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帰りたくなんか、ありません。
景色が、揺らぐ。
血で描かれた陣が、赤く光っている。
移動魔法が、発動したようだ。
ただでさえ、瀕死なのに。そんな魔法を使ったら。
「嫌だ。……俺は、元の世界になんて、帰りたくなんかない!」
身体から力の抜けているテオを、ぎゅっと抱き締める。
遅くなっていく心音に、ぞっとする。
蘇生魔法。
知る限りの呪文を叫んでも。
テオは、目を開けない。
嘘だろう?
最低、15年の間は。
テオは、死なないはずじゃなかったのか?
◆◇◆
だから、俺は。
別に、元の世界に帰れなくてもいい、と思ったんだ。
お前が生きて、側にいるなら。
それなら、構わないと。
なのに。
死ぬな、テオ。
この人を、死なせないでくれ。
慈悲深き、異世界の女神よ。
天界の尊き方々よ。
どうか。お願いします。
……俺の加護など、必要ありません。
特別な力も。すべてお返しします。
だから。
この人を。
俺の大切な人を。
テオを。助けてください。
光の中。
微笑む天界人の姿を見た、気がした。その姿は。
◆◇◆
「ここは……?」
目の前に、見覚えのある石碑があった。
ここは。
間違いなく、実家の裏山にある石碑だ。
石碑の前には、お供え物がいくつか置かれていた。
茶碗に、これは……本?
見覚えのある表紙。これは、卓也の書いたラノベだ。
濡れないよう、ビニール袋に入っていた。
献本、と書かれた短冊がついている。
これが、ここにある、ということは。
つまり、ここは。
「15年後の世界か!」
『……え、失敗? おかしいな……確かに、元の時間に……、』
テオの声。
「失敗? じゃない。何で勝手に次元移動魔法など……!」
振り返って見ると。
テオの顔色は、元に戻っていた。
今にも死にそうな顔色だったというのに。
……まさか、治ったのか?
『じゃ、一度あっちに戻るから、』
テオは俺の腰を引いた。
「いや、一度じゃない。……人の話を聞け!」
『この碑を、軸にして……、よし、』
石碑が、赤い光を放つ。
よし、じゃない。
人の話を聞けというに。
また、景色が揺らいだ。
◆◇◆
『しまった……見失った、』
焦ったような、テオの声がして。
軽いめまい。
慣れたのか、頭痛はしなかった。
耳鳴りのようなそれは、頭を振ったら治った。
目を開ければ。また、あの石碑の前?
……元の場所に戻ってきたのか?
いや、それにしては。
何か、微妙に違和感があった。
石が、まるで切り出してきたばかりのような状態というか。
妙につるつるしている。
『どういうことなんだ……?』
テオが、真っ青になっていた。
『どうしよう。陣が不安定だったせいか、あっちに戻れなくなってる……!』
「何だって!?」
◆◇◆
地獄界の陣は、崩壊してすでに無くなったか、焦って描いたせいか。それとも血だまりの中だったからか。
崩れてしまっていて、もう、移動魔法陣として役に立たなくなっていたようだ。
城に描いてあったほうも、踏まれて陣が壊れたか何かで使えなくなっているようで。
もう、二度とあちらに戻るすべはない、という。
「……勝手に俺を、元の世界に戻そうとするからだ、馬鹿め」
俺の憎まれ口に。
テオは、しゅんとしたように俯いている。
『……だって。善正、泣いてたじゃん……』
「は?」
俺が?
さっきはそりゃ、泣くに決まってるだろ!
目の前で。テオが、死ぬかと思ったんだぞ!?
『ワルターの胸で、泣いてただろ? ほんとは、こっちに帰りたくてしょうがないの、我慢してたんだろ? だから、』
ああ。
そっちか。
卓也のラノベを見て、元の世界に帰れないと思って、泣いたこと。
あの時。
どこかから、俺達が話しているのを立ち聞きしていたのか。
だが、あの時は。まだ。
自分が、一番大切に思うのは何かということも、自覚していなかったから。
「馬鹿。俺は、おまえと共になら、あの世界で一生を終えてもいいと考えていたんだ」
一度、望郷の涙は流した。
それでおしまいだ。
覚悟はもう決まっているし、元の世界への決別も、とうに済んでいる。
『善正……君ってやつは。相変わらず、男前すぎるだろ……』
テオは、泣き笑いのような顔をした。
「帰れないなら、この世界で、俺と暮らそう。一生、側にいて欲しい」
『……ああ。俺も、そうしたい……!』
お互いに、強く抱き合って。
キスを交わした。
◆◇◆
では、俺の家に行って親に紹介しようかと思い、寺の方へ向かったが。
途中にあるはずの墓が、一つも無かった。
不思議に思い、自宅があるはずの場所に向かうが。それも無い。
一面、草原だ。
山から見下ろせば、見慣れた街並みはなく。
農家らしき、萱葺きの家が点在するのみ。
上がる煙は、夕餉の支度だろうか? 昔は、かまどで炊いたという。
石碑の所に戻って確認したが。
石碑には、前に見た時には記されていたはずの記銘が消えていた。
かすかに感じられたはずの力が、今では少しも見られないという。
これでは、次元移動の目印にならないそうだ。
再び、未来に行くこともできないだろうという。
血で描かれた陣が、赤く光っている。
移動魔法が、発動したようだ。
ただでさえ、瀕死なのに。そんな魔法を使ったら。
「嫌だ。……俺は、元の世界になんて、帰りたくなんかない!」
身体から力の抜けているテオを、ぎゅっと抱き締める。
遅くなっていく心音に、ぞっとする。
蘇生魔法。
知る限りの呪文を叫んでも。
テオは、目を開けない。
嘘だろう?
最低、15年の間は。
テオは、死なないはずじゃなかったのか?
◆◇◆
だから、俺は。
別に、元の世界に帰れなくてもいい、と思ったんだ。
お前が生きて、側にいるなら。
それなら、構わないと。
なのに。
死ぬな、テオ。
この人を、死なせないでくれ。
慈悲深き、異世界の女神よ。
天界の尊き方々よ。
どうか。お願いします。
……俺の加護など、必要ありません。
特別な力も。すべてお返しします。
だから。
この人を。
俺の大切な人を。
テオを。助けてください。
光の中。
微笑む天界人の姿を見た、気がした。その姿は。
◆◇◆
「ここは……?」
目の前に、見覚えのある石碑があった。
ここは。
間違いなく、実家の裏山にある石碑だ。
石碑の前には、お供え物がいくつか置かれていた。
茶碗に、これは……本?
見覚えのある表紙。これは、卓也の書いたラノベだ。
濡れないよう、ビニール袋に入っていた。
献本、と書かれた短冊がついている。
これが、ここにある、ということは。
つまり、ここは。
「15年後の世界か!」
『……え、失敗? おかしいな……確かに、元の時間に……、』
テオの声。
「失敗? じゃない。何で勝手に次元移動魔法など……!」
振り返って見ると。
テオの顔色は、元に戻っていた。
今にも死にそうな顔色だったというのに。
……まさか、治ったのか?
『じゃ、一度あっちに戻るから、』
テオは俺の腰を引いた。
「いや、一度じゃない。……人の話を聞け!」
『この碑を、軸にして……、よし、』
石碑が、赤い光を放つ。
よし、じゃない。
人の話を聞けというに。
また、景色が揺らいだ。
◆◇◆
『しまった……見失った、』
焦ったような、テオの声がして。
軽いめまい。
慣れたのか、頭痛はしなかった。
耳鳴りのようなそれは、頭を振ったら治った。
目を開ければ。また、あの石碑の前?
……元の場所に戻ってきたのか?
いや、それにしては。
何か、微妙に違和感があった。
石が、まるで切り出してきたばかりのような状態というか。
妙につるつるしている。
『どういうことなんだ……?』
テオが、真っ青になっていた。
『どうしよう。陣が不安定だったせいか、あっちに戻れなくなってる……!』
「何だって!?」
◆◇◆
地獄界の陣は、崩壊してすでに無くなったか、焦って描いたせいか。それとも血だまりの中だったからか。
崩れてしまっていて、もう、移動魔法陣として役に立たなくなっていたようだ。
城に描いてあったほうも、踏まれて陣が壊れたか何かで使えなくなっているようで。
もう、二度とあちらに戻るすべはない、という。
「……勝手に俺を、元の世界に戻そうとするからだ、馬鹿め」
俺の憎まれ口に。
テオは、しゅんとしたように俯いている。
『……だって。善正、泣いてたじゃん……』
「は?」
俺が?
さっきはそりゃ、泣くに決まってるだろ!
目の前で。テオが、死ぬかと思ったんだぞ!?
『ワルターの胸で、泣いてただろ? ほんとは、こっちに帰りたくてしょうがないの、我慢してたんだろ? だから、』
ああ。
そっちか。
卓也のラノベを見て、元の世界に帰れないと思って、泣いたこと。
あの時。
どこかから、俺達が話しているのを立ち聞きしていたのか。
だが、あの時は。まだ。
自分が、一番大切に思うのは何かということも、自覚していなかったから。
「馬鹿。俺は、おまえと共になら、あの世界で一生を終えてもいいと考えていたんだ」
一度、望郷の涙は流した。
それでおしまいだ。
覚悟はもう決まっているし、元の世界への決別も、とうに済んでいる。
『善正……君ってやつは。相変わらず、男前すぎるだろ……』
テオは、泣き笑いのような顔をした。
「帰れないなら、この世界で、俺と暮らそう。一生、側にいて欲しい」
『……ああ。俺も、そうしたい……!』
お互いに、強く抱き合って。
キスを交わした。
◆◇◆
では、俺の家に行って親に紹介しようかと思い、寺の方へ向かったが。
途中にあるはずの墓が、一つも無かった。
不思議に思い、自宅があるはずの場所に向かうが。それも無い。
一面、草原だ。
山から見下ろせば、見慣れた街並みはなく。
農家らしき、萱葺きの家が点在するのみ。
上がる煙は、夕餉の支度だろうか? 昔は、かまどで炊いたという。
石碑の所に戻って確認したが。
石碑には、前に見た時には記されていたはずの記銘が消えていた。
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これでは、次元移動の目印にならないそうだ。
再び、未来に行くこともできないだろうという。
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