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2章
2A-ラッパー&ロッカー
しおりを挟む「そうかぁ~、お姫様は城に戻されちまったか……」
永吉が残念そうに呟いた。
城での話し合いの後、奏太達は永吉の店へ今後について相談しに訪れていた。
「でもまあ、一度受けた依頼は最後まで引き受けるのが職人の勤めだからな。俺はこのままシンセサイザーを作るぜ」
「俺達もこのままだとスッキリしないし、コラグ王国に行ってドワーフ達の誤解を心配する必要はないってことを、国王や総督に示そうと思ってる。
勿論魔晶石の加工の方も依頼してみるよ」
「そいつはナイスだぜYeah!」
店には隆司も仕事で来ていた。タイミングよく、アイバニーゼに頼まれたシンセサイザーの製作に関する打ち合わせだったらしい。
「この仕打ちはシット!ヒデェぜマジで!蓄音箱がBan!? Booo!
権力者の嫉妬ダセェぜ恥じれ!ゴミ箱にBoom! Hooo!
だけど今は沈んでも仕方がねえ。
状況は逆境。味方は少ねえが、音楽フェスで最高のラスト目指して、それぞれの役目果たそうぜYeah!」
どうやら隆司も自分が作った蓄音箱の販売禁止には不満らしく、奏太達と音楽祭で嫌疑を晴らそうと張り切っている。
「コラグ王国には何度か行商で行ったことがあります。
転送魔法で行きやすくなったので、丁度これからコラグ王国で顧客を増やそうと思っていたところでしたし、私でよければ皆さんを案内しますよ」
隆司が仕事モードに切り替わり、奏太達に案内役を買って出た。
「それは助かる。でも折角録音してもらった蓄音箱が売れなくなっちゃって、なんだか悪いな……」
奏太達も流石に慣れたのか、突然のキャラ変更にも動じることなく、普通に応じている。
奏太はお礼を述べつつ、自分達の行動が隆司の仕事にまで影響を及ぼしてしまったことを謝罪した。
「大丈夫ですよ。国も国外での販売まで取り締まることはできませんので」
だが当の隆司は気にする様子もなく平然と答える。
規制の目をかいくぐる手法で商売を続行するつもりらしい。
そのたまげた商売根性に奏太達は面食らう。
「では早速コラグ王国へ向かいましょう。
教会の転送費用につきましてはご心配なく。
私が皆さんの分も立て替えて、シンセサイザーの代金に上乗せしておきますので」
どこまでもしたたかな商売人だな……。
奏太は若干呆れつつも、隆司にしたがってコラグ王国へと出発したーー
「ーーなぁ隆司、音楽祭まではあとどれくらいなんだ?」
城に向かう道中、奏太は歩きながら音楽祭について質問を投げ掛けた。
「フェスの日取りは今から3週間後ってとこだYo! とはいってもこの世界の暦にウィークの概念はないけどな!」
「20日ってとこか……となると早急に準備に取りかからないとな」
楽器の事だけではなく、楽曲の練習も進めないといけない。
今までに何曲かバンドで合わせてきたが、音楽祭で入選を狙うとなれば、本格的な練習が必要になる。皆音楽の実力は申し分ないから、なんとか間に合うだろうけどーー
「曲は何曲にするでござるか?」
そう。金重の質問にもあるように、問題は曲数だ。
「持ち時間次第だな。隆司は出演者1組あたりの持ち時間がどれくらいか知っているか?」
「1組あたり30分ってところだYo! 転換時間は含まねえ! リハもねえ! ぶっつけ本番ぐーるぐる!」
なんだか今隆司のラップが幾三に聞こえた気がしたが、それは置いといて……大体普通のアマチュアライブイベントでのタイムテーブルと似たようなものか。
「30分ならだいたい5曲ってとこ……かな?」
通常30分の出番時間だと、1曲の演奏時間が短いロックバンドのライブなら、MCを挟みつつ5曲前後演奏するのがセオリーだが、いかんせんこの国の音楽イベントの雰囲気が読めない。
そもそもMCなんて概念が存在する可能性は恐らく低いだろう。
奏太は質問の意味も込めつつ、語尾を上げて隆司に視線を送った。
「音楽隊にもよるが、ほとんどの場合は持ち時間いっぱいで2、3曲ってところだぜ!
だが音楽に関わる発表なら、時間内はどんなプレイを披露してもオーケーだ!」
つまり例はあまりないが、何をやってもいいという事らしい。
ならばロックはロックらしく、ライブ形式でやるのがベストだろう。
「隆司は楽曲の希望はあるか? とはいってもそもそもロックは好みじゃないかもしれないけど……」
一応隆司もやりたい曲を確認しておく。
音楽性は違うかもしれないが、俺達のために折角一緒にやってくれるのだから、せめて隆司も楽しめる曲を1曲は盛り込みたい。
「フェスは『共にエンジョイすること』、それこそに意義がある。ゆえに俺に気遣いは不要! 舞踊! 歌謡! なんでもこいYo!
でも俺のラップが活きる曲があれば、それ俺の気分もイキイキ。ノリノリで張り切ること間違いねえぜYeah!」
まあ要するに何でもいいけど、できたらラップがやりたいってことか。
「ラップが特徴的なロックバンドとなると、ミクスチャーロックか……。レイジ・アゲ○ンスト・ザ・マシーン、レッド・ホ◯ト・チリ・ペッパーズ、リ◯キン・パーク……」
「Oh! 後ろの2つは俺も聴いたことあるぜ!」
≪ミクスチャーロックとは、90年代頃から北米を中心にヒットしたオルタナティヴ・ロックに属するジャンルの一つ。ロックサウンドにラップを乗せたものがその主なスタイル。
ミクスチャーロックという呼称は日本でのみ通用する言葉で、海外では主にラップロック/ラップメタルと呼ばれる。
日本でもヒップホップの人気が高まると共に、数多くのロックバンドがラップをバンドに取り入れた。
ひと口にミクスチャーロックとはいってもラップ以外の音楽性は様々で、重厚なメタルサウンドにラップを織り混ぜたバンドや、ほぼレゲエと遜色ないロックバンド、疾走感溢れるパンク/ハードコアサウンドにラッパーを交えたバンド等、その表現は多岐にわたる。
その中でも隆司が食い付いたバンドの1つ、レッド・ホ◯ト・チリ・ペッパーズはラップ、ファンク、ハードコアといった多様な音楽ジャンルを融合させたバンドとして、世界的にも高い人気を誇る。
日本の音楽フェスにもヘッドライナーとして複数回出演しており、邦画の主題歌に起用されたこともあり、その名はロックバンドを聴く者なら誰しも1度は耳にしたことのある、モンスター・ロックバンドだ。
また同じくリ◯キン・パーク。彼らはメンバーにラッパーやDJを携えたラップメタルバンド(本人達はこの呼称を拒否している)。ヘヴィなサウンドに多彩な電子音やシャウト、ラップを織り交ぜ、その人気ぶりは『21世紀において世界で最も売れたバンドの1つ』と称される。
特にラッパーのマ◯ク・シノダは日系人ということも相まって、日本でも熱狂的なバンドのファンが数多くいる。≫
「名前は私も聞いたことありますね。あまり好みではありませんでしたが……」
「小生もレッ◯リのフリーは知っているでござるが、曲はそこまで詳しくないでござる」
どうやら響子と金重は、その『名前は聞いたことあるけどあんまり知らない』層に分類されるらしい。
「え!? 学校で好きな人とか居なかったの!? 俺は結構聴いたけどなぁ~」
両者のバンド共に全盛期を過ぎたとは言っても、かつて一世を風靡したバンドだけに、奏太は2人の反応に驚く。
「私の好みは70年代パンクですからぁ~……。それに周りの洋楽バンド好きの子達も、ちょっと昔のバンドっていう感じでハマっている子はあまりいませんでした。
あの子達になんとかセッ◯ス・ピストルズを布教しようと試みたのですが……ぬぬぬ」
「小生は学校には行ってなかったでござる」
どうやら2人共、あまり触れる機会はなかったようだ。
ていうか金重、不登校だったのかよ……。
金重の衝撃的な事実も気になったが、サラッと告げられた言葉に、奏太は深く気に留めるのも野暮だと思い、この場はバンドの事に意識を戻した。
ここはどちらのバンドにしようか……。
奏太は腕を組ながら、選択すべきバンドについて深く考え込んだーー
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