ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

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 ジリジリと太陽が照りつける。
 真夏だろうが夏休みだろうが教師は今日も学校だ。

 夏期講習は特進科と任意で普通科の生徒が受けている。
 普通科は受ける生徒が少なく、毎年やることは大体決まっているので一部だが他学年の指導も任せられている。

「――ひぎゃっ」

 ドスッという鈍い音が響く。
 ビクリと飛び起きた結城が、目にいっぱいの涙を浮かべて俺を見上げる。

「ちょ、眼鏡センセーなにするんすかっ。教科書のカド思いっきり当たりましたよっ。頭割れるかと思った…っ」
「授業中に寝ているのが悪い。お前は俺の授業を受けたことがなかったな」

 頭を抑えている結城に淡々とそう返す。
 今の光景に教室中が騒然とし、弛んでいた教室内に一気に緊張感が走る。

 結城の犠牲で一斉に教科書を見つめ始める生徒の姿にコクリと頷く。
 それでいい。
 夏休み中で通常授業ではないからといって、腑抜けた授業をするつもりはない。

 受験生じゃなかろうが時間は有限だ。
 だらけた態度はさっさと叩き直すに限る。

 結城に恨めしい顔で見られたが、俺は何も間違ってはいない。
 というかコイツは普通科でわざわざ夏期講習を申し込んでいるくせに居眠りとはどういうつもりだ。

 いつも通り授業を終える。
 廊下を歩いていると、結城が追いかけてきた。

「眼鏡センセっ」
「なんだ。謝りに来たのか」
「違いますよっ。むしろ謝ってほしいくらいですよっ。体罰じゃないですかっ」
「何が体罰だ。悪いことをしたら厳しく指導するのは当たり前だろう。嫌なら真面目に授業を受けろ」
「正論すぎて逆にむかつくんですけどっ。訴えますからね。七海先輩にっ」

 そう言われてなぜか言葉に詰まる。

 別に七海に訴えられたところでどうということはない。
 だが他人から名前を聞いただけで変に意識してしまって顔が熱くなる。

 俺の反応を見て取ると、結城は何か含んだようにニッと笑顔を浮かべた。

「眼鏡センセっ、そんなことよりもうすぐ夏祭りがあるの知ってますか?」
「え?…ああ、そういえば」

 学校から近いこともあり、確か生徒指導部でも巡回令が出ていた。
 
「センセー達ってよく夏祭り巡回してますよね。カミヤンも来ます?」
「アイツは生徒指導部じゃないから来ない。なぜだ」
「えー、そこをなんとか連れてきて下さいよっ」
「無理だ。俺がアイツを祭りになど誘って変に勘違いされたらどうする」
「ナチュラルに好かれてる発言むかつくんですけどっ。訴えますよ、七海先輩に」

 そう言われてまたしてもドキリと心臓が跳ねる。
 が、ハッと気付く。

 このクソガキ。
 七海を引き合いに出せば何を言っても怒られないとか思い始めているな。

「俺七海先輩誘うんで、なんとかカミヤン連れてきて下さいよっ。向こうで少しでも会えたら良い思い出になるでしょ?」
「だから無理だと…」
「えー?七海先輩とか大人気だからお祭りきっと他の女子に誘われちゃいますよ。いいんですか?」

 どこか心配そうな面持ちで小首を傾げる結城に、グッと言葉が詰まる。

 それは嫌だ。
 
 すんなりと落ちて来た気持ちに何より自分が驚く。
 馬鹿か俺は。
 嫌だからなんだというんだ。
 俺にとって夏祭りは遊びじゃないし、ただ教師としての仕事を果たすだけだ。

「ほんと面白いくらい効くなぁ。じゃあ、そういうことで。お互い協力していきましょー」
「い、いや無理だと言っているだろう」
「…まぁ確かにカミヤンが変に勘違いするのは俺も困るんだけど」

 そう言って結城は考えるように人差し指を顎に当てる。
 
「でも少しでも好きな人と一緒にいたいんですよね。気持ちがないのは今更なんで」

 どこか切なげに笑った表情は作り物ではなくて、それ以上何も返すことが出来なかった。
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