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そして週末になり、いつもの休日とは違って早く目を覚ました那由は寝ぐせを押さえつつ、部屋の扉を開けて外で座っている宗祇の耳元で囁いた。
「おはよう宗祇さん。今日はちょっと遠くまで行くけんね」
早い時間に寝巻から私服に着替えていた那由に驚きながら、宗祇は立ち上がって背伸びをする。
「どこに行くの? もちろん付いて行くよ」
那由は携帯電話の画面を宗祇に見せると嬉しそうに答えた。
「秋物新入荷セール! 銀天街のお店だから自転車で三十分ちょいかかるかも」
「ああ、だから早く起きたんだね」
宗祇は見せられた携帯電話の時計表示を見て時間を確認する。普段なら休日に那由は十時頃まで寝ているはずなのにまだ八時。少しでも早く行って売り切れてしまう前に欲しいものを買いたいということなのだろう。
「じゃ、準備できたらすぐに出発するけん」
「はいはい」
那由は急いで階段を降りると洗面所へと向かった。宗祇は那由を待つ間、玄関をすり抜けて外に出て田んぼが広がる田舎町を眺めていた。心なしかその表情からは寂しげな雰囲気が出ていた。何か生前のことを思い出しているかのように――
「おまたせ!」
二十分ほどで玄関を開けて飛び出してきた那由は、買ったものを詰めるためぺたんこに潰れたほとんど空っぽのリュックを背負っていた。待たされていた宗祇は嫌な顔一つせずに微笑み返す。
「朝ごはんは食べてこなかったの?」
明らかに早い準備に宗祇は疑問の声を口にする。着替え終わっていたとはいえ、二十分での準備ならば寝ぐせを直して顔を洗うくらいしかできず、朝食をとる時間は無い。
「お母さんもお姉ちゃんも起きてなかったけんアンパンだけ口に入れてきた。てか、休みの日ってみんな起きるの遅いけんいっつも朝ごはん食べんのやけどね」
「今日は早起きだから何か食べとかないとね」
「私もそう思ってちょっと食べてきたんよ」
那由はそう言いながら先週と同じように自転車の鍵を開ける。コツを掴んだのか、先週よりも容易く鍵を開けることができていた。
「ほら、乗った乗った」
自転車にまたがって荷台をバンバンと叩く那由。その楽しげな顔を見て宗祇は小走りで近寄ると荷台に飛び乗った。宗祇が飛び乗ったにもかかわらず、自転車はぴくりとも動かない。自転車の揺れで宗祇が乗ったことを確認できない那由は、しっかりと自分の目で背後を見てからペダルを踏みこむ。先日から少し気温も下がり始めたおかげで風が心地よいのか、那由は汗一つかかずに涼しげな顔をしていた。
自転車で走ること三十分。那由と宗祇は松山市の中心街に着いてデパートの地下駐輪場に自転車をとめていた。エレベーターで地上に出ると目的の店に向かって歩き始める。休日ということもあって人通りも多く、宗祇は普段以上に注意をしながら先導していた。
「宗祇さん場所知っとん?」
足取りに一切の迷いがない宗祇の姿を見て那由は声をかけた。携帯電話を耳元に当てて不審がられないようにしながら。
「生きてたときにも何度か行ったことあるしね。それにこの辺りは大学とか仕事の飲み会でよく通る道だったし」
「飲み会とか大人やん! なんか酔っ払ってやらかしたエピソードとかないん? 大人やったらワンナイトラブ的な?」
冷やかすようにニヤニヤする那由を宗祇は笑い飛ばす。
「ないない。高校の時から彼女は一人だけだったし、他の人と何かあったことなんてないよ。あ、でも……」
「なになに?」
思い出したかのように切り出した宗祇に、那由は興味津々といった感じで前のめりに先を促す。
「大学時代に酔っ払って寝ちゃって、目が覚めたら植え込みの中だったってことがあった」
「えー! むっちゃ危ないやん! 大丈夫やったん?」
心配と興味で声が大きくなった那由に宗祇は思い出し笑いを浮かべながら答える。
「ある意味大丈夫じゃなかったかな。一緒に飲んでた友達が俺の彼女に連絡したおかげで、迎えに来てくれた彼女に目が醒めるまでビンタされ続けてたから」
「そりゃ心配するもん当たり前やん。宗祇さんが悪いわー」
「やっぱり同じこと言うんだね」
那由は宗祇からそう言われて首を傾げた。
「やっぱりって、もしかして私と彼女さんって似てるん?」
「さあ、どうだろうね。ほら着いたよ」
話をしているうちに那由の目的地である店に到着した。しかし店の入り口を見て那由はがっくりと肩を落とした。
「開店十二時からやん……」
ガラス張りの店には明かりが灯っておらず、出入り口にあたる扉にはしっかりと開店時間が十二時からだと書かれていた。那由と同じく開店時間を見た宗祇も申し訳なさそうに頭に手を当てる。
「あー……。俺も営業時間までは覚えてなかった」
「どうする? あと三時間近くあるけど」
那由は携帯電話で時間を確認すると宗祇に相談を持ちかける。聞かれた宗祇も口元を押さえて悩んでいた。
「お金もないし、少し歩こうか」
「歩くって言ってもどこ行くん?」
那由に聞かれた宗祇は手首から先だけを使ってすっと指をさした。
「松山城。那由は行ったことないでしょ?」
「おはよう宗祇さん。今日はちょっと遠くまで行くけんね」
早い時間に寝巻から私服に着替えていた那由に驚きながら、宗祇は立ち上がって背伸びをする。
「どこに行くの? もちろん付いて行くよ」
那由は携帯電話の画面を宗祇に見せると嬉しそうに答えた。
「秋物新入荷セール! 銀天街のお店だから自転車で三十分ちょいかかるかも」
「ああ、だから早く起きたんだね」
宗祇は見せられた携帯電話の時計表示を見て時間を確認する。普段なら休日に那由は十時頃まで寝ているはずなのにまだ八時。少しでも早く行って売り切れてしまう前に欲しいものを買いたいということなのだろう。
「じゃ、準備できたらすぐに出発するけん」
「はいはい」
那由は急いで階段を降りると洗面所へと向かった。宗祇は那由を待つ間、玄関をすり抜けて外に出て田んぼが広がる田舎町を眺めていた。心なしかその表情からは寂しげな雰囲気が出ていた。何か生前のことを思い出しているかのように――
「おまたせ!」
二十分ほどで玄関を開けて飛び出してきた那由は、買ったものを詰めるためぺたんこに潰れたほとんど空っぽのリュックを背負っていた。待たされていた宗祇は嫌な顔一つせずに微笑み返す。
「朝ごはんは食べてこなかったの?」
明らかに早い準備に宗祇は疑問の声を口にする。着替え終わっていたとはいえ、二十分での準備ならば寝ぐせを直して顔を洗うくらいしかできず、朝食をとる時間は無い。
「お母さんもお姉ちゃんも起きてなかったけんアンパンだけ口に入れてきた。てか、休みの日ってみんな起きるの遅いけんいっつも朝ごはん食べんのやけどね」
「今日は早起きだから何か食べとかないとね」
「私もそう思ってちょっと食べてきたんよ」
那由はそう言いながら先週と同じように自転車の鍵を開ける。コツを掴んだのか、先週よりも容易く鍵を開けることができていた。
「ほら、乗った乗った」
自転車にまたがって荷台をバンバンと叩く那由。その楽しげな顔を見て宗祇は小走りで近寄ると荷台に飛び乗った。宗祇が飛び乗ったにもかかわらず、自転車はぴくりとも動かない。自転車の揺れで宗祇が乗ったことを確認できない那由は、しっかりと自分の目で背後を見てからペダルを踏みこむ。先日から少し気温も下がり始めたおかげで風が心地よいのか、那由は汗一つかかずに涼しげな顔をしていた。
自転車で走ること三十分。那由と宗祇は松山市の中心街に着いてデパートの地下駐輪場に自転車をとめていた。エレベーターで地上に出ると目的の店に向かって歩き始める。休日ということもあって人通りも多く、宗祇は普段以上に注意をしながら先導していた。
「宗祇さん場所知っとん?」
足取りに一切の迷いがない宗祇の姿を見て那由は声をかけた。携帯電話を耳元に当てて不審がられないようにしながら。
「生きてたときにも何度か行ったことあるしね。それにこの辺りは大学とか仕事の飲み会でよく通る道だったし」
「飲み会とか大人やん! なんか酔っ払ってやらかしたエピソードとかないん? 大人やったらワンナイトラブ的な?」
冷やかすようにニヤニヤする那由を宗祇は笑い飛ばす。
「ないない。高校の時から彼女は一人だけだったし、他の人と何かあったことなんてないよ。あ、でも……」
「なになに?」
思い出したかのように切り出した宗祇に、那由は興味津々といった感じで前のめりに先を促す。
「大学時代に酔っ払って寝ちゃって、目が覚めたら植え込みの中だったってことがあった」
「えー! むっちゃ危ないやん! 大丈夫やったん?」
心配と興味で声が大きくなった那由に宗祇は思い出し笑いを浮かべながら答える。
「ある意味大丈夫じゃなかったかな。一緒に飲んでた友達が俺の彼女に連絡したおかげで、迎えに来てくれた彼女に目が醒めるまでビンタされ続けてたから」
「そりゃ心配するもん当たり前やん。宗祇さんが悪いわー」
「やっぱり同じこと言うんだね」
那由は宗祇からそう言われて首を傾げた。
「やっぱりって、もしかして私と彼女さんって似てるん?」
「さあ、どうだろうね。ほら着いたよ」
話をしているうちに那由の目的地である店に到着した。しかし店の入り口を見て那由はがっくりと肩を落とした。
「開店十二時からやん……」
ガラス張りの店には明かりが灯っておらず、出入り口にあたる扉にはしっかりと開店時間が十二時からだと書かれていた。那由と同じく開店時間を見た宗祇も申し訳なさそうに頭に手を当てる。
「あー……。俺も営業時間までは覚えてなかった」
「どうする? あと三時間近くあるけど」
那由は携帯電話で時間を確認すると宗祇に相談を持ちかける。聞かれた宗祇も口元を押さえて悩んでいた。
「お金もないし、少し歩こうか」
「歩くって言ってもどこ行くん?」
那由に聞かれた宗祇は手首から先だけを使ってすっと指をさした。
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