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サクラの色は何色?
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僕が桜を綺麗だと言うと君はむくれて拗ねた。その頬を桜色に染めて優しさのこもった瞳で睨む。
「何で怒ってるの?」
「別に」
君は自分の目で桜を見たことが無いと言っていたから、こうして連れて来たのにそんな顔をするとは思っていなかった。
半分ほど散った桜並木。街路はさながら薄紅色のカーペットを敷いているよう。ふわふわと柔らかな色は飛び込めば包み込んでくれそうな優しさがある。散ってもなお咲き続ける花。僕と君とを乗せて咲く花。
「僕、昔からサクラが好きなんだ。今は昔以上に好き」
「そう。どっちのサクラのこと?」
「昔からってのは花の桜だけど、今一番好きなのは君のことだよ」
「そっ。ならよし!」
ぱっと笑顔を取り戻して僕の手を取るサクラ。花にさえ嫉妬する君はとても可愛らしくて、花さえ嫉妬するほど可憐で、僕は照れ隠しするように強くその手を握り返した。
「ねえ。桜ってどんな色?」
「桜色だよ……なんて言ったら君は怒るのかな?」
「怒らないけど怒るよ」
「どっちだよ」
他愛ないことで笑い合える関係は心地良くていつまでも続いてくれることを願ってしまう。怒った顔はするけれど怒りはしないのだろう。君は優しいから。どんなに激しく飛び込んでも包み込んでくれるくらい優しいから。
握り返した手を離して君を押して歩く。二人の間に流れる時間のようにゆっくりと舞い落ちる花びら。風なんて吹いていないのに落ちゆく花びらは風を感じさせてくれる。そこに確かにある空気を撫ぜていた。
君は僕に押されてゆっくり進む。それも僕たちの間に流れる時間と同じくらい遅くゆっくりと。振り返って微笑む君は幸せそうで、つられて僕も笑顔になる。
「幸せだね」
「うん! すっごい幸せだよ! 優くんはどのくらい幸せ?」
「うーん。色で例えるなら桜色かな?」
「もー。本当に怒るよ?」
怒ったような顔で怒らずに頬を膨らませる君。
「ごめんごめん」
僕は君を押す手を止めて頭をくしゃくしゃに撫でた。満足した君は桜を見上げる。
「何でみんな桜が好きなのかな?」
「まあ、この曖昧な感じの色が日本人に好まれるのかな? 分からないけど」
「そうやって曖昧な言い方する優くんのこと、私好きよ? それとおんなじ感じかな?」
「君も照れ臭いことを臆面もなく口にするようになったね」
「えへへ。優くんのおかげだよ」
「まあ、ありがとうって言っておこうかな」
「ありがとうは私の方だよ。毎日毎日会いに来てくれたから私はこうして笑っていられるんだし。素直に何でも話せるようになったし」
サクラという名の君は昔から花を見るのが好きだったから、僕はよく一輪の花を持って君の部屋を訪ねていた。小さい頃から植物辞典を食い入るように眺めていたり、庭に咲いていた花を摘んでいたり。そんな中学生の頃を思い出して僕はまた優しい気持ちになれる。
花の名や花言葉に詳しい君は、僕が持ってくる花について色々教えてくれていたね。
「桜ってバラ科の植物だけど、人を刺すような棘は無いのよね」
桜の木の幹に視線を向けながら君はまた僕の知らない知識を教えてくれる。
「薔薇の花言葉って愛を唄うものが多いけど、桜の花言葉ってそういうのが無いの」
「そうなんだ。どんな花言葉があるの?」
「優雅とか高貴とか美しさを表現する花言葉とか」
「君にぴったりの花言葉だね。名前に負けない美しさだよ」
「他にもあるの」
僕はてっきり照れ笑いと共に耳を赤くして視線を落とすと思って君の後ろ姿を見下ろしていたけど、思っていたのとは違って僕の顔を真っ直ぐに見つめる瞳。後ろから押していた僕は足を止める。
「フランスでは桜は別れをイメージさせるもので、花言葉はヌ・ムブリエ・パ」
「ヌ・ムブリエ・パ?」
聞き取りやすいようにゆっくりと発音されたフランス語。でも寂しげな表情が暗い意味であることを教えてくれる。
「どういう意味?」
毎日のように繰り返されてきた言葉。僕は君の豊かな知識に当てられて、日に日に教養が育まれていく。
「私を忘れないで」
そう言って君は一筋の涙を流した。
「忘れたりしないよ。それに、僕たちはこれからもずっと一緒でしょ?」
「うん。それはいいな。そうだといいな」
落ちゆく桜の花びらと同じようにゆっくりと頬に線を引く涙。また時間をゆっくりにしているよう。せっかくならこのまま時間を止めてくれたらいいと思うのに。
「桜ってフランスではどうか知らないけど、日本では出会いと繰り返しの象徴だよね? 僕は君に毎日会いに行くし、こんな何気ない幸せな毎日を年を取っておじいちゃんになるまで繰り返せたらいいと思うよ」
「夢みたいだね。想像するだけで幸せだな。優くんにそう言ってもらえるだけで私は恵まれてるな。でも……」
君は手を伸ばして桜の花びらを拾うと空にかざした。桜の花びらを光にかざしても向こう側は見えないだろうに。花びらの先を見ることはできないだろうに。でも、本当は顔を上げて涙を流さないようにしようとしているのはバレバレだ。その口実に花びらを拾ったんだよね?
「覚悟が鈍っちゃう。駄目だな私」
「君は駄目なんかじゃないよ」
僕はそれ以上何も言葉が出なかった。
「ねえ、桜ってどんな色?」
桜色……なんてもう言えなかった。
「赤よりも白に近いかな。純真さの中に隠すように情熱を混ぜて溶かしたような桃色。ふわふわと柔らかくて優しい色だよ。乱暴になってしまった気持ちも包み込んで穏やかにしてくれるみたいで。辛い時は桜を見に来たって理由で自己中心的に慰めに来てしまいたくなるようなそんな色」
「でも、桜は見に来てくれるってだけで生きてて良かったとか思ってるんだろうね。私には分かるよ」
いつの間にか泣いているのは僕の方になっていて、君は頑張って手を伸ばして僕の頭を撫でる。バランスを崩さないように僕は君を支えているけど、僕の心のバランスはいつも君が支えてくれていた。
「よしよし。泣いていいんだよ」
言葉にならない泣き声を風に凪ぐ桜の囀りが代弁してくれる。
「私の目に映らない色を優くんが見て、伝えてくれて……私はここに来てよかったと思うよ」
君の変わらない包み込むような優しさに、僕は遂に膝を崩してしゃがみ込んでしまった。ようやく君より低くなった視点。縋る様に君の乗る車椅子を掴む。
複数個所に転移してしまった脳腫瘍。脚に麻痺が出てしまったのは中学を卒業してすぐのころ。幼い頃から経過観察と投薬を続けていたが、それにも限界が来た瞬間だった。
それから五年。告げられた余命はとうに過ぎている。どんどん体に異常が増えていく君は毎日不安だっただろう。毎日病室に通って、毎日昨日の君と変わらないよと声をかけ続けて――。でも君は気付いていたんだろう。
遂に色が見えなくなった君は言った。モノクロでもいい。目が見えるうちに桜が見たいと。
自分の名前の由来になった花をこの目で見たいと――
「本当はね。私が桜を見たかったんじゃないの。優くんに桜を見てほしかったの。私と一緒に桜を見てほしかったの」
「どういう意味?」
どういう意味かなんて分かってた。ヌ・ムブリエ・パ――
「私を忘れないでほしかったから」
「忘れるもんか」
「でも、頭の片隅程度にして欲しいの。優くんは素敵な人だから、私なんかに縛られないで他の誰かと幸せにならないといけないの。まだ私たち二十歳だし。私との思い出は踏み台にして――ほら、この散ってしまった桜の花びらを踏んで歩くみたいに」
「それは無理だよ。僕には君しかいない。君のことがずっと好きだよ」
「私とは違う誰かと――なんて言っておきながら、優くんに好きって言われて嬉しいなんて、私おかしいね。覚えていてくれるなら私のことを嫌いになってくれてもいいから。私、どうしたらいい?」
君はなんでも知っていて、何でも教えてくれて――でも嫌いになる方法だけは教えてくれなかったんだよ。好きになる方法なら数えきれないほど教えてくれたのに。
「じゃあ、ずっと好きでいさせてください。もし万が一君の方が先に死んでしまってもずっと好きでいさせてください。そしたら、僕がおじいちゃんになって一人で死んでいくとき、君のせいで恋人も結婚もできなかったって言って嫌いになるから。それで死んでも忘れないから」
「ごめん。ごめんなさい――。でも――」
車椅子から降りて這うように僕の傍に来た君は力いっぱい抱きしめてくれた。力いっぱいなのは分かっても苦しくない。優しく弱弱しい力。
「ありがとう。嬉しい」
***
あれから五十年の月日がたった。僕はあの日の桜並木の下を歩きながら思い出していた。
何一つ色褪せない思い出はモノクロでもなくカラフルに脳裏に焼き付いて離れない。優しいサクラ色――。散ってもなお咲き続ける花。僕と君とを思い出を乗せて咲く花。僕と君とを繋ぐ薄紅色のカーペット。今なら桜の色ももっと簡単に説明できそうだよ。
桜の色は君色だった。
僕も長年の無理な仕事がたたってお迎えがそろそろなのだろうと分かる。君も同じように自分の最後を悟ったからここに来たのかな? と今なら分かる気がするよ。
あの時約束した君を忘れないという言葉。花言葉。今までは守り続けられたよ。ずっと好きでい続けられたよ。君を好きでいた人生はとても幸せだったよ。何の後悔もない。
君は死んでも僕のことを覚えていてくれているかな? それとも天国で素敵な男性と過ごしているのかな? 散っては咲く桜は輪廻転生の象徴でもあるし、もう生まれ変わって子供でも作ってるかな?
でも、君が幸せなら僕はなんでも良いかな。
あの日と同じ桜並木だけど、植え替えられてあの時とは違うかもしれない。でも今日は――
「僕はここに来てよかったと思うよ」
でも一つ、あの時言われた言葉を実行できそうにない。
君を嫌いになれそうにはないよ。
僕はこのまま一人で死んだとしても、君のことが好きなままだ――
「何で怒ってるの?」
「別に」
君は自分の目で桜を見たことが無いと言っていたから、こうして連れて来たのにそんな顔をするとは思っていなかった。
半分ほど散った桜並木。街路はさながら薄紅色のカーペットを敷いているよう。ふわふわと柔らかな色は飛び込めば包み込んでくれそうな優しさがある。散ってもなお咲き続ける花。僕と君とを乗せて咲く花。
「僕、昔からサクラが好きなんだ。今は昔以上に好き」
「そう。どっちのサクラのこと?」
「昔からってのは花の桜だけど、今一番好きなのは君のことだよ」
「そっ。ならよし!」
ぱっと笑顔を取り戻して僕の手を取るサクラ。花にさえ嫉妬する君はとても可愛らしくて、花さえ嫉妬するほど可憐で、僕は照れ隠しするように強くその手を握り返した。
「ねえ。桜ってどんな色?」
「桜色だよ……なんて言ったら君は怒るのかな?」
「怒らないけど怒るよ」
「どっちだよ」
他愛ないことで笑い合える関係は心地良くていつまでも続いてくれることを願ってしまう。怒った顔はするけれど怒りはしないのだろう。君は優しいから。どんなに激しく飛び込んでも包み込んでくれるくらい優しいから。
握り返した手を離して君を押して歩く。二人の間に流れる時間のようにゆっくりと舞い落ちる花びら。風なんて吹いていないのに落ちゆく花びらは風を感じさせてくれる。そこに確かにある空気を撫ぜていた。
君は僕に押されてゆっくり進む。それも僕たちの間に流れる時間と同じくらい遅くゆっくりと。振り返って微笑む君は幸せそうで、つられて僕も笑顔になる。
「幸せだね」
「うん! すっごい幸せだよ! 優くんはどのくらい幸せ?」
「うーん。色で例えるなら桜色かな?」
「もー。本当に怒るよ?」
怒ったような顔で怒らずに頬を膨らませる君。
「ごめんごめん」
僕は君を押す手を止めて頭をくしゃくしゃに撫でた。満足した君は桜を見上げる。
「何でみんな桜が好きなのかな?」
「まあ、この曖昧な感じの色が日本人に好まれるのかな? 分からないけど」
「そうやって曖昧な言い方する優くんのこと、私好きよ? それとおんなじ感じかな?」
「君も照れ臭いことを臆面もなく口にするようになったね」
「えへへ。優くんのおかげだよ」
「まあ、ありがとうって言っておこうかな」
「ありがとうは私の方だよ。毎日毎日会いに来てくれたから私はこうして笑っていられるんだし。素直に何でも話せるようになったし」
サクラという名の君は昔から花を見るのが好きだったから、僕はよく一輪の花を持って君の部屋を訪ねていた。小さい頃から植物辞典を食い入るように眺めていたり、庭に咲いていた花を摘んでいたり。そんな中学生の頃を思い出して僕はまた優しい気持ちになれる。
花の名や花言葉に詳しい君は、僕が持ってくる花について色々教えてくれていたね。
「桜ってバラ科の植物だけど、人を刺すような棘は無いのよね」
桜の木の幹に視線を向けながら君はまた僕の知らない知識を教えてくれる。
「薔薇の花言葉って愛を唄うものが多いけど、桜の花言葉ってそういうのが無いの」
「そうなんだ。どんな花言葉があるの?」
「優雅とか高貴とか美しさを表現する花言葉とか」
「君にぴったりの花言葉だね。名前に負けない美しさだよ」
「他にもあるの」
僕はてっきり照れ笑いと共に耳を赤くして視線を落とすと思って君の後ろ姿を見下ろしていたけど、思っていたのとは違って僕の顔を真っ直ぐに見つめる瞳。後ろから押していた僕は足を止める。
「フランスでは桜は別れをイメージさせるもので、花言葉はヌ・ムブリエ・パ」
「ヌ・ムブリエ・パ?」
聞き取りやすいようにゆっくりと発音されたフランス語。でも寂しげな表情が暗い意味であることを教えてくれる。
「どういう意味?」
毎日のように繰り返されてきた言葉。僕は君の豊かな知識に当てられて、日に日に教養が育まれていく。
「私を忘れないで」
そう言って君は一筋の涙を流した。
「忘れたりしないよ。それに、僕たちはこれからもずっと一緒でしょ?」
「うん。それはいいな。そうだといいな」
落ちゆく桜の花びらと同じようにゆっくりと頬に線を引く涙。また時間をゆっくりにしているよう。せっかくならこのまま時間を止めてくれたらいいと思うのに。
「桜ってフランスではどうか知らないけど、日本では出会いと繰り返しの象徴だよね? 僕は君に毎日会いに行くし、こんな何気ない幸せな毎日を年を取っておじいちゃんになるまで繰り返せたらいいと思うよ」
「夢みたいだね。想像するだけで幸せだな。優くんにそう言ってもらえるだけで私は恵まれてるな。でも……」
君は手を伸ばして桜の花びらを拾うと空にかざした。桜の花びらを光にかざしても向こう側は見えないだろうに。花びらの先を見ることはできないだろうに。でも、本当は顔を上げて涙を流さないようにしようとしているのはバレバレだ。その口実に花びらを拾ったんだよね?
「覚悟が鈍っちゃう。駄目だな私」
「君は駄目なんかじゃないよ」
僕はそれ以上何も言葉が出なかった。
「ねえ、桜ってどんな色?」
桜色……なんてもう言えなかった。
「赤よりも白に近いかな。純真さの中に隠すように情熱を混ぜて溶かしたような桃色。ふわふわと柔らかくて優しい色だよ。乱暴になってしまった気持ちも包み込んで穏やかにしてくれるみたいで。辛い時は桜を見に来たって理由で自己中心的に慰めに来てしまいたくなるようなそんな色」
「でも、桜は見に来てくれるってだけで生きてて良かったとか思ってるんだろうね。私には分かるよ」
いつの間にか泣いているのは僕の方になっていて、君は頑張って手を伸ばして僕の頭を撫でる。バランスを崩さないように僕は君を支えているけど、僕の心のバランスはいつも君が支えてくれていた。
「よしよし。泣いていいんだよ」
言葉にならない泣き声を風に凪ぐ桜の囀りが代弁してくれる。
「私の目に映らない色を優くんが見て、伝えてくれて……私はここに来てよかったと思うよ」
君の変わらない包み込むような優しさに、僕は遂に膝を崩してしゃがみ込んでしまった。ようやく君より低くなった視点。縋る様に君の乗る車椅子を掴む。
複数個所に転移してしまった脳腫瘍。脚に麻痺が出てしまったのは中学を卒業してすぐのころ。幼い頃から経過観察と投薬を続けていたが、それにも限界が来た瞬間だった。
それから五年。告げられた余命はとうに過ぎている。どんどん体に異常が増えていく君は毎日不安だっただろう。毎日病室に通って、毎日昨日の君と変わらないよと声をかけ続けて――。でも君は気付いていたんだろう。
遂に色が見えなくなった君は言った。モノクロでもいい。目が見えるうちに桜が見たいと。
自分の名前の由来になった花をこの目で見たいと――
「本当はね。私が桜を見たかったんじゃないの。優くんに桜を見てほしかったの。私と一緒に桜を見てほしかったの」
「どういう意味?」
どういう意味かなんて分かってた。ヌ・ムブリエ・パ――
「私を忘れないでほしかったから」
「忘れるもんか」
「でも、頭の片隅程度にして欲しいの。優くんは素敵な人だから、私なんかに縛られないで他の誰かと幸せにならないといけないの。まだ私たち二十歳だし。私との思い出は踏み台にして――ほら、この散ってしまった桜の花びらを踏んで歩くみたいに」
「それは無理だよ。僕には君しかいない。君のことがずっと好きだよ」
「私とは違う誰かと――なんて言っておきながら、優くんに好きって言われて嬉しいなんて、私おかしいね。覚えていてくれるなら私のことを嫌いになってくれてもいいから。私、どうしたらいい?」
君はなんでも知っていて、何でも教えてくれて――でも嫌いになる方法だけは教えてくれなかったんだよ。好きになる方法なら数えきれないほど教えてくれたのに。
「じゃあ、ずっと好きでいさせてください。もし万が一君の方が先に死んでしまってもずっと好きでいさせてください。そしたら、僕がおじいちゃんになって一人で死んでいくとき、君のせいで恋人も結婚もできなかったって言って嫌いになるから。それで死んでも忘れないから」
「ごめん。ごめんなさい――。でも――」
車椅子から降りて這うように僕の傍に来た君は力いっぱい抱きしめてくれた。力いっぱいなのは分かっても苦しくない。優しく弱弱しい力。
「ありがとう。嬉しい」
***
あれから五十年の月日がたった。僕はあの日の桜並木の下を歩きながら思い出していた。
何一つ色褪せない思い出はモノクロでもなくカラフルに脳裏に焼き付いて離れない。優しいサクラ色――。散ってもなお咲き続ける花。僕と君とを思い出を乗せて咲く花。僕と君とを繋ぐ薄紅色のカーペット。今なら桜の色ももっと簡単に説明できそうだよ。
桜の色は君色だった。
僕も長年の無理な仕事がたたってお迎えがそろそろなのだろうと分かる。君も同じように自分の最後を悟ったからここに来たのかな? と今なら分かる気がするよ。
あの時約束した君を忘れないという言葉。花言葉。今までは守り続けられたよ。ずっと好きでい続けられたよ。君を好きでいた人生はとても幸せだったよ。何の後悔もない。
君は死んでも僕のことを覚えていてくれているかな? それとも天国で素敵な男性と過ごしているのかな? 散っては咲く桜は輪廻転生の象徴でもあるし、もう生まれ変わって子供でも作ってるかな?
でも、君が幸せなら僕はなんでも良いかな。
あの日と同じ桜並木だけど、植え替えられてあの時とは違うかもしれない。でも今日は――
「僕はここに来てよかったと思うよ」
でも一つ、あの時言われた言葉を実行できそうにない。
君を嫌いになれそうにはないよ。
僕はこのまま一人で死んだとしても、君のことが好きなままだ――
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