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種明かし

入れ替わり計画

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、とは。
リカルドの正妃、もしくは後宮の愛妾にさせるため、自分の娘や息のかかる者を王宮に送り込みたい権力者たちのことだそうだ。

彼らにとって、”運命の番”など目障りな存在でしかない。
リカルドは以前から、ツガイさえいればそれでいい、妾など必要ないと公言していたからだ。

占いで”二人は結ばれる運命にある”と出てはいたものの。
リカルドは、自分に自信が無かった。

以前は、国王という身分や外見、能力にはそこそこ自信があったが。
脆くも崩れ去った。


この世界では一番の魔導士だが。
広い世界、上には上がいることを知ってしまったのだ。

それゆえの、入れ替わり計画だった。


*****


運命であるならば。
出逢ったその時、ひと目で惹かれ合うはず。

身分や外見に惑わされず、自分を選んで欲しい。

そう考えたリカルドは、偽の国王を仕立て上げ。
ツガイとはいち騎士のふりをして出逢い、試してみることにしたのだ。


国王役に選ばれたのは、国一番の美形で優秀と評判のパトリシオ伯爵。
彼はリカルドの幼馴染でもあり、しぶしぶだが、代役を引き受けてくれた。

伯爵との入れ替わり計画自体は、召喚前から入念に打ち合わせをしていた。

しかし、城内に紛れ込んでいた何者かの妨害工作により。
ツガイが召喚されるはずの位置が、安全なアンブロージョ城内から、山賊の徘徊する危険な森に変わってしまった。

異世界より魂が召喚され、こちらで新たに肉体が構成されるため、裸の状態だというのに。


予期せぬトラブルに焦ったリカルドは、護衛もつけずに独りで馬を繰り、城を飛び出してしまった。
魔力でブーストしたので、誰も追いつけなかったようだ。


魂の情報は把握しているので、位置は特定できたが。
召喚されたはずの位置から移動しているのに気付いたリカルドは、更に焦った。

人買いか、反乱者に攫われたのかと思ったからだ。

まさか自作で葉の服を作り、のんきに散歩をして。
素手で武器を持った山賊を撃退しているとは思いもしなかった。

やっと無事な姿を見つけて。
ほっとして、思わず抱きしめてしまったが。


私が服代わりにしているのが媚薬の葉であることに気付いた時にはもう、媚薬成分は完全に体内に吸収されており、解毒不可能。
後戻りできない状況になっていたのだった。


*****


そして。
伯爵のふりをしているはずのリカルドが、保護したツガイを連れてアンブロージョ城へ戻って来た……と思ったら。

少し休憩し、サンチダージェ城へ向かう予定を完全無視。
何故か二人は寝室に籠りきりで淫蕩三昧。


ジェスロウ侍従長は、媚薬の葉の残骸を発見。
何となく事情を察し、王城へ予定変更の報せを送ったが。

媚薬の効果など一日で切れるだろうに、寝室から出てこない。

国王の仕事を代役のパトリシオ伯爵に丸投げしたまま、何日経っても戻って来ない有様で。
予定外の行動に、王城も伯爵の城の人たちも大混乱だったようだ。


奔放な王を持つと大変だ、と。他人事のように思う。

国王を演じていたパトリシオが、「王の仕事があるので城から離れるわけにはいかない」と言っていたのは、彼なりの嫌みだったのだろう。
そこは大いに同情する。

多くの人命を預かる一国の王として、仕事を放りだすのはどうかと思うが。

しかし、私個人としては、そちらの都合で召喚しておいて、仕事があるからと部下任せにするより、本人が迎えに来た方が誠意を感じられたし。
嬉しかったので、何とも言えない。


かつて、ドラマなどで「仕事と恋人どちらが大事なの?」と質問する女を目にして。
仕事は一生を左右するが、結婚相手でもない恋人などいなくても問題ないし、そのような無意味な質問をするのは馬鹿馬鹿しいと思っていたというのに。

そんな私が、少しも合理的でない、エゴイスティックな考えをするようになるとは。
恋とは恐ろしいものだ。

まあご祝儀代わりだと思って、今回ばかりは王の暴走を勘弁してやって欲しい。


*****


「っ、」
リカルドが痛そうに腰を撫でていたので、どうしたのかと思えば。

今朝打った腰が、まだ痛むらしい。
すごい音がしたからな。青痣になってるだろう。


「ん? 治療魔法があるのではなかったか?」
擦られ過ぎて腫れたところや疲労感が、いつの間にか癒されていたような記憶があるのだが。

「治癒魔法はある。だがこれは穂波に酷いことをしてしまった報いなので、そのままにしている」
マゾヒストか。


「反省しているのは良いが。いつまでもそうやって痛そうにしていられると、かえって嫌みに感じるぞ? 私に良心の呵責をさせたいのか」

魔力に余裕がないならともかく。
使っても問題ないならさっさと使え、とせっついてやる。


「わかった。我が身を癒せ。治癒の光……リィプヴィ」

治癒魔法を掛けたようだ。
身体全体が、薄いヴェールのような光に包まれ、消えた。


おお、これぞファンタジー。
この世界ではっきりした魔法を目にしたのは初めてだ。

可能なら、私も覚えたいものだ。
治療魔法は使い勝手が良さそうだしな。
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