真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

文字の大きさ
72 / 102

#071 『丘のアレ』

しおりを挟む
 私の住んでいる田舎は、車社会である。皆、少しの移動距離でも車を使って移動する。

 都会の方の感覚からすれば「えっ、そのくらいの道、徒歩で行かなきゃ!」となるのだろうが、我が故郷は都会とは比べものにならないくらい道路が空いているので、自動車を使った方がむしろ効率よく移動が出来るのである。

 森町さんも、ぶらりと近くのコンビニまで行く時にすら車を使う人だった。

 しかしその時は―― 初夏の気候がとても心地よく、日が暮れても窓から入り込む風がそよそよといい感じだったので、「ウォーキングってのもたまにはいいか」と思い立ったのだそうだ。

 徒歩、片道7分あまりをかけて、夜食と煙草を買いに行くことにした。
 外に出て、季節の空気を思い切り吸い込んでみる。
 うん、清々しい。
 煙草を止めればもっと清々しくなるのかもなぁとは一瞬 思ったが、やめられないものは仕方がない。
 空にはほっそりとした三日月。
 まばらに車が通る国道を伝って、目標のコンビニまでのんびり歩き始めた。

 と、


(ンンっ・・・?)


 田畑を臨んでその脇に小高く盛り上がった丘の斜面に、何かが素早く動いているのを森町さんは見た。

 動きに規則性は無い。まるで心赴くまま、ぐねぐねとランダムに、は斜面を縦横無尽と走り回っているのだ。
 ぼうっと薄明るい光を放っているので、が確認出来たのだ。まるで「ほたるの光のようだった」と森町さんは語る。

 彼の立つ場所から丘までは500m近く離れている筈だが、それでも「小虫が這い回っているようなスピードだった」という。

 あれは何だ?
 鷺がぼんやり光りながら夜間に飛ぶとは聞いたことがあるが、どう考えてもあれは鷺では無い。姿形はまったくわからないけれど、何やら、スーッと滑るように移動しているように見えるのだが・・・?

 不思議だとは感じたが別に怖くも何ともなく、「ああいうものもあるのだろうな」と思いながら またのんびり ゆったりと道を歩いた。


 コンビニに着いた森町さんが面白そうな本でも出てないかと棚を物色していると、一人の農家の方と思しきおじさんが「うぃーっ」と唸るような声をあげて店に入ってきた。

 すると、既に店の中に居たもう一人のおじさんが「おっ、久しぶり」とその人に声をかけた。「よぉ、しばらく」「へへ。近くに住んでるのになかなか会わねぇもんだな」 そのままおじさん二人は世間話へもつれ込む。

 仕事がどうの、隣家の嫁がどうの、ウチのかかァがどうのと 傍からすればまったくどうでもいい話がしばらく続いた後、

「そう言や、ここに来る前にウチの畑ン近くでを見た」
「アレ?アレって何?」
「アレっちゃアレだよ、〝丘のアレ〟だよ」

 ああ、丘の・・・ 相手のおじさんは納得したような声を出した。
 うん、まだ出るんだなぁ・・・ 一方のおじさんも苦笑い。

「お前、じゃあ〝パンパン〟したか、〝パンパン〟」
「当たり前だよ。しなきゃ えらいこった」
「誰が考えたんだろうね、アレを見たら〝パンパン〟しろって」
「わからねぇなぁ。そもそも、アレぁ何なんだろうなぁ」

 ゲゲゲの〇太郎に出てくるようなのじゃねぇの。
 二人はそう言って笑い合い、「おおっと、パンパン」と口を合わせて、柏手を打つ真似をした。


 そのやりとりが何となく気になったので、森町さんは帰り道、再び例の 田畑の脇の丘をよくよく眺めて確認してみた。
 もう、何も居なかった。
 妙に不安になったので、遅まきながら〝パンパン〟と柏手を打って 念入りに一礼もしておいた。
 帰り道、月はすっかり雲に隠れていたので 少しおっかない心持ちだったという。


  ※   ※   ※   ※

「そういうことがあったねぇ。5年前・・・いや、もっと前だったかなァ・・・」

 こんな薄気味悪い出来事でも、振り返ればちょっと懐かしいもんだね。 森町さんは快活に語られる。

 ――それから何かありましたか?と私が尋ねると、「いや、特に」との即答。
 キチンと〝パンパン〟したし、礼も示したおかげだろう、と笑われる。
 が、次の瞬間、

「あっ」

 何かに思い当たったように そう一言。

 そのまま森町さんは、「まさか、まさか」「え、うそだろ・・・」と手混ぜをしながら しばらく考え事をされている様子だったが、

「・・・・・・いやいや、突然 申し訳ない。思い過ごしだったよ・・・ハハハ、あんなことがあると、いろんなものを現象と関連づけてしまってイカンね」

 そう言って、困ったような笑顔を零された。
 手混ぜは、まだ続けていらっしゃった。

「車で出てりゃ、見ずに済んでたかも知れないなーー」



 ――何に心当たりを見つけられたのですか?と尋ねても、「それはちょっと」と厳しい顔で、頑として教えては頂けなかった。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...