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智紀
魂の年齢
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白い天井。
また、ドームのような部屋の中で寝ていたようだ。
……変な夢を見てしまった。
夢だけど。
全てが夢ではなかった。
異世界に来たのは、現実だったのか。
恐る恐る、股間を確かめてみたが。
夢精はしていなかった。
セーフだ。
この年になって、こそこそ下着を洗うのは情けないものだ。
それにしても、何故、紐パンツなのだろうか。異世界だからか?
千手観音に手足を拘束されて、ナメクジ様の軟体生物に身体を這われて吐精してしまう夢を見るなんて。
どういった深層心理の現れなのだろうか? 携帯がないと、気軽に調べられないのは少々痛いな。
まあいいか。
どうせ性欲だの、性的な抑圧だのという下世話な話になるに決まっている。
きっと、急激に環境が変わったせいだろう。
*****
よっこいしょ、と起き上がろうとして。
身体がやけに軽いことに気付いた。
……おお。
起き上がっても、どこも痛まない。
むしろすっきりと爽快な感じである。
思わず準備体操とかしたくなるほど元気だ。異世界効果だろうか?
上等な寝床のせいか?
四十過ぎると、あちこちにガタがくるので。朝、目が覚めるとどこか痛むものだが。
毎日こうならありがたいものだ。
ふと、自分の手足を見て。
それまでの、見慣れた、くたびれた中年の手足ではなくなっているような違和感に、今更になって気付いた。
元の身体は死んでいて。
魂だけ呼ばれた、という話だった。
こちらに来た時、生まれ変わったか、肉体年齢が若返ったのだろうか?
良く見れば、猫を拾う時にコンクリ塀で擦り剥いたはずの傷も消えている。
デザインナイフでざっくりやった古傷も。
ヴァルラムが僕の方を見て、可愛い、と言っていたのは。
気のせいではなく。
まさか、僕が、可愛くなってるのか?
顔形まで別人のように生まれ変わったわけではないだろうな。
触れた感じでは、違和感は無いが。
鏡はあるのだろうか? 確認してみたい。
もし、別人のような美形に生まれ変わっているなら、人生をやり直す意味もあるだろう。
などと後ろ向きな考えを持つ僕だった。
……とりあえず。
若返ったのは確実なようだ。
下の毛に混じっていた白髪もなくなっているのだから。
*****
「身体のお加減はいかがですか?」
朝一番に顔を出したのは呪医のイリヤだった。
何ともない、鏡が見たいと言うと。
イリヤは壁に向かって、鏡、と言った。
すると、そこに鏡が出現したのだ。
何だこれ、魔法!?
「すみません。説明をしておくべきでしたね。大抵のものは、命じれば出るのです。例えば、……水」
壁から、コップに入ったお水が出てきた。
音声入力の便利マシンのようだ。
「そうぞ」
「ありがとう、イリヤ」
ちょうど喉が渇いていたので、ありがたく水をいただいて。
とりあえず、鏡を覗き込んでみた。
……僕だ。
間違いなく、僕である。
美少年だったらいいな、と期待していたので、かなりがっくりしたが。
ただし、かなり若返っていた。
18歳くらいだろうか?
恐らく、僕が一番幸福であった時期。
両親もまだ健在で。
僕も漫画家としてデビューしたばかりで。夢も希望も満ち溢れていた頃の。
もう、遠い昔の話のように思えるけれど。
*****
「どうしました?」
鏡の前で固まっている僕を、イリヤが心配そうに覗き込んできた。
「……若返ってる」
自分の顔を指差して、言った。
「ああ、やはりそうでしたか。魂を呼んだ際、魂の情報を読み取って肉体を再構築したのですが、一番状態の良い年齢になるようですね。……おいくつの頃ですか?」
「……18歳くらい」
「18!?」
とても驚かれてしまった。
やはり、彼らには14,5に見えるようだ。
3、4歳なら誤差程度だろうが。中学3年と18歳、大学1年は全く違うのだ。
一緒にされては困る。
イリヤは僕を上から下まで眺めて。
「こんなに可愛らしいのに、18……。あ、失礼しました」
2メートル以上ある男達から比べれば、確かに可愛らしく見えるかもしれないが。
それじゃあんたら何歳なんだ、と思ったので訊いてみたら。
とんでもない長寿の人類だったようだ。
一番年長の魔術師パーヴェルは617歳、司教ユリアーンが494歳。呪医イリヤは103歳だという。
長生き、の桁が違った。
でも、代替わりしたばかりのヴァルラム王が40歳。
騎士レナートが一番若くて27歳だそうだ。
この世界で成人は、15歳。
外見年齢は20歳前後で固定され、そのままものすごく長生きするそうだ。
でもそれは、王族というかそれぞれの種族の一部だけで。
一般市民の寿命は百歳前後だという。
長いのか短いのか、よくわからないな。
種族と言われても。人種は、そんなに違っているようには見えないが。
髪の色とかの違いで分類されているのだろうか?
ヴァルラム、ギリ年下なのか……。
そうは見えないが。
外見は若いものの、若僧だとは思わなかった。
威厳を感じるというか、オーラが王様だったので。
……そういえば、14,5で童貞でも充分”聖神”になれそうな言い方をしていた。
ということは。
11~13辺りまでに精通が来たとして。すぐ発散しないと駄目、みたいな感じだろうか。
どれだけ我慢できないケダモノ揃いなんだ。
などとドン引きしていた僕の考えは、ある意味で正解だった。
後になってわかったが。
この異世界の住人は全て、純粋な人間ではなかった。
半分、ケダモノだったのである。
*****
一度だけかと思った王様との晩餐会は毎夜続いて。
うっかり酒を飲まされては酔って眠ってしまって。
その夜は必ず、ナメクジと千手観音の夢を見た。
ナメクジはいつも一匹だが。
千手観音の手は、多くて8本、6本の時が多く。10本だったのは最初だけだったようだ。
抵抗しないので、手を減らしたのだろうか?
僕なんかにイタズラしてないで、悩める衆生を救って欲しい。
しかし、何故こんな頻繁にエッチな夢を見るのだろう。
身体が若返ったせいで、性欲でも甦ったのだろうか、と悩んだが。
起きても夢精はしていない。
そして起きている間は特に、性欲もわかない。
周囲は男ばかりだし。
劣情を覚えることがないのは当たり前か。
また、ドームのような部屋の中で寝ていたようだ。
……変な夢を見てしまった。
夢だけど。
全てが夢ではなかった。
異世界に来たのは、現実だったのか。
恐る恐る、股間を確かめてみたが。
夢精はしていなかった。
セーフだ。
この年になって、こそこそ下着を洗うのは情けないものだ。
それにしても、何故、紐パンツなのだろうか。異世界だからか?
千手観音に手足を拘束されて、ナメクジ様の軟体生物に身体を這われて吐精してしまう夢を見るなんて。
どういった深層心理の現れなのだろうか? 携帯がないと、気軽に調べられないのは少々痛いな。
まあいいか。
どうせ性欲だの、性的な抑圧だのという下世話な話になるに決まっている。
きっと、急激に環境が変わったせいだろう。
*****
よっこいしょ、と起き上がろうとして。
身体がやけに軽いことに気付いた。
……おお。
起き上がっても、どこも痛まない。
むしろすっきりと爽快な感じである。
思わず準備体操とかしたくなるほど元気だ。異世界効果だろうか?
上等な寝床のせいか?
四十過ぎると、あちこちにガタがくるので。朝、目が覚めるとどこか痛むものだが。
毎日こうならありがたいものだ。
ふと、自分の手足を見て。
それまでの、見慣れた、くたびれた中年の手足ではなくなっているような違和感に、今更になって気付いた。
元の身体は死んでいて。
魂だけ呼ばれた、という話だった。
こちらに来た時、生まれ変わったか、肉体年齢が若返ったのだろうか?
良く見れば、猫を拾う時にコンクリ塀で擦り剥いたはずの傷も消えている。
デザインナイフでざっくりやった古傷も。
ヴァルラムが僕の方を見て、可愛い、と言っていたのは。
気のせいではなく。
まさか、僕が、可愛くなってるのか?
顔形まで別人のように生まれ変わったわけではないだろうな。
触れた感じでは、違和感は無いが。
鏡はあるのだろうか? 確認してみたい。
もし、別人のような美形に生まれ変わっているなら、人生をやり直す意味もあるだろう。
などと後ろ向きな考えを持つ僕だった。
……とりあえず。
若返ったのは確実なようだ。
下の毛に混じっていた白髪もなくなっているのだから。
*****
「身体のお加減はいかがですか?」
朝一番に顔を出したのは呪医のイリヤだった。
何ともない、鏡が見たいと言うと。
イリヤは壁に向かって、鏡、と言った。
すると、そこに鏡が出現したのだ。
何だこれ、魔法!?
「すみません。説明をしておくべきでしたね。大抵のものは、命じれば出るのです。例えば、……水」
壁から、コップに入ったお水が出てきた。
音声入力の便利マシンのようだ。
「そうぞ」
「ありがとう、イリヤ」
ちょうど喉が渇いていたので、ありがたく水をいただいて。
とりあえず、鏡を覗き込んでみた。
……僕だ。
間違いなく、僕である。
美少年だったらいいな、と期待していたので、かなりがっくりしたが。
ただし、かなり若返っていた。
18歳くらいだろうか?
恐らく、僕が一番幸福であった時期。
両親もまだ健在で。
僕も漫画家としてデビューしたばかりで。夢も希望も満ち溢れていた頃の。
もう、遠い昔の話のように思えるけれど。
*****
「どうしました?」
鏡の前で固まっている僕を、イリヤが心配そうに覗き込んできた。
「……若返ってる」
自分の顔を指差して、言った。
「ああ、やはりそうでしたか。魂を呼んだ際、魂の情報を読み取って肉体を再構築したのですが、一番状態の良い年齢になるようですね。……おいくつの頃ですか?」
「……18歳くらい」
「18!?」
とても驚かれてしまった。
やはり、彼らには14,5に見えるようだ。
3、4歳なら誤差程度だろうが。中学3年と18歳、大学1年は全く違うのだ。
一緒にされては困る。
イリヤは僕を上から下まで眺めて。
「こんなに可愛らしいのに、18……。あ、失礼しました」
2メートル以上ある男達から比べれば、確かに可愛らしく見えるかもしれないが。
それじゃあんたら何歳なんだ、と思ったので訊いてみたら。
とんでもない長寿の人類だったようだ。
一番年長の魔術師パーヴェルは617歳、司教ユリアーンが494歳。呪医イリヤは103歳だという。
長生き、の桁が違った。
でも、代替わりしたばかりのヴァルラム王が40歳。
騎士レナートが一番若くて27歳だそうだ。
この世界で成人は、15歳。
外見年齢は20歳前後で固定され、そのままものすごく長生きするそうだ。
でもそれは、王族というかそれぞれの種族の一部だけで。
一般市民の寿命は百歳前後だという。
長いのか短いのか、よくわからないな。
種族と言われても。人種は、そんなに違っているようには見えないが。
髪の色とかの違いで分類されているのだろうか?
ヴァルラム、ギリ年下なのか……。
そうは見えないが。
外見は若いものの、若僧だとは思わなかった。
威厳を感じるというか、オーラが王様だったので。
……そういえば、14,5で童貞でも充分”聖神”になれそうな言い方をしていた。
ということは。
11~13辺りまでに精通が来たとして。すぐ発散しないと駄目、みたいな感じだろうか。
どれだけ我慢できないケダモノ揃いなんだ。
などとドン引きしていた僕の考えは、ある意味で正解だった。
後になってわかったが。
この異世界の住人は全て、純粋な人間ではなかった。
半分、ケダモノだったのである。
*****
一度だけかと思った王様との晩餐会は毎夜続いて。
うっかり酒を飲まされては酔って眠ってしまって。
その夜は必ず、ナメクジと千手観音の夢を見た。
ナメクジはいつも一匹だが。
千手観音の手は、多くて8本、6本の時が多く。10本だったのは最初だけだったようだ。
抵抗しないので、手を減らしたのだろうか?
僕なんかにイタズラしてないで、悩める衆生を救って欲しい。
しかし、何故こんな頻繁にエッチな夢を見るのだろう。
身体が若返ったせいで、性欲でも甦ったのだろうか、と悩んだが。
起きても夢精はしていない。
そして起きている間は特に、性欲もわかない。
周囲は男ばかりだし。
劣情を覚えることがないのは当たり前か。
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