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藍川透の回想
夢じゃない世界?
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これは。
この指輪は。
決して、見間違えたりしない。
俺の、大好きな。
テオドゥルフ侯爵との結婚式で交換した指輪だから。
……そうだ。
思い出した。やっぱり、あの世界は。
アルトポリスや、テオドゥルフ侯爵のことは、夢じゃなかったんだ。
*****
魔女グレアの水晶玉で見た。
俺は、座ったまま徹夜作業して。水分不足もあったので、脳に血栓が出来てしまった。
それが原因で、ここで、眠ったまま死んだんだ。
救急車で運ばれて死亡宣告をされるのも見た。葬式も。
こっちじゃ俺の遺体は、もうとっくに焼かれて、骨しか残ってないはずなのに。
何で俺、こっちの世界に戻ってるの?
まさか、幽霊になっちゃったの!?
でも。身体に、感覚はある。
今、飯田先輩に、痛いくらいに抱き締められてる。
体温も感じるし。先輩の、マリン系コロンが混ざった汗の匂い。さっき飲んだミネラルウォーターの味。
確かに、肉体が持つ感覚だ。
何で、こんなことになってるんだ?
思い出せ。
俺は、テオドゥルフ侯爵と結婚式を挙げて。
指輪交換と、誓いのキスをしたよな?
それから、どうなった?
……そういえば。
祝いの言葉の合間に、名前を呼ばれた。
魔女ルイーザの、憎しみがこもった声が聞こえたような気がする。
魔法をかけられたのか。
結婚式で、名前と素顔を公表したから。
呪文を唱える際に名前を添えれば、より魔法が掛かりやすくなる。
直接対峙してれば、魔法をはじき返すことも可能だっただろうけど。あの時、俺は完全に油断してたからな……。まさか俺が呪われるとは思ってもいなかったし。
さぞ魔法も効きやすかったことだろう。
この身体は、おそらく。
あっちで再構築された、16歳の俺の身体なんだろう。
それで、どういう理屈かはわからないけど。
こっちの世界でもどうにか実体を保っていられてるのかな?
「頼む。幽霊でもいいから。……側に居てくれ。藍川、……お前が、ずっと。……今も、好きなんだ……、」
涙声で、告白される。
飯田先輩。
大好きな、先輩だった。
でも。
そういう意味で好きだったわけじゃないことを、教えてくれたのは。
「ごめん。俺、好きな人がいるんだ。その人の人生を、ずっと支えたいって思うくらい、大切な人」
縋るように膝をついた飯田先輩の額に、キスを落とす。
「Felicitassomnium」
眠りの魔法で寝ている先輩を、仮眠用のベッドに運んで、毛布を掛ける。
俺の憧れで。
俺の夢を、一番近くで叶えてくれた人。
ごめん。
俺、ずっと先輩の優しさに甘えてたよね。
どうか、俺のことは早く忘れて、幸せになって欲しい。
さようなら。
こっちの世界では、一番。
大好きだったよ、飯田先輩。
「vigilia」
自分自身に、覚醒の魔法を掛ける。
それと。
「Vade ad originali mundo」
*****
「トール!」
目を開けたら。
目の前に、眩いばかりの美貌。
俺はテオドゥルフ侯爵の腕の中で。
侯爵は、キスする寸前くらいまで顔を近づけていた。
「……おはよう、私の眠り姫。キスで起こそうとしたのだが、まさか自力で起きてしまうとはね。いい夢だったかな?」
鮮やかにウインクされた。
揺るぎねえな、このイケメン。
「状況は?」
俺に魔法を掛けた魔女、ルイーザはどこだ?
侯爵は、私の花嫁はクールだ、と肩を竦めた。
「トールは式の途中、突然倒れたのだ。奉仕活動中のルイーザが抜け出して、結婚式に紛れ込んでいたようでね。一見寝ているようだったが、グレアが言うには、魂がこちらにないと。全く、心臓が停まるかと思ったよ」
魔女グレア?
式の時、席にはいなかったけど。
「……前に、言っただろう? 堕ちた魔女に、情けなんかかけるもんじゃないと」
声のする方を見れば、グレアが侯爵の側にいた。
来てくれてたんだ?
一度私欲のために魔法を使ってしまった魔女は、改心などしないという。
欲に溺れ、正しい道が見えなくなってしまうからだそうだ。
「全くその通りだった……」
侯爵は、ぎゅっと俺を抱き締めた。
その温もりに安心する。
こっちに戻ってこれてよかった。侯爵の傍に。
ルイーザが俺に掛けたのは、対象の魂を次元の狭間に飛ばす魔法だったようだ。
だけど、パソコン内のアルトポリスと、俺の魂がまだ”縁”で繋がっていたので。
吹っ飛ばされた俺の魂は、運よく、元の世界に残っていた”縁”に引っ張られて、そこで留まったんだろう。
パソコンのデータを残してくれていた先輩方には感謝しないと。
それにしても。
夢じゃないって気づいて、こっちに戻ってこれてよかった。
指輪が無かったら、危うくこっちの世界のことを夢だったと思い込んで、うっかり先輩とワンナイトラブしてしまうところだったかも……。
俺ってば、流されやすすぎ。
でも、あのままあっちにいたら、結局、消滅してしまうことになったのかな?
本来の肉体はもう焼かれちゃったもんな。
*****
魔女ルイーザに自白魔法をかけて犯行の動機を聞き出したところ。
皆から化け物だと忌み嫌われたテオドゥルフ侯爵が反省した頃、自分が優しくして惚れさせて、呪いを解いてあげようと思っていたのに。
化け物の姿でも愛してくれる相手ができたから、掛けた魔法が解けてしまった。
死刑すら覚悟して、今度は一生解けないように魔法を掛けたけど。
完全に解けていない状態でも、幸せそうだった。
侯爵には二回も化け物になる呪いをかけたというのに、へこたれた様子も見せず、ノーダメージなように見えた。
それで、今度は呪いを解いた原因であろう俺に狙いを定めたんだな。
美少女に見えたラズールの正体が男だったのは予想外だったようだが、二人がラブラブなのはひと目でわかった。
だから、二人が幸せの絶頂にいる時に、侯爵に絶望を与えてやろう。
そう考えたルイーザは更生施設から逃げ出して、結婚式まで潜伏していたみたいだ。
「ルイーザは?」
魔女グレアの視線を追うと。
帝国の衛兵に押さえつけられているルイーザの姿が見えた。
「まさか、助けてやるつもりかい? およし、また裏切られるよ?」
グレアは肩を竦めた。
「生憎、俺はそんなに優しくないんだよな」
だって俺がいなくなったら、侯爵が悲しむだろ。
俺が目を開けた時の、侯爵の顔を思い出すと胸が痛むくらいだ。
俺の大切な侯爵を悲しませようとするなんて、許せない。
だけど、罪にはそれ相応の罰を、だ。
与えすぎてもいけない。後々、禍根が残るしな。
この指輪は。
決して、見間違えたりしない。
俺の、大好きな。
テオドゥルフ侯爵との結婚式で交換した指輪だから。
……そうだ。
思い出した。やっぱり、あの世界は。
アルトポリスや、テオドゥルフ侯爵のことは、夢じゃなかったんだ。
*****
魔女グレアの水晶玉で見た。
俺は、座ったまま徹夜作業して。水分不足もあったので、脳に血栓が出来てしまった。
それが原因で、ここで、眠ったまま死んだんだ。
救急車で運ばれて死亡宣告をされるのも見た。葬式も。
こっちじゃ俺の遺体は、もうとっくに焼かれて、骨しか残ってないはずなのに。
何で俺、こっちの世界に戻ってるの?
まさか、幽霊になっちゃったの!?
でも。身体に、感覚はある。
今、飯田先輩に、痛いくらいに抱き締められてる。
体温も感じるし。先輩の、マリン系コロンが混ざった汗の匂い。さっき飲んだミネラルウォーターの味。
確かに、肉体が持つ感覚だ。
何で、こんなことになってるんだ?
思い出せ。
俺は、テオドゥルフ侯爵と結婚式を挙げて。
指輪交換と、誓いのキスをしたよな?
それから、どうなった?
……そういえば。
祝いの言葉の合間に、名前を呼ばれた。
魔女ルイーザの、憎しみがこもった声が聞こえたような気がする。
魔法をかけられたのか。
結婚式で、名前と素顔を公表したから。
呪文を唱える際に名前を添えれば、より魔法が掛かりやすくなる。
直接対峙してれば、魔法をはじき返すことも可能だっただろうけど。あの時、俺は完全に油断してたからな……。まさか俺が呪われるとは思ってもいなかったし。
さぞ魔法も効きやすかったことだろう。
この身体は、おそらく。
あっちで再構築された、16歳の俺の身体なんだろう。
それで、どういう理屈かはわからないけど。
こっちの世界でもどうにか実体を保っていられてるのかな?
「頼む。幽霊でもいいから。……側に居てくれ。藍川、……お前が、ずっと。……今も、好きなんだ……、」
涙声で、告白される。
飯田先輩。
大好きな、先輩だった。
でも。
そういう意味で好きだったわけじゃないことを、教えてくれたのは。
「ごめん。俺、好きな人がいるんだ。その人の人生を、ずっと支えたいって思うくらい、大切な人」
縋るように膝をついた飯田先輩の額に、キスを落とす。
「Felicitassomnium」
眠りの魔法で寝ている先輩を、仮眠用のベッドに運んで、毛布を掛ける。
俺の憧れで。
俺の夢を、一番近くで叶えてくれた人。
ごめん。
俺、ずっと先輩の優しさに甘えてたよね。
どうか、俺のことは早く忘れて、幸せになって欲しい。
さようなら。
こっちの世界では、一番。
大好きだったよ、飯田先輩。
「vigilia」
自分自身に、覚醒の魔法を掛ける。
それと。
「Vade ad originali mundo」
*****
「トール!」
目を開けたら。
目の前に、眩いばかりの美貌。
俺はテオドゥルフ侯爵の腕の中で。
侯爵は、キスする寸前くらいまで顔を近づけていた。
「……おはよう、私の眠り姫。キスで起こそうとしたのだが、まさか自力で起きてしまうとはね。いい夢だったかな?」
鮮やかにウインクされた。
揺るぎねえな、このイケメン。
「状況は?」
俺に魔法を掛けた魔女、ルイーザはどこだ?
侯爵は、私の花嫁はクールだ、と肩を竦めた。
「トールは式の途中、突然倒れたのだ。奉仕活動中のルイーザが抜け出して、結婚式に紛れ込んでいたようでね。一見寝ているようだったが、グレアが言うには、魂がこちらにないと。全く、心臓が停まるかと思ったよ」
魔女グレア?
式の時、席にはいなかったけど。
「……前に、言っただろう? 堕ちた魔女に、情けなんかかけるもんじゃないと」
声のする方を見れば、グレアが侯爵の側にいた。
来てくれてたんだ?
一度私欲のために魔法を使ってしまった魔女は、改心などしないという。
欲に溺れ、正しい道が見えなくなってしまうからだそうだ。
「全くその通りだった……」
侯爵は、ぎゅっと俺を抱き締めた。
その温もりに安心する。
こっちに戻ってこれてよかった。侯爵の傍に。
ルイーザが俺に掛けたのは、対象の魂を次元の狭間に飛ばす魔法だったようだ。
だけど、パソコン内のアルトポリスと、俺の魂がまだ”縁”で繋がっていたので。
吹っ飛ばされた俺の魂は、運よく、元の世界に残っていた”縁”に引っ張られて、そこで留まったんだろう。
パソコンのデータを残してくれていた先輩方には感謝しないと。
それにしても。
夢じゃないって気づいて、こっちに戻ってこれてよかった。
指輪が無かったら、危うくこっちの世界のことを夢だったと思い込んで、うっかり先輩とワンナイトラブしてしまうところだったかも……。
俺ってば、流されやすすぎ。
でも、あのままあっちにいたら、結局、消滅してしまうことになったのかな?
本来の肉体はもう焼かれちゃったもんな。
*****
魔女ルイーザに自白魔法をかけて犯行の動機を聞き出したところ。
皆から化け物だと忌み嫌われたテオドゥルフ侯爵が反省した頃、自分が優しくして惚れさせて、呪いを解いてあげようと思っていたのに。
化け物の姿でも愛してくれる相手ができたから、掛けた魔法が解けてしまった。
死刑すら覚悟して、今度は一生解けないように魔法を掛けたけど。
完全に解けていない状態でも、幸せそうだった。
侯爵には二回も化け物になる呪いをかけたというのに、へこたれた様子も見せず、ノーダメージなように見えた。
それで、今度は呪いを解いた原因であろう俺に狙いを定めたんだな。
美少女に見えたラズールの正体が男だったのは予想外だったようだが、二人がラブラブなのはひと目でわかった。
だから、二人が幸せの絶頂にいる時に、侯爵に絶望を与えてやろう。
そう考えたルイーザは更生施設から逃げ出して、結婚式まで潜伏していたみたいだ。
「ルイーザは?」
魔女グレアの視線を追うと。
帝国の衛兵に押さえつけられているルイーザの姿が見えた。
「まさか、助けてやるつもりかい? およし、また裏切られるよ?」
グレアは肩を竦めた。
「生憎、俺はそんなに優しくないんだよな」
だって俺がいなくなったら、侯爵が悲しむだろ。
俺が目を開けた時の、侯爵の顔を思い出すと胸が痛むくらいだ。
俺の大切な侯爵を悲しませようとするなんて、許せない。
だけど、罪にはそれ相応の罰を、だ。
与えすぎてもいけない。後々、禍根が残るしな。
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