この代償を与うる者、受ける者

Kouei

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第5話 孤独の中で…

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 カタン…


 伯父様と教会にいると、セリルが戻って来た。

「セリルッ 雨の中ありがとう。お母様のご様子はどうだった?」

「あ、ええ…休んでいらっしゃったから、侍女の方に渡してきたわ」

「そう」

「…アレット…私…」

「え?」

「…っ ううん…何でもない…」

「休憩場所として、別室を用意してもらっている。そこで休んでいこう」

 伯父が私たちに声を掛けた。

「そうしましょう、セリル」

「ええ……」

 後々考えたら、この時のセリルの様子に違和感を覚えた。
 けれど、葬儀を終えたばかりの私は気が付かなかった。


 ◇


 その後、当然挙式は1年延期となった。
 
 そして爵位と領地を引き継ぎ当主となった私は、父を亡くして悲しむ間もなく、忙しい日々を送っていた。

 領地に関してはシェルダンに手伝ってもらう事も考えたけれど、まだ結婚前で侯爵家の事に関わらせるのは躊躇ためらわれた。

 コンコンコン

「お嬢様、お夕食の準備が調ととのいました」
 侍女が夕食の時間を知らせに来た。

「ありがとう、今行くわ」

 食堂ダイニングルームに入ると、母はまだ来ていない。
 父が亡くなってから忙しくて、ずっと母と食事をする時間がなかったわ。
 
「お母様は?」

「あ…その…観劇へお出かけになって…」
 侍女が言いにくそうに答えた。

「観劇ですって!?」

 お父様が亡くなってまだ2週間足らず。
 それに今は服喪期間ふくもきかんで、一年間は社交の場への出席は控えるべきなのに!

 その時、馬車が止まる金属音が聞こえた。
 お母様が帰宅したようだ。
 私は慌ててエントランスへと向かった。

「ああ、楽しかったわ~っ」
 お母様は頬を高揚させて、紫色の華やかなドレスを身にまとい、嬉しそうな表情でエントランスに入って来た。
  
「お母様っ 今は服務期間ふくもきかんですよ! 社交の場へ出かける事は控えるのが通例ですっ それに出かける場合は黒いドレスに黒いベールを着用しなければならないのに…っ」
 私はまくし立てるように母に言いつのった。

「全く…帰る早々! せっかく楽しい気分だったのに、あなたのせいで台無しよ! 本当にいちいちかんさわる子ね!」
 忌々いまいまし気に口角を上げ、私を睨みつける母。 

「お、お母様っ 私はただ、お父様が亡くなってまだ日が…っ」

「これから食事は自分の部屋で摂るわっ あの子と一緒では美味しい料理もまずくなるから!」

「か、かしこまりました」
 母は執事に指示すると、不機嫌な顔で足早に二階の自室へと向かった。

 私と母のやりとりを見ていた執事が、とまどっている空気を感じた。

「…私も部屋へもどるわ」

「お、お食事は…っ」
 側にいた侍女が、遠慮がちに伺いを立てる。

「ごめんなさい、いらないわ」
 私も部屋に戻り、ソファに身を置く。
 溜息と共に気持ちが沈む。

 …私の言い方が悪かったわ。
 もっと言いようがあったのに。

 お母様はお父様が亡くなったばかりで、寂しさを紛らわせるためにお出かけされていたのでしょう…
 あんなに仲が良かったんですもの。

「明日謝ろう…服喪期間ふくもきかんについては、きちんとお話すれば分かって下さるわ…きっと…」

 話せば分かってもらえる。
 その考えが甘かった事に翌日気づかされる。


 次の日母の部屋へ向かうと、侍女に止められた。

「も、申し訳ありません…っ あの…お嬢様がきても部屋へ通さないようにおおせつかっておりまして…その…」

 侍女が恐縮しながら、母の意向を伝えた。

「……そう…わかったわ」

 昨日の今日だ、無理もないわ。
 しばらく時間を置いて、改めよう。
 母の気持ちが落ち着けば、話を聞いて頂ける…そう思った。

 けれど、母は意図的に私を避けるようになった。

 元々嫌われていた自覚はあったけれど、こうもあからさまに避けられる事はなかったのに…
 窓から外を眺めていると、母が明るい服装で馬車に乗り込み、今日も出かけていく姿が目に入った。

「……っ」

 知らず知らずの内に、涙が零れる。

 父が亡くなり、相続や家の事で忙殺され、自分の時間がなかなか持てなかった。
 全ての事を一人で背負い込むことに、日々負担と責任は大きくなるばかり。

 葬儀以降、シェルダンやセリルと会う時間さえ取れない。
 母との関係は悪化する一方…

 孤独が波のように激しく心を覆う。
 暗闇の中、たった一人取り残されたようだ…

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