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自転車を漕ぐこと約十分。二人は目的のショッピングモールに到着して駐輪場から歩いていた。休日ということもあり、映画館だけでなくショッピングを目的とした人も多い。駐車場は満車状態が続き、警備員が忙しなく保安指示灯を振って交通整理をする。家族連れも多いため、そこかしこから子供の声も聞こえてくる。そんな喧騒の中、那由はエントランスの階段を器用に後ろ向きで上りながら宗祇に話を聞いていた。
「人も多いんだし、ちゃんと前向いて歩かないと危ないぞ」
「宗祇さんが見ててくれるけん大丈夫やろ?」
「そんなに信頼されるのも困ったもんだけどな……」
「守護霊冥利に尽きるって喜んでも良いんよ?」
「はあ……。那由、あと一段で最後だから」
「はいはーい。さっすが私の守護霊さん」
くるりと反転して階段を上り切った那由は眩しい笑顔でもう一度宗祇の方に振り返って停止する。宗祇も那由が足を止めたのに合わせて階段の途中で止まる。
「ところで今日観る映画ってどんなやつなん?」
「一応感動の青春ストーリーになるのかな。あんまり内容言うと面白くないし」
「もしかして宗祇さん観たことあるん?」
「あ、いや。昨日言ってたクラスの女の子たちが感想言ってたからさ。ポスターに書いてない内容も少しは知っちゃってるし」
「それでタイトルは?」
「どれだと思う?」
悪戯な笑みを浮かべた宗祇はそう言って手の平を映画館の壁面へと向ける。映画館の壁面には大量のポスターが張られており、那由はその中の一つなのだと察して端から一つずつ見て歩く。ロングセラーの映画から公開間もない作品まで多種多様な売り文句と共に華やかに張り出されている。那由は流し読みするように全てを見終わった後、中々タイトルを言わない宗祇に催促をした。
「分からん! 私の好きそうな映画っていまいち自分でも分からんし。それに青春ものとかいっぱいありすぎ。全米泣きすぎ」
「全米が泣き過ぎなのは俺も思う」
「で?」
宗祇は迷うことなく歩き始めると一枚のポスターの前に止まる。そして少し何かを考えるようにして目を瞑るとタイトルを口にした。
「『未来からの小説、過去からの恋』って映画だよ」
宗祇の言葉に那由は駆け寄ってきて興味深げにポスターを読む。そこには「感動作・時を超えた恋愛」と書かれており、それだけでどのような作品かが伺える。
「ふーん。なんかピンとこんね」
「そう言うとは思ったよ。でも絶対に観終わったらあと二回くらい観たいって思うくらい気に入るはずだから」
「なにそれ。それも少し先の未来が見えるってやつ?」
「ま、そんなとこ」
「騙されたと思って観てあげましょう」
そう言った那由は嬉しそうに自動ドアをくぐってカウンターにチケットを取りに向かう。電光掲示板に書かれたリストには受付時間間際の上映が表示されていた。
「高校生一枚と……あ、高校生一枚だけで」
ちらりと宗祇の顔を見て幽霊だったことを思い出した那由は大人一枚と注文しようとして訂正する。そんな那由の姿を見て宗祇は優しく微笑んでいた。
「高校生一枚ですね。お席はどちらをお取りいたしましょう?」
「えっと……」
人気作品なのか席はほとんど埋まっており、飛び飛びで一席だけ空いている状態ばかりだった。そんな中、後方の通路側に二席連なって空いてあるところを見つけた那由は迷わずその席を指さして注文をした。
「Nの六番でお願いします」
そうして映画館内に入ると、那由は自分の席に座って隣の座席を降ろすと荷物を挟んで固定した。
「これで宗祇さんも座れるやろ?」
「ありがと」
宗祇が隣に座ると、ちょうど上映前のCMが流れ始めた。那由はその瞬間から目をキラキラさせてスクリーンを見上げる。宗祇は横目で那由の顔を見ると、また満足気に微笑んでいたのだった。
「人も多いんだし、ちゃんと前向いて歩かないと危ないぞ」
「宗祇さんが見ててくれるけん大丈夫やろ?」
「そんなに信頼されるのも困ったもんだけどな……」
「守護霊冥利に尽きるって喜んでも良いんよ?」
「はあ……。那由、あと一段で最後だから」
「はいはーい。さっすが私の守護霊さん」
くるりと反転して階段を上り切った那由は眩しい笑顔でもう一度宗祇の方に振り返って停止する。宗祇も那由が足を止めたのに合わせて階段の途中で止まる。
「ところで今日観る映画ってどんなやつなん?」
「一応感動の青春ストーリーになるのかな。あんまり内容言うと面白くないし」
「もしかして宗祇さん観たことあるん?」
「あ、いや。昨日言ってたクラスの女の子たちが感想言ってたからさ。ポスターに書いてない内容も少しは知っちゃってるし」
「それでタイトルは?」
「どれだと思う?」
悪戯な笑みを浮かべた宗祇はそう言って手の平を映画館の壁面へと向ける。映画館の壁面には大量のポスターが張られており、那由はその中の一つなのだと察して端から一つずつ見て歩く。ロングセラーの映画から公開間もない作品まで多種多様な売り文句と共に華やかに張り出されている。那由は流し読みするように全てを見終わった後、中々タイトルを言わない宗祇に催促をした。
「分からん! 私の好きそうな映画っていまいち自分でも分からんし。それに青春ものとかいっぱいありすぎ。全米泣きすぎ」
「全米が泣き過ぎなのは俺も思う」
「で?」
宗祇は迷うことなく歩き始めると一枚のポスターの前に止まる。そして少し何かを考えるようにして目を瞑るとタイトルを口にした。
「『未来からの小説、過去からの恋』って映画だよ」
宗祇の言葉に那由は駆け寄ってきて興味深げにポスターを読む。そこには「感動作・時を超えた恋愛」と書かれており、それだけでどのような作品かが伺える。
「ふーん。なんかピンとこんね」
「そう言うとは思ったよ。でも絶対に観終わったらあと二回くらい観たいって思うくらい気に入るはずだから」
「なにそれ。それも少し先の未来が見えるってやつ?」
「ま、そんなとこ」
「騙されたと思って観てあげましょう」
そう言った那由は嬉しそうに自動ドアをくぐってカウンターにチケットを取りに向かう。電光掲示板に書かれたリストには受付時間間際の上映が表示されていた。
「高校生一枚と……あ、高校生一枚だけで」
ちらりと宗祇の顔を見て幽霊だったことを思い出した那由は大人一枚と注文しようとして訂正する。そんな那由の姿を見て宗祇は優しく微笑んでいた。
「高校生一枚ですね。お席はどちらをお取りいたしましょう?」
「えっと……」
人気作品なのか席はほとんど埋まっており、飛び飛びで一席だけ空いている状態ばかりだった。そんな中、後方の通路側に二席連なって空いてあるところを見つけた那由は迷わずその席を指さして注文をした。
「Nの六番でお願いします」
そうして映画館内に入ると、那由は自分の席に座って隣の座席を降ろすと荷物を挟んで固定した。
「これで宗祇さんも座れるやろ?」
「ありがと」
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