霊と恋する四十九日

色部耀

文字の大きさ
14 / 43

13

しおりを挟む
 ショッピングモール内にあるチェーン店のカフェでは近所に住んでいる高校生や、少し遠くから遊びに来ている大学生といった若者たちで席が埋め尽くされていた。しかし運よく席が空いたため、三人は急いで商品を注文して席へと移動をする。那由と沙知は二人そろって生クリームたっぷりの新作を、勝也はアイスコーヒーを買っていた。昼食をとっていなかった那由だけはサンドイッチを注文していた。

「かっちゃん奢ってくれてありがとね」

「私の分もありがとー。サンドイッチまで」

「まあ、授業料やな。那由は赤点取ったら倍にして返せよ」

「余裕!」

 三人分の支払いをした勝也はそう言って三つのドリンクが乗ったトレイをテーブルの上に置いた。

「よし、じゃあ二人は並んで座ってー」

 勉強を教える側である沙知は那由と勝也が隣り合わせで座るように指示する。二人は素直に沙知の言うことを聞くと沙知の反対側に座って勉強道具を取り出した。とは言っても、取り出したのは勝也だけ。勝也は参考書と問題集をテーブルの真ん中に置いてノートを自分と那由の目の前に一つずつ置いた。

「え? このノート使っていいん?」

「今日はどうせ使わんけんやるよ」

「なにからなにまでありがとうございます」

 那由は神様に祈るように手を合わせて感謝の言葉を述べる。いいってことよとだけ答える勝也だったが、しばらくの間那由はお祈りを続けていた。そんな二人を見ていて痺れを切らしたのか、沙知が溜息をつきながら勝也に質問をする。

「で、那由は全部教えんといかんとして。かっちゃんはどこから教えれば良いん?」

「沙知ひどーい」

「本当のことやろ?」

 沙知にはっきりと言われて那由はぐうの音も出ずに肩を落とす。そして隣で宗祇が追い打ちをかけるかのように本当だなと言うと、那由は一瞬力強く睨み付けた。宗祇は悪いことは言ってないぞとばかりに涼しい顔で那由のことを見返すと、那由も小さく肩を落とす。

「えーっと。とりあえずこの辺がよく分からん」

「どれどれ」

 勝也の分からないところから重点的に二人に教えていく沙知。効率よく話をしているあたりが沙知だけ頭一つ抜けて勉強ができることの証明になっていた。それから三人は夕方の五時まで四時間ほど勉強をしていた。

「もー無理! 頭限界!」

「よく頑張ったね那由」

 沙知はテーブルに突っ伏した那由の頭を撫でながらそう言って、大きく背伸びをした。

「じゃ、今日はこの辺でお開きにしよっか」

「ありがと沙知。助かった。……また後で連絡する」

「はいよ」

 那由は二人のやり取りを見ながら何かを察した顔をして立ち上がった。

「私ちょっと急いで帰らんといかんけん、先行くね」

「え? あ、うん。また学校で」

 意表を突かれた沙知は素っ頓狂な顔でそう答える。

「ごめん。またね! ばいばーい」

「じゃあなー」

 手を振って走り出す那由と、それに手を振り返す二人。宗祇は不思議そうに那由の後ろをついて走っていた。人混みをかき分けて走り去った那由はすぐに沙知と勝也の視界から消える。

「何か急ぐ用事なんてあったっけ?」

 店を出て駐輪場の近くまで来たところで宗祇は那由に問いかけた。宗祇が知っている限り、那由に急ぐ用事はなかったはず。

「どう見てもあれ、私お邪魔虫やったやん! もっと早よ気付いてあげんといかんかったのに」

「お邪魔虫?」

「あの二人、付き合ってるか良い関係かそんな感じやったやん」

「俺にはそうは見えなかったけどなー」

「それは宗祇さんが鈍感やけんやろ? でも、実際のところどうなんかは今度聞いてみんとね」

「鈍感……ねえ……」

 何かに心当たりがある様子で宗祇はニヤニヤしていた。そんな宗祇の言葉も気にせずに那由は自転車の鍵を開けてスタンドを上げる。

「とりあえず帰ろっか。ちょうど午後部活しよった人らも帰り始めてるころやし」

「午後の部活……。そうだ那由。ちょっと寄り道してから帰らない? 三十分くらい」

 唐突に言い出した宗祇の言葉に那由は興味を示した。

「なに?」

「今の時間に普通に帰ると部活帰りの生徒とぶつかって怪我をする未来が見えてね。だから人通りが減るまでの時間つぶし」

「なんか守護霊みたいなこと言うやん」

「守護霊ですから」

「いいよ。でもどこ行くん?」

 どこに行くかと問われて、宗祇は少し考えるようにして手を口元に持って行った。そして思い出したように口を開く。

「すぐ近くにちょっとおっきい園芸店があるの知ってる? ちょっとしたウィンドウショッピングしに行こう」

「園芸店?」

「花とか植物とか売ってるお店」

「へー、面白そう。行く行く! 案内よろしく!」

 そう言って那由は自転車にまたがると荷台を手で叩いた。

「ほら、乗った乗った」

「来るときの緊張はどこに行ったんだろうね」

「慣れればこんなもんよ」

「車の運転の時も……」

「ん?」

 何かを言いかけてやめた宗祇に那由は首を傾げた。

「いや、車の運転の時も同じようなこと言うんだろうなって」

「そうかもしれんね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

処理中です...