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1章
9C-代案
しおりを挟む「ーー2人共、演奏を止めてくれ!」
「ふえ!?」
「ふお!?」
奏太からの突然の指示に、響子と金重が驚いて演奏の手を止める。
「ど、どうしたでござるか奏太殿!?」
「見ろ! エルフ達は俺達の演奏を聴いて戦意を喪失しているけど、敵の攻撃が止まない!
恐らく森に阻まれて、俺達の演奏がダークエルフ達まで届いていないんだ!」
「そんな……!」
「どどどどうするでござるか!? アンプのボリュームを上げるでござるか!?」
金重がアンプの方を見て、ボリュームを調節するノブに手を伸ばす。がーー
「いや……アンプの音量を上げても俺のアコギと歌はどうにもならない。それにゲインを下げた状態のクリーンサウンドでは、上げられる音量にも限界がある……。
奴らが村に近付かない限り演奏を聴かせるのは難しい……!」
ダークエルフ達はより強化された弓で、村に近付かずとも殲滅出来る程の戦力を備えていたのだ。
奏太達の演奏さえ聴かせればダークエルフ達を鎮められると思っていたが、まさかその演奏を聴かせる事すら叶わない状況になるとは、完全な誤算だった。
考えてみれば、相手はエルフの村を熟知した元住人達だ。最適な攻め方を練ってきて当然だった。
完璧に統率された軍隊など、自分達の演奏でどうにか出来る相手ではなかった。
奏太は絶望に駆られ、敗戦を覚悟した。
「ーーあの! 私から一つ提案があります!」
その時、重い空気を破るように、響子から提案の声が上がった。
前回の護衛任務の時と同じように、再び仲間から救いの手が差しのべられ、奏太が希望の目を向ける。
「奏太さんはアコースティック・ギターをエレキギターに替えて、師匠と一緒にアンプのボリュームとゲインを最大まで上げてください!」
先程奏太が否定した内容とほぼ同じ提案に、奏太と金重は目を丸くする。
「そそそそんな爆音で一体なんの曲をやるでござるか!?」
「金重の言うとおりだ……。確かにそれなら森の中までギターの音が届くかもしれないが、そんな酷い音でバラードはできない。
何より俺の歌声がかき消されてしまう……」
やはり響子の提案は状況を打開できるものではなかった。
奏太はあからさまに落胆を見せるが、それでも響子は引き下がらなかった。
「歌は念話魔法を使ってダークエルフの方々に届けるんです!」
念話魔法……? はっーーそうか!
響子の言葉に2人はポカンとした表情を見せるが、すぐに何を言いたいのか察する。
「確かにあれを使えば距離や障害など関係なく言葉を届けられるかもしれない!」
どうして響子さんに言われるまで気付かなかったんだ!
3人に立ち込める暗雲に、一筋の光明が射す。
「そして演奏する曲はーーパンクです! セッ◯ス・ピストルズのHoliday In The Sunをやりましょう!」
「えええーーーっ!?」
「パンクでござるか!?」
折角念話魔法という、状況を打開する希望が見えかけたところで、再び2人が戸惑う。
「パンクなんて演奏したら、エルフとダークエルフの両方を刺激して、大混乱になるかもしれないから流石にマズいんじゃ……」
盗賊団との戦いで、We Will Rock Youをやろうとしたがクレッチに制止された事を思い出し、奏太は響子の提案に待ったをかける。
「大丈夫です! Holiday In The Sunの邦題は『さらばベルリンの陽』といって、セッ◯ス・ピストルズがベルリン旅行に行ったときに、当時まだドイツを東西に分断していたベルリンの壁を見て作った歌なんです!
今はケンカ中のエルフとダークエルフの皆さんですが、この曲を聴けばきっと、かつて共に過ごした日を思い出して、何かを感じ取ってくれるはずです!」
「た、確かに曲の内容は状況にマッチしているかもしれないけど……でも俺歌詞知りませんよ!?」
「小生もどんな曲か知らないでござる!」
奏太が精霊魔法を使って、響子の前でシド・ヴ◯シャスに変身するのは絶対に避けなければならない。そんな事をすればそれこそ演奏どころではなくなってしまう。
ボーカルのジョニー・ロ◯トンをはじめ、シドを除く他のメンバーも全員ご存命であるから、霊魂は呼び寄せられない。
響子の言葉には少なからず説得力があったが、いずれにせよ曲が演奏できないのでは話にならない。
「曲の構成は今から私がお2人に教えます! ギターはほとんどベースと同じルートなので、お2人の実力ならすぐにできます!
そしてボーカルはーー
私が歌います!」
「「えええーーっ!?」」
ここにきて、まさかのボーカルの申し出に、2人はまたもや驚愕する。
「奏太さんは歌詞を知らないので、この状況を打開するにはそれしかありません! ほら、2人共準備を急いでください!」
響子に急かされるまま、奏太と金重は慌てて曲を覚えるための準備に取り掛かった。
「(響子さん、一体どうしちゃったんだろう……いつもよりやけにたくましくないか?)」
「(し、小生にも分からないでござる……ただーー)」
「(女は強し……!)」
土壇場に見せる女性の強さを、2人の男は身を持って知ることとなったーー
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