霊と恋する四十九日

色部耀

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 宗祇は楽しそうに笑う那由に微笑み返して自転車の後ろに乗った。そして、宗祇の案内で移動時間三分もかからない園芸店へと移動したのだった。一面ガラス張りにした倉庫のようなおしゃれな建物。広い敷地に多種多様な植物が置かれており華やかなお店。店の前に自転車を停めると、那由は目を輝かせて店内へと向かった。

「へー。綺麗。それになんか良い匂いがする」

 店内をきょろきょろと見渡して那由は感想を口に出す。すると、店員らしき人物が近付いて声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。何かお探しでしたら遠慮なくお声かけ下さいね」

「はい!」

 元気よく返事をした那由は、そっと店員から離れるようにして商品を見始めた。そしてこっそりと宗祇に話しかける。

「なんかフレンドリーな店員さんやったね」

「多分、那由が店に入ってすぐに喋ったからだろうな」

「あ、そっか。でもいちいち携帯で打って見せるのめんどくなってきたし……」

 那由の言葉を聞いた宗祇は少し考え込むと、納得するかのように頷いて話し始める。その間、那由はただ静かに待っていた。

「やっぱり普段は俺のことをいないものとして扱った方がいい。ちょっとしたことで周りから変に思われると那由に申し訳ない」

「うーん。でもそれは嫌」

 宗祇の提案を聞いて那由はほぼ考える時間も持たずに否定した。宗祇は意外そうな顔をして那由の言葉の続きに耳を傾けている。

「だって宗祇さんって私にしか見えんし声も聞こえんのやろ? それやのに私が無視みたいにしたら本当に独りぼっちみたいにさせちゃうやん。そんなん私にはできん」

 宗祇は那由の発言に異論を唱えようと口を開きかけたが、声が出かかった瞬間に那由に言葉を被せられて何も言えなくなってしまう。

「宗祇さんには私しかおらんのやけん。このくらい甘えてもいいんよ。なんてね」

 那由は嬉しそうにそう言い放つと宗祇からの反論を聞かない意思表示のように踵を返して店内へと歩みを進める。宗祇は聞く耳を持たないといった様子の那由の後ろ姿を見て溜息をつきながらも傍へと近寄った。二人が歩く園芸店内は広く、名前も知らない植物がたくさん置いてある。そしてしばらく見てまわっていると、那由は声を上げて一つの商品を手に取った。

「なにこれ! 可愛い!」

「ああ、多肉植物だね。サボテンみたいなやつ」

「サボテン? 薔薇みたいやけど」

 手のひらサイズの小さなポットに入った薔薇の花のような形をした多肉植物をいろんな角度から眺めながら那由は呟くように言った。すると、近くから那由の様子を伺っていた五十代くらいの女性店員が那由に声をかける。

「そちらは静夜っていう多肉植物なんですよ。確かにサボテンの一種ですね。頻繁に水をあげないといけないってわけでもないので、世話もしやすくておススメですよ」

「そうなんですか。でも高そう」

「育てたことないんですか? なら特別に安くしときますよ。じゃあ……二百円で」

「安っ! そんなに安くて良いんですか?」

「て言っても定価も三百円なんですよ」

「定価でもそんなに高くないんですね」

 那由のリアクションが嬉しいのか、店員さんは楽しそうに説明をしていた。しかし、那由は悩んでいた。

「二百円かー」

 アルバイトをしていない那由にとって二百円は衝動的に使っても良いと思える値段ではないようで、少し唸り声を上げていた。

「自販機でジュース買うのを二回我慢すれば足りるよ?」

 隣で背中を押すように囁く宗祇。その言葉を聞いて那由は反射的に声を出した。

「じゃあ、買います」

「ありがとうございます。育て方のパンフレットも入れておきますね」

 そうしてホクホク顔で受け取った那由は店から出た。自転車の前かごに購入した植物を入れてサドルにまたがると、携帯電話を取り出して時間を確認する。

「そろそろ六時やけど帰る?」

「そうだね。十分時間は潰せたと思うよ」

「じゃ、帰ろっか。あ、その前にこいつに名前付けとこっか」

「名前?」

 那由が自転車の前かごに入れた袋を指さして言うと、宗祇は納得するように声を出す。

「宗祇二号でどう?」

「流石にナシでしょ」

「えーじゃあ何か良いの付けてや」

 那由に何か名前を付けるように言われた宗祇は自転車の荷台に乗りながら悩む。しかし、すぐに出てこないようで那由は笑い声を上げながら言った。

「宗祇さんが良い名前つけるまで宗祇二号ね! じゃあ、しゅっぱーつ!」

 不平不満を漏らす宗祇の言葉を無視して那由はペダルをこいでスピードを上げる。日は少し落ちかけていた。
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