異世界に奏でる狂騒曲(ロックンロール)~ランク0だけどロックの力で最強パーティに~

伊太利 千重治

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1章

9サビ-失望

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 戦場には今もなお、ダークエルフ達が放つ矢の雨が容赦なく降り注いでいた。
 エルフ達が住む質素な家はもはや原型を止めておらず、もう一度住むにはいちから建て直す必要があるほどだ。
 というより、家だけでなくエルフ達が育てている果物の樹木も含め、村の全てが破壊し尽くされ、地面には無数の矢が突き刺さっている。
 その様相はまるで剣山、あるいは無数に立つ墓標のようだ。
 たとえエルフ達が生き残ったとしても、同じ場所で村を再建するのは不可能だろう。

 エルフ達が事前に準備した矢盾に守られ、なんとか持ちこたえているのがせめてもの救いか。

 だがーー

「もうエルフ族はおしまいだ。だが不思議と恐怖は感じない……」

「このままなるがままにLet it be最期の時を迎えよう……」

 奏太達の演奏の効果も重なって、エルフ達は完全に戦意を喪失し、防御壁と矢盾が破られるのを無抵抗に待つだけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

『よし。そろそろ村は粗方壊せただろう。後方部隊はそのまま攻撃を継続しろ! 前方部隊は俺に続き村へと進軍する!
 村に到着次第俺の合図と共に後方部隊は攻撃を中止し、村へと侵攻しろ!』

 ラドウィグの念話魔法による指示と共に、部隊が村へと行進を開始した。

『ラドウィグ様、村に着いたらいかがなさいますか?』

 ラドウィグの横を歩くダークエルフが、ラドウィグに向かってこの後の作戦について尋ねる。

『これだけの戦力を見せつければ、奴らも戦意を喪失しているだろう。
 現に反撃が全くない。今頃防壁の影で震えているだろう。
 ここまでやれば流石の親父やセイビアも、大人しく俺達に従うはずだ』

 完璧な作戦だと言わんばかりに、ラドウィグが「ククク」と笑みを浮かべた。

 昨日はセイビア達に向かって手を下すと豪語したが、あれは村を壊滅させるという意図で、実のところラドウィグにエルフ達を全滅させるつもりはなかった。
 
 この時のためにセイビア達が要塞に再び現れる日を待ち続け、わざわざ事前通告を行った上で進軍に出たのだ。
 以前セイビア達を要塞に招いた時は、対話にもならず森へ帰ってしまった。
 ゆえにラドウィグはエルフ達を殺さず村だけを破壊し、自分達に従わせようという作戦を立てたのだった。
 現に隊の後ろには、負傷者が出た場合のためにちゃっかり治療の要員を引き連れていた。 

(これで全てのエルフが俺の要塞に加われば、最強のエルヴン王国が完成する。
 奴らは野蛮だの魔に堕ちたなどとのたまわっているが、異種族に蔑まれるよりよっぽど良い。
 それを奴らは俺の崇高な理念に理解を示さないだけでなく、あろうことか人間の冒険者などに頼りやがって。
 奴が騎士だぁ? あんな虫けらにも劣る人間が騎士であってたまるか!
 どうせあのペテン師の上手い口車や幻術か何かで騙されているに決まっている! 今までもそうやってエルフは異種族に騙され、出し抜かれ、裏切られ、棲み家を奪われてきたんだ……!
 そして今度はよりによって俺の可愛い妹を、セイビアをよくも惑わしやがって……!)

 ラドウィグはわなわなと身を震わせ、エルフ族の統一化に向けて固い決意を胸に燃やした。

『……ドン、ドン、ドン、ドン』

 すると突然、何やら物を叩くような音がダークエルフ達の脳内に鳴り響く。

『何だ? 誰か合図を送ったか?』

 ラドウィグがダークエルフ達に確認するが、誰も心当たりが無いらしく首を傾げている。

 その時だったーー
 

「ギャーーーーーン!!!」

 突然謎の騒音が辺り一面に響き渡り、森をビリビリと揺らした。

「なんだ今の音は!?」

 今まで耳にしたこともない音に、ダークエルフ達がうろたえる。
 それまで絶えず矢を射続けていた者達も、思わず攻撃の手を止めた。

「クッ……! 奴らめ何か奥の手を隠していたか!? 全軍村へと急げ!」

 正体不明の爆音に、ラドウィグ達は急いで村へと走った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ギャーーーーーン!!!」

「な、なんだ!?」

「これは一体何の音だ!」

 金重が大音量でギターをかき鳴らすと、先程まで穏やかに最期を迎えようとしていたエルフ達がまるで目覚まし時計でも鳴ったかのように、一斉に顔を上げた。
 そして音の方に視線を向けると、そこには先程までの穏やかな音色とは全く異なる爆音で、金重がギターを鳴らしていた。
 その横では響子も同じく大音量の重低音で演奏に加わり始めた。

 一方奏太はというと一人目を閉じながら、楽器を弾かずに何やら一定のリズムで頭を揺らしていたーー


~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数分前、奏太達は響子の指示に従って曲の確認作業を行っていた。

「奏太さん、そこ違います! 」

「む、むむむ……」

  楽譜があるならまだしも、聴いたことのない曲を短時間で覚えるという作業に、奏太は手こずっていた。

「ああもう! そこはブリッジミュートです! 師匠もそこのリフちょっと違います!」

「こ、細かいでござるよ~」

 その場で合わせるというのに、響子はセッ◯ス・ピストルズの演奏に一切の妥協も許さなかった。

 や、やっぱりこの作戦も失敗だったかもしれない……。

 響子のアイデアは良かったが、響子の求めるものが到底今すぐにできるものではなく、奏太と金重の中でまたもや諦めムードが出始める。

「むぅ~……。私の脳内再生が伝わればいいのですが……」

 バンドマンならば誰しもが一度は思ったことのある妄想を口にする。
 頭の中で曲のイメージはできていても、それをメンバーに伝えるのが結構難しい。
 ん? 待てよーー

「響子さん、ためしに今脳内再生している状態で念話魔法を使ってもらっていいですか?」

 頭でイメージした言葉をそのままの声で伝えられるのだから、ひょっとしたら頭の中の曲も伝えられるかもしれない!

 奏太がダメ元で響子にお願いしてみる。

「ためしてみますね! んんんーっ……」

 響子が眉間にシワを寄せながら、曲のイメージを奏太と金重に送る。するとーー

『……ドン、ドン、ドン、ドン、ジャジャーン!』

 3人の頭の中に、原曲そのままの音が鳴り響いた。

「おお! 知らない曲が脳内再生されてる!」

「これならすぐに耳コピ、ならぬ脳コピできるでござる!」

「本当ですか!? じゃあこのまま続けますね!」

 奏太と金重の反応に響子が喜ぶ。

「あれ、だけどこれ……。俺達ドラムレスだしわざわざ3人で演奏しなくても、原曲の脳内再生をそのままダークエルフ達に送ればいいんじゃないか?」

 完璧な音源を相手に聴かせられるし、曲を覚える手間も省けるから一石二鳥じゃん!
 
 脳内再生が相手に伝わると分かれば、これを使わない手はない。
 奏太が名案を思いついたと言わんばかりに、響子と金重に提案する。するとーー


「何言っているんですか奏太さん! もちろん原曲も素晴らしいですが、ロックはその場で演奏して音を伝えることに意味があるんです!」

「奏太殿、さすがにその発想はバンドマンとして失格でござるよ……」

 響子が奏太の提案に立腹し、金重までもが厳しい言葉を投げ掛ける。

「え、ええ~……。俺はただ単にこの状況を打開する最善策を……」

 2人の雰囲気にしり込みしながら、奏太が必死に弁明する。
 だがそれも響子にとっては焼け石に水だった。

「見損ないました! 奏太さんはロックに熱い人だと思っていたのに!
 もう演奏は私と師匠だけでやりますので、奏太さんは念話魔法でドラムでも流しててください!」

「それは名案でござる! この曲ならギターは1本で事足りるでござる!」

「え!? 俺だけ手ぶらで脳内再生!? しかもドラムを!?」


 急に2人から仲間はずれを食らい、奏太は頭の中で「やってしまった……」と後悔の念を浮かべた。
 確かに曲を流すだけの簡単なお仕事なら、この世に生ライブは不要だ。
 ギルドで蓄音箱を買った者達も、奏太達に生演奏を所望していた。
 それほど実際の演奏を観客に披露するというのは、特にロックの世界では大きな意味合いを持つのだ。
 そんな事は奏太も重々分かっていたはずだったが、窮地に追い込まれた状況で効率ばかりを重視してしまった。
 いや本来ならば自分達の命に加え、エルフ達の命運も背負っている状況では、奏太の判断は何も間違っていなかった。

 だが演奏を捨てる事は、ロックンロールの魂を捨てるに等しい。
 ロックンロールに全てを賭けてここまでやってきた以上、自分達の演奏で音楽を届けるという道を、最後まで捨ててはいけなかった。
 

~~~~~~~~~~~

 ああ、俺はなんてバカな提案をしてしまったんだ……。

 奏太は自分の浅い考えを後悔しながら、仲間の演奏に合わせて一人脳内でドラムパートを再生し続けたーー



※次回は1日に2話分の投稿となります。

前半:7時
後半:21時
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