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#071 『丘のアレ』
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私の住んでいる田舎は、車社会である。皆、少しの移動距離でも車を使って移動する。
都会の方の感覚からすれば「えっ、そのくらいの道、徒歩で行かなきゃ!」となるのだろうが、我が故郷は都会とは比べものにならないくらい道路が空いているので、自動車を使った方がむしろ効率よく移動が出来るのである。
森町さんも、ぶらりと近くのコンビニまで行く時にすら車を使う人だった。
しかしその時は―― 初夏の気候がとても心地よく、日が暮れても窓から入り込む風がそよそよといい感じだったので、「ウォーキングってのもたまにはいいか」と思い立ったのだそうだ。
徒歩、片道7分あまりをかけて、夜食と煙草を買いに行くことにした。
外に出て、季節の空気を思い切り吸い込んでみる。
うん、清々しい。
煙草を止めればもっと清々しくなるのかもなぁとは一瞬 思ったが、やめられないものは仕方がない。
空にはほっそりとした三日月。
まばらに車が通る国道を伝って、目標のコンビニまでのんびり歩き始めた。
と、
(ンンっ・・・?)
田畑を臨んでその脇に小高く盛り上がった丘の斜面に、何かが素早く動いているのを森町さんは見た。
動きに規則性は無い。まるで心赴くまま、ぐねぐねとランダムに、それは斜面を縦横無尽と走り回っているのだ。
ぼうっと薄明るい光を放っているので、それが確認出来たのだ。まるで「ほたるの光のようだった」と森町さんは語る。
彼の立つ場所から丘までは500m近く離れている筈だが、それでも「小虫が這い回っているようなスピードだった」という。
あれは何だ?
鷺がぼんやり光りながら夜間に飛ぶとは聞いたことがあるが、どう考えてもあれは鷺では無い。姿形はまったくわからないけれど、何やら、スーッと滑るように移動しているように見えるのだが・・・?
不思議だとは感じたが別に怖くも何ともなく、「ああいうものもあるのだろうな」と思いながら またのんびり ゆったりと道を歩いた。
コンビニに着いた森町さんが面白そうな本でも出てないかと棚を物色していると、一人の農家の方と思しきおじさんが「うぃーっ」と唸るような声をあげて店に入ってきた。
すると、既に店の中に居たもう一人のおじさんが「おっ、久しぶり」とその人に声をかけた。「よぉ、しばらく」「へへ。近くに住んでるのになかなか会わねぇもんだな」 そのままおじさん二人は世間話へもつれ込む。
仕事がどうの、隣家の嫁がどうの、ウチの嬶ァがどうのと 傍からすればまったくどうでもいい話がしばらく続いた後、
「そう言や、ここに来る前にウチの畑ン近くでアレを見た」
「アレ?アレって何?」
「アレっちゃアレだよ、〝丘のアレ〟だよ」
ああ、丘の・・・ 相手のおじさんは納得したような声を出した。
うん、まだ出るんだなぁ・・・ 一方のおじさんも苦笑い。
「お前、じゃあ〝パンパン〟したか、〝パンパン〟」
「当たり前だよ。しなきゃ えらいこった」
「誰が考えたんだろうね、アレを見たら〝パンパン〟しろって」
「わからねぇなぁ。そもそも、アレぁ何なんだろうなぁ」
ゲゲゲの〇太郎に出てくるようなのじゃねぇの。
二人はそう言って笑い合い、「おおっと、パンパン」と口を合わせて、柏手を打つ真似をした。
そのやりとりが何となく気になったので、森町さんは帰り道、再び例の 田畑の脇の丘をよくよく眺めて確認してみた。
もう、何も居なかった。
妙に不安になったので、遅まきながら〝パンパン〟と柏手を打って 念入りに一礼もしておいた。
帰り道、月はすっかり雲に隠れていたので 少しおっかない心持ちだったという。
※ ※ ※ ※
「そういうことがあったねぇ。5年前・・・いや、もっと前だったかなァ・・・」
こんな薄気味悪い出来事でも、振り返ればちょっと懐かしいもんだね。 森町さんは快活に語られる。
――それから何かありましたか?と私が尋ねると、「いや、特に」との即答。
キチンと〝パンパン〟したし、礼も示したおかげだろう、と笑われる。
が、次の瞬間、
「あっ」
何かに思い当たったように そう一言。
そのまま森町さんは、「まさか、まさか」「え、うそだろ・・・」と手混ぜをしながら しばらく考え事をされている様子だったが、
「・・・・・・いやいや、突然 申し訳ない。思い過ごしだったよ・・・ハハハ、あんなことがあると、いろんなものを現象と関連づけてしまってイカンね」
そう言って、困ったような笑顔を零された。
手混ぜは、まだ続けていらっしゃった。
「車で出てりゃ、見ずに済んでたかも知れないなーー」
――何に心当たりを見つけられたのですか?と尋ねても、「それはちょっと」と厳しい顔で、頑として教えては頂けなかった。
都会の方の感覚からすれば「えっ、そのくらいの道、徒歩で行かなきゃ!」となるのだろうが、我が故郷は都会とは比べものにならないくらい道路が空いているので、自動車を使った方がむしろ効率よく移動が出来るのである。
森町さんも、ぶらりと近くのコンビニまで行く時にすら車を使う人だった。
しかしその時は―― 初夏の気候がとても心地よく、日が暮れても窓から入り込む風がそよそよといい感じだったので、「ウォーキングってのもたまにはいいか」と思い立ったのだそうだ。
徒歩、片道7分あまりをかけて、夜食と煙草を買いに行くことにした。
外に出て、季節の空気を思い切り吸い込んでみる。
うん、清々しい。
煙草を止めればもっと清々しくなるのかもなぁとは一瞬 思ったが、やめられないものは仕方がない。
空にはほっそりとした三日月。
まばらに車が通る国道を伝って、目標のコンビニまでのんびり歩き始めた。
と、
(ンンっ・・・?)
田畑を臨んでその脇に小高く盛り上がった丘の斜面に、何かが素早く動いているのを森町さんは見た。
動きに規則性は無い。まるで心赴くまま、ぐねぐねとランダムに、それは斜面を縦横無尽と走り回っているのだ。
ぼうっと薄明るい光を放っているので、それが確認出来たのだ。まるで「ほたるの光のようだった」と森町さんは語る。
彼の立つ場所から丘までは500m近く離れている筈だが、それでも「小虫が這い回っているようなスピードだった」という。
あれは何だ?
鷺がぼんやり光りながら夜間に飛ぶとは聞いたことがあるが、どう考えてもあれは鷺では無い。姿形はまったくわからないけれど、何やら、スーッと滑るように移動しているように見えるのだが・・・?
不思議だとは感じたが別に怖くも何ともなく、「ああいうものもあるのだろうな」と思いながら またのんびり ゆったりと道を歩いた。
コンビニに着いた森町さんが面白そうな本でも出てないかと棚を物色していると、一人の農家の方と思しきおじさんが「うぃーっ」と唸るような声をあげて店に入ってきた。
すると、既に店の中に居たもう一人のおじさんが「おっ、久しぶり」とその人に声をかけた。「よぉ、しばらく」「へへ。近くに住んでるのになかなか会わねぇもんだな」 そのままおじさん二人は世間話へもつれ込む。
仕事がどうの、隣家の嫁がどうの、ウチの嬶ァがどうのと 傍からすればまったくどうでもいい話がしばらく続いた後、
「そう言や、ここに来る前にウチの畑ン近くでアレを見た」
「アレ?アレって何?」
「アレっちゃアレだよ、〝丘のアレ〟だよ」
ああ、丘の・・・ 相手のおじさんは納得したような声を出した。
うん、まだ出るんだなぁ・・・ 一方のおじさんも苦笑い。
「お前、じゃあ〝パンパン〟したか、〝パンパン〟」
「当たり前だよ。しなきゃ えらいこった」
「誰が考えたんだろうね、アレを見たら〝パンパン〟しろって」
「わからねぇなぁ。そもそも、アレぁ何なんだろうなぁ」
ゲゲゲの〇太郎に出てくるようなのじゃねぇの。
二人はそう言って笑い合い、「おおっと、パンパン」と口を合わせて、柏手を打つ真似をした。
そのやりとりが何となく気になったので、森町さんは帰り道、再び例の 田畑の脇の丘をよくよく眺めて確認してみた。
もう、何も居なかった。
妙に不安になったので、遅まきながら〝パンパン〟と柏手を打って 念入りに一礼もしておいた。
帰り道、月はすっかり雲に隠れていたので 少しおっかない心持ちだったという。
※ ※ ※ ※
「そういうことがあったねぇ。5年前・・・いや、もっと前だったかなァ・・・」
こんな薄気味悪い出来事でも、振り返ればちょっと懐かしいもんだね。 森町さんは快活に語られる。
――それから何かありましたか?と私が尋ねると、「いや、特に」との即答。
キチンと〝パンパン〟したし、礼も示したおかげだろう、と笑われる。
が、次の瞬間、
「あっ」
何かに思い当たったように そう一言。
そのまま森町さんは、「まさか、まさか」「え、うそだろ・・・」と手混ぜをしながら しばらく考え事をされている様子だったが、
「・・・・・・いやいや、突然 申し訳ない。思い過ごしだったよ・・・ハハハ、あんなことがあると、いろんなものを現象と関連づけてしまってイカンね」
そう言って、困ったような笑顔を零された。
手混ぜは、まだ続けていらっしゃった。
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