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優しさ

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目が覚めると、知らない場所にいた。身体が動かしづらく、重い。何故だろうと思い視線を下にずらせば、人の腕がある。

…………………………?

寝起きのせいか、はたまた別の理由か、頭が働かないようだ。体をよじりどうにかしてこの腕の主を見ようとした。

そこには昨日ご飯を食べさせてくれた騎士がいた。
あまりの至近距離から見ているので断定は出来ないが、黒髪はこの人しかいなかったと思う。

どうしよう……。………………………………二度寝か。

私が考える事を放棄し、布団をもう一度かけようとすると

「…ん」

隣から声が聞こえた。見てみると、ちょうど起きたところだった。

「おはよ」

とりあえず挨拶をしておく。

「…ん」

小さく返事をされ、抱きしめられた。

…………え?

「…可愛い」

そう言って頭を撫でられた。

なでなで

「えっと…」

なでなでなで

「…あのぉ」

なでなでなでなで

「えー…」

なでなでなでなでなで

諦めかけたその時、救世主が現れた。

「カイン~?起きてる~?」

その掛け声とともに扉が開き、ひとりの男性が入ってきた。

「…ミリアン」

カインは嫌そうに顔をしかめると、のそりと立ち上がり着替え始めた。
私は解放された事に安堵し、次の行動を起こすべくミリアンという人に話しかけた。

「おはよ」

「おはよ~」

「何すればいい?」

「う~ん、ちょっと待ってね~…『洗浄』っと。うん!じゃあカインが着替え終わったらご飯食べに行こっか~」

終始にこにこしていたミリアンはふわふわしたマイペースな感じの人なのだろうか。

そう思いながらベットから降りようとすると、どこからとも無く現れた腕が、私を抱き上げた。

着替えが終わったらしい。

…うん。確かに着替えた。でも、髪ボサボサ…。せっかくイケメンなのに…。いや、こういう少し抜けてるところに女性はギャップを感じるのだろうか?

とりあえず気になるので、先程ミリアンが呼んでいた名を呼ぶ。

「カイン」

こちらを見る美しい緋を見流しながら、カインの髪をすく。
くせ毛でクルクルしていて意外と柔らかくてさらさらだった。

カインは驚いたように少し目を見開いていたが、私はそんなことに気づかず、カインの髪が綺麗に整った事に若干ドヤ顔をしていた。




1階に降りると、既に多くの人が食事を始めていた。
私が椅子に座らせられ、しばらくするとチキンスープがでてきた。
騎士が食べるにしては具材が小さいし、私への配慮かな?

食べようと思い椅子の上に立ち、器とスプーンを取ろうとすると、カインに取られた。
何のつもりだとカインを見ようとすると、片腕で体を持ち上げられ、椅子に座った膝の上に座らせられた。
その手にはスプーンが握られていた。

「カイン~?先に自分の食べよっか~?」

ミリアンがニコニコしながらカインを見る。カインは渋々机の上にスプーンを置いた。

なぜゆえ?そこは、私の前に置くべき…。

そう思いながらカインを見るが理由はすぐに分かった。

どこからともなく現れた野生の騎士が…じゃない。他の騎士が器とスプーンを手に取り、食べさせてきた。

「自分で食べれる」

そう言って騎士たちを見上げると、泣きそうな顔をした。

「そんな事言わないでぇぇぇぇ!おにいさんに夢を見させて!!…あ!ちょっと俺の事カールお兄ちゃんって言ってくれない?」

いきなりのテンションの高さに困惑しながらも指示に従う。

「カール、お兄ちゃん?」

カールお兄ちゃんと呼ばれた騎士は器とスプーンを机の上に置き、ゆっくり立ち上がると少し移動して、口元を抑えながらしゃがんだ。

「…可愛い!あそこで疑問形に首こてんは最強すぎる…!!! 」

撃沈した騎士の代わりに別の騎士が食べさせ始める。しかし、器の半分しか食べきれなかった。

「もう、お腹いっぱい」

「は?いや、でも…」

「そんなんじゃ大きくなれないぞ!」

「…今まで、ちょっとしか食べてなかったから、胃が小さいの」

「…そっか」

騎士はぎこちない笑みを浮かべた。






  
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