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第3話 揺らぎ始めた関係
「初めまして、ライラ・コルトと申します」
ストレートの艶やかな黒髪にマリンブルーの瞳を輝かせ、スラリとした足でクレマンド様と一緒に馬車から下りて来ると、その女性は私に挨拶をした。
「彼女は従妹のライラ・コルト。僕の母の妹の娘なんだ。学院は違うけど、君と同い年なんだよ」
「…初めまして、アドリナ・ランベールです」
婚約してから、放課後は毎日迎えに来て下さるクレマンド様。
ところが今日は、見知らぬ女性と一緒に来られて驚いた。
どうして?
「実はこれからライラの勉強に付き合う事になってしまって…」
「え?」
「私勉強が苦手で…来週から学期末テストがあるし、クレマンドに相談したら勉強教えてくれるって言ってくれて…ごめんなさいね、アドリナ様っ」
そう言いながら自分の口元に両手を合わせて謝罪する。その仕草がなんだかあざとく感じられた。
「その事を伝えに立ち寄ったんだ。だから今日は申し訳ないけれど…」
「はい、わかりました。テストの方が大切ですからねっ」
私は無理矢理口角を上げ、明るい口調で受け応えた。
「…申し訳ない。じゃあ、また連絡するよ」
「はい」
そう言うと、クレマンド様はライラ様と一緒に馬車へ乗り込んで去って行った。
「一人でどうしたの? アドリナ。 クレマンド様、お迎えにきたんじゃないの?」
モニカが私の両肩にぽんっと手を置き、覗き込むように尋ねる。
「…キャンセルになったわ。ライラ様の勉強を見るんですって。彼女の通っている学院では来週から学期末テストみたい」
「え、どういう事? なんで今日なの? 学期末テストがいつ始まるかなんて、既に日程が決まっているから今更じゃない? あなたとの約束をキャンセルするほどの事?」
「でも私との約束より彼女の勉強を見る方が大事なようね…」
皮肉気味に愚痴る。
やだ…こんな考え方。
こんな…わざわざ彼女を連れてこなくても、誰かに伝言を頼めばいい事だと思うけど…まるで見せつけるかのように…
モニカが私の心情を読み取り、溜息をついていた。
「たまには私と一緒に帰ろうよっ ね!?」
私と腕を組み、笑顔を見せるモニカ。
「うん…」
私はその気遣いに救われた。
そしてこの日が…私たちの関係にひびが入る一因となる。
『ごめん、今日はライラに呼ばれているんだ』
『ごめん、その日はライラと約束があるんだ』
『ごめん、ライラと……』
いつの間にか、『ごめん』が彼との会話の決まり文句になっていた。
「なんか最近、クレマンド様がライラ様の屋敷によく出入りしているって噂が立っているらしいわよ」
「そうみたいね…」
噂を聞いたモニカが、私を心配して訪ねに来てくれた。
私は窓の外に視線を向け、ぼんやりと答える。
「あ、でもっ 来週はあなたの誕生日じゃないっ その時ゆっくり彼と過ごせば大丈夫よっ」
モニカが私に気を遣って、言ってくれている事が分かる。
「そうね…誕生日に彼ときちんと話してみるわ」
一度きちんと彼と向き合わなきゃ。
私はその日に噂の真相を聞こうと思った。
けどそれは…クレマンド様が来れば…の話だった、
「え…? いらっしゃらない?」
「誠に申し訳ございません」
誕生日当日、私はセルマール家のお使いである執事の方から、プレゼントとメッセージカードを受け取った。
開いたメッセージカードには
『18歳のお誕生日おめでとう。出席できず、申し訳ありません。 クレマンド・セルマール』
たったこれだけ…来られない事情も理由も何も書かれていない。
もしかして他に大事な用事が。
私の誕生日より大事な…
私の頭にクレマンド様とライラ様の姿が浮かぶ。
心の中で何かが切れる音がした。
「…わざわざありがとうございました。クレマンド様にもよろしくお伝え下さい」
私は事務的にお礼の言葉を述べる。
プレゼントの中身は画集。
私が欲しがっていた…
「中途半端な事しないでよ…っ」
私は画集が包まれていた包装紙を、ぐしゃりと握り締めた。
こんなにも悲しい誕生日は生まれて初めてだった――――
ストレートの艶やかな黒髪にマリンブルーの瞳を輝かせ、スラリとした足でクレマンド様と一緒に馬車から下りて来ると、その女性は私に挨拶をした。
「彼女は従妹のライラ・コルト。僕の母の妹の娘なんだ。学院は違うけど、君と同い年なんだよ」
「…初めまして、アドリナ・ランベールです」
婚約してから、放課後は毎日迎えに来て下さるクレマンド様。
ところが今日は、見知らぬ女性と一緒に来られて驚いた。
どうして?
「実はこれからライラの勉強に付き合う事になってしまって…」
「え?」
「私勉強が苦手で…来週から学期末テストがあるし、クレマンドに相談したら勉強教えてくれるって言ってくれて…ごめんなさいね、アドリナ様っ」
そう言いながら自分の口元に両手を合わせて謝罪する。その仕草がなんだかあざとく感じられた。
「その事を伝えに立ち寄ったんだ。だから今日は申し訳ないけれど…」
「はい、わかりました。テストの方が大切ですからねっ」
私は無理矢理口角を上げ、明るい口調で受け応えた。
「…申し訳ない。じゃあ、また連絡するよ」
「はい」
そう言うと、クレマンド様はライラ様と一緒に馬車へ乗り込んで去って行った。
「一人でどうしたの? アドリナ。 クレマンド様、お迎えにきたんじゃないの?」
モニカが私の両肩にぽんっと手を置き、覗き込むように尋ねる。
「…キャンセルになったわ。ライラ様の勉強を見るんですって。彼女の通っている学院では来週から学期末テストみたい」
「え、どういう事? なんで今日なの? 学期末テストがいつ始まるかなんて、既に日程が決まっているから今更じゃない? あなたとの約束をキャンセルするほどの事?」
「でも私との約束より彼女の勉強を見る方が大事なようね…」
皮肉気味に愚痴る。
やだ…こんな考え方。
こんな…わざわざ彼女を連れてこなくても、誰かに伝言を頼めばいい事だと思うけど…まるで見せつけるかのように…
モニカが私の心情を読み取り、溜息をついていた。
「たまには私と一緒に帰ろうよっ ね!?」
私と腕を組み、笑顔を見せるモニカ。
「うん…」
私はその気遣いに救われた。
そしてこの日が…私たちの関係にひびが入る一因となる。
『ごめん、今日はライラに呼ばれているんだ』
『ごめん、その日はライラと約束があるんだ』
『ごめん、ライラと……』
いつの間にか、『ごめん』が彼との会話の決まり文句になっていた。
「なんか最近、クレマンド様がライラ様の屋敷によく出入りしているって噂が立っているらしいわよ」
「そうみたいね…」
噂を聞いたモニカが、私を心配して訪ねに来てくれた。
私は窓の外に視線を向け、ぼんやりと答える。
「あ、でもっ 来週はあなたの誕生日じゃないっ その時ゆっくり彼と過ごせば大丈夫よっ」
モニカが私に気を遣って、言ってくれている事が分かる。
「そうね…誕生日に彼ときちんと話してみるわ」
一度きちんと彼と向き合わなきゃ。
私はその日に噂の真相を聞こうと思った。
けどそれは…クレマンド様が来れば…の話だった、
「え…? いらっしゃらない?」
「誠に申し訳ございません」
誕生日当日、私はセルマール家のお使いである執事の方から、プレゼントとメッセージカードを受け取った。
開いたメッセージカードには
『18歳のお誕生日おめでとう。出席できず、申し訳ありません。 クレマンド・セルマール』
たったこれだけ…来られない事情も理由も何も書かれていない。
もしかして他に大事な用事が。
私の誕生日より大事な…
私の頭にクレマンド様とライラ様の姿が浮かぶ。
心の中で何かが切れる音がした。
「…わざわざありがとうございました。クレマンド様にもよろしくお伝え下さい」
私は事務的にお礼の言葉を述べる。
プレゼントの中身は画集。
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