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大和撫子、砂漠の王子に攫われる

国の秘密ともふもふ毛玉

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まだ松葉杖が必要な美雪は、階段の下で用意された車椅子に座って待っていた。

薄い水色の、可愛いドレス姿。
着物じゃないんだ。顔そっくりだし、ヤマトナデシコが被るからか?

肌が焼けないようにか、日傘まで立てかけられてる。


他の招待客に、リトルシスター? と声を掛けられているようだ。
必死にノーノー言ってる。双子に見られてもおかしくないくらい似てるからな……。

美雪のリアルシスターは、後ろで微妙な笑顔を浮かべて立ってる、あんまり似てないその2人です。
ちなみに既婚者で、1人は子供連れである。

従姉妹って、英語で何て言うんだっけ?
アラビア語なら従姉妹、従兄弟どちらでもイブン・アンムである。


あ、思い出した。

カズンだ。
そういう名前の従兄妹同士のデュオがいたっけ。


†††


俺の視線に気付いた美雪が、こちらに手を振った。

「おめでとー、やっくん、今世紀サイコーってくらいめっちゃキレーかったよ! あーしも早く結婚したくなっちゃったぁ」

あまりにお気楽な感想に脱力しそうになった。


何なら今から代わるか? と俺の腕を取っている王子を見上げるが。
何だその笑顔。キラキラした笑みを浮かべるんじゃない。心臓に悪いだろうが!

……いや、こんな傲慢で性悪であくどいストーカー男なんて、可愛い美雪の婿になんてさせてたまるか。
絶対に許さん。


「アニキ……」
我が弟、湊哉の俺を見る目が冷たい。

久しぶりに会った兄が、女装して、男と結婚する、なんて。そりゃショックだよな。
しかも、相手は一国の王子様ときた。

でも、違うんだ!
この結婚は決して俺の意思じゃないから! この格好だって、無理矢理だから!


話の流れを理解している善之おじさんと美咲おばさんだけは、俺に対してすまなさそうに手を合わせている。

おかしいな。俺が人身御供ひとみごくうだっていう事情をわかってるのは、美雪も同じはずだろうに……。
何で祝ってくれちゃってるのだろうか。理解できない。

JKの心は秋の空……。
と、遠い目になっていたら。


「見なさい、ユキヤ。滅多に人前に姿を表さない神の使いマラークアッラーが、私たちの結婚を祝いに来てくれた。瑞兆である」
あちらだ、と王子に示された指の先を見る。


†††


砂漠から、ぴょこぴょこと飛び跳ねながら近寄ってくる、白い毛玉の群れが。

うわあ。何この、かわいい生き物!
動くぬいぐるみ?


かわいい、と美雪も声を上げた。

俺も声を上げたくなったが、ぐっと堪えた。
大人の男はJKみたいにカワイイ、とか騒いではいけないのだ。男はつらいよ。


「保護官は砂漠アルサハラウイ跳び・ターラファアルと呼んでいるが、他の地域には存在しない、この辺りだけに棲息する固有種である。その棲み処す か及び生態は未だ謎に包まれており、皆、”神の使い”と呼び、国で大切に保護している」
説明ありがとう、王子。

ネズミというが。長い耳はウサギのようだ。
一見小さいウサギみたいな姿に、ボンボンのついた長い尾。赤や青や茶色に緑、それか真っ黒のつぶらな目。
そして柔らかそうなふわふわな毛を生やし、カンガルーみたいに跳んでいる。

確かに、見たことがないような不思議な生き物だ。


なるほど。
入国制限や、防疫が何とか言ってたのは、この可愛らしい生き物を護るためだったのか。

そりゃこんな可愛い生き物を知ったら、病原菌や天敵の輸入、毛皮目当ての盗人による乱獲から護らなきゃって、黙るよ。
見物人が増えても、繊細な生き物だから、ショックで死んでしまうって言うんだから。


毛玉が足元まで寄って来た。
俺を見上げて、鼻をひくひくさせてる。

うわあ、かわいい……。

撫でたいけど。
野生動物なら触っちゃ駄目だろうな。残念。
と思ってたら。


「撫でて欲しがっているようだ。応えてやってくれ」
王子の許可が出た。

え、撫でていいのか?
ずいぶんフレンドリーな神の使いだな!

しゃがみ込んで手を差し出すと、ぴょん、と手に飛び乗って来た。
懐っこいな!


†††


「よしよし、」

背を撫でてやると。
想像したよりも柔らかく、ふわふわした毛の感触はチンチラに近いか? もう最高すぎる。

俺の手の上ですっかりリラックスしてる様子。
気持ち良さそうに目を閉じてる。かわいい。


しかし砂漠でこのもふ毛、暑くないの? 白いから、日光を反射するのかな?
砂漠って夜は気温下がるんだっけ?

後ろ足は、ちょっとカンガルーとかワラビーのようだ。
でも、有袋類でもないっぽい。

見た目はまん丸いけど、ほぼ毛なのか、やたら軽い。地肌は黒いんだな……。
おお、おなかもふわふわだ。


目の色が色々あるのは、猫とかなら見るけど。
ウサギは赤や黒の目しか知らなかった。

でも、緑や青のもいて、宝石みたいな綺麗な目をしている。

個体で目の色が違うのは、餌に含まれた色素のせいだろうか? 赤い色素の餌を与えたひよこの毛が赤くなる、みたいな。
本当に謎だ……。


一匹だけでなく、ぴょこぴょこと、いっぱい、もこもこの毛玉が集まってくる。
懐っこいんだな。

え、皆して俺に撫でろと? しょうがないなあ。


我ながら顔がでれでれしてしまっているのがわかる。
だって、めちゃくちゃかわいいし。


†††


「いいな~、やっくん、あーしにも触らせてー」

美雪たちも事前に話を聞いていたのか、こんな可愛い生き物を目の前にしているというのに、誰一人カメラを構えていない。
うん、これは秘密にして、保護したい存在だよな。

「はい、……あれ?」
手のひらに載せた可愛らしい神の使いを美雪に渡そうとしたら。
俺の肩に跳んで逃げてしまった。


他のも渡そうとしたが、同様で。駄目だった。

掴んだら潰れちゃいそうだし。
困ったな。

俺の手のひらでは大人しくうっとり目を閉じて、鼻をひくひくさせてるのに。
美雪が手を出すと、さっと逃げてしまう。


「やっくんばっかり懐かれて、ず~る~い~」
ご機嫌斜めである。

「何かごめん……」
美雪には申し訳ないが、俺は懐かれて、嬉しかったりして。


しかし、美雪とは同じ顔なのに、何が違うんだろう?
服の色が白いから、仲間だと思ってるとか?

ふと横を見れば、同じように白いタキシード姿の王子の腕にも毛玉が一匹乗っている。
しかし、何着ても似合うなあいつ……。


「あ、服の色かも」
白いヴェールを外し、美雪に被せてみる。

すると、一匹やってきて。
ぴょこん、と美雪の膝に乗った。軽いから、傷には響かないだろう。

「ほんとだぁ。やっくんありがと。……ヤバイ、超かぁいー……」
嬉しそうに、そっと撫でている。

良かったな。


†††


周囲がざわざわしてきたので、気付く。

……あ、いけね。
せっかくヴェールで隠れてた背中の雷紋が丸見えだ!

グロいものをお見せしてしまって申し訳ない……。
と思ってたら。

背後に王子が迫ってきていた。
『皆もご承知である通り、私の母は落雷サイカにより神の御許に招かれ、その生涯を終えました。我が妻、ユキヤもその身をラエドに貫かれ半身に火傷を負ったものの、奇跡的に生還したのです』


自国語で説明した王子の言葉に、おお、と感嘆の声が上がる。
綺麗な正則アラビア語フスハーなので、俺にも聞き取りやすかった。

稲妻バラクに似たこの痕跡は、神のご加護である証。……生きて再会できて、こうして妻に迎えることができた。それは天文学的確率であり、まさしく、奇跡ムゥジャザではないでしょうか? 私は神に感謝します』
王子は俺の背に手を回して。そっと抱き寄せられた。


そうか。
おそらく母親の遺体にもあったから、知ってたんだ。

が、どういうものか。
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