寺生まれなので異世界に召喚されて悪霊退治やらされてます。

篠崎笙

文字の大きさ
23 / 24

帰りたくなんか、ありません。

景色が、揺らぐ。

血で描かれた陣が、赤く光っている。
移動魔法が、発動したようだ。

ただでさえ、瀕死なのに。そんな魔法を使ったら。


「嫌だ。……俺は、元の世界になんて、帰りたくなんかない!」
身体から力の抜けているテオを、ぎゅっと抱き締める。

遅くなっていく心音に、ぞっとする。

蘇生魔法。
知る限りの呪文を叫んでも。

テオは、目を開けない。


嘘だろう?
最低、15年の間は。

テオは、死なないはずじゃなかったのか?


◆◇◆


だから、俺は。

別に、元の世界に帰れなくてもいい、と思ったんだ。


それなら、構わないと。
なのに。


死ぬな、テオ。

この人を、死なせないでくれ。

慈悲深き、異世界の女神よ。
天界の尊き方々よ。

どうか。お願いします。
……俺の加護など、必要ありません。

特別な力も。すべてお返しします。
だから。


この人を。
俺の大切な人を。

テオを。助けてください。


光の中。
微笑む天界人の姿を見た、気がした。その姿は。


◆◇◆


「ここは……?」


目の前に、見覚えのある石碑があった。
ここは。

間違いなく、実家の裏山にある石碑だ。
石碑の前には、お供え物がいくつか置かれていた。

茶碗に、これは……本?


見覚えのある表紙。これは、卓也の書いたラノベだ。
濡れないよう、ビニール袋に入っていた。

献本、と書かれた短冊がついている。


が、にある、ということは。
つまり、ここは。

「15年後の世界か!」

『……え、失敗? おかしいな……確かに、元の時間に……、』
テオの声。


「失敗? じゃない。何で勝手に次元移動魔法など……!」
振り返って見ると。

テオの顔色は、元に戻っていた。

今にも死にそうな顔色だったというのに。
……まさか、治ったのか?


『じゃ、一度あっちに戻るから、』
テオは俺の腰を引いた。

「いや、一度じゃない。……人の話を聞け!」


『この碑を、軸にして……、よし、』
石碑が、赤い光を放つ。

よし、じゃない。
人の話を聞けというに。


また、景色が揺らいだ。



◆◇◆


『しまった……見失った、』
焦ったような、テオの声がして。


軽いめまい。

慣れたのか、頭痛はしなかった。
耳鳴りのようなそれは、頭を振ったら治った。


目を開ければ。また、あの石碑の前?
……元の場所に戻ってきたのか?

いや、それにしては。
何か、微妙に違和感があった。

石が、まるで切り出してきたばかりのような状態というか。
妙につるつるしている。


『どういうことなんだ……?』

テオが、真っ青になっていた。
『どうしよう。陣が不安定だったせいか、に戻れなくなってる……!』


「何だって!?」


◆◇◆


地獄界の陣は、崩壊してすでに無くなったか、焦って描いたせいか。それとも血だまりの中だったからか。
崩れてしまっていて、もう、移動魔法陣として役に立たなくなっていたようだ。

城に描いてあったほうも、踏まれて陣が壊れたか何かで使えなくなっているようで。
もう、二度とあちらに戻るすべはない、という。


「……勝手に俺を、元の世界に戻そうとするからだ、馬鹿め」
俺の憎まれ口に。

テオは、しゅんとしたように俯いている。

『……だって。善正、泣いてたじゃん……』
「は?」

俺が?
さっきはそりゃ、泣くに決まってるだろ!

目の前で。テオが、死ぬかと思ったんだぞ!?


『ワルターの胸で、泣いてただろ? ほんとは、こっちに帰りたくてしょうがないの、我慢してたんだろ? だから、』

ああ。
そっちか。

卓也のラノベを見て、元の世界に帰れないと思って、泣いたこと。

あの時。
どこかから、俺達が話しているのを立ち聞きしていたのか。

だが、あの時は。まだ。
自分が、一番大切に思うのは何かということも、自覚していなかったから。


「馬鹿。俺は、おまえと共になら、あの世界で一生を終えてもいいと考えていたんだ」

一度、望郷の涙は流した。
それでおしまいだ。

覚悟はもう決まっているし、元の世界への決別も、とうに済んでいる。


『善正……君ってやつは。相変わらず、男前すぎるだろ……』
テオは、泣き笑いのような顔をした。


「帰れないなら、この世界で、俺と暮らそう。一生、側にいて欲しい」

『……ああ。俺も、そうしたい……!』
お互いに、強く抱き合って。

キスを交わした。


◆◇◆


では、俺の家に行って親に紹介しようかと思い、寺の方へ向かったが。

途中にあるはずの墓が、一つも無かった。
不思議に思い、自宅があるはずの場所に向かうが。それも無い。

一面、草原だ。


山から見下ろせば、見慣れた街並みはなく。
農家らしき、萱葺きの家が点在するのみ。

上がる煙は、夕餉の支度だろうか? 昔は、かまどで炊いたという。


石碑の所に戻って確認したが。
石碑には、前に見た時には記されていたはずの記銘が消えていた。

かすかに感じられたはずの力が、今では少しも見られないという。
これでは、次元移動の目印にならないそうだ。

再び、未来に行くこともできないだろうという。
感想 3

あなたにおすすめの小説

家に帰ったら、妻は冷たくなっていた。突然シングルファザーになった勇者パーティーの治癒師は家族を修復したい

八朔バニラ
ファンタジー
勇者パーティーに所属し、魔王討伐した治癒師(ヒーラー)のゼノスは街の人々の歓声に包まれながら、3年ぶりに家に帰った。家族が出迎えてくれると思ったが、誰も出迎えてくれない。ゼノスは不満に思いながら家に入ると、妻の身体は冷たくなっていた。15歳の長男ルミナスはゼノスの代わりに一家の柱として妹を守り抜き、父に深い拒絶のこもった瞳を向けていた。そして、8歳の長女ミリアは父の顔も忘れていた。 ゼノスは決意する。英雄の肩書きを捨て、一人の不器用な父親として、バラバラになった家族の心を繋ぎ合わせることを。 これは世界最強の治癒師が家族を修復する物語である。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!