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しおりを挟む時刻はとっくに深夜を過ぎて、さすがに廊下は静まっていた。
とはいえ巡回すれば室内から時たま小さく笑い声が聞こえたりして、どうやらまだ寝ていない生徒がいるらしい。
早く寝ろと叱りに行きたいところだが、まあ外へ出ているわけでもないし修学旅行中ということで仕方なく見逃してやる。
ソファに腰掛け本でも読みながら時間を潰そうと思ったが、仮眠もいまいち寝付けなかったせいで今になって眠気が襲ってくる。
寝たらまずいと言い聞かせていたら、不意に階段の方からヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
耳を澄ませてみれば、おそらく数人の男子の声。
どうやら監視の目をくぐり抜けた奴がいたらしい。
部屋に戻ろうとしているらしいが、俺がいるせいで戻れないのだろう。
まだバレてないと思っているらしいが、残念ながらバレバレだ。
日頃から無駄に悪口言われているせいか、俺の耳はしっかり地獄耳に出来ている。
「おいお前ら、何をしている」
「うわあっ」
仁王立ちで隠れてる生徒の前へ出てやると、幽霊でも見たような顔で思いきり悲鳴をあげられた。
見てみれば人数は5人で、これは一室揃って抜け出ていたらしい。
一先ず全員その場で正座させて廊下で説教をする。
何をしていたのか事情を聞くと、女子部屋で遊んでいたのだとか。
こんな時間まで年頃の男女が一緒の部屋で遊んでいるとか、高校生にあるまじき行為だ。
修学旅行で浮ついているにしても、さすがにこれは見過ごせない。
とりあえず修学旅行後にしっかり反省文を書かせるとして、俺は見慣れた顔に目を止めた。
「…で、なぜお前も一緒にいる」
「いやーそりゃ俺も同室ですし」
「俺はお前に見回りをしていると伝えただろう」
「あー…はは、そうなんすけど。でも修学旅行の夜なんで盛り上がっちゃって」
七海は明らかにまずい、という顔を浮かべながら苦く笑う。
つまりコイツは、俺の言葉をいい加減に聞いていたということか。
苛立ちの中にどこか気落ちする気持ちが混ざり、同時に心の中で納得する結論が出る。
コイツがいくら断っても俺を諦めないと言ってくる理由が分かった。
つまり俺の言葉など、コイツはなんとも思っていないのだろう。
なんだか今まで必死に考えていたことが一気に馬鹿らしくなり、俺は小さく息を吐いた。
「…もういい。お前ら部屋に戻れ」
サッと七海から視線を逸らして告げる。
あからさまにホッとしたように他の生徒は顔を見合わせた。
説教を終え、部屋へ向かう生徒を後ろからしっかり見守りながら歩く。
ちゃんと部屋に入る姿を見届けないことには安心出来ない。
「あ、えっと…みーちゃ――」
生徒から少し下がり、こっそり俺に何か言いかけてきた七海をギロリと睨む。
沸々と込み上げる気持ちが、俺から冷静さを奪っていく。
「うるさい。俺は適当なことを言うフザけた奴が一番嫌いだ」
今はコイツの顔なんか見たくなかった。
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