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第5話 朝食時の出来事
あの後、タラはお湯を持ってきた。
さぞかし腹の立つ気持ちを抱えているだろう。
この状態のタラに身支度をしてもらったら、本当に髪の毛がなくなりそうだから自分で整えた。
そもそも、今までも自分で全てしてきたし。
それに、お母様と同じピンクブラウンの髪。大事にしたい…
私はそっと自分の髪を撫でた。
食卓では、朝から煩わしい事を言い出した義父。
「早く跡継ぎを作るんだ。女はダメだ! 必ず男を産むんだぞ!」
「…」
私は無言で両端の口元を上げ、軽くうなずいた。
「結婚してまだ一週間も経っていないんですよ。彼女に精神的な負担を与えるはやめて下さい」
モートン様が義父の言葉に言い返した。
私を庇って下さった…?
「おまえは口答えをする気か!」
「あなたっ 朝から大きな声を上げるのはやめて下さいっ もう食事をしましょうっ」
「…ふんっ!」
義父は、忌々しそうに食べ物を口にした。
朝から元気な方ね。
それにしてもモートン様って、ご両親とあまり仲がよろしくないような…
お義母様とはほとんど会話をしないし。
私は幼い頃から母と二人だけの暮らしだったからよく分からないけれど、こういうものなのかしら。
やはり娘と息子とは違うものなのね。
今はそれより食事。
パンや飲み物は大丈夫だったけれど、問題はこのそら豆が入ったスープ。
いかにも細工しやすそうだものね。
朝、義母に注意されていたから…どうかしら。うーん。
チラリとモートン様の方を見て。
「あの…申し訳ございません。言い忘れていたのですが、私豆にアレルギーを持っておりまして。残念ですが、こちらのスープが食べられないのです。けど、せっかく用意して下さって残すのも申し訳ないですから、モートン様、召し上がりませんか?」
一瞬戸惑ったモートン様だったが、私の目くばせに気づいた。
「…ああ、頂こう」
私から皿を受け取ろうと手を差し出した。
察しの良い方で助かるわ。
「あ、あのっ!」
そこで慌てた様子で声を上げたのがタラ。
「…何だ?」
モートン様が怪訝そうにタラに問う。
「あ、あのそれは…奥様…のでございますので…」
「けど、アレルギーがあるというものを無理矢理食べさせるわけにもいくまい」
「は、はい。ですのでそのまま残して下さって構いません…」
「けれどせっかく作って下さったのに、残すなんて料理長に悪いわ」
やっぱり何か入れていたのね、タラ。
今朝の事があったのに懲りない人。
「い、いえ、そんな事ありませんっ」
「いいから。僕が食べたいと言っているんだ」
「で、でしたら新しいモノをお持ちします」
「いや、リサーリアの分があるのだから、わざわざ用意する必要はない。それともこのスープを飲んで何か問題でもあるのか?」
あまりに食い下がるタラにモートン様も何かを感じたらしい。
「い、いいえ! そんな事は決して…その…」
モートン様に追及されてさらにしどろもどろになるタラ。
「…タラ…あなたまさか…」
義母もさすがに気がついたらしい。
「お、大奥様。ち、違…っ」
「あっ!」
カッシャーン
私はモートン様に渡すふりをして、スープが入った皿を床に落とした。
(は~っ もったない! けど、今回はしかたないわね。モートン様に飲ませる訳にはいかないから)
「ああっ ごめんなさい! せっかくのスープをっ タラ、あなたが…片付けて下さる?」
「…はい。奥様」
タラは這いつくばって、床に飛び散ったスープと割れた皿を片付けていた。
片付けはメイドの仕事だけど、モートン様もお義母様も何も言わないからいいわよね。
お義父様は…こちらには全く興味がない様子。ひたすら食べ物を口に入れている。
タラ…あなた今、ホッとしたかしら?
それとも屈辱を感じているのかしら?
ねぇ、タラ。
私は伯爵令嬢という身分は持っていたけれど、令嬢として過ごした時間は男爵令嬢のあなたより遥かに少ないのよ。
凍える冬の中、薪もなく、寒さに震えながら母と抱き合って過ごした事はある?
子供の頃から、水を汲みに何度も井戸と家の往復をした事がある?
貰える物は腐った物や干からびた野菜だけ。
けど、空腹に耐えきれず食べるしかなかった経験、したことないでしょ?
令嬢としてぬくぬくと生きてきたあなたの嫌がらせなんて、正直嫌がらせにもならないわ。
床に這いつくばって片付けているタラを見下ろし、私は少し胸がすく思いがした。
それよりも跡継ぎ…ね。
結婚して5日になるけれど、実はまだ『夫婦』になっていないと義父が知ったらどうなるかしら…
私はまたチラリとモートン様を見た。
何事もなかったかのように、食事を続けていた。
さぞかし腹の立つ気持ちを抱えているだろう。
この状態のタラに身支度をしてもらったら、本当に髪の毛がなくなりそうだから自分で整えた。
そもそも、今までも自分で全てしてきたし。
それに、お母様と同じピンクブラウンの髪。大事にしたい…
私はそっと自分の髪を撫でた。
食卓では、朝から煩わしい事を言い出した義父。
「早く跡継ぎを作るんだ。女はダメだ! 必ず男を産むんだぞ!」
「…」
私は無言で両端の口元を上げ、軽くうなずいた。
「結婚してまだ一週間も経っていないんですよ。彼女に精神的な負担を与えるはやめて下さい」
モートン様が義父の言葉に言い返した。
私を庇って下さった…?
「おまえは口答えをする気か!」
「あなたっ 朝から大きな声を上げるのはやめて下さいっ もう食事をしましょうっ」
「…ふんっ!」
義父は、忌々しそうに食べ物を口にした。
朝から元気な方ね。
それにしてもモートン様って、ご両親とあまり仲がよろしくないような…
お義母様とはほとんど会話をしないし。
私は幼い頃から母と二人だけの暮らしだったからよく分からないけれど、こういうものなのかしら。
やはり娘と息子とは違うものなのね。
今はそれより食事。
パンや飲み物は大丈夫だったけれど、問題はこのそら豆が入ったスープ。
いかにも細工しやすそうだものね。
朝、義母に注意されていたから…どうかしら。うーん。
チラリとモートン様の方を見て。
「あの…申し訳ございません。言い忘れていたのですが、私豆にアレルギーを持っておりまして。残念ですが、こちらのスープが食べられないのです。けど、せっかく用意して下さって残すのも申し訳ないですから、モートン様、召し上がりませんか?」
一瞬戸惑ったモートン様だったが、私の目くばせに気づいた。
「…ああ、頂こう」
私から皿を受け取ろうと手を差し出した。
察しの良い方で助かるわ。
「あ、あのっ!」
そこで慌てた様子で声を上げたのがタラ。
「…何だ?」
モートン様が怪訝そうにタラに問う。
「あ、あのそれは…奥様…のでございますので…」
「けど、アレルギーがあるというものを無理矢理食べさせるわけにもいくまい」
「は、はい。ですのでそのまま残して下さって構いません…」
「けれどせっかく作って下さったのに、残すなんて料理長に悪いわ」
やっぱり何か入れていたのね、タラ。
今朝の事があったのに懲りない人。
「い、いえ、そんな事ありませんっ」
「いいから。僕が食べたいと言っているんだ」
「で、でしたら新しいモノをお持ちします」
「いや、リサーリアの分があるのだから、わざわざ用意する必要はない。それともこのスープを飲んで何か問題でもあるのか?」
あまりに食い下がるタラにモートン様も何かを感じたらしい。
「い、いいえ! そんな事は決して…その…」
モートン様に追及されてさらにしどろもどろになるタラ。
「…タラ…あなたまさか…」
義母もさすがに気がついたらしい。
「お、大奥様。ち、違…っ」
「あっ!」
カッシャーン
私はモートン様に渡すふりをして、スープが入った皿を床に落とした。
(は~っ もったない! けど、今回はしかたないわね。モートン様に飲ませる訳にはいかないから)
「ああっ ごめんなさい! せっかくのスープをっ タラ、あなたが…片付けて下さる?」
「…はい。奥様」
タラは這いつくばって、床に飛び散ったスープと割れた皿を片付けていた。
片付けはメイドの仕事だけど、モートン様もお義母様も何も言わないからいいわよね。
お義父様は…こちらには全く興味がない様子。ひたすら食べ物を口に入れている。
タラ…あなた今、ホッとしたかしら?
それとも屈辱を感じているのかしら?
ねぇ、タラ。
私は伯爵令嬢という身分は持っていたけれど、令嬢として過ごした時間は男爵令嬢のあなたより遥かに少ないのよ。
凍える冬の中、薪もなく、寒さに震えながら母と抱き合って過ごした事はある?
子供の頃から、水を汲みに何度も井戸と家の往復をした事がある?
貰える物は腐った物や干からびた野菜だけ。
けど、空腹に耐えきれず食べるしかなかった経験、したことないでしょ?
令嬢としてぬくぬくと生きてきたあなたの嫌がらせなんて、正直嫌がらせにもならないわ。
床に這いつくばって片付けているタラを見下ろし、私は少し胸がすく思いがした。
それよりも跡継ぎ…ね。
結婚して5日になるけれど、実はまだ『夫婦』になっていないと義父が知ったらどうなるかしら…
私はまたチラリとモートン様を見た。
何事もなかったかのように、食事を続けていた。
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