霊と恋する四十九日

色部耀

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 ショッピングモール内にあるチェーン店のカフェでは近所に住んでいる高校生や、少し遠くから遊びに来ている大学生といった若者たちで席が埋め尽くされていた。しかし運よく席が空いたため、三人は急いで商品を注文して席へと移動をする。那由と沙知は二人そろって生クリームたっぷりの新作を、勝也はアイスコーヒーを買っていた。昼食をとっていなかった那由だけはサンドイッチを注文していた。

「かっちゃん奢ってくれてありがとね」

「私の分もありがとー。サンドイッチまで」

「まあ、授業料やな。那由は赤点取ったら倍にして返せよ」

「余裕!」

 三人分の支払いをした勝也はそう言って三つのドリンクが乗ったトレイをテーブルの上に置いた。

「よし、じゃあ二人は並んで座ってー」

 勉強を教える側である沙知は那由と勝也が隣り合わせで座るように指示する。二人は素直に沙知の言うことを聞くと沙知の反対側に座って勉強道具を取り出した。とは言っても、取り出したのは勝也だけ。勝也は参考書と問題集をテーブルの真ん中に置いてノートを自分と那由の目の前に一つずつ置いた。

「え? このノート使っていいん?」

「今日はどうせ使わんけんやるよ」

「なにからなにまでありがとうございます」

 那由は神様に祈るように手を合わせて感謝の言葉を述べる。いいってことよとだけ答える勝也だったが、しばらくの間那由はお祈りを続けていた。そんな二人を見ていて痺れを切らしたのか、沙知が溜息をつきながら勝也に質問をする。

「で、那由は全部教えんといかんとして。かっちゃんはどこから教えれば良いん?」

「沙知ひどーい」

「本当のことやろ?」

 沙知にはっきりと言われて那由はぐうの音も出ずに肩を落とす。そして隣で宗祇が追い打ちをかけるかのように本当だなと言うと、那由は一瞬力強く睨み付けた。宗祇は悪いことは言ってないぞとばかりに涼しい顔で那由のことを見返すと、那由も小さく肩を落とす。

「えーっと。とりあえずこの辺がよく分からん」

「どれどれ」

 勝也の分からないところから重点的に二人に教えていく沙知。効率よく話をしているあたりが沙知だけ頭一つ抜けて勉強ができることの証明になっていた。それから三人は夕方の五時まで四時間ほど勉強をしていた。

「もー無理! 頭限界!」

「よく頑張ったね那由」

 沙知はテーブルに突っ伏した那由の頭を撫でながらそう言って、大きく背伸びをした。

「じゃ、今日はこの辺でお開きにしよっか」

「ありがと沙知。助かった。……また後で連絡する」

「はいよ」

 那由は二人のやり取りを見ながら何かを察した顔をして立ち上がった。

「私ちょっと急いで帰らんといかんけん、先行くね」

「え? あ、うん。また学校で」

 意表を突かれた沙知は素っ頓狂な顔でそう答える。

「ごめん。またね! ばいばーい」

「じゃあなー」

 手を振って走り出す那由と、それに手を振り返す二人。宗祇は不思議そうに那由の後ろをついて走っていた。人混みをかき分けて走り去った那由はすぐに沙知と勝也の視界から消える。

「何か急ぐ用事なんてあったっけ?」

 店を出て駐輪場の近くまで来たところで宗祇は那由に問いかけた。宗祇が知っている限り、那由に急ぐ用事はなかったはず。

「どう見てもあれ、私お邪魔虫やったやん! もっと早よ気付いてあげんといかんかったのに」

「お邪魔虫?」

「あの二人、付き合ってるか良い関係かそんな感じやったやん」

「俺にはそうは見えなかったけどなー」

「それは宗祇さんが鈍感やけんやろ? でも、実際のところどうなんかは今度聞いてみんとね」

「鈍感……ねえ……」

 何かに心当たりがある様子で宗祇はニヤニヤしていた。そんな宗祇の言葉も気にせずに那由は自転車の鍵を開けてスタンドを上げる。

「とりあえず帰ろっか。ちょうど午後部活しよった人らも帰り始めてるころやし」

「午後の部活……。そうだ那由。ちょっと寄り道してから帰らない? 三十分くらい」

 唐突に言い出した宗祇の言葉に那由は興味を示した。

「なに?」

「今の時間に普通に帰ると部活帰りの生徒とぶつかって怪我をする未来が見えてね。だから人通りが減るまでの時間つぶし」

「なんか守護霊みたいなこと言うやん」

「守護霊ですから」

「いいよ。でもどこ行くん?」

 どこに行くかと問われて、宗祇は少し考えるようにして手を口元に持って行った。そして思い出したように口を開く。

「すぐ近くにちょっとおっきい園芸店があるの知ってる? ちょっとしたウィンドウショッピングしに行こう」

「園芸店?」

「花とか植物とか売ってるお店」

「へー、面白そう。行く行く! 案内よろしく!」

 そう言って那由は自転車にまたがると荷台を手で叩いた。

「ほら、乗った乗った」

「来るときの緊張はどこに行ったんだろうね」

「慣れればこんなもんよ」

「車の運転の時も……」

「ん?」

 何かを言いかけてやめた宗祇に那由は首を傾げた。

「いや、車の運転の時も同じようなこと言うんだろうなって」

「そうかもしれんね」
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