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#072 『ケチャップ女の家』
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「怖い話、不思議な話、ねぇ・・・イミフ話ならあるけど、いいかな?」
私より少し年上の男性介護士・小篠さんは、苦笑いのような顔で 私にそう切り出された。
「誰にも話さなかったよ、今まで。思い過ごしだとか記憶違いだとか言われたらハイそこまでの話だしさ・・・でもほんとに、自分的には 心のシコリみたいなもんでね――」
8年前くらいだけど、 と いきなり話は本題に入った。
※ ※ ※ ※
取材自体は2年前なので、計算すれば 今から10年弱、昔の話になる。
わけあって家を出、一人暮らしをすることになった小篠さんは、当時一番の親友だった河野さんという同い年の同僚と一緒に、最寄りのリサイクルショップを訪ねた。
家具の類いを揃えなければという気持ちはあったのだが勝手がわからず、買うべきものの見当すらつかない。そこで一人暮らし経験のある河野さんを頼ったのだ。
「転居先にも店はあるんだから、まずは必要最低限なものだけ買えよ」
「買うべきは、マトモな値段で買ったら高すぎるものとかだな。日用品は後でも揃えられるからな」
「かさばるモノはやめとけな。男の一人暮らしなんだから・・・」
ふむふむ、そういうものかとレクチャーを受けながら、様々な物品が並んだショップの中をうろうろしていると、不意におかしなものが目に入った。
最初は「犬小屋?」と思ったという。しかしよくよく見てみると、犬小屋――くらいの大きさの、何処の町にもひとつは建っていそうな平凡な一軒家のミニチュアだった。
赤い屋根、2階建て。造りはかなり細かいような気がする。
値札を見てみると、『ハウスモデル・ハウス』という意味不明な商品名が書いてあり、『6800円』という安いんだかそうでないんだか よくわからない値段が付けられている。
何故か、白物家電が並んだコーナーに。
「・・・おい河野。これ何だと思う?わけわかんねぇ」
首を傾げるしかない小篠さんは、友人に意見を求めた。
河野さんは少し離れたコーナーでドライヤーか何かを物色していたようだが、直ぐに「どうした?」と商品を置き、小篠さんの側に参じてくれた。
「どうしたもこうしたもねぇよ。『ハウスモデル・ハウス』て何だ?」
「へ?ハウスモデル・・・何??」
これだよ、と小篠さんが指差した謎の一軒家ミニチュア。
それを一目見て、
「・・・・・・・・・・・・!!!」
河野さんの顔色が、明らかに変わった。
「何で・・・何でこんなものがあるんだ。冗談じゃねぇ。おい小篠、お前コレが何か わかってんのか?!」
「は?だからわけがわかんねぇ、つってるじゃん!お前は知ってるのかよ?」
「知ってるも何もねぇよ。コレには女が入ってるだろ」
女?! 裏返った声が出た。
女だ。 友人は生真面目な顔でそう繰り返す。
「コレからは小さな白い服の女が出てきて、近くの人間にケチャップをかけて食べてしまうんだ。女はたくさん居るし、家の壁からはケチャップが無限に染み出してくるから、お前一人くらいはペロリと平らげてしまうぞ。ああ、危ねぇ。恐ろしい恐ろしい!!」
ポカンと言葉を無くしていると、「こんなものが置いてある店は良くない。一刻も早く出よう!」と急かされた。
言われなくても薄気味が悪くなってきたので、素直に河野氏の言葉に従った。
「・・・ま、リサイクルショップは他にもあるからな。別の店で、ゆっくり必要品を探すことにしようぜ」
友人は、わざわざ出してくれた車を運転しながら 穏やかにそう言った。
・・・さっき言った話は何なんだ?もっと詳しく教えてくれないか? 軽く頭が混乱していた助手席の小篠さんは、神妙な声音でそう尋ねた。
「さっきの話?何のこと?」
「え、だから、ケチャップをかけて人を食べる女とか・・・」
「・・・・・・?何だ、それ。ホラー??」
河野氏は、本気で自分が言ったことを忘れている様子だった。
アタマ大丈夫かと心配になったが、その後は特に変わったこともなかったので、「きっと何かの気の迷いだったのだろう」と自分の中で納得し、次のショップへ向かったという。
※ ※ ※ ※
それから3年の歳月が流れる。
友人が選んでくれた家具の中でのチョンガー生活にも慣れ、久しぶりに地元へ帰ってきた小篠さんは、「たまには河野のヤツと一緒に飲もうかい」と思い立ち、連絡を入れてみることにした。
が、携帯電話からは「現在この番号は使われておりません」と返ってくる。
あれ?確かに随分長く連絡はしてなかったけど・・・あいつ番号、変えたのかな?何で教えてくれなかったんだ?
少し不機嫌になった小篠さんは、別の友人に電話をし、「河野のアホの番号教えてくれ」「あいつ俺に新しい番号教えるの忘れてやがったんだ」と尋ねた。
『えっ・・・ 小篠。君、知らなかったの・・・?』
電話の向こうの別の友人は、声を潜めるようにしてそう言った。
『河野ね・・・ もう、僕らと同じ世界の人間じゃないんだよ。あまり関わり合いにならない方がいいと思うな・・・』
何でも、河野氏は現在、堅気でない事務所の構成員になっているという。
ある時期から あまりいい噂を聞かない人物と好んで付き合うようになり、そのツテで事務所に出入りするようになった末、そこの『偉い人』から気に入られて とあるシノギを任される身分になったらしい。
かなりアブない仕事、だという。
『その分、実入りはあるみたいだね。昔とは比べものにならないくらい小綺麗なスーツ着て、颯爽と歩いてたのを ちょっと前に見たな』
信じられない。小篠さんは呆然となった。
真面目すぎるほど真面目で 世話焼きだった河野が、そんな――
いつからヤツは豹変しちまったんだ、と訊いた。
君がこっちから出てった頃かなぁ、との答えだった。
『河野ね、家族なんかともスッパリ縁を切って、独り身なのに新しい家を建てたんだよ。半年くらい前。駅の近くにね・・・君ん家からも 少し歩けば見えるだろ』
赤い屋根の、2階建てだよ。あまり派手な造りじゃないけど――
そこまで聞いた時、地元を出る前に見た『ケチャップ女の家』を思い出した。
まったく因果は不明ながら、何故か 心の底から納得したという。
――例のリサイクルショップは、今も営業を続けている。
もう一度 店内に入って『ケチャップ女の家』がまだ在るかを確かめる勇気は俺には無い、と。 最後に小篠さんは吐き捨てるように仰った。
私より少し年上の男性介護士・小篠さんは、苦笑いのような顔で 私にそう切り出された。
「誰にも話さなかったよ、今まで。思い過ごしだとか記憶違いだとか言われたらハイそこまでの話だしさ・・・でもほんとに、自分的には 心のシコリみたいなもんでね――」
8年前くらいだけど、 と いきなり話は本題に入った。
※ ※ ※ ※
取材自体は2年前なので、計算すれば 今から10年弱、昔の話になる。
わけあって家を出、一人暮らしをすることになった小篠さんは、当時一番の親友だった河野さんという同い年の同僚と一緒に、最寄りのリサイクルショップを訪ねた。
家具の類いを揃えなければという気持ちはあったのだが勝手がわからず、買うべきものの見当すらつかない。そこで一人暮らし経験のある河野さんを頼ったのだ。
「転居先にも店はあるんだから、まずは必要最低限なものだけ買えよ」
「買うべきは、マトモな値段で買ったら高すぎるものとかだな。日用品は後でも揃えられるからな」
「かさばるモノはやめとけな。男の一人暮らしなんだから・・・」
ふむふむ、そういうものかとレクチャーを受けながら、様々な物品が並んだショップの中をうろうろしていると、不意におかしなものが目に入った。
最初は「犬小屋?」と思ったという。しかしよくよく見てみると、犬小屋――くらいの大きさの、何処の町にもひとつは建っていそうな平凡な一軒家のミニチュアだった。
赤い屋根、2階建て。造りはかなり細かいような気がする。
値札を見てみると、『ハウスモデル・ハウス』という意味不明な商品名が書いてあり、『6800円』という安いんだかそうでないんだか よくわからない値段が付けられている。
何故か、白物家電が並んだコーナーに。
「・・・おい河野。これ何だと思う?わけわかんねぇ」
首を傾げるしかない小篠さんは、友人に意見を求めた。
河野さんは少し離れたコーナーでドライヤーか何かを物色していたようだが、直ぐに「どうした?」と商品を置き、小篠さんの側に参じてくれた。
「どうしたもこうしたもねぇよ。『ハウスモデル・ハウス』て何だ?」
「へ?ハウスモデル・・・何??」
これだよ、と小篠さんが指差した謎の一軒家ミニチュア。
それを一目見て、
「・・・・・・・・・・・・!!!」
河野さんの顔色が、明らかに変わった。
「何で・・・何でこんなものがあるんだ。冗談じゃねぇ。おい小篠、お前コレが何か わかってんのか?!」
「は?だからわけがわかんねぇ、つってるじゃん!お前は知ってるのかよ?」
「知ってるも何もねぇよ。コレには女が入ってるだろ」
女?! 裏返った声が出た。
女だ。 友人は生真面目な顔でそう繰り返す。
「コレからは小さな白い服の女が出てきて、近くの人間にケチャップをかけて食べてしまうんだ。女はたくさん居るし、家の壁からはケチャップが無限に染み出してくるから、お前一人くらいはペロリと平らげてしまうぞ。ああ、危ねぇ。恐ろしい恐ろしい!!」
ポカンと言葉を無くしていると、「こんなものが置いてある店は良くない。一刻も早く出よう!」と急かされた。
言われなくても薄気味が悪くなってきたので、素直に河野氏の言葉に従った。
「・・・ま、リサイクルショップは他にもあるからな。別の店で、ゆっくり必要品を探すことにしようぜ」
友人は、わざわざ出してくれた車を運転しながら 穏やかにそう言った。
・・・さっき言った話は何なんだ?もっと詳しく教えてくれないか? 軽く頭が混乱していた助手席の小篠さんは、神妙な声音でそう尋ねた。
「さっきの話?何のこと?」
「え、だから、ケチャップをかけて人を食べる女とか・・・」
「・・・・・・?何だ、それ。ホラー??」
河野氏は、本気で自分が言ったことを忘れている様子だった。
アタマ大丈夫かと心配になったが、その後は特に変わったこともなかったので、「きっと何かの気の迷いだったのだろう」と自分の中で納得し、次のショップへ向かったという。
※ ※ ※ ※
それから3年の歳月が流れる。
友人が選んでくれた家具の中でのチョンガー生活にも慣れ、久しぶりに地元へ帰ってきた小篠さんは、「たまには河野のヤツと一緒に飲もうかい」と思い立ち、連絡を入れてみることにした。
が、携帯電話からは「現在この番号は使われておりません」と返ってくる。
あれ?確かに随分長く連絡はしてなかったけど・・・あいつ番号、変えたのかな?何で教えてくれなかったんだ?
少し不機嫌になった小篠さんは、別の友人に電話をし、「河野のアホの番号教えてくれ」「あいつ俺に新しい番号教えるの忘れてやがったんだ」と尋ねた。
『えっ・・・ 小篠。君、知らなかったの・・・?』
電話の向こうの別の友人は、声を潜めるようにしてそう言った。
『河野ね・・・ もう、僕らと同じ世界の人間じゃないんだよ。あまり関わり合いにならない方がいいと思うな・・・』
何でも、河野氏は現在、堅気でない事務所の構成員になっているという。
ある時期から あまりいい噂を聞かない人物と好んで付き合うようになり、そのツテで事務所に出入りするようになった末、そこの『偉い人』から気に入られて とあるシノギを任される身分になったらしい。
かなりアブない仕事、だという。
『その分、実入りはあるみたいだね。昔とは比べものにならないくらい小綺麗なスーツ着て、颯爽と歩いてたのを ちょっと前に見たな』
信じられない。小篠さんは呆然となった。
真面目すぎるほど真面目で 世話焼きだった河野が、そんな――
いつからヤツは豹変しちまったんだ、と訊いた。
君がこっちから出てった頃かなぁ、との答えだった。
『河野ね、家族なんかともスッパリ縁を切って、独り身なのに新しい家を建てたんだよ。半年くらい前。駅の近くにね・・・君ん家からも 少し歩けば見えるだろ』
赤い屋根の、2階建てだよ。あまり派手な造りじゃないけど――
そこまで聞いた時、地元を出る前に見た『ケチャップ女の家』を思い出した。
まったく因果は不明ながら、何故か 心の底から納得したという。
――例のリサイクルショップは、今も営業を続けている。
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