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大和撫子、砂漠の王子に攫われる

ヤマトナデシコ、洞窟捜索隊に

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「それなら、いい。アスランの嫁として恥ずかしくない格好なら、どんな格好でも、俺は受け入れるよ」


俺はアスランの……この国の、第一王子の嫁なわけだし。
国民からは、日本から来た”ヤマトナデシコ”ってことで受け入れられてるようだし。

それならヤマトナデシコっぽく綺麗な格好をしていたほうが王子の面目も立つってもんだ。


「振袖は帯がきついしドレスはハイヒールが嫌だけど、浴衣くらいなら許容範囲だし」
地味ではない柄と、帯の結び方が違うくらいだと思えば何とか。

「ユキヤ……」
「ただ、あくまでも不本意だってことだけは、忘れないでくれよな?」

アスランは勢いよく、こくこくと頷いた。


†††


王宮からシャオフーが運転する車で、アスランの家に戻る途中。


「あれ? 何だろ。鳥かな?」

なんだか不自然な飛び方をしてる鳥が見えて。
アスランに示した。

それを見たアスランは、厳しい顔をして。

サクル……? 何故こんな場所に……、」


「この辺りは神の使いの保護区ですので、天敵に当たる猛禽類の所有及び放し飼いは許可されていないのです」
シャオフーが補足してくれた。

でも、オアシスから遠い砂漠では、王家で所有している鷹も飼育してるそうだ。
ちょっと見てみたい。

ああ、そうか。
確かにあんな小さなウサギみたいな生き物、猛禽類にとっては格好の餌だよな。


車を止めて。
アスランが空に向かってピューイ、と指笛を吹くと。


鷹はふらふらと、こちらへ向かって飛んできて。
アスランが出した腕に降りた。

鷹って思ったより小さいんだな。
ウサギとか攫うし、もっと大きいのかと思ってた。


肉でなくてすまんな、と。
アスランは、木の実を鷹に食べさせた。それ、常に持ち歩いてるの……?

お腹がすいていたのか、鷹はがつがつと食べている。


†††


「随分毛艶が悪くなっているが。こいつには見覚えがある。品評会だったな。……誰の所有物だったか……」

「あれ? なんか脚に、紙付いてない?」

鷹の足首に結ばれていた紙切れには、メッセージが書かれていた。

「”ساعدونيサーイドゥーニー!”、”متاهةマターハァ”、”زجاجザジャジュ”……この紙は、隣国の王族の持つものだな。……ハマドか」

助けて、迷宮、ガラス、と書いてあるそうだ。


「え、不法侵入?」

迷宮って。
まさかあの、プラチナの洞窟に?

「いや、少し前に、我が国の資源の採掘方法を参考にしたい、と言って見学に来ているとの報告が入っていた。……そういえばまだ、国へ帰ったという報告はないな」
アスランがシャオフーに訊いて。

「ええ、確かに帰国したという報告はまだありませんね」
シャオフーは手帳を見て確認した。

アスランは、危険だから絶対に案内人から離れるなとあれほど忠告したのに、と呆れたように言っている。
ここってそんな迷路だらけの洞窟ばっかなの?


鷹は弱っていたので、鷹匠に預けて。
洞窟専門の捜索隊を連れて、現場へ向かった。

捜索隊は、洞窟に空気を送る機材も持ってきている。
空気のボンベも担いで、すごい重装備だ。


洞窟の中って、それだけ危険なのか……。


†††


現場では。
作業員たちが地図を見ながら、次はどこを探すか相談しているところだった。

捜索隊を従えたアスランの姿を見て、飛び上がらんばかりに驚いて。
みんな、真っ青になっている。


どうやらくだんのハマド氏は、ちょっと目を離した隙にいなくなってしまったらしい。

落ちるような穴は付近にないので。
洞窟のどこかで迷子になったのだろう、と。


『何故すぐに上へ報告をしない』

『申し訳ありません……!』
現場監督の責任になると思って、どうにか自分たちで見つけようとしていたようだ。


道を外れたのは、忠告を聞かなかったハマドの責任なので。監督に責任追及はしないが。二次遭難を招く危険もあるので、以後、こういう場合はすぐに上に報告するように、とアスランが注意をして。

作業員たちが探した場所をチェックして。
捜索する場所の見当をつけている。


なるべく早く、無事で見つかるといいな。
と思って、洞窟の方を見ていたら。

白い毛玉がどこからか現れて。
ぴょこぴょこと、俺の方に向かって跳んできた。


†††


『神の使い……!』
『こんなにたくさん現れたのは初めてだ』
現場がさわついた。

初めて見る人もいたようだ。俺はけっこう見てるけど、本当に珍しい生き物なんだな。


毛玉は俺の側に、いっぱい集まってきた。

困っている人の前に現れるという、神の使いだ。
遭難者を助けに来てくれたのかも。


「いなくなった人、探してくれるの? これ、その人の持ってた紙だけど」

差し出した俺の手のひらに飛び乗った毛玉は、鷹の脚についていた紙に鼻を近づけて、ひくひくさせて。

ボンボンみたいな尾と毛を、ぶわっと逆立てた。
紙に対して警戒している様子だ。

……あ。そっか。

「ごめん、猛禽類の匂いがするだろうけど、今ここに鷹はいないから、大丈夫だよ」
説明すると。

そうなの、よかった。という風に落ち着いた。

完全に人の言葉がわかってるよな、これ。
すごいな。


俺の手から降りると。
ついて来い、というように洞窟の方へ跳んでいった。


「アスラン、この子たちが、案内してくれるって」

「ああ、わかった」
アスランは洞窟へ跳ねていく毛玉を見て、頷いた。


皆、ついて来い、と捜索隊に言って。
洞窟の中へ入っていった。


†††


洞窟の中は、少し肌寒かった。

中を照らすライトはLEDか。
ここの洞窟は湿気が多いな。……ガラスって、もしかして、水晶のことを指してたのかな?


岩から、珪素が結晶化した石英が顔を出している。
青白いライトを反射して、すごく綺麗だ。

毛玉は、早く早く、というようにこちらを振り返りながらぴょんぴょんと跳んでる。

ごめんごめん。
景色に見惚れてる場合じゃなかったな。


更に中へ進むと、温度と湿度が上がってきた。

『え、そっちはもう、捜索が済んで……』
戸惑う作業員に、いいから着いて来い、とアスランが言って。

毛玉の道案内で、先へ進んでいく。

毛玉は、狭い横穴の前で立ち止まって。
数匹が中に入っていった。


「……ここにいるの?」

どうやら、空気穴のようだ。
……匍匐前進すれば、俺くらいなら通れるだろうけど。

どうだろう。


「ユキヤ?」
「ちょっとペンライトみたいの持ってたら、誰か貸して?」

『誰か、ペンライトを持っているか?』
『あ、私が』

シャオフーが持っていたペンライトを借りて。
腹ばいになって、横穴に入ってみた。
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