霊と恋する四十九日

色部耀

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 休みが明けて火曜日。那由は誰もいない渡り廊下で中間テストの悪あがきをするために勉強道具を広げていた。普段良く話をする沙知も勝也も今日は余裕がないのか、教室でテスト前の自習に集中していた。那由は半ば諦め気味で隣に立つ宗祇に呟く。

「ねえ宗祇さん。ちょちょーっと隣で答え教えてくれたりとかは……」

「絶対にしません」

「だよねー」

 那由は肘をついてふてくされながら、沙知と勝也と共に勉強したノートを広げて眺める。

「でも、今回は那由も結構勉強してたから大丈夫だって」

「いつもより真面目に勉強したけん、逆に点数取れんかったらショックっていうか」

「あー、その気持ちは分からんでもないや。でも今ちゃんと勉強しとけば、後で勉強しておけばよかったって後悔することはなくなるんじゃないかな?」

「宗祇さんその台詞はずるいし、言うのも遅い」

 那由の文句を聞いた宗祇は嬉しそうに笑っていた。

「テストの点数も守護してくれたらいいのに」

「テスト勉強はサボらないようにちゃんと見張ってたでしょ?」

「あれはきつかった……」

 家で勉強する時を思い出しながら那由は苦い顔をする。那由の表情豊かな様子を見守りつつ、宗祇はまたしても優しく微笑むのだった。

「そろそろ教室戻らないとテストに間に合わなくなるよ?」

「はーい」

 不満を顔に出しつつも素直に従う那由は少し先を歩く宗祇に遅れて付いて行く。しかし先を歩く宗祇は階段を降りようとしたところで戻ってきて那由に告げた。

「少しだけ遠回りになるけど上の廊下通って向こうの階段で降りよう。ちょっとガラの悪い生徒が座り込んでる」

「おっけー」

 宗祇の道案内にすっかり慣れた那由は特に考えもせずに言うとおりに道を変える。ノートをぺらぺらとめくりながら前方を気にせず歩くのは宗祇のことを信頼しきっている証拠でもあった。宗祇はそんな那由を危ないからと言って嗜めこそするが、信頼に応えるようにしっかり那由の危険になるようなことがあれば言葉で伝えていた。


 それからどうにか初日のテストも終わり、疲れ切った様子の那由は机に突っ伏していた。宗祇は誰もいなくなった隣の席の机に座って足をブラブラさせながら校舎の外を眺めている。

「また渡り廊下行く?」

 放課後とはいえ、教室にはまだ何人か人がいる。そのためあまり大きな声で会話をすることはできない。那由は土曜日に沙知と勝也に見つかった件以降、学校では特に注意を払って宗祇と話すようにしていたのだった。

「今日は帰ろっか。まだテストは始まったばかりだし」

 宗祇にそう言われて那由はよしと言って立ち上がる。そして一歩足を踏み出したところで突然後ろから声をかけられて驚くように振り向く。

「ねえ那由! ウチちょっと良いこと思いついたんやけど聞いてくれん?」

 そう言って肩を叩いたのは文化祭の出し物を決めた日に協力すると言ってくれた愛だった。那由は当初愛に不安と苦手意識を持っていたが、今では声をかけられるとつい自然と笑顔を作ってしまうほどに好意的な気持ちを持っている。

「なになに?」

「文化祭の時の写真展示なんやけどさ。実際に現像した写真やなくて、大き目でプリントアウトした方が見栄え良くないかなって」

「A3サイズとかでってこと?」

「それは流石にデカすぎやろ。A4くらい。パソコン部の男子に頼んで印刷させればいいし。頼みにくかったらウチが言ってやるけん」

「うーん。確かにそっちの方が良いかも。売れないものまでしっかり現像するのはもったいないしね」

「よし! じゃあ決まりやね! パソコン部の奴にはウチから言っとくけん任せて!」

「ありがとう愛!」

 任された愛はそのまま走って行くと、教室の入り口辺りで話をしていたパソコン部の男子にラリアットをしてからんでいた。少しだけ不安があった那由も、男子の嬉しそうな顔を見て安心していた。

「じゃ、帰ろっか」

 そして周囲に誰もいなくなったことを確認した那由は宗祇に言うと帰路につくのだった。
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