かのじょにせつなき青春なんてにあわない~世界から忘れられた歌姫を救いだせ~

すずと

文字の大きさ
26 / 45

第26話 波乱の東京デート

しおりを挟む
「こりゃまたダンジョンなこって」

 俺の嘆きは人混みに消えていく。

 東京に着いて、人の波に乗って新幹線を降りて行くと、そこにはダンジョンが広がっていた。

 大阪もダンジョンと呼ぶに相応しいんだけど、慣れていない東京の駅は俺からするとファンタジーのダンジョンそのものだ。

 それにプラスして、土曜日ってこともあり人の多いのなんのって。

 つうかさ、東京の人達ってオシャレな人多くない? 俺、浮いてない?

 いや、強気でいこう。大阪で培ったシティボーイ感出して行こう、ドヤ。

「あ……」

 やべ。逸れた。八雲と逸れた。明らかに俺から逸れてしまった。スマホを取り出して連絡を入れようとしたところで、彼女がキョロキョロと俺を探しているのが見えた。

 手を伸ばす。

 ガシッと彼女の手首を掴んでおく。

「八雲。大丈夫か?(東京のイケメン風味な声)」

「……」

 ジトーっと睨まれる。

「どうして私が逸れた側になってるのよ。逸れたのは世津でしょ」

「全く仕方ない。もう俺の側から離れるなよ(ドラマの役者風味な声)」

「もしかして、ここが東京だからって意識してる?」

「意識してる」

「してんかい。そんなくだらないこと気にしないでよ」

「こんな服装だったら田舎者とか思われそうだから、せめて声だけでも」

「誰も世津のことなんて気にしてないわよ」

「そりゃそうだ」

「あ、訂正」

 そう言って掴んでいた手首を解かれると、俺の手が握られる。

「私は気にしてるわよ」

「へ……」

 こちらの間抜けな声など気にすることなく、八雲は歩みを早めた。

「ほら、さっさとタクシー乗り場行くわよ」

 そう言って急足で進む彼女の手は少し汗ばんでおり、震えているのがわかった。

 緊張しているのだろう。

 そんな彼女の震えが少しでもおさまるように、俺は包み込むように手を握り返した。







 流石は東京に行き慣れている八雲。あっという間にタクシー乗り場に着くと、颯爽と乗り込む。行き先を告げてタクシーが走り出す。

 東京といえど、タクシーの内装は同じみたい。そりゃそうか。だったら俺は経験あるもんね、ドヤ。っとしていると、八雲が、くすくすと笑ってきやがる。

 笑いたければ勝手に笑え、こちとらシティボーイ成長期だってんだ。

 とか内心で強気のことを思う反面、

 初めての日本の首都なもんで、キョロキョロとタクシーから見える窓の景色を眺める姿を見られて、更に笑われちまう。

 さて、タクシーから降りて目の前のビルを見上げる。

 これが大手芸能事務所か。見た目は大阪にもありそうな巨大ビル。だけど、芸能事務所って聞くと足がすくんでしまうな。

「ここにアポなしで行くのか」

 自分のことではないのに緊張しちまうな。ゴクリと生唾を無意識に飲んでしまう。

「だから、メールなら送っているって言っているでしょ」

 呆れた声を出しながら八雲が隣に立つ。

 清算は相変わらずアプリ内で済ましているようで、後ろのタクシーは東京駅へと戻って行った。

「今日は事務所に行かないわよ。話はそこでするから」

 言いながら彼女が指差したのは、ビルの一階にある大手チェーンのカフェ。関西にもあり、なんなら先週の神戸デートで飲んだ。

「そ、そうなんか」

 しかし、元マネージャーと話をすることには変わりない。

「さ、行きましょ。おそらく、もう元マネージャーは来てくれているはずよ」

 こちらの答えを待たずして早歩きで中に入って行く彼女の姿は緊張を隠しているように思えた。

 そりゃ緊張するわな。俺が緊張してどうする。

 八雲は俺を東京までの暇つぶしで呼んだだけかもしれないが、彼女をサポートするくらいしろ。最推しの歌姫の今後が関わっているんだぞ。

 心の中で気合いを入れて、俺も彼女へと続いてビルの中へと入って行くと、すぐに大手チェーンのカフェへ入店。店内にいるのはほとんどが大人。学生の姿は一人も見当たらない。

「ほら、やっぱりいたわ」

 そう言って視線で差した先には、一人でパソコンんをいじっているスーツ姿の女性。年は二〇代後半くらいだろう。時折、コーヒーを口にする姿が東京のキャリアウーマンを彷彿とさせる。

「彼女、絶対に遅刻しないから」

「なるほど。八雲の早すぎる行動ってのはマネージャー譲りか」

「そうゆうこと」

 八雲は安堵したようや笑顔を浮かべていた。元マネージャーがいてホッとしたんかな。そりゃ無視されても仕方ない案件だもんな。元マネージャーが良い人そうで安心した。

 八雲は気持ちが焦っているみたいで、早歩きで彼女の下へと歩んで行く。

「お久しぶりです、佐藤さん」

 彼女の前で立ち止まり、丁寧に頭を下げる八雲の姿は社会人って感じがして、大人だなぁと思ってしまう。

 対してキャリアウーマン風の佐藤さんと呼ばれた元マネージャーは八雲を見て固まっていた。

 あれ、芸能人はあいさつ命じゃないの? とか内心で思っているところに、佐藤さんが眉をひそめて言ってくる。

「どちらさまでしょうか?」

「え……」

 八雲は予想外の返しに硬直してしまった。

「や……あの、日夏八雲です」

 彼女は焦りのあまりに、自分の手を胸に置いて本名を名乗った。

「日夏、八雲さん?」

 対して佐藤さんは、本当にわからないと言った様子を見せる。もしかしたら仕事相手なのかもと思ったのか、パソコンをいじるが、答えが出ないと言った様子で困惑していた。

「すみません。この人は出雲琴です」

 俺が口出しして良いものかわからなかったが、八雲は放心状態でこれ以上の説明は無理だろうと判断。横から会話に入らせてもらう。

「出雲琴……? 芸名ですか?」

「以前、佐藤さんがマネージャーをしていた芸能人のはずですが」

 佐藤さんはこちらの言葉に少し悩む素振りを見せた。

「そんな方のマネージャーを務めた記憶はございませんよ」

「っ!?」

 八雲の目は驚愕に見開かれた。瞳からわかるように、かなりの動揺が見られる。

「いや、おかしいだろ……!」

 佐藤さんは冗談を言っている様子ではない。だからこそ俺は感情的に声を荒げてしまう。

「出雲琴だよ! あんたらが散々使いまくって捨てた歌姫だろうが!」

「そんな芸能人はウチにはいません。なんですか、これ。なにかのドッキリ?」

「ドッキリなんかじゃない!」

 こちらの煮えたぎる感情とは裏腹に、佐藤さんはより一層冷静になっていく。

「もしかしてウチの事務所に入りたいとかですか? だったら私ではなく、事務所が開催するオーディションに参加してください」

「いや、だから……」

 相手の大人な対応と言葉使い。子供が喚き散らすのを愚かだと語る目。だめだ。この人は冗談を言っているつもりはない。俺がいくら感情的になろうが、向こうは大人だ。喧嘩をしに来たわけじゃない。冷静にならなければならない。

「失礼しました」

 頭を下げると、昇っていた血が下がって行くかのように思い出す。

「そうだ、メール……。今日、ここに来るメールが出雲琴から来ていますよね? だから佐藤さんはここにいるんですよね?

「メール……。ええ、受け取っていますよ。このメールですよね」

 言いながら、テーブルに置いていたスマホを手に取って操作すると画面を見してくる。

 八雲のスマホから佐藤さんへパソコンへのメールをスマホで表示している。しかし、差出人のところが、アルファベットの文字だけが並んであった。

 その本文は、

『お疲れ様です。土曜日の一二時にいつものカフェで大事なお話がありますので会えますか?』

 と簡単な内容が記載されている。

「しかし色々と不思議ですね。こんなメールをもらっても普段ならイタズラだと無視するのですが、きちんと予定を入れていました。どういうことでしょう」

「どういうことって、それは佐藤さんが──」

「すみませんでした!」

 大きく頭を下げる八雲が頭を上げると、にっこりと笑って口を開く。

「人違いでした。私の知り合いの佐藤さんに似ているので、つい……」

「おい、八雲……」

「ほら、行くわよ」

 こちらの言葉は届かずに、八雲は俺の腕を引っ張って連行しようとする。

「待てって、おかしいだろ」

「……お願い。もう、やめて」

 消え入りそうな声に、ゾッとしてしまう。そこで俺の行動が彼女を傷つけてしまっていることに気が付いて頭を冷やす。

「ごめん」

 彼女へこちらの謝罪は届いているのかどうかわからない。ただ、彼女の作り笑いを見ていると心が締め付けられる思いであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...