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第三章 兄妹
第19話 覆水盆に返らず
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「……ここが町役場か」
女の子に振り回されながらも、何とかたどり着いた
町役場の外観は古ぼけたコンクリート製に見える。
灰色の外壁と一つの例外無くブラインドで隠された窓からは町役場というよりも、
刑務所かなにかのような印象を受けた。
(ゲームで見たことあるような……?)
「お父さんいますかー?」
女の子はこの異様な外観など意に介さず、父親を求めてドアを開けていく。
「あ、ちょっと待ってよ!」
女の子に気を取られて、思い出しかけた記憶は抜け落ちてしまう。
彼女が開けたドアの隙間をくぐるようにして、俺も中に入る。
「カッカッ……サラサラ……パチパチ……」
町役場の中はアナログな作業音に満ちていた。
太陽光が一切入っていない事もあり、凄まじく陰気な雰囲気に包まれた場所だ。
「お父さんいますかー?」
女の子は作業音以外聞こえないこの場では目立つ高めの声で、受付を呼ぶ。
「……はい、どなた?」
受付から見るからに不健康そうな痩せ型の女性が顔を出した。
「お父さんいますか!」
「まず、名前をお願いします……」
「わたし、モモ!」
「……お嬢さんの名前ではなく、苗字の方をお願いします」
女の子……モモのペースに乗せられて女性からため息が出てるのが分かる。
子供の扱いに慣れている自分はまだ良かったが、彼女には辛いようだ。
「カロー・モモだよ!」
「カローさんですね、少々お待ち下さい。呼んできますから」
そう言うと女性は窓口から去ってどこかに報告しに行ってしまった。
黙って待っているのは退屈なのか、モモが入口近くで待っていた
俺の所にやってくる。
「お父さん、来るといいね」
「うん。そういえば『少々』ってどういうこと?」
「『ちょっと』って意味だよ」
他愛のない立ち話を続けていると、
十五分程してモモの父親らしき人物が顔を出し、こちらにやって来た。
「……モモ……どうしてここに……」
「あっお父さん!」
モモの父親は穏やかそうな中肉中背の男性だった。
だが、ろくに寝てないのか目の隈が色濃く、それに反するように顔色は真っ白で今にも倒れてしまうんじゃ無いかと思わせる容貌だ。
「モモ……駄目じゃないか……お父さんはまだ仕事中なんだよ……」
「しごとなんてどうでも良いもん!」
「ちょっと良いですか?お父さん?」
この父親は少し俺の父に似ている、細い身体で無理する所とかが。
なんとなく、彼ら一家の辿る結末が自分の物と同じになりそうで、
口を挟まずにはいられなかった。
「……君は?」
「名乗る程の者じゃありません。
この娘が家出していたのを保護しただけの人間ですよ」
「家出……?モモ……お前……そんなことしたのか……駄目だろう」
「駄目じゃ無いもん!!!」
「モモ……お前はもう少しだけ聞き分けが良くならないと……」
「黙れ!」
気づくと、自分でも驚く程の大声を上げながら
モモと父親の間に割り込んでいた。
「……な、なんだい……今は家庭の話をしてるんだよ……部外者の君は……」
「いいから聞けよ!まず、この子が家出した理由はあんたに分かるか!?」
「いや……」
「この子はな!あんたに構って貰いたい、遊んで欲しい。
ただ、その一心で家から飛び出してんだよ!分かってるか!?」
「……そうなのかい?」
父親がモモの方を見ると、うんうんと頷く。
「あんた……この子とまともに話したのがいつぶりなのか思い出せるか?」
「……思い出せないなぁ、ここ最近は仕事場と家事の記憶しか無い」
「そうだよな。俺もあんたが家庭を大事に思っているのは分かる、
でなきゃそんな顔になるまで働かねぇだろうからな。
でもよ!あんた自分がどんな顔してるかも分かってねぇだろ!
今にも過労で死にそうだ!
死んじまったら働くどころか家の心配すら出来ねぇんだぞ!」
「……死にそう、か」
「そうだよ!本気で家の事を大事に思ってるなら、
自分の身体も子供との思い出ももっと大事にしやがれ!」
「はは……弱ったな……年下に家族の事で説教されるなんて
夢にも思わなかった」
言いたい事は一通り言い終わり、父親の前から離れる。
「……ごめんね、大きい声出しちゃって。怖かった?」
「ううん、だいしょうぶだよ」
モモに謝罪をしながら俺はいつもの調子に戻る。
「……すまないね、君。娘の事で迷惑掛けちゃったし、僕の事を心配してくれる人なんて久しぶりに会ったよ」
「俺の言う事が響いたなら、
とっとと早退なり有給なり取って娘さんと話をしな」
「…………それは難しいかもしれない」
「は?どうして?」
俺がそう言うと、突如町役場の奥から笑っているような声が響き、
声の主がこちらにやって来た。
「ブワッハッハ!何やら騒がしいのぉ……騒ぎの元はお前か?」
「……イロウ部長」
イロウと呼ばれた中年髭面の大男は、何に使うつもりなのか乗馬用の鞭を
片手に構えながら、俺の前に立つ。
……穏やかにこの親子を助ける事は出来なさそうだ。
*
主人公がガチ説教する展開って珍しいような……
なにか感じるものがあったら応援よろしくお願いします。
女の子に振り回されながらも、何とかたどり着いた
町役場の外観は古ぼけたコンクリート製に見える。
灰色の外壁と一つの例外無くブラインドで隠された窓からは町役場というよりも、
刑務所かなにかのような印象を受けた。
(ゲームで見たことあるような……?)
「お父さんいますかー?」
女の子はこの異様な外観など意に介さず、父親を求めてドアを開けていく。
「あ、ちょっと待ってよ!」
女の子に気を取られて、思い出しかけた記憶は抜け落ちてしまう。
彼女が開けたドアの隙間をくぐるようにして、俺も中に入る。
「カッカッ……サラサラ……パチパチ……」
町役場の中はアナログな作業音に満ちていた。
太陽光が一切入っていない事もあり、凄まじく陰気な雰囲気に包まれた場所だ。
「お父さんいますかー?」
女の子は作業音以外聞こえないこの場では目立つ高めの声で、受付を呼ぶ。
「……はい、どなた?」
受付から見るからに不健康そうな痩せ型の女性が顔を出した。
「お父さんいますか!」
「まず、名前をお願いします……」
「わたし、モモ!」
「……お嬢さんの名前ではなく、苗字の方をお願いします」
女の子……モモのペースに乗せられて女性からため息が出てるのが分かる。
子供の扱いに慣れている自分はまだ良かったが、彼女には辛いようだ。
「カロー・モモだよ!」
「カローさんですね、少々お待ち下さい。呼んできますから」
そう言うと女性は窓口から去ってどこかに報告しに行ってしまった。
黙って待っているのは退屈なのか、モモが入口近くで待っていた
俺の所にやってくる。
「お父さん、来るといいね」
「うん。そういえば『少々』ってどういうこと?」
「『ちょっと』って意味だよ」
他愛のない立ち話を続けていると、
十五分程してモモの父親らしき人物が顔を出し、こちらにやって来た。
「……モモ……どうしてここに……」
「あっお父さん!」
モモの父親は穏やかそうな中肉中背の男性だった。
だが、ろくに寝てないのか目の隈が色濃く、それに反するように顔色は真っ白で今にも倒れてしまうんじゃ無いかと思わせる容貌だ。
「モモ……駄目じゃないか……お父さんはまだ仕事中なんだよ……」
「しごとなんてどうでも良いもん!」
「ちょっと良いですか?お父さん?」
この父親は少し俺の父に似ている、細い身体で無理する所とかが。
なんとなく、彼ら一家の辿る結末が自分の物と同じになりそうで、
口を挟まずにはいられなかった。
「……君は?」
「名乗る程の者じゃありません。
この娘が家出していたのを保護しただけの人間ですよ」
「家出……?モモ……お前……そんなことしたのか……駄目だろう」
「駄目じゃ無いもん!!!」
「モモ……お前はもう少しだけ聞き分けが良くならないと……」
「黙れ!」
気づくと、自分でも驚く程の大声を上げながら
モモと父親の間に割り込んでいた。
「……な、なんだい……今は家庭の話をしてるんだよ……部外者の君は……」
「いいから聞けよ!まず、この子が家出した理由はあんたに分かるか!?」
「いや……」
「この子はな!あんたに構って貰いたい、遊んで欲しい。
ただ、その一心で家から飛び出してんだよ!分かってるか!?」
「……そうなのかい?」
父親がモモの方を見ると、うんうんと頷く。
「あんた……この子とまともに話したのがいつぶりなのか思い出せるか?」
「……思い出せないなぁ、ここ最近は仕事場と家事の記憶しか無い」
「そうだよな。俺もあんたが家庭を大事に思っているのは分かる、
でなきゃそんな顔になるまで働かねぇだろうからな。
でもよ!あんた自分がどんな顔してるかも分かってねぇだろ!
今にも過労で死にそうだ!
死んじまったら働くどころか家の心配すら出来ねぇんだぞ!」
「……死にそう、か」
「そうだよ!本気で家の事を大事に思ってるなら、
自分の身体も子供との思い出ももっと大事にしやがれ!」
「はは……弱ったな……年下に家族の事で説教されるなんて
夢にも思わなかった」
言いたい事は一通り言い終わり、父親の前から離れる。
「……ごめんね、大きい声出しちゃって。怖かった?」
「ううん、だいしょうぶだよ」
モモに謝罪をしながら俺はいつもの調子に戻る。
「……すまないね、君。娘の事で迷惑掛けちゃったし、僕の事を心配してくれる人なんて久しぶりに会ったよ」
「俺の言う事が響いたなら、
とっとと早退なり有給なり取って娘さんと話をしな」
「…………それは難しいかもしれない」
「は?どうして?」
俺がそう言うと、突如町役場の奥から笑っているような声が響き、
声の主がこちらにやって来た。
「ブワッハッハ!何やら騒がしいのぉ……騒ぎの元はお前か?」
「……イロウ部長」
イロウと呼ばれた中年髭面の大男は、何に使うつもりなのか乗馬用の鞭を
片手に構えながら、俺の前に立つ。
……穏やかにこの親子を助ける事は出来なさそうだ。
*
主人公がガチ説教する展開って珍しいような……
なにか感じるものがあったら応援よろしくお願いします。
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