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手作りの指輪
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馬車が港町ペンプティを出て、ちょっと走ったところで。
大きな煙突のある石造りの建物が多い街並みが目に入った。
工場っぽいな、と思ったら。
「大きな煙突が見えるか? ここはトゥリティという職人街だ」
やっぱり工場だったようだ。
街の中心には鉄を溶かす巨大な溶鉱炉があって、それが街のモニュメントみたいになってる。
武器・防具や装飾品などの金属加工、革や布製品など。
色々な職人が集まる街だそうだ。
お互いに材料が手に入りやすいから、ここに職人が集まったのかな?
包丁とかナイフなどの調理器具もここで買えるらしい。
ゼノンはここでちょっと用事があるから、喫茶店で待ってて欲しい、と言われたので。
指定された喫茶店でお茶を飲みながら待つことになった。
*****
着いてきた護衛の人が俺の横に立ってる。
何となく申し訳なくなって。
空いてる席に座れば、って言ったけど。自分は護衛なので、と固辞されてしまった。
更に、お茶の毒見までされてしまった……。
護衛って、毒見もするんだ。大変だ。
毒見されるのって店からすると信用されてないみたいで気分悪くならないかなあ、って思ったけど。
王族はそうしなくちゃいけない習わしなので当然なんだって。
さっきのレストランでも毒見したのかな? と思ったら。
ゼノンは鼻が格別に良いから、毒見をしなくても匂いでわかるんだそうだ。
凄いなあ。
茶髪に茶色い目の人懐っこそうな笑顔をした護衛の青年はタキという名前で、王子直属の近衛騎士だそうだ。
やっぱり騎士か。制服がなんとなくゴージャスだもんな。
もう一人の、ゼノンについてった赤っぽい髪で青い目の人がノエだって。
街を見廻ってる兵士が、タキに敬礼して。
俺に気づいて、慌てて敬礼していた。
王子直属の近衛騎士がついてるから、王子の嫁だってわかったようだ。
兵隊の中で騎士、特に近衛騎士は偉いみたい。
一般兵の制服は地味だけど、騎士の制服は格好いいな。白さが眩しい。
いいなあ。
俺もドレスじゃなくて、そういう服着たかった……。
ゼノンの正装は黒い服で裏地が赤の黒マントだったけど。兵士も騎士もマントはみんな赤一色だった。
何でゼノンだけ制服とマントが黒いんだろうか。
王族だから?
*****
「本当は、殿下は我々の警護など必要ないほどお強いのですが、王族が外出する際は騎士が着く決まりですので。お邪魔をして申し訳ないです」
タキは直立不動の姿勢で、すまなそうな顔をしている。
本当はもっと護衛をつけるべきだけど、ゼノンが嫌がるので、最低数の二人だけは同行を許されたとか。
俺と二人だけになりたいのをお邪魔しいてる気がするらしい。
そんな風には見えなかったけどな。
「ゼノンってそんなに強いの?」
「ええ、それはもう! 我が国で一番なのですよ。剣術も魔法の腕も!」
食い気味に言われた。
あの黒い騎士装束は、その国で一番の騎士である 証なんだって。
まるで自慢するように話している。
ゼノンはこの国の王子、時期国王というだけじゃなく、国で一番の騎士としても誇りであり、憧れの対象なんだそうだ。
しばらくタキと話してたら、ゼノンが戻って来た。
左手を出すようにと言われて、手を出したら。
薬指に指輪を嵌められた。
指輪には、綺麗な赤い宝石がついていた。
「これはアントラクスという守り石だ。スオウを守ってくれるだろう」
これって。
もしかして婚約指輪……いや、結婚指輪?
あっちでの話は、色々した。
結婚式の話をした時、何か考えてた様子だったのは。
俺に指輪を贈ろうと思ったからだったのかな? こっちの結婚はあっさりしすぎで結婚した感じがしないって言ったから?
「ありがとう……」
ふとゼノンの手を見れば、あちこち黒く煤けてる。
まさか。
今、これを作って来たの!? 手作りで!? 早いな!
このくらいの加工ならそんなに難しくはないって。
いや、難しいと思う。
今度やってみればいいと言われて。
だったら、俺もゼノンに指輪を作ってお返ししたいな、と思ってしまった。
無理矢理連れ去られたのに。
うーん、我ながらチョロ過ぎない?
*****
次は、ヴォーレィオ王国の中心街、キリヤキに着いた。
王城に最も近い街だそうだ。
だからか、人通りも多くて活気づいてる。
行商人が朝市をやるので、国中の色々な品が集まるけど。
現地で買うよりちょっと割高だって。
輸送費とか、手数料みたいなものかな?
日も暮れてきたので、ここで一泊するという。
言われてみれば、陽も沈みかけている。
王城が近いなら実家なんだし、実家に帰って泊まればいいのに。
と思ったけど。
貴族だし、あまり遅くに尋ねるのも色々問題があるのかも。
食事の用意とかもあるもんな。
中心街だけあってか、ホテルも立派だった。
ゼノンは当然のようにそこで一番いい部屋を取ってた。
近衛騎士であるタキとノエは警備の都合上、その手前の二部屋。
ホテルの中にレストランがあって。
そこの個室で夕食をとった。
高そうなだけあって美味しかったけど。
ペンプティの海鮮料理の方が美味しかったなあ。鮮度の問題かな?
でも、支配人とシェフらしき人が見送りに来て心配そうな顔をしていたので、「ごちそうさまでした、美味しかったです」と言ったらホッとしていた。
ああそうか。
立場が上になると、 一言の意味がそれだけ重くなるんだと思った。
*****
タキから聞いた話だと、ゼノンは周囲から無表情で寡黙、禁欲的な人だと思われてるそうだ。
それが、俺の前だとかなり笑うし喋ってるから驚いたって言ってたな。
禁欲的どころか凄いエロかった。
それは、俺が特別で、唯一無二の、運命の相手。ツガイだから。
……ちょっと嬉しくなってしまった。
ホテルの部屋は凄く広くて綺麗だった。
特別室なので、部屋に風呂がついてるそうだ。風呂、標準装備じゃないんだ……。
先に入るよう言われたので、遠慮なく風呂に入る。
鏡に写る自分の姿に、まだ違和感がある。
何だこの猫耳男は、って。しっぽが不満そうに動いてる。
この世界にいる限り、慣れるしかないんだろうな。
一人では脱げないので、ゼノンに後ろの紐を緩めてもらったドレスを脱ぎながら。
己の似合わない女装姿にもげんなりする。
ごってりつけられてた美少女メイクはすっかり落ちてるのに。
ゼノンは相変わらず綺麗だって言うんだよな。
目がどうかしてるに違いない。
……何か、性器の形状が普段と変わってるような気がするんだけど。
何というか、皮の中が。
サイズもなんか。
いや、気のせいだよな……。
いいやもう、さっさと風呂入っちゃおう。
大きな煙突のある石造りの建物が多い街並みが目に入った。
工場っぽいな、と思ったら。
「大きな煙突が見えるか? ここはトゥリティという職人街だ」
やっぱり工場だったようだ。
街の中心には鉄を溶かす巨大な溶鉱炉があって、それが街のモニュメントみたいになってる。
武器・防具や装飾品などの金属加工、革や布製品など。
色々な職人が集まる街だそうだ。
お互いに材料が手に入りやすいから、ここに職人が集まったのかな?
包丁とかナイフなどの調理器具もここで買えるらしい。
ゼノンはここでちょっと用事があるから、喫茶店で待ってて欲しい、と言われたので。
指定された喫茶店でお茶を飲みながら待つことになった。
*****
着いてきた護衛の人が俺の横に立ってる。
何となく申し訳なくなって。
空いてる席に座れば、って言ったけど。自分は護衛なので、と固辞されてしまった。
更に、お茶の毒見までされてしまった……。
護衛って、毒見もするんだ。大変だ。
毒見されるのって店からすると信用されてないみたいで気分悪くならないかなあ、って思ったけど。
王族はそうしなくちゃいけない習わしなので当然なんだって。
さっきのレストランでも毒見したのかな? と思ったら。
ゼノンは鼻が格別に良いから、毒見をしなくても匂いでわかるんだそうだ。
凄いなあ。
茶髪に茶色い目の人懐っこそうな笑顔をした護衛の青年はタキという名前で、王子直属の近衛騎士だそうだ。
やっぱり騎士か。制服がなんとなくゴージャスだもんな。
もう一人の、ゼノンについてった赤っぽい髪で青い目の人がノエだって。
街を見廻ってる兵士が、タキに敬礼して。
俺に気づいて、慌てて敬礼していた。
王子直属の近衛騎士がついてるから、王子の嫁だってわかったようだ。
兵隊の中で騎士、特に近衛騎士は偉いみたい。
一般兵の制服は地味だけど、騎士の制服は格好いいな。白さが眩しい。
いいなあ。
俺もドレスじゃなくて、そういう服着たかった……。
ゼノンの正装は黒い服で裏地が赤の黒マントだったけど。兵士も騎士もマントはみんな赤一色だった。
何でゼノンだけ制服とマントが黒いんだろうか。
王族だから?
*****
「本当は、殿下は我々の警護など必要ないほどお強いのですが、王族が外出する際は騎士が着く決まりですので。お邪魔をして申し訳ないです」
タキは直立不動の姿勢で、すまなそうな顔をしている。
本当はもっと護衛をつけるべきだけど、ゼノンが嫌がるので、最低数の二人だけは同行を許されたとか。
俺と二人だけになりたいのをお邪魔しいてる気がするらしい。
そんな風には見えなかったけどな。
「ゼノンってそんなに強いの?」
「ええ、それはもう! 我が国で一番なのですよ。剣術も魔法の腕も!」
食い気味に言われた。
あの黒い騎士装束は、その国で一番の騎士である 証なんだって。
まるで自慢するように話している。
ゼノンはこの国の王子、時期国王というだけじゃなく、国で一番の騎士としても誇りであり、憧れの対象なんだそうだ。
しばらくタキと話してたら、ゼノンが戻って来た。
左手を出すようにと言われて、手を出したら。
薬指に指輪を嵌められた。
指輪には、綺麗な赤い宝石がついていた。
「これはアントラクスという守り石だ。スオウを守ってくれるだろう」
これって。
もしかして婚約指輪……いや、結婚指輪?
あっちでの話は、色々した。
結婚式の話をした時、何か考えてた様子だったのは。
俺に指輪を贈ろうと思ったからだったのかな? こっちの結婚はあっさりしすぎで結婚した感じがしないって言ったから?
「ありがとう……」
ふとゼノンの手を見れば、あちこち黒く煤けてる。
まさか。
今、これを作って来たの!? 手作りで!? 早いな!
このくらいの加工ならそんなに難しくはないって。
いや、難しいと思う。
今度やってみればいいと言われて。
だったら、俺もゼノンに指輪を作ってお返ししたいな、と思ってしまった。
無理矢理連れ去られたのに。
うーん、我ながらチョロ過ぎない?
*****
次は、ヴォーレィオ王国の中心街、キリヤキに着いた。
王城に最も近い街だそうだ。
だからか、人通りも多くて活気づいてる。
行商人が朝市をやるので、国中の色々な品が集まるけど。
現地で買うよりちょっと割高だって。
輸送費とか、手数料みたいなものかな?
日も暮れてきたので、ここで一泊するという。
言われてみれば、陽も沈みかけている。
王城が近いなら実家なんだし、実家に帰って泊まればいいのに。
と思ったけど。
貴族だし、あまり遅くに尋ねるのも色々問題があるのかも。
食事の用意とかもあるもんな。
中心街だけあってか、ホテルも立派だった。
ゼノンは当然のようにそこで一番いい部屋を取ってた。
近衛騎士であるタキとノエは警備の都合上、その手前の二部屋。
ホテルの中にレストランがあって。
そこの個室で夕食をとった。
高そうなだけあって美味しかったけど。
ペンプティの海鮮料理の方が美味しかったなあ。鮮度の問題かな?
でも、支配人とシェフらしき人が見送りに来て心配そうな顔をしていたので、「ごちそうさまでした、美味しかったです」と言ったらホッとしていた。
ああそうか。
立場が上になると、 一言の意味がそれだけ重くなるんだと思った。
*****
タキから聞いた話だと、ゼノンは周囲から無表情で寡黙、禁欲的な人だと思われてるそうだ。
それが、俺の前だとかなり笑うし喋ってるから驚いたって言ってたな。
禁欲的どころか凄いエロかった。
それは、俺が特別で、唯一無二の、運命の相手。ツガイだから。
……ちょっと嬉しくなってしまった。
ホテルの部屋は凄く広くて綺麗だった。
特別室なので、部屋に風呂がついてるそうだ。風呂、標準装備じゃないんだ……。
先に入るよう言われたので、遠慮なく風呂に入る。
鏡に写る自分の姿に、まだ違和感がある。
何だこの猫耳男は、って。しっぽが不満そうに動いてる。
この世界にいる限り、慣れるしかないんだろうな。
一人では脱げないので、ゼノンに後ろの紐を緩めてもらったドレスを脱ぎながら。
己の似合わない女装姿にもげんなりする。
ごってりつけられてた美少女メイクはすっかり落ちてるのに。
ゼノンは相変わらず綺麗だって言うんだよな。
目がどうかしてるに違いない。
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