7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)

文字の大きさ
162 / 202
第九章〈正義の目覚め〉編

9.19 ヘンリー五世崩御(4)それぞれの正義

しおりを挟む
 フィリップの本心がどうあれ、ブルゴーニュ公の立場としては王太子と敵対する姿勢を見せたのは確かだ。それゆえ、亡き父・無怖公の路線を踏襲してフランス宮廷と深く関わるのだろうと思われていた。

「あの子が王太子になったとき、失脚中の父の名代として謁見したんだ。実に、12年ぶりに再会だった」
「私はアンジューで婚約のときに会いました。8年ぶりに」
「張り合ってるのか?」

 リッシュモンは済ました顔で「別に」と答えた。
 もう怒ってはいないようだった。

「あの子は……、王太子は見た目よりも勇敢だと思う。私は父どころか母に逆らうことさえできない。この二年間、パリから遠ざかるので精いっぱいだ」

 リッシュモンは、ブルゴーニュ公フィリップとともに少年時代を過ごした。
 派手好きで権力志向だった無怖公に比べると、だいぶ地味な少年だったと記憶している。

「あなたは自分が思っているほど弱くない。私の知る限り、先代・無怖公の言いなりではなかった……。アジャンクールに参戦するつもりだったと聞きました」
「だが、父は私の考えなどお見通しで出陣前に監禁された。結局、何もできなかったんだ」
「あなたの心は間違いなくフランスにある。それなのになぜイングランドと……」

 なぜ、ブルゴーニュ公フィリップはイングランドと同盟を組んだのかと問いかけようとして、リッシュモンは自分の立場を思い出した。

「そのことで、貴公に私を責める資格はない」

 リッシュモンは、ヘンリー五世に臣従の誓いを立てたのだ。
 フランスを侵攻するために帰国し、王太子の軍勢が立てこもるモー包囲戦に参戦し、ヘンリー五世の葬儀に参列している。

「かつて父はオルレアン公を殺した。他にも多くの者から恨まれていた。……ずっと前から、報復されても文句はいえないと思っていたよ。だが、父の家臣たちは『次は王太子が報復される番だ』と血気盛んだ」

 お互い、ままならない境遇を慰め合っているつもりだったが。

「やらせません」

 リッシュモンはきっぱりと断言した。

「何をする気だ?」
「何も。私なりの正義を貫くまで」
「無茶をするな。幼なじみの不幸は聞きたくない」

 フィリップは「自分は観客だから関わらない」と宣言した。
 逆に言えば、リッシュモンが何をしようが見過ごすという意味でもある。

「くれぐれも慎重にな。兄君のブルターニュ公も陰謀に巻き込まれてひどい目にあったそうじゃないか。味方を敵に回すことほど怖いものはない。いや、味方の中に敵が潜んでいるというべきか」
「どういう意味です?」
「私はよそに手出しをする余裕がない。ブルゴーニュとフランドル——自分の領分を統治するだけで手いっぱいだ」

 ブルゴーニュ公フィリップは、フランスの宮廷と距離を置いている。
 それは、父・無怖公よりも野心がない、というより何か深い理由があるように感じられた。

「保身第一で悪いか?」
「何も言ってませんが」
「私は謙虚、堅実がモットーなのだよ」

 ブルゴーニュ公は開き直っている様子だったが。

「そんな顔をしないでくれ。昔なじみにあからさまに軽蔑されるとつらくなる。今、言えることは、ブルゴーニュ家最大の犠牲者は父ではなく、亡き妻ミシェルかもしれないということだ……」

 このころのアルテュール・ド・リッシュモンは29歳。
 名門貴族の男性としてはめずらしくまだ一度も結婚していなかったが、幼なじみのフィリップが大きな傷心を抱えていることと、ある重大な警告を知らせようとしていることは分かった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...