かのじょにせつなき青春なんてにあわない~世界から忘れられた歌姫を救いだせ~

すずと

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第32話 初夜の罪悪感

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 シャワーを浴びて部屋に戻る。

 八雲は少しボーっとした様子でテレビを眺めていた。チラッと見ると、関西でも見たことがある番組であった。

「お揃いね」

 そう言って少しだけ嬉しそうに微笑んでくれる。俺も館内着を着用したから、そのことを言っているのだろう。

「まるでラブラブの恋人だな」

「館内着でラブラブとかないと思うけど」

「だったら今度、ペアルックでも買いに行こうか」

「今度……」

 彼女は不安そうに言葉をこぼすと、少し無理に笑ってみせる。

「そうね。また今度、買いに行きましょう」

 いつもならここで、「恋人ってのは否定しないんだな」とでも煽るのだけど、なんだか妙に不安な顔を見せる彼女の瞳に、先程、出雲琴のことを忘れかけた罪悪感が襲いかかる。

「でも、今はペアルックよりも、明日のために今日着ていて服を洗濯しに行きましょう」

「そうだな」

 そこからふたりで洗濯と乾燥に行った。

 長旅の疲れがお互いに限界みたいだ。会話は少ない。

 乾燥が終わり、明日着る服を確保できた俺達は、さっさと寝てしまおうということで床に着こうとしていた。

「俺は床でいいや」

「なに言ってるのよ。セミダブルなんだから同じベッドで寝れるわ」

「いや、同じベッドって……」

 そりゃ冗談で同じベッドで寝たいとか言ったりもするが、正式に付き合ってない男女が同じベッドだなんていかんだろ。

「ふぅん」

 ニタっと八雲が笑ってくる。

「女の子が同じベッドで良いっていってるのに、世津ってヘタレなんだ」

「んだと、おらぁ!」

 俺はベッドにダイブした。

「誰がヘタレじゃごらぁ! さぁおいで、かわいい子猫ちゃんじゃーい!」

「ふふ。強い言葉を発しているけど、隅っこでこっちに背を向けて丸まっている時点でヘタレよ」

 グサッと彼女の言葉が突き刺さるが、これが俺の精一杯。

 八雲がベッドに入ると軽くベッドが軋む。隣から彼女の体温が感じ取れ、妙にドキドキしちまう。疲れているはずなのに意識は覚醒を果たす。あ、こんなん眠れない。

「……」

「……」

 彼女はもう寝たのだろうか。こちとら心臓が爆音を鳴らして相手に聞こえてないかビビっちまってる。

 あれ? というか寝るってどうやるんだっけ……。おいおい、寝るって相当高度な技術が必要なんじゃね? 俺、今までそんな高度な技術を無意識にしてたのかよ。

「……」

「……」

 あかん。寝れん。

 八雲はもう寝たのだろうか。

 長い沈黙が流れている。

 かすかに八雲の寝息が聞こえるなぁとか思っている時であった。

「ね、エッチしよっか」

「っ!?」

 反射的に振り返る。暗闇の中、はっきりと顔は見えないが八雲は悲しそうな顔をしていた。

「悪かった。俺は相当なヘタレなんだ。今も八雲が隣にいるだけで心臓が張り裂けそうなほどドキドキしている女性経験のない童貞なんだ」

「私だって男性経験のない処女よ」

 その言葉に、ピクンと反応しちまう。

「だ、だったら、お互いに初めてっのは、恋人に捧げた方が、その、良いんじゃないか」

「世津になら、良いよ?」

「本気かよ」

 彼女の瞳は不安そうに揺れている。

「世津、私のこと忘れかけたでしょ」

「あ……」

 先程の急な叫びで気が付いたのだろう。勘が良いというかなんというか。

「ごめん」

 ここで誤魔化しても意味はないため、素直に謝る。

「だからね、世津が私を忘れないように、私の初めてを奪って。私をあなたの中に刻んで」

 そんなことを言われて理性が崩壊しそうになる。

 彼女の甘い言葉。

 普段の俺ならばその甘い言葉に乗せられていたことだろう。

 だが、今にも泣きそうな彼女の顔を見て、理性なんて引っ込み、罪悪感が破裂しちまって、八雲を抱きしめた。

「ごめん、八雲。ごめん」

 ひたすらに謝る。

「ごめん、八雲。そんなこと言わせてごめん」

 ひたすらに謝る。

「ごめん、八雲。不安にさせてごめん」

 ひたすらに謝る。

「世津……」

 俺の胸の中で、彼女が俺を呼ぶ。

「私の名前を呼んでくれるのはもう世津だけだよ。私の名前をいっぱい呼んでくれて、ありがとう」

「……っ!」

 抱擁に力が入る。
 
 今の俺に、名前くらいいくらでも呼んでやるという自信が正直になかった。

 誤魔化すように、ただただ彼女を抱きしめた。
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