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第一章 無能の兄

第2話 ゲーム世界、0話

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「おい!今日の魔法座学の課題やって来たか?」
「うげっ!思い出させんなよ……」
(凄ェ……本当にユートピアの世界そのまんまだ)

前を通る生徒もユートピア世界登場人物の一人だ。
嬉しくなって親子参観の生徒のように知ってる顔を探して辺りを
見回しまくる。すると、ある違和感に気づいた。

(主人公が……居ない?)

ユートピアのストーリーは主人公のライトが田舎の村から転学してくる所で始まる。つまりこの世界で王位継承争い、学内の派閥争い、他国との戦争など

俺も巻き込まれるかもしれないゲーム内の事件は彼(彼女)がいないと
発生しないはずだ。

となると時期が気になる……ゲーム本編は4月からスタートのはずだが……
好奇心を抑えられず目に着いた生徒に声をかける。

「そこの君!」
「む。なんだ?」

褐色肌で顔に大きな傷がついた女生徒がこちらを向いた。

「今って何年の何月?」
「アステミス歴2000年の3月26日だな」
「おっけーありがと!」

成程ピッタリ一週間前か……一週間でこの世界に適応し、
ライトから距離を置かなければ……。
何故かって?そりゃ好きな作品に介入して好き勝手するなんて趣味は僕に無い。
だからノーティスのようなモブに転生したのはある意味良かったと思う。

(ま、聖地巡りとかやることはいくらでも有るからね!ワクワクするなぁ!)

そんな事を思っているといつの間にかノーティス君の教室、2ーAに着いていた。

「おはよう!」

大声で挨拶しながらドアを開けると何故かクラス中の視線が俺に集まっている。

「?」
「ノーティス、『オハヨウ』ってなんだ?」

そう言って声をかけてきたのはメテオと言うゲーム本編で主人公の相方をしている金髪の男だった。

「え?おはようはおはよう……あ」

そうだ、ユートピアの世界におはようと言う挨拶は無かった。
声をださずに会釈をするか、胸に手を置くのがこの世界の挨拶なのだ。

「あ、いや、なんて言うか……うん、寝ぼけてたみたい。忘れて」
「ははは!まぁお前らしいな、授業では寝るなよ!」

メテオはそういうと友人の輪に戻って行った。
……この世界に慣れるのって結構キツいのでは?
嫌な汗が背中に浮くのを感じながら席に着いた。

(ゲーム内では座学なんて選択肢に答えるだけだったけど……)

改めて見ると教室もゲームのグラフィックと遜色無い。
そして人間もゲームの人間関係にもとづいているように見える。
例えばノーティスを含めたモブは一人で何かしているし、
ゲーム内で元から交流のあった奴はちゃんとグループになっている。

(ふふ……眺めてるだけでもオタクにとっては天国だな)

この世界がゲームに忠実な物だと、この時はまだ思えていた。

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