雪国本屋の禁書庫から想いを乗せて。

雫花

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青い本と棺

向こう側を見る少女

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 2人でそうして、紅月と蒼柊の帰りを待つ。連れてくる女を見て、またフラヴィアーナは少しだけムスッとするのだろうと蒼月は思った。
 自分にもあの感情はよく分からない。だが、人に対して、時々抱く感情なのだろうと疑問を宙で消した。

 暫くすると、玄関のドアが開き、カランカランとベルの鳴る音がした。


「ただいまー!蒼月~、フラヴィアーナちゃん、戻ったよ~」

「おっ、おぉお、お邪魔します!!」


 緊張した声が後に続いてやってくる。蒼柊は普通のトーンで「ただいま」と言ったが、2人の声量に押し負けていた。
 案の定、フラヴィアーナは不機嫌そうだ。だが、本人もその不機嫌さを表に出さないように必死に取り繕っている。

 どうやら、当の蒼柊は気付いていない。


「ココが私のお店だよ。この店にいる従業員は私と君だけ。快く引き受けてくれたし、時給は900円でどう?」

「え!?そ、そんなに…!?」

「うん。ここから先に雇う予定も無いし。ただ、この給料で働く条件がある」

「なんでしょう!」

「私の名前を「紅月」と呼ぶこと。SNSとかでこの店を拡散しないこと。学校でも吹聴しないこと。いい?」


 店であれば、有益な情報は拡散してくれと普通は言うだろう。だが、紅月はそれを嫌がった。モデルの店だと知れれば興味もない若者がわんさかやってきて、果ては営業妨害になりかねないからだ。
 ファンの全員がそうでは無いと分かっているが、少しの厄介な人間のせいで真面目な人間まで損をする。ならば騒動を起こさなければ良い話だ。


「わ、分かりました!こうげつさん、ですね!間違って朱月さんって呼ばないように気をつけます…!」

「うん、よろしい。じゃあ、今日から2週間くらいよろしくね」

「ところで…なんで直呼びなんですか?募集したら良かったのに…」

「いやまぁ…店を空ける予定があるんだけど、最近、良くないことがあってまあ…。常に人がいる状況にしたくってね。蒼柊くんのお友達ならと思って」


 清麗は、そう言われて蒼柊を一瞥した。とても不可解な顔で見られた蒼柊は、目を逸らした。
 そんな二人を見て不機嫌な顔を抑えられなくなってきたフラヴィアーナの肩を、蒼月はポン、と優しく叩く。


「フラヴィアーナ、嫌なのもわかるが、お前の方がずっといいと思うぞ」

「ほ、ほんとぅに…?」

「あぁ。蒼柊は気の強い女など合わん」


 相手に聞こえないよう、小声で会話する。よく分からない反応をした蒼柊を咎めるように、清麗は紅月を挟んで向こう側で蒼柊に質問攻めをしている。


「お前ら。痴話喧嘩もほどほどにし…」

「え!?!?めっちゃイケメンいる!?!?」

「ふふ、私の双子の弟だよ」

「騒がしい女だな…」

「え~口悪いけどそれがいい~!」


 蒼月を見るなり、清麗はまたグイグイと詰め寄ってきた。助けろ、と目で蒼柊を見るが、蒼柊は両手を合わせて「ご愁傷さま」と言わんばかりに止めることを諦めた。蒼月の隣に立つフラヴィアーナも、ドン引きした顔をしている。
 が、蒼月のターンが終わったかと思うと、次はフラヴィアーナの番が回ってきた。


「え!?もしかしてハーフなのあなた!?可愛いねぇ~!!髪の毛サラサラぁ…!蒼柊もハーフなのに、なんか君は可愛くて最高だねぇ~!」

「……あおとは!Cool!かっこいい!」

「…えっ?本気?」

「…かっこいい、もん。やさしー、よ!ニホンゴ、おしえてくれた!たすけて、くれた!」


 ムスッとして、蒼柊はかっこいいんだ、優しいんだと必死に訴えている。蒼柊は照れているが、大人2人は、微笑んでいた。
 目の前にいる清麗は目を丸くしていたが、しばらくしてニヤリとした顔になる。


「そっかそっかぁ~!まぁ、蒼柊、私からしたら別にかっこよくなんかないけど…競争率高いから気をつけなぁ~?」

「きょう、そう?」

「要するに…」


 清麗は語尾を切って、蒼柊には聞こえないようにフラヴィアーナの耳へ口を寄せる。


「モテるってこと」


 その単語をフラヴィアーナは理解し、ワナワナと震え出した。そして次第に、闘志を燃やしたような顔をして蒼柊を見つめた。何を言われているのか何にも聞き取れていない蒼柊は、清麗が何を吹き込んだのか不安であたふたとしている。


「す、清麗ちゃん!?何言ったの!?お、怒ってるの…?」

Non sono arrabbiato!怒ってない!

「え?な、なんて?」

「ァ!お、怒ってない!イタリア語、つかわない、がんばる…!」


 すると、その会話の発端である清麗が口を開く。


「ほら!どっか行くんでしょ?」

「あ!そうだった。紅月さん、蒼月さん、とりあえずどこに?」

「そうだな…。敵の動向は知れん。向かうとすれば、探すと言うよりは手がかりを見つけに行きたい。父様の森などどうだ?」


 あの「吸血鬼大全」に出てきた森のことを言っているのだろう。今何も手がかりが掴めない今、思い当たるところを潰していくのはそこにいる清麗を抜いた3人は同意したようだった。


「ていうか、えっと…紅月さん、私は何してたらいいの?」

「ああ!えっとね、店番!ここにある本は全部売り物だから、値段もつけてあるしお会計してくれるだけでいいよ。レジは使い方わかる?」

「はい!このタイプなら何となく。んっと…あの向こうのお部屋のは売らない方がいいですか?」

「えっ?」

「ほら向こう…アレ?もしかして私またへんな…」

「あ、や、…そう!あっちの部屋の本は絶対にどれも人に渡したらダメ。君はあそこに入らないで、良い?」

「はーい!」


 本棚で隠してあるはずの禁書庫を、清麗は言い当てた。が、蒼柊以外が驚いているだけで、蒼柊は平然としていた。
 そのまま、4人は店の外に出る。


「…蒼柊」

「はーいっ」

「お前の友人、何故わかった」

「あの人、本人が気づかないだけで、勘と目がめちゃくちゃ良いんです。だからいつだったかな、絶対に見つからない所にかくれんぼで隠れたのに、すぐに見つかったんです。学校のあかない扉の向こうも言い当てました。そういう子なんです」

「…お前知ってて呼んだのか」

「普通のミーハー呼ぶわけないじゃないすか!大事な部屋なんでしょ?大丈夫、変なことしないですよ」

「ならいいが…」


 自信満々にそう言う蒼柊に、それ以上疑いの言葉を投げるのは辞めることにした。


「フラヴィアーナ。お前は実質、あの青い本の被害者だ。別に、この調査に着いてくる必要も無い。どうする」

「ぁ、あ、いく!アオト、いくなら、いく!」

「…そうか。わからん感情だな」


 また、蒼月がフラヴィアーナを抱え、紅月が蒼柊を抱えて走る。
 屋根の上を、人を抱えているとは思えない速さと身軽さで走っていく。

 その長い移動時間の間、蒼柊は紅月の腕に抱かれながら吸血鬼大全の話を思い出していた。だが、何かが引っ掛かっている。
 祖父から聞いた、あの話の中にあった言葉。


「ねぇ、紅月さん」

「んー?なぁにー?」

「…本当に、25歳を迎えたから吸血鬼になったの?」

「…。どういうことかな?」

「じいちゃんが言ってたんです。蒼月さんは、死から逃れた罰だから、終わりなんてないって。…後悔しているような顔をしていたって」


 その質問に、しばらく静寂が流れた。紅月は、ゆっくりと口を開く。


「父上が、気を使ってくれたんだよ。……昔の寿命なんてそう長いもんじゃない。…本当は、死にたくないって泣いて泣いて…そうしたら、吸血鬼になってた。…それだけだよ」

「そうなんだ…。泣いたのは、紅月さん?…2人とも?」

「…よく思い出せないけど…蒼月はもう、隣で死にかけていて、泣く気力も無かったと思うな。だけど一言、小さい声で「死にたくない」って言ってた、と思う」


 少しだけ寂しそうな顔をした。ただ、それだけで蒼柊の疑問がひとつ、少しだけ解けたような気がした。
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