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第三章 兄妹
第16話 デジャブ
しおりを挟む手紙を送り、これ以上やる事の思いつかない俺は取り敢えず編集室へと戻る。
「ただいまー……あれ、誰も居ない?」
部屋へ入ると誰も居ない。
何かあったのか?と思って、部屋を見渡す。
すると机の上に置き手紙を見つけた。
「ノーティスさんへ、特ダネ情報が見つかったので取材に行ってきます。
マロンさんは剣の手入れ道具を買いに街へ行くと言ってました」
手紙の文字は相当に雑に書かれていて、彼女が余程急いでいたのだと分かる。
「そっか、一人か……」
なんとなく腰を下ろした椅子の軋む音が悲しげに響く。
思えば、俺は自分の部屋等を持っていなかったから
あまり一人きりの時間というのが無かった。
そのせいか自分以外何も居ないこの状況は何となく辛く感じる。
「マロンって街にでたんだよな……」
もしかしたらマロンに会えるかもしれないし、
街を観光するのは良い暇潰しになるだろう。
そう思って俺は財布等を握りしめ初めて学園都市の外に出た。
*
俺らの住む学園都市は人工的に作られた高台に位置する陸の孤島だ。
しかし、長い階段さえ下れば至って普通のヨーロッパ風の街並みが見えてくる。
「うわ~……どの店から回ろう」
さて、俺は城下町……否、学園下町の中で商店街のエリアに来ていた。
広過ぎるくらいの舗装された歩道の両脇に屋台やレストラン、雑貨屋など、
町の店のほとんどはここに集まって居るんじゃないかと思う。
「でも特に買いたい物があるわけじゃないしな……」
目に写るどの店も心の琴線には触れた感覚はしない。
そのままブラブラ歩いていると大きな声の呼び込みが耳に入った。
「アイスいかがですかー!寒い冬にこそ美味しいですよー!」
(アイス屋か……そういえばこの世界に来てから甘い物は食べて無かったな)
そう思った途端にアイスが食べたくなってくる。
無意識の内に俺はアイス屋の列に並んでいた。
「はい!お兄さん何味が良い?」
「チョコで」
「はいよ!おっと、これでチョコは売り切れだ。
お兄さん最後の一つなんて運が良いね!」
「はは……ありがとうございます」
チョコのコーンアイスを片手に丁度良さげなベンチに座る。
「いただきまーす」
そして大口あけてアイスを齧ろうとしたその時。
「……」
(女の子?)
ジーッと俺……いや、アイスを見つめる女の子が目の前に立っていた。
八歳くらいだろうか、茶色のおさげとモコモコの子供服が可愛い。
「……もしかして欲しい?」
「うん」
「そう、お父さんかお母さんに買って貰ってね。アイス屋はあっちに有るから」
「……いいなー」
別にこの女の子にアイスを譲る道理は無い……
そのはずなのだがこんなに見つめられるとどうも食べづらい。
「ああ、もう……分かったよ、あげるよ!」
「わーい!」
子供というのは単純な物で、大声を挙げて喜ぶ。
女の子は俺からアイスを受け取ると、当然のように隣に座ってきた。
「はあ……君、親はどこに居るの?」
(ペロペロ)
親の所在を聞くが、アイスに夢中で耳に入っていないようだ。
やれやれ……食べ終わるまで待つか。
(なんか前にもこんな光景見たような……)
……古い記憶が蘇ってくる。まだ俺が九歳で、奈緒が六歳頃の記憶だ。
ショッピングモールに買い物に出掛けた時。
二人合わせて300円まで自由に使っていいと父に言われ、
俺はお菓子を買おうと思ったのだが、奈緒がフードコートの
アイスを食べたいと言い出した。
それから押し問答の末に俺が根負けし、奈緒が280円のアイスを食べるのを
俺は10円ガムを噛みながら見るはめになった。
当時は不満だったが、今思うと数少ない普通の兄妹らしい思い出だな。
そんな事を思い返していると、女の子がアイスを食べ終わったようだ。
「ごちそうさまでした」
(この子……ちょっと奈緒に似ているな)
見た目は全然違うが、この我儘な割に礼儀正しかったりする所が似ている。
「食べ終わった?じゃあお父さんとお母さんはどこ?」
「お母さんはもう居ないよ、お父さんは仕事」
……おっと、境遇も似ていたようだ。
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