2 / 24
寺生まれなので肝試しに付き合わされました。
夏休みの、とある日の夕方のことだった。
夕飯前だというのに、厄介な闖入者が現れた。
「おーいゼンショー、肝試し行こーぜー」
幼馴染の加藤卓也である。
水泳部で毎日泳いでるせいか、真っ黒に日焼けしていて、歯だけが白く浮いて見える。
インターホンで呼び出され、無防備に開けるのではなかった。扉を開けてしまったことをすぐさま後悔した。
いくら腕に覚えがあろうが、力づくで追い返す訳にもいかない相手もいるのだ。
◆◇◆
「断る」
取り付く島もなく扉を閉めようとしたら。
卓也は戸に足を挟ませて阻止してきた。
それで前回痛い思いをしたので、これを想定して今日はサンダルではなく、運動靴で来たようだ。小癪な。
「いーじゃん、ちょっとだけ! ちょびっとお話をするだけだからー!」
何本かの腕が、戸の隙間からわらわらと侵入し、こちらに手を伸ばしてくる光景。
それはちょっとしたホラーのようだった。
「しつこいぞお前ら、悪質なセールスか!」
よく見れば、クラスの連中も数人集まっていた。
卓也と同じ水泳部の鈴木と前田。比較的常識のあるやつだと思っていた岡田までいる。
皆、無理矢理卓也に付き合わされたのだろうが。
この蒸し暑い中、うちの寺の百段以上ある石段を登ってわざわざ肝試しとは。ご苦労なことだ。
「だってゼンショーが来ねーと盛り上がんないもん。な?」
と鈴木。
「なんたって、寺生まれのTさんだしな」
前田は、また訳のわからないことを言っている。
「未来の住職がいてくれれば心強いよな」
岡田。
俺は次男だし、寺は継がない。継ぐのは兄である。
将来坊主になるなど誰も言ってない。俺は手堅く、公務員志望なのだから。
だいたい、うちは禅寺なので、住職ではない。和尚である。
「な~、一緒に来てくれよ~、ゼンショー~」
俺の腕にすがりついている、妖怪のようなこれは、卓也だ。
◆◇◆
寺生まれだから、何だというのだ。
ネットで噂だという寺生まれのTさんとやらはどんな怪異も「破ぁーーーーー!!」で片づけるゴーストバスターらしいが。
霊なんて非科学的なモノはこの世に存在しないし、生まれてこのかた、見たこともない。
俺の名前は高槻善正であって、ゼンショーなどという坊主っぽい読み方はしない。
我が禅正寺は、江戸時代より前からあるという、由緒正しい禅寺なのだ。
通夜と葬式で経文をあげ。
火葬の前にも、納骨でも経文を上げ、成仏を祈っているのに。
四十九日でもないのに未だ成仏されてない仏様が墓場をさまよっていたら、それこそ寺としてアウトではないか。成仏できていないことになるのだから。
うちは禅寺ではあるが。
本殿に安置されている秘仏がたいそう霊験あらたかで。善なる願いであるなら、ほぼ叶えて下さる、という妙な噂が立っている。
そんなわけで、年末年始ならずとも参拝者が引きも切らず訪れる寺なのである。
これ以上おかしな噂でも流されたら困る。寺子が過労死待ったなしだ。
「あらいらっしゃい卓ちゃん。……善正、付き合ってあげなさいよ。こうしてお友達もいらしてることだし」
母のとりなしに、卓也は満面の笑顔で応えた。
「あ、ゼンママこんばんは~お邪魔してます~」
略すな。
俺の名前はゼンショーではないと、何度言ったらわかるのだ。
母は卓也を気に入っている。
顔はかわいらしいし、愛想もいいからな。
兄の忠正も、自分と身長が変わらないようなでかくて可愛げのない弟より、中学校よりほとんど背の伸びてない、コンパクトサイズな卓也を可愛がっているのだ。
前方にも後方にも味方はなし。
もはや孤立無援、四面楚歌である。
面倒だが。俺としては大変不本意であるのだが。
仕方がないので、肝試しとやらに付き合ってやることにする。
愛用の頭陀袋に蝋燭やライター、応急セットなどを適当に突っ込んで。
雪駄を引っ掛け、玄関を出た。
◆◇◆
「戻ってきたら冷たいジュース出すから、寄ってってね~」
母が玄関先から手を振っている。
もてなさなくていい。
こんなやつら、水道水で充分である。
井戸もあるにはあるが、飲料不可なのでさすがに人には出せない。
「わーい、ありがとうございまーす!」
見事に合唱した。
一字一句被るとは、仲が良すぎだ。
肝試しは、うちの墓場を抜け、薮の向こうにある石碑を見て、また墓場を抜けて戻ってくる、というコースらしい。
石碑は、代々うちの敷地にあるものらしいが。
謎の模様が描かれているだけで、謂れなどは不明だ。お陰でミステリースポットにされている。迷惑この上ない。
「おまえら薮に入るというのに、Tシャツに短パンで来るとは何事だ。ヤブ蚊に食われるぞ」
皆に虫除けスプレーをかけてやる。
アルコールにアレルギーが無いのは確認済みである。
「何だかんだ言って、親切な寺生まれのTさんです。虫除けスプレーかけてくれましたー」
ハンディカメラを向けられた。
卓也がお年玉を貯めて、ようやく手に入れたと自慢していたデジタルカメラである。
「おい、何を撮ってる」
カメラを別方向に向けさせる。
誰が寺生まれのTさんだ。
確かに実家は寺で、苗字はTAKATSUKI、間違ってはいないのだが、間違ってる。
「肝試し、動画配信しようと思って」
卓也はまあまあ可愛い顔しているせいか、顔出しで配信している動画も、そこそこ人気があるらしい。
「プライバシー及び肖像権侵害だ」
「大丈夫だって、ちゃんと目線入れるし! 個人情報は出さねーから!」
などと言うが。
肝試しの会場はうちの寺の敷地内である。
前の配信で、住んでる場所バレをしていた、と記憶しているが。
大丈夫な要素はどこにあるのだろう。
個人情報とは何か、小一時間説教しないといけないな。
夕飯前だというのに、厄介な闖入者が現れた。
「おーいゼンショー、肝試し行こーぜー」
幼馴染の加藤卓也である。
水泳部で毎日泳いでるせいか、真っ黒に日焼けしていて、歯だけが白く浮いて見える。
インターホンで呼び出され、無防備に開けるのではなかった。扉を開けてしまったことをすぐさま後悔した。
いくら腕に覚えがあろうが、力づくで追い返す訳にもいかない相手もいるのだ。
◆◇◆
「断る」
取り付く島もなく扉を閉めようとしたら。
卓也は戸に足を挟ませて阻止してきた。
それで前回痛い思いをしたので、これを想定して今日はサンダルではなく、運動靴で来たようだ。小癪な。
「いーじゃん、ちょっとだけ! ちょびっとお話をするだけだからー!」
何本かの腕が、戸の隙間からわらわらと侵入し、こちらに手を伸ばしてくる光景。
それはちょっとしたホラーのようだった。
「しつこいぞお前ら、悪質なセールスか!」
よく見れば、クラスの連中も数人集まっていた。
卓也と同じ水泳部の鈴木と前田。比較的常識のあるやつだと思っていた岡田までいる。
皆、無理矢理卓也に付き合わされたのだろうが。
この蒸し暑い中、うちの寺の百段以上ある石段を登ってわざわざ肝試しとは。ご苦労なことだ。
「だってゼンショーが来ねーと盛り上がんないもん。な?」
と鈴木。
「なんたって、寺生まれのTさんだしな」
前田は、また訳のわからないことを言っている。
「未来の住職がいてくれれば心強いよな」
岡田。
俺は次男だし、寺は継がない。継ぐのは兄である。
将来坊主になるなど誰も言ってない。俺は手堅く、公務員志望なのだから。
だいたい、うちは禅寺なので、住職ではない。和尚である。
「な~、一緒に来てくれよ~、ゼンショー~」
俺の腕にすがりついている、妖怪のようなこれは、卓也だ。
◆◇◆
寺生まれだから、何だというのだ。
ネットで噂だという寺生まれのTさんとやらはどんな怪異も「破ぁーーーーー!!」で片づけるゴーストバスターらしいが。
霊なんて非科学的なモノはこの世に存在しないし、生まれてこのかた、見たこともない。
俺の名前は高槻善正であって、ゼンショーなどという坊主っぽい読み方はしない。
我が禅正寺は、江戸時代より前からあるという、由緒正しい禅寺なのだ。
通夜と葬式で経文をあげ。
火葬の前にも、納骨でも経文を上げ、成仏を祈っているのに。
四十九日でもないのに未だ成仏されてない仏様が墓場をさまよっていたら、それこそ寺としてアウトではないか。成仏できていないことになるのだから。
うちは禅寺ではあるが。
本殿に安置されている秘仏がたいそう霊験あらたかで。善なる願いであるなら、ほぼ叶えて下さる、という妙な噂が立っている。
そんなわけで、年末年始ならずとも参拝者が引きも切らず訪れる寺なのである。
これ以上おかしな噂でも流されたら困る。寺子が過労死待ったなしだ。
「あらいらっしゃい卓ちゃん。……善正、付き合ってあげなさいよ。こうしてお友達もいらしてることだし」
母のとりなしに、卓也は満面の笑顔で応えた。
「あ、ゼンママこんばんは~お邪魔してます~」
略すな。
俺の名前はゼンショーではないと、何度言ったらわかるのだ。
母は卓也を気に入っている。
顔はかわいらしいし、愛想もいいからな。
兄の忠正も、自分と身長が変わらないようなでかくて可愛げのない弟より、中学校よりほとんど背の伸びてない、コンパクトサイズな卓也を可愛がっているのだ。
前方にも後方にも味方はなし。
もはや孤立無援、四面楚歌である。
面倒だが。俺としては大変不本意であるのだが。
仕方がないので、肝試しとやらに付き合ってやることにする。
愛用の頭陀袋に蝋燭やライター、応急セットなどを適当に突っ込んで。
雪駄を引っ掛け、玄関を出た。
◆◇◆
「戻ってきたら冷たいジュース出すから、寄ってってね~」
母が玄関先から手を振っている。
もてなさなくていい。
こんなやつら、水道水で充分である。
井戸もあるにはあるが、飲料不可なのでさすがに人には出せない。
「わーい、ありがとうございまーす!」
見事に合唱した。
一字一句被るとは、仲が良すぎだ。
肝試しは、うちの墓場を抜け、薮の向こうにある石碑を見て、また墓場を抜けて戻ってくる、というコースらしい。
石碑は、代々うちの敷地にあるものらしいが。
謎の模様が描かれているだけで、謂れなどは不明だ。お陰でミステリースポットにされている。迷惑この上ない。
「おまえら薮に入るというのに、Tシャツに短パンで来るとは何事だ。ヤブ蚊に食われるぞ」
皆に虫除けスプレーをかけてやる。
アルコールにアレルギーが無いのは確認済みである。
「何だかんだ言って、親切な寺生まれのTさんです。虫除けスプレーかけてくれましたー」
ハンディカメラを向けられた。
卓也がお年玉を貯めて、ようやく手に入れたと自慢していたデジタルカメラである。
「おい、何を撮ってる」
カメラを別方向に向けさせる。
誰が寺生まれのTさんだ。
確かに実家は寺で、苗字はTAKATSUKI、間違ってはいないのだが、間違ってる。
「肝試し、動画配信しようと思って」
卓也はまあまあ可愛い顔しているせいか、顔出しで配信している動画も、そこそこ人気があるらしい。
「プライバシー及び肖像権侵害だ」
「大丈夫だって、ちゃんと目線入れるし! 個人情報は出さねーから!」
などと言うが。
肝試しの会場はうちの寺の敷地内である。
前の配信で、住んでる場所バレをしていた、と記憶しているが。
大丈夫な要素はどこにあるのだろう。
個人情報とは何か、小一時間説教しないといけないな。
あなたにおすすめの小説
家に帰ったら、妻は冷たくなっていた。突然シングルファザーになった勇者パーティーの治癒師は家族を修復したい
八朔バニラ
ファンタジー
勇者パーティーに所属し、魔王討伐した治癒師(ヒーラー)のゼノスは街の人々の歓声に包まれながら、3年ぶりに家に帰った。家族が出迎えてくれると思ったが、誰も出迎えてくれない。ゼノスは不満に思いながら家に入ると、妻の身体は冷たくなっていた。15歳の長男ルミナスはゼノスの代わりに一家の柱として妹を守り抜き、父に深い拒絶のこもった瞳を向けていた。そして、8歳の長女ミリアは父の顔も忘れていた。
ゼノスは決意する。英雄の肩書きを捨て、一人の不器用な父親として、バラバラになった家族の心を繋ぎ合わせることを。
これは世界最強の治癒師が家族を修復する物語である。
陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!