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エピローグ
Change 0 -「博士の名前」-
しおりを挟む「入ったぁー、ホームラーン!」
観客の歓声を浴びて、ホームベースに帰ってくる。
この興奮は何度味わっても薄れることはない。
「さあ、本日のヒーローインタビューは満塁ホームランを打った、津川龍太郎選手にお越しいただきましたー」
「よろしくお願いしまーす!」
このインタビューを自宅で見ている妻と子供たちに帰ってから格好良かったかを聞くのがいつもの楽しみだ。
今日も、チームは勝利しこれで開幕3連勝だ。
龍太郎は着替え。チームメイトに挨拶を終えると、タクシーで自宅への帰路を辿る。
タクシー運転手が
「今日はおめでとうございます。ホームランも格好良かったですよ」
と、声を掛ける。
津川も嬉しそうに、
「ありがとうございます。」
ホームランを打った日やヒーローインタビューを受けた日には必ずと言っていいほどみんなが声を掛けてくれる。
こんな他愛もない会話をしていると、唐突に運転手が
「津川さんはなんで野球選手になろうと思ったのですか?」
と質問してきた。
津川は少し驚いたが、ちょっと考えてから、
「うーん、小さい頃から、野球をしてましてね。父親も野球が好きで。いっつもテレビで野球中継ばかりみてるような人だったね。それを見て、俺もいつか有名になりたいなぁって思ったんですよね。」
「お父さんも野球が好きだったんですね。小さい頃の夢って、叶うと嬉しいですよね。」
「やっぱり、昔から思い描いていた夢が叶うと、何か達成した感じで気持ちいですね!
運転手さんの小さい頃の夢ってなんだったんですか?」
津川からの質問に対して、運転手は間髪入れず笑顔で答える。
「昔はね、科学者になりたかったんですよ。私がまだ小学生の時に両親が亡くなってね。その時は、死ぬということが理解出来ていなかったのでね、両親は帰ってくるものだと思ってました。」
「それはそれは、嫌なことを思い出させてしまいました。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ずっと昔の話なので。
それでその時にどうしたら死ななくていいかなと思いましてね。いろいろ調べるために科学者になろうと思ってましたね。結局、人間はいつか死ぬ生き物であるとわかってすぐに科学者は諦めました。」
「子供らしい思考ですね。」
自分がもし死んだら、妻や子供たちは悲しんでくれるのだろうか。津川はふと思う。
「でもね、人間やればできると思っているんですよ。だから夢は叶うと信じています。」
津川はそんな不可能なことをと、頭では思いながらも笑顔で
「叶うといいですね。」
と伝えると、運転手はそれに答えるかのように何か小声でぼそっと言葉を発した。
津川は聞き取れなかったが、大したことではないだろうと聞き返しはしなかった。
津川は連日の試合の疲れからかうとうととし始める。
運転手は何か白くて大きめなマスクをつける。
津川は不思議に思うがそこで意識が薄れ、眠りにつく。
津川が目を覚ますと、手足を縛られて椅子に座らされていた。
「なんだこれは、どういうことだ。」
その声に気づいたのか誰かが寄ってくる。
「起きましたか。」
声の主は、さっきまで乗っていたタクシーの運転手だ。
「どういうことだ。はやくこれを解いてくれ。」
焦ったように、津川は運転手に問いかける。
しかし、運転手は首を横にふる。
「ごめんな。」
その一言だけ言うと振り返り、離れていく。
「待ってくれよ、助けてくれ。俺はどうなるんだよ!」
運転手と入れかわるように別の足音が近づいてくる。
白衣をきた、研究員のような白髪の男性だ。
「誰だお前は、」
「私か?私は、いまから君になる男だよ」
「どういうことだ?」
パチッ
急に目の前がホワイトアウトし、徐々に視界が戻ってくる。
正面には似たような椅子があり、頭上には何やら装置がある。
先ほどの研究員の様な男は、正面の椅子に座る。
「博士、準備をお願いします。」
急に左側から女性の声がしたことに津川は驚き、声のした方を向く。
「なぁっ、君は誰だ?」
「私は、博士の助手ですよ。」
女性は笑顔で答える。
「そういうことじゃなくて、君たちは一体何者で、今から何をするつもりなんだ」
津川は暴れながら質問する。
「それは、もうあなたには関係ないことですよ。」
女性はずっと笑顔で津川を見ている。
「準備できたぞ。」
博士と呼ばれる男性が言う。
「わかりました。それではこちらも起動します。」
助手が答える。
凄まじい機械音と共に津川の周りの機材たちが動き出す。
「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ。何をするつもりなんだよ。」
津川は必死に暴れるが、手足の自由が効かない。
突然博士が大声で話し出す。
「津川龍之介、25歳、男性。ジャイアント所属、プロ野球選手。妻と10ヶ月になる双子の娘がいる。」
「なんでそんなこと知っているんだ!」
結婚していることは、人気に関わるからと球団の一部の人間しか知らない。しかし、この男は知っている。津川は恐怖を感じた。
博士は続けた。
「さっきも言っただろう。私は君になる男だ。それぐらいは知っている。」
「お前はさっきから何を言っているんだ。ふざけたことを言うな。」
津川は、足がガクガクと震えている。
すると助手が、
「怖いんですか?」
とまた笑顔で聞いてくる。
「怖いに決まっているだろう、お前らは狂ってる。あとで訴えてやるからな。」
「できるといいですね。」
そう言うと、助手は何かのレバーを引く。
凄まじい音と共に頭上にある装置が、津川の頭に被さる。
「おい、やめろ、、、はやくこれを外せ!」
そう言っている間にも、頭に何かが吸い付いてくる感覚に襲われる。
さっきと同じ音が聞こえる。向こうに座っている博士も同じことをしているとわかった。
「おい、やめろ、頼むから、これを取ってくれ、お願いだ。」
そんな津川の言葉は届かない。
再び博士の声が聞こえる。
「津川龍之介、君のこれからの人生、代わりに楽しんでくるよ。」
その言葉を聞いた時、津川は凄まじい恐怖を感じた。
「やめっ」
津川が言葉を発した途端、雷が落ちた様な音と共に、目の前が真っ暗になった。
2人の頭部から装置が離れる。
先ほどまで博士と呼ばれていた男はぐったりしている。
津川は、目を覚まし自身の手の平を眺める。
そして、顔を上げ正面にぐったりしている博士と呼ばれていた男の方をみる。
隣にいた助手が声を掛ける。
「博士?」
津川は答える。
「あぁ。そうだよ。」
2人は抱き合う。
博士と呼ばれていた男性はぐったりしたまま動く気配はない。しかし博士の記憶は津川へと移り変わっている。
そう、博士と呼ばれていた男の魂は津川の体へと移ったのだ。
「成功だ。これからが楽しくなるぞ。」
男は満面の笑みでそう言った。
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