自分が作ったゲームに似た異世界に行ったらお姫様の身代わりで野獣侯爵と偽装結婚させられました。

篠崎笙

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Schicksalhafte Begegnung (運命的な出会い)

großer Andrang von Gästen oder Kunden (千客万来)

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獣の姿になる前までは。
私は将来、モンテリオ国王になるのが当たり前であると思っていた。

しかし、こうなって。トールと出逢い、私は変わったのだ。

国王になるよりも、このまま辺境伯として国防に専念しているほうが向いていると思う。
周辺諸国に睨みをきかせるには、このおぞましい姿は最適かもしれない。

今となっては、城を追い出されたことを感謝しているほどである。


何故なら、城に居た頃よりずっと、私は幸福を感じている。
今の私には、トールが居る。


それだけで、心が満ち足りる。私はとても幸せだ。


*****


国王になるのならば、世継ぎを作らねばならぬのだ。

私とトールの間に、子は望めない。
しかし辺境伯は、基本、一代限りのものである。子が出来たとしても爵位は継げない。

「モンテリオは、弟のアドルフに継がせて欲しいと思います。……どうやら私には生殖能力がないようで。国を継ぐ資格はないのです」


父上は私の嘘に気付いているだろうが。
私に頷いてみせた。

決まりを破った指南役の件がある。生殖能力に問題はない。
体内の精子を死滅させる魔術を覚えたのは、その失敗があったからだ。


「そうか。……ラズールさん、不甲斐無い息子ですが、どうぞよろしく」
父上はトールに向き直り、手を握った。

トールは、慈母神のような笑みを浮かべている。
現在、偽りの姿であるので。父を騙しているようで困っているだろうことは想像つく。


「……孫の顔が見たかった……」
心底残念そうである。


私とトールの子であれば、それはそれは愛らしいだろうが。
男同士で子を生すのは、さすがに不可能であろう。

私はトール以外をめとるつもりもない。


*****


「そういえば、お前を怖がらない上に、こんな美しい娘さんをどこで見つけたんだ?」

……いつまでトールの手を握っているのだ。
触り心地が良いので離したくない気持ちはわかるが、私の妃である。

「いい加減私の妻から手を離してください、父上」
父上の手を払い、私がトールの手を取る。

消毒せねば。


「ユーベルバッハ国のフランチェスカ姫を差し出せ、と言ったら姫は逃げて。身代わりに寄越してきたのがこのラズールだったのです」

もし、あの姫の頭が多少なりともであったなら、今ここにトールは居ないのだと思えば、感謝したいくらいである。

「まあ、おかげで世界で一番愛らしい妻を得ることが出来たので、コンラート王子には感謝してますがね」

「ああ、あの『神に愛されし美姫アマーデア』と評判の……。ユーベルバッハが一家揃って結婚式に来ていたのはそういう理由か。……しかし、申し訳ないが、ラズールさんの方が美しいじゃないか」

当然である。
真の姿とて、比べ物にならないほど愛らしい。

……神に愛されし美姫、といえば。


「そういえばフランチェスカ姫、私とラズールの結婚式以降、『神に愛されし美姫』とは言われなくなったようですね」
マキシミリアンからの報告で知った。

「それはそうだろう……」
父上は深く頷いた。

”ラズール”の花嫁姿と並べば、その差は一目瞭然であろう。
勝負にもならない。


現在、神に愛されし美姫の座は”ラズール”に献上されたのである。


*****


父上が帰るのと入れ違いのように、ユーベルバッハ国よりフランチェスカ姫とコンラート王子が見舞いに来たという。
噂をすれば影が差す。

またしても国賓か。格はかなり下がるが。

滅多に人が訪ることのなかったこのベルトレンブルクに、こうも連続で客が来るとは。
やれやれ、と出迎えると。


「ああ、本当に獣の姿になってしまわれたのですね……」
私の貌から視線を逸らしながら、フランチェスカ姫はそろそろと近寄って来て。

「ですが、大丈夫ですわ! 次こそは、わたくしの真実の愛で、元の姿に戻してみせましょう!」

自信満々である。
その根拠はどこにあるのだろうか。

いや、戻ろうと思えば、トールに頼めばすぐに戻れるのだが。
しばし自戒せねばと、私はあえてこの姿でいるのである。


「わたくしの贋者などとはすぐにでも離婚し、わたくしと結婚を!」
鼻息も荒く、ずい、と迫ってくる。

まともに見れぬほど、私の姿が恐ろしいのだろうに。
その原動力は、”ラズール”との結婚式で呪いの解けた私の貌を見たからだろうか?

しかし、私の真の姿はこの醜い獣である。
たかが貌の皮一枚に惑わされる女の多いこと。


”身代わり”で戻ったなら、”本物”の自分なら解呪可能だと考えているようだが。
その目は節穴なのだな。

己の貌と、私の花嫁との比較も出来ぬのか。
目くらましの術でもかけねば、似ても似つかないというのに。


「大丈夫ですか? 侯爵に、乱暴な真似はされてませんか? クライトドレスは1人で着付けできてますか?」
コンラート王子は侍女のようなことをトールに言っていた。

「姉上とは全然似ていないのに。僕がうっかり間違えてしまったせいで、こんなことに……!」


何だと?
コンラート王子が、トールに目くらましの術を掛けたのではないのか?

トールは、無理矢理連れて来られたのだし、違うだろう。

では、誰が?

あれほどの術を使える魔女が、そうそういるものか。


「テオドゥルフ様、式はいつに致しましょう?」
フランチェスカ姫がしつこく色目を使ってくる。私は既婚者だというのに。何とはしたないことだ。

……ああもう、煩わしい。


「そろそろご退去願おう」
手を叩いて、兵を呼び。

ユーベルバッハの王子と姫には、強制的にお帰りいただいた。


*****


それから、何やかやと来客が訪れ。

私の姿に怯えつつも、お大事に、と言って帰って行った。
何という変わりようであろうか。


「これまでは、誰も見舞いになぞ来なかったというのに……」

む、考えてみれば、フランチェスカ姫以外の客の目的は、”ラズール”。
噂の美しい花嫁の姿を見たかったのでは?

当然か。
人はおぞましい獣などより、美しいものを見たいものだ。


気落ちしたのがわかったのだろう。トールは私の側に寄り、よしよし、と鼻の上を撫でた。
トールの手は、優しく心地好い。

……そういえば、再びこの姿になってから、添い寝をしただけで。
性交はしていなかったな。


「ん?」
トールを抱き上げ。

「トール。そなたを抱きたい。……いいか?」

「こ、この姿で?」
戸惑った表情をしている。

嫌なわけではなく、”ラズール”の姿でするか悩んでいるのか?


「抱きたいのは黒髪の方だが。トールの好きな方でいればよい。私は、このままではいやか?」

”ラズール”の方は、いわば皮を被った状態だからな。
できれば真の姿で愛し合いたいのだが。

やはり、獣と睦み合うのは嫌だろうか?
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