マホはえへへと照れくさそうに笑った。

 ふと隣を見ると、スイーツを齧りながらも何か元気のなさそうなビオンだった。


「…ビオン?なんかあったか?」

「え!あ、や、なんでもないよ」

「そうか?なんか暗いな」

「えー?そうかなぁ、あはは、疲れ?」

「なんも無いなら良いが……」


 本人に何も無いと言われると、それ以上追求するのは難しい。
 マホの隣に腰を下ろし、スイーツに手を伸ばす。すると、ふとマホが焼き菓子をかじりながらポソポソと話し始める。


「あのね、マホね、お昼寝してたの」

「ふぅん?」

「それでね、夢見たの」

「ほー。どんな?」

「セイカ様とね、すごく綺麗なね、赤い髪で黄緑のおめめの女の人が並んで歩いてるの。マホもね、間でおてて繋いでたんだよ。ニコニコしてくれたの、すごくきれーだったの」

「……。そうか。…アンジュは美人だからな」

「!……セイカ、美人なんて思うんだ」

「なんだよ、美醜くらいわかる。だからといってアンジュとどうこうある訳じゃねーよ、お前は早く伝えたらどーなんだまどろっこしい」

「あっはは…ぁいやぁ…ボクなんかアンジュちゃんの眼中に無いよ、あるのは……。ははっ、とにかくない無い!」

「…あーっそ。だから落ち込んでたの?お前」

「うっ」


 図星を突かれ、ビオンは苦い顔をする。それを見て、セイカはふん、と鼻を鳴らす。持っていた焼き菓子を口に放り込み、紅茶を飲み干した。


「さぁて…。とりあえず、女神に聞いてきた話をまとめるぞ」

「あ、そ、そうだね。おっけ、記録の準備は出来てるよ」

「まず、女神の間でどうやら俺は人気らしい。それの理由は、救世主だから…だそうだ。俺の女神が俺にセイカと名付けた理由は、大神に命じられたからだ…と。だから俺は、託されたらしい。何かを」

「セイカが救世主…。だったとして、着地点はどこなのさ?」

「それが分かんねぇんだ。人間を復活させるのが目的か?リセットが目的か?それなら俺は何をしたらいいのかもわからん。が、この花が咲き始めた原因を聞いた時にはリセットだと言っていた。詳しくは無いみたいだがな…」

「…大神って多分、主神ヴァシリアスの事だよね?晴天の王、晴れ空の主、主神ヴァシリアス。…女神には会えても、主神なんてどこに…」

「それならば、ここからお前らの行く予定のルートを辿った先のさらに東にヴァルという国がある。そこは魔法使いが治めている街とは違う。国と言うが殆ど街レベルだ。そこは主神ヴァシリアスが祀ってある」


 今まで話を静観していたリジェネが、主神の情報を口にした。
 女神も泉から出てきたり、祀られている所から話が聞ける。

 ならば、主神も同じなのではないか?


「……聞けなかったとしても、行く価値は有りそうだな。とはいえ距離はある、ゆっくり行こう。……どうせ人間はもう居ない」

「……。そうだね」


 ただ、変えられない事実だけが今はそこにあった。
 いくら嘆こうとも、もうその事象は戻ってこないのだと、そこに居る誰もが分かっている。
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