オーセンスハート

大吟醸

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はじめまして 中編

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鳥の囀る声が心地よい。
昨日までとは一変し
優しい暖かさが全身を包む。

昨夜はそのまま湖の傍で過ごした。
カンナギの言うように
向こう岸の小屋に住むのが彼、流星王であるならば
自分たちがここに居ることは既にばれているという意見に全員が納得したため
身を隠す必要などないと判断し
そこにそのまま寝泊りした。

ただ一つ不可解な点は
夕方から今の朝方まで向こう岸を注視したが
人の気配がないこと。
小屋からあがる煙や生活音、そういったものが一切なかったのだ。

ニルが言うには畑や薪割を行った形跡が見えるため
間違いなく最近まで人がいたということ以外
何も把握できなかった。

「さて、どうするか」

「まぁ、居る事ばれてるなら難しゅう考えなくていいんとちゃう?」

「仮に。敵対心があるなら、既にお互いが接見してるはずだしな」

湖の先を眺めていたら
いつのまにか隣でタバコをふかしているザッシュに語りかけた。

「とりあえず、渡るか。こっちは暴れに来たわけじゃない。声かけながら近づくのもありだろ」

返事の代わりに軽く左手を挙げザッシュは離れた。

振り返ると
カンナギがまだ考えをまとめ切れていないと踏んでか
ニルは軽く朝食をすませておりミリノは周りの片づけをしている。

「ニル、芯はそのまま捨てたらだめよ」

はぁーいと返事をしているニルはまだふわふわしている
一晩過ごしたからかミリノの顔からは若干余裕が伺え
普段通りとはまだいえないが危うさは抜けたようだ。

「あれ?ナギ、ザッシュは?」
「ナギ君、おはよぅ」

「ん。渡れる場所を探しに行った。あいつならすぐ見つけて戻ってくるさ」

「なら、まだ少しは時間あるわね」

ミリノはそう返事をすると革袋を差し出してきた。
中には数種のナッツとチーズ
朝食と考えると味気ないが腹持ちはするし嫌いではない。
水は?と聞くと目の前にあるじゃないと湖の方を指さされたので
やれやれと来た道を戻る。

ちょうどよく革袋が空になったため
水洗いをしていると
横からすっと布が差し出された。

「ナギ君、顔も洗っておいたら?ボクも洗わないとまだしっかりしないや」

「サンキュ、ニル。気が利くな」

顔を洗い終えたところに
ザッシュが戻ってきた。

「見つけたで。南の方にちょっと細いけど渡れそうな浅瀬がある」

「よし、案内してくれ」

カンナギの言葉に皆がうなずき、一行は荷をまとめて湖の縁を進み始めた。
夏の光が水面にきらめき、吸い込まれそうになる。
どこか非現実的なほどに穏やかな光景だった。

細い浅瀬を渡りきり、草むらをかき分け、小屋の目前に立つ。
近づいてみると、建物は思った以上に古びていた。
壁は苔むし、扉も今にも外れそうなほど朽ちている。

カンナギは小さく呼吸を整えると、ノックもせずに扉に手をかけた。
重たく軋む音を立て、扉が開く。

「……いるのか?」

声をかけるが、返事はない。
だが、確かに何かの気配がする。
湿った空気に混じる、微かに人の気配。

カンナギが先頭に立って中へ踏み込む。
続くようにニル、ミリノ、ザッシュも入り込んだ。

そこにいたのは
ボロボロの衣を纏い、壁際に座り込んだ一人の青年だった。

赤黒い髪。
半ば瞳が虚ろなまま、彼は乾き切った声で紡いだ。

「……流星王様を、探しているのか」

一同が驚きに息を飲む。

ミリノが一歩、自然と前へ出た。

「あなたは……?」

青年は苦しげに息を吐き、そしてかすれる声で答えた。

「……俺は……彼の側仕えだった者だ」

床に散らばる古びた布地や、朽ちかけた地図。
それらが示すものは、この男が本当にここで誰かを待ち続けていたという現実だった。

カンナギがそっと問いかける。

「……そいつは、今どこにいる?」

青年は、かすかに笑った。
それは悲しみにも、諦めにも似た、壊れそうな微笑だった。

「もう、森の奥深くへ
なあ……最後の頼みだ。
彼を――――」

そこまで言ったところで、青年の身体ががくりと前に傾いだ。
ザッシュが慌てて支え、ミリノが叫ぶ。

「早く、治療を!」

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