補綴師（ほてつし）

第一章 蛹化

エピテーゼ Ver.2.0

　自分の部屋に戻った俺は、反省点を生かす為に、エピテーゼを最初から作り直す事にした。

　俺は首から膝までを一体化させたマネキンのような等身大のトルソーを新たに作り、乳房やお尻を部分ごとに造形する事をやめ、全体のバランスを確認しながらエピテーゼを作製する事にした。

　俺は乳房をボリュームダウンさせる為に、新たな型を作製しようとしたが、エピテーゼの中に注入する生理食塩水の量で、乳房のボリュームが変化する事に気が付いた。

　乳房のエピテーゼは、中に注入する生理食塩水の量で、ＡカップからＨカップまで、自在にカップのサイズを変更する事が出来た。

　ただ、Ｅカップ以上の大きさにすると二次元のキャラっぽくなり、逆に、Ｂカップ以下の大きさにすると老婆のような印象となってしまった。

　また、Ｄカップの大きさにした乳房には不自然さはないものの、母乳で乳房が張っている出産直後の女性のような印象となった。

　俺は乳房が最も自然に見えるＣカップの大きさに生理食塩水の量を調整し、乳頭や乳輪の色を濃く着色した。

　乳房の張りがなくなり、乳首の色が濃くなった事で、俺の裸体の印象は、発育途上の少女から適齢期の女性に変わっていた。

　続けて俺は、お尻のエピテーゼを作り直すことにした。

　俺はお尻だけを大きく丸くしていたが、男女のお尻の形状の違いは、思いのほか広範囲で、最も肉厚に成形した部分は、意外にも背中とお尻との境だった。

　女性のお尻は、背中からなだらかなラインで繋がっていて、男性のようにお尻だけが飛び出た形状をしていなかった。

　結果的に、お尻のエピテーゼは、背中から膝の辺りまでを覆う大きさになったが、俺の下半身は滑らかなラインとなり、女らしさは格段にアップしていて、乳房のエピテーゼを装着しなくても、俺の見た目は女になっていた。

　俺は男女の体の決定的な違いが、乳房ではなく骨盤の形状だと知った。

　そして、俺は男モードで背の高い女性をナンパし、ナンパした女性の陰毛を剃って、女性器の型を取らせて貰った。

　俺が背の高い女性を狙った理由は、乳房の形状でミスをしていたからで、自分と身長が近い女性の方が、女性器の形状も違和感がないと判断したからだ。

　俺は股間にエピテーゼを貼る為に陰毛を剃っていて、俺の股間を見た女性の中には、自ら陰毛を処理したいと言い出す女性もいた。

　意外な事に、乳房の型を取るよりも女性器の型を取る交渉の方が容易だった。

　それは、１０年ほど前に４００人分の女性器の型を並べた芸術作品が、イギリスで話題になった事が、有効な説得材料となっていた。

　また、俺は全体のプロポーションの参考の為に、女性たちの裸の立ち姿を撮影させて貰い、女性器の着色の参考に、彼女たちの女性器のアップも撮影していた。

　女性たちは、顔さえ隠せば、どんなに恥ずかしい部位であっても撮影を拒否しなかった。

　直立した姿勢の女性たちの裸体を見た俺は、意外な事に、彼女たちの裸体が女らしくないと感じていた。

　普段から目にしているグラビアの女性たちは女らしいポーズをしていて、その姿勢が女らしさを増幅していた。

　考えてみれば、女装中の俺も女らしい姿勢を心掛けていて、エピテーゼを装着しなくても女らしい印象を与えていた。

　俺は改めて、女らしい姿勢や仕草の重要性に気が付いた。

　一週間で五人分の女性器のサンプルを集めた俺は、股間のエピテーゼのバージョンアップに取り掛かった。

　収集した女性器の形状は人それぞれで、特に小陰唇の形状は全く異なっており、副皮自体がない女性もいて、結果的に、身長と女性器の形状は無関係だと分かった。

　俺は多くの女性と肉体関係を持っていたが、女性器をまじまじと観察した事がなく、五人の女性の中には、陰裂から陰核包皮と小陰唇がはみ出ている人もいて、裸を露出するには女性器を完全再現する必要があると再認識した。

　俺は５種類の女性器の中から、最後にナンパした女性の女性器を採用する事に決めていた。

　５人目の女性はロシア人とのハーフで、俺と身長が同じだっただけではなく、俺が理想としている体型をしていたので、これ以上のサンプル収集は必要ないと思ったからだ。

　俺は彼女にお願いして、女性器だけではなく、下半身全体の型を取らせてもらった。

　俺は本物の女性器を元に作成したエピテーゼを股間に貼り付ける事にした。

　エピテーゼを貼る時は、型を取った時と同じ体勢になる必要があり、俺は接着剤が硬化するまで、股を大きく開き仰向けに寝た姿勢でいなければならなかった。

　俺が接着剤の硬化を待ち股を閉じてみると、陰裂からは陰核包皮の根元が見えていて、少し脚を開くと、女性器のモデルとなった女性と同様に、陰核包皮だけではなく小陰唇がチラ見えしていた。

　俺は本物の女性器の画像を参考にして、大陰唇を濃い色に、陰核包皮や小陰唇を薄い色に着色し、小陰唇の内側をクリア塗装して湿っている質感も再現した。

　新しい股間のエピテーゼは、女性器のシワだけではなく、陰毛の剃り跡まで再現されていたので、リアルさが増していた。

　また、俺は睾丸の収納場所も変更していて、以前は、睾丸の位置を女性の恥丘にあたる部分に移動させていたが、新しいエピテーゼでは、通常の状態の睾丸を大陰唇の膨らみで包む仕様にしていた。

　その仕様変更により、大きく膨らみ「盛りマン」になっていた恥丘が、自然な膨らみとなり、より本物の女性に近付いていて、大陰唇を薄くした事により、触った感触も本物の女性器に近付いていた。

　本物の女性の大陰唇は柔らかく、乳房と同様にシリコン樹脂では、その柔らかさを再現できなかったが、薄くした大陰唇で陰嚢を包むことで、本物の感触を再現する事が出来た。

　女性器のエピテーゼは、見た目だけではなく感触も本物に近かったが、陰核と小陰唇は乳頭と同様に、女性が興奮した時の「コリコリ」とした硬さになっていた。

　そして、俺は撮影した裸の女性たちの画像と、女体化した自分の裸の画像をパソコンに取り込み、それぞれを重ね合わせてみた。

　男と女とでは骨格が違っていたので、俺の女体は誰とも一致しなかったが、それは、本物の女性同士も同じ状況だったので、俺の体型の違いは「個性」の範囲内にあるように思われた。

　ただ、俺のへそは、どの女性よりも高い位置にある事に気が付いた。

　俺は意外な部分に男女差がある事に驚いたが、下腹部の形状も違っていたので、お腹の膨らみもエピテーゼで再現する事にした。

　俺は五人目の女性から取った下半身の型から、下腹部の膨らみとへその型を取り、自分の体から取った型に張り付けてみた。

　すると「お尻や骨盤の形状」と「下腹部の膨らみの形状」のバランスが悪い事に気が付いた。

　俺はお尻や骨盤の形状も、その女性の下半身の型から造形し直す事になってしまった。

　結果的に、俺のエピテーゼは、手や顔以外のパーツを、本物の女性からコピーした物となった。

　俺は女性らしいへその位置と、女性特有のぽっこりとした下腹部の膨らみを手に入れただけではなく、女性の体の僅かな凹凸も手に入れていて、リアルさが更に増していた…。