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女子高生を助けて線路へ
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俺の幼馴染は先月、中学の卒業式の日に誘拐犯によって殺されてしまった。
『佐伯朱莉さん十五歳を誘拐・殺害したとされる犯人は遺体を海に遺棄したと供述しており、遺体は今なお発見されておりません――』
事件から一か月が経った今でも朝のニュースで報道され続けている。テレビでは犯人の人物像についてあれやこれやと推察し続けていた。趣味だったサバイバルゲームが原因だとか、生まれ育った環境の悪さが人格を歪ませたとか。しかし、俺はそんなことに興味はなかった。ただ、連日報道されるニュースを耳にするたびに目の前で攫われていった朱莉の顔と声を思い出すだけだった。
卒業式からの帰り道――
まだマフラーも取れないような寒い三月。俺たち二人は卒業証書と卒業アルバムだけが入った通学カバンを手に下校をしていた。そこで俺たちの目の前に現れた大柄な男。その男に朱莉は強引に引っ張られて連れていかれる。過呼吸によって五歩と走ることができない俺は少し追いかけたところで地面に伏して手を伸ばすことしかできなかった。朱莉は男の力に負けて恐怖に顔を歪ませながら俺に助けを求めていた。
『助けて! 蓮!』
俺の目に最後に映っていたのは、真っ黒のハイエースに連れ込まれながら俺の名を叫ぶ朱莉の姿だった――
あれから俺は毎日その瞬間のことを夢に見てうなされている。記者が家に押し掛けてくることは少なくなったが、それでも日中ですら彼女のことを思い出してばかりだ。幼い頃に母を亡くしてから体が弱くなってしまった俺を見捨てることなく、いつも朱莉は傍にいてくれたのだ。そんな彼女に俺は何一つ恩返しすることもできなかった。それどころか誘拐された現場にいたにもかかわらず、助けることもできなかった。死にたくなるほどに俺は無力だった。
自ら死を選ばずに思いとどまっているのも、昔朱莉と約束をしたからに他ならない。体が弱くなった俺が死んでしまおうかと弱音を吐いたとき、朱莉が言ったのだ。私の花嫁姿を見るまでは死んじゃダメだと。もう一生彼女の花嫁姿を見ることは叶わない。それでも彼女との約束という言葉で俺はどうにか生き続ける道を選ぶことができている。
『それでは次のニュースです――』
俺はニュースの切り替わりと共にテレビの電源を切り通学カバンを手に椅子から立ち上がる。そして誰もいない家にいってきますとだけ告げて家を出た。
今日は入学式。高校の制服などを受け取ったときぶりの約二週間ぶりに乗る電車だった。通学時間帯に電車を使うことは受験以来で、常に人と肩がぶつかり合うような混雑には全く慣れることができていない。極度の過呼吸のため五歩と走れない俺は、少し時間に余裕を持って登校しているつもりだった。しかし明日からはもっと早く出発した方が良いのかもしれない……。乗車予定の電車がそろそろ到着する時間になり、ホームにアナウンスが流れる。黄色い線の内側までお下がりくださいとアナウンスされたところで、俺の隣にいた女子高生が虚ろな顔で一歩前へと足を踏み出した。そしてそのまま電車が到着する直前の線路へと体を傾け始める。周りの人は誰一人として彼女のことが見えていないかのように動く気配がない。
手を伸ばせば届く距離。五歩も走る必要は無い。俺は反射的に飛びつくと、女子高生をホーム側へと投げ返した。彼女は俺に押されてホームに尻もちをつくと、目を丸くして俺のことを見る。俺は走馬燈を見ているかのような時間がゆっくりと流れる感覚になりながら線路へと落ちていく。視線の左側からは電車が近付いてきている。落下してから避けようにも間に合わないだろう。でも、誰かの命を守って死んでしまうのなら朱莉も約束を破ったことを許してくれるのではないか。そう思ったところで突き飛ばした彼女が首にかけていたネックレスを引きちぎって俺の方へと投げる。その瞬間、俺の目の前は真っ白になったのだった。
『佐伯朱莉さん十五歳を誘拐・殺害したとされる犯人は遺体を海に遺棄したと供述しており、遺体は今なお発見されておりません――』
事件から一か月が経った今でも朝のニュースで報道され続けている。テレビでは犯人の人物像についてあれやこれやと推察し続けていた。趣味だったサバイバルゲームが原因だとか、生まれ育った環境の悪さが人格を歪ませたとか。しかし、俺はそんなことに興味はなかった。ただ、連日報道されるニュースを耳にするたびに目の前で攫われていった朱莉の顔と声を思い出すだけだった。
卒業式からの帰り道――
まだマフラーも取れないような寒い三月。俺たち二人は卒業証書と卒業アルバムだけが入った通学カバンを手に下校をしていた。そこで俺たちの目の前に現れた大柄な男。その男に朱莉は強引に引っ張られて連れていかれる。過呼吸によって五歩と走ることができない俺は少し追いかけたところで地面に伏して手を伸ばすことしかできなかった。朱莉は男の力に負けて恐怖に顔を歪ませながら俺に助けを求めていた。
『助けて! 蓮!』
俺の目に最後に映っていたのは、真っ黒のハイエースに連れ込まれながら俺の名を叫ぶ朱莉の姿だった――
あれから俺は毎日その瞬間のことを夢に見てうなされている。記者が家に押し掛けてくることは少なくなったが、それでも日中ですら彼女のことを思い出してばかりだ。幼い頃に母を亡くしてから体が弱くなってしまった俺を見捨てることなく、いつも朱莉は傍にいてくれたのだ。そんな彼女に俺は何一つ恩返しすることもできなかった。それどころか誘拐された現場にいたにもかかわらず、助けることもできなかった。死にたくなるほどに俺は無力だった。
自ら死を選ばずに思いとどまっているのも、昔朱莉と約束をしたからに他ならない。体が弱くなった俺が死んでしまおうかと弱音を吐いたとき、朱莉が言ったのだ。私の花嫁姿を見るまでは死んじゃダメだと。もう一生彼女の花嫁姿を見ることは叶わない。それでも彼女との約束という言葉で俺はどうにか生き続ける道を選ぶことができている。
『それでは次のニュースです――』
俺はニュースの切り替わりと共にテレビの電源を切り通学カバンを手に椅子から立ち上がる。そして誰もいない家にいってきますとだけ告げて家を出た。
今日は入学式。高校の制服などを受け取ったときぶりの約二週間ぶりに乗る電車だった。通学時間帯に電車を使うことは受験以来で、常に人と肩がぶつかり合うような混雑には全く慣れることができていない。極度の過呼吸のため五歩と走れない俺は、少し時間に余裕を持って登校しているつもりだった。しかし明日からはもっと早く出発した方が良いのかもしれない……。乗車予定の電車がそろそろ到着する時間になり、ホームにアナウンスが流れる。黄色い線の内側までお下がりくださいとアナウンスされたところで、俺の隣にいた女子高生が虚ろな顔で一歩前へと足を踏み出した。そしてそのまま電車が到着する直前の線路へと体を傾け始める。周りの人は誰一人として彼女のことが見えていないかのように動く気配がない。
手を伸ばせば届く距離。五歩も走る必要は無い。俺は反射的に飛びつくと、女子高生をホーム側へと投げ返した。彼女は俺に押されてホームに尻もちをつくと、目を丸くして俺のことを見る。俺は走馬燈を見ているかのような時間がゆっくりと流れる感覚になりながら線路へと落ちていく。視線の左側からは電車が近付いてきている。落下してから避けようにも間に合わないだろう。でも、誰かの命を守って死んでしまうのなら朱莉も約束を破ったことを許してくれるのではないか。そう思ったところで突き飛ばした彼女が首にかけていたネックレスを引きちぎって俺の方へと投げる。その瞬間、俺の目の前は真っ白になったのだった。
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