霊と恋する四十九日

色部耀

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「あ! 宗祇さん、忘れるとこやった」

 夕暮れの海浜公園でいくつか写真を撮り終わった那由は、思い出したかのように宗祇に言った。宗祇は弾けるように声を出した那由に少々驚いて引き気味に答えた。

「な、なんだよ突然」

「イニシャル彫ったとかいう看板見に行かんと!」

 そう言ってきょろきょろと砂浜から看板を探して遠くを見る那由。宗祇は観念したのか、ため息をつきながらも案内を始めた。

「こっちだよ。前にも言ったけど、昔のことだからもう消えてると思うよ」

「いいけんいいけん。単なる確認」

 那由は足取り重たく先導する宗祇の後ろを楽しそうについて歩く。砂浜から上がって、タイルやコンクリートで整備されたエリアを迷いなく進む。するとすぐに看板らしきものが見えてきた。

「あー! あれ?」

 そう言って駆け寄った那由は、看板の隅から隅まで目を這わせるようにして宗祇と宗祇の奥さんのイニシャルを探した。

「なんか、色々彫ってあるんやね」

 那由が確認した看板には、何人もの落書きが彫られ、どれが宗祇のものかなど分からないといった状態だった。

「まあ、やってる人がいっぱいいたから自分たちにもできたってのもあったかも。若気の至りとはいえ、流石に綺麗な状態のところに傷つける勇気なんて無かっただろうし」

「で、どれが宗祇さんの? この感じやったら十年くらい前のも残ってそうやん」

 塗装もはがれ、長い間塗り直しもされた様子が無かったために、那由はそう思って宗祇に聞いた。しかし、宗祇の返答は残念なものだった。

「この辺に書いたんだけど……。多分、このあいてるところあたりだったかな。やっぱりないね」

「へー。残念。ちなみにどんなの彫ったん? やっぱ定番の相合傘とか?」

「……そうだよ」

 宗祇は恥ずかしそうに視線を逸らして答える。すると那由はポケットから自転車の鍵を取り出しておもむろに宗祇が言った場所に相合傘を彫り始めた。

「消えちゃってるんやったらもっかい彫れば良いだけやん。奥さんのイニシャルは?」

 そう言った那由は既に相合傘と宗祇のイニシャルであるSを彫り終わっていた。

「……Nだよ」

「えー! 私と一緒やん! これじゃ私と宗祇さんの相合傘みたいやね」

 楽しそうに笑い声を上げながらも那由はNという文字を刻む。

「あの時も今と同じように楽しげに彫ってたな」

「聞けば聞くほど私と宗祇さんの奥さんって似とんやね」

 そう言いながら振り返った那由を見て、宗祇はまたしても優しく微笑むのだった。

「さ、目的の写真も撮れたし、そろそろ帰ろっか」

「うん! 今日もありがとね。宗祇さん!」
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