霊と恋する四十九日

色部耀

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 約二時間の上映が終わり、二人は映画館の外に出てきていた。宗祇の隣には涙の跡を付けながら興奮気味に感想を語る那由の姿。

「途中どうなるかって思ってたんやけど、ハッピーエンドで良かったね! 最後まで見てやっと繋がったとことか分かったとこもあったけん、もう一回観たらもっと面白いかも! やっぱあと二回は観たいなー。もう私の一番好きな映画になった! 帰ったらネットにレビュー書く!」

 携帯電話を取り出して映画情報サイトを開きながら那由は嬉しそうに言っていた。宗祇も那由と同様に映画を見たことに満足したのか、那由が言う感想にうんうんと何度も頷きながら耳を傾けている。そしてひと通り那由の感想を聞き終わると、少し腰を屈めて那由と同じ視線の高さに合わせると嬉しそうに笑った。

「それは良かった。もし劇場で観てなかったら後悔してたかもしれないね」

「うん! 絶対後悔してた! 私後悔だけはしないって決めてるからおススメしてくれてありがと」

「後悔せずに生きるってずっと言ってたもんね」

「ん? 宗祇さんにそんなこと言ったっけ?」

「守護霊舐めるなよ」

 にこっと笑って親指を立てた宗祇。那由は宗祇のその楽しそうな笑顔を見て釣られるようにして笑った。

「さすが私のストーカー」

「おい那由。その言い方酷くないか?」

「きゃははは」

 那由が大きな声を上げて笑っていると、横を通り過ぎた一組の男女が驚いたように振り返る。そこでちょうど那由とその二人の目が合った。宗祇の姿は那由にしか見えておらず、はたから見ると那由は一人で笑っているおかしな人物でしかない。だからかすれ違った二人は心配そうに声をかけたのだった。声をかけた二人は眉をひそめ、声をかけられた那由はバツの悪そうな表情で固まっている。

「な、那由? どしたん? 大丈夫?」

 そうやって心配そうに声をかけたのは那由の友人である沙知だった。その隣には何と声をかけたら良いのか悩むようにして立つ勝也の姿。一方の那由は大声で独り言を言っていたと思われたと感じているのか、恥ずかしげに目を泳がせて言い訳を考えていた。身振り手振りであの、あの、と言いながらパニックを起こしている。

「那由、さっきまで電話で話してたってことにしといたら? ほら、ちょうど手に携帯持ってるし」

 見かねた宗祇が助け舟を出す。はっと今気付いたかのように携帯電話を二人に見せると、那由は慌てて言った。

「電話! 電話してたの!」

 しかし沙知と勝也は全く信じていないのか、二人そろって那由の肩に手を乗せて言った。

「「辛いことがあるならいつでも聞くけん」」

「ち、違うって!」

 二人の腕も振り払う那由とその様子を見て笑う三人。

「冗談は置いといて、那由は何しよん? ひとりで映画?」

 話を切り替えてそう言ったのは沙知だった。あまり深く追求するのも可哀想だとでも思ったのだろうか。その顔はいつもの人懐っこい笑顔だった。

「あ! そうそう! 今観たとこなんやけど、これ! この映画むっちゃ良かったけん二人も観て!」

 ポスターを指さして飛び跳ねる那由に釣られて沙知が近付いて映画の内容を確認する。

「あれ? 那由ってこういうの観る人やっけ? ちょい意外」

「私も意外やったけどおススメされて観たらむっちゃハマったんよ! やけん二人も……。そういや二人はなんで一緒におるん?」

 唐突に湧いてきた疑問を口に出す那由。それに対して二人は何かを誤魔化すかのようにアイコンタクトを取っていた。そして、勝也はゆっくりと那由に答える。

「今週から中間やけん勉強教えてもらうつもりやったんよ。午前中は二人とも部活やったけん、今合流したとこ」

「そうそう。そしたらなんか一人で笑う那由っぽいのがおったけん捕まえたんよ」

「ひとをUMAみたいな言い方せんとって」

「未確認生命体おっぱい女ね」

 両手をワキワキと動かして沙知は口元を緩ませた。

「合法ロリが何を妬んでるんだかねー」

「まだまだ違法なJKですー」

 中身のない冗談や下ネタを言い合って笑う二人を見ていた勝也は気まずそうに視線を逸らしながらも話に割って入った。

「はあ……お前らはホントに……。まあいい、せっかくやし那由も一緒に勉強するか? テストヤバいやろ?」

「私は赤点さえ取らんかったら良いけん余裕よ」

「那由……勉強しよっか」

 ぐっと親指を立てる那由に沙知は遠い目を向けて諭すように言う。しかし那由はちらりと宗祇の方を見てから答えに詰まった。宗祇はそんな那由の目の前にまで移動すると、腕を組んで冷たい微笑みを湛えたまま言う。

「那由。勉強しなさい」

「……はい」

 そうして那由は二人に連行される形でカフェに向かったのだった。
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