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第39話 いちごパンツトリガー
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客足の少ないカフェ、season。
店内はコーヒーの匂いと、昭和レトロのBGMの中、じいちゃんがコップを拭く音が聞こえてくる。
今日はバイトの日。
身内の店といえど、労働をしているのだからキチンと働かなくてはならない。
その思いとは裏腹に、これだけ客が来なければ働くにも働けない。
いや、客がいなくても、細々した仕事はある。掃除したり、備品の補充したり、洗い物したりと。
これらは手が付かない言い訳だ。
「世津。恋かい?」
コップを拭きながら、じいちゃんがそんなことを口走ってくる。
「はぇ?」
なんともまぁ間抜けな声が出ちまう。バイト中に出して良い声じゃねぇや。
「その腑抜け方。世津もようやく恋を知ったか」
「いや……」
「じいちゃんに話してみなさい」
渋い顔の奥に、他人の恋ばなを早くよこせ、なんて言わんとする雰囲気が感じ取れる。
「恋というか、頭の中が学校で見かけた美人で埋め尽くされているというか」
そう言うと、じいちゃんは心底呆れた顔をしてみせた。
「世津。それを恋と言わずなんという? 完全な一目惚れじゃないか」
「いやいや、今の言い方はなんだか惚れ倒しているみたいな言い方になっちまったな。そうじゃないんだよ」
「というと?」
「今まで一目惚れなんかしたことがないけどさ、もしもこれが一目惚れだというのなら、一目惚れというのはこんなにもモヤモヤするものかね」
「ほぅ。興味深いな。ドキドキではなく、モヤモヤと?」
「そりゃ見た目は美人だし、お近づきになれたら良いとは思う。でも、そうじゃないだよな。上手く言えないけど、惚れた腫れたみたいな単純な感情じゃない気がするんだ」
「思春期の恋愛は複雑だな」
ふふっと昔の自分でも思い出したのか、じいちゃんは微笑んでからそれ以上なにも言わなくなった。
しかし、なんだろうか、このモヤモヤは。
気持ちを晴らすため、彼女に会いたい。
休み時間に先生へ転校生の有無を聞きに言ったら、大笑いをされてしまった。
「高校で転校生なんて天然記念物だぞ」
だとよ。
だったらあの美女が俺達の学年にいるってことで、他のクラスを見て回ったが見つからなかった。
うそだろ、まじに幽霊かよ、なんて思っちまう。
カランカラン。
店の玄関が開く音と共に、鈴の音が響き渡る。
「いらっしゃいませ」
すぐさま反応し、玄関までお客様をお出迎え。
「何名さ──」
接客をしようとしたところで声が止まっちまう。
「ひとりです」
今朝、昇降口に立っていた彼女だ。我が校の制服姿を身にまとった彼女が来店してくれた。
「……あ、えっと、あの」
なんだか新人が初めて接客するみたく、あたふたしてしまう。
「どうぞ、お好きなお席におかけになってください」
なんとか言ってのけたセリフ。
彼女は迷わずにテーブル席に腰掛けた。
初めて、だよな?
それなのに店内を見渡すこともなく、来たことがあるかのようにテーブル席に向かったぞ。
なんだか少しだけ違和感を抱きながらも、お冷を淹れて、彼女に提供する。
「ご注文がお決まりなりましたらお声掛けください」
「……ふふっ」
彼女が可愛らしく笑う。
美人が笑うと、場に花が咲いたかのような華やかさが生まれるよな。
「約束、果たしてあげたわよ」
「えっと……」
戸惑いの声をあげると、彼女は儚げな顔を見せた。
「アイスコーヒーをください」
それも一瞬。
すぐさま注文を伝えてくれる。
「かしこまりました」
伝票にアイスコーヒーと書く。
さっきの言葉が気になったが、相手はお客様。
深く聞くのもためらってしまい、そのまま伝票をじいちゃんに渡した。
♢
アイスコーヒ―を飲む彼女の姿に目を奪われる。ただ飲んでいるだけ。
それだけなのに妙に絵になる。まるで絵画でも眺めているみたいだ。
「世津。お客様をジロジロ見るのは失礼だよ」
「すみません」
そりゃそうだ。それでも目が離せないでいる。
失礼だし、迷惑だし、嫌がれるだろう。わかっていても目が離せないでいるのはなぜだろうか。
「こりゃ重症だ」
呆れた声を出し、じいちゃんは仕方なしに言ってくる。
「お客様の空いたグラスを回収してきておくれ」
「あ、はい」
言われてそそくさと彼女の席へと駆け寄った。
「空いているグラスお下げしますね」
「はい」
空になったアイスコーヒーのグラスと、ミルクと砂糖を回収。
ほんの一瞬だけのやり取りだが、なんだか心が踊る。
あれ? これって本当に一目惚れってやつ?
「世津」
「へ?」
彼女が俺の名前を呼んだ気がした。
「ね、店員さん」
「あ、は、はい」
気のせいだったみたいだ。名前を呼ばれたい願望丸出しで恥ずかしい。
「シンデレラ効果って知ってる?」
「シンデレラ効果?」
なんともまぁ突拍子もないことを聞いてくるお客様なこって。
「知ってますよ」
「そう」
会話終了。
一体全体なんなのだろうか。
ここで、「お客さんはシンデレラ効果に興味があるんですね」とか言えたら良いんだけど、あまりに突拍子もない話題なもんで、目をパチクリさせて終了してしまった。
せっかく、美人が話題を提供してくれたのに、なにをやってんだよ、俺。
「今回も、お節介、やいてくれるんでしょ?」
「え?」
どういう意味なのかわからない。
しかし、彼女はそれ以上なにも言わずに席を立つ。
ドンッ!
「……っぅ!」
その時、彼女が椅子に小指をぶつけた。
「きゃっ!」
ビターン。
なんか、踊るように痛がっているところで、そのまま転んだ。
「あ、いちごパンツ」
彼女のお尻からは可愛いいちご畑が広がっていた。
「……っ!」
すぐさま立ち上がり、俺を睨みつける。
いやいや。今のはあんたが勝手に転んだだけだよ。
恥ずかしかったのか、そそくさと会計を済ますと、玄関のドアにぶつかる。
「ぁぅっ!」
美人なのにおっちょこちょいなの萌えるな。
しかし、美人でいちごパンツか……。
美人、いちごパンツ、歌手……?
なにか頭に引っ掛かりが見つかる。
いちごパンツをトリガーになにか──。
店内はコーヒーの匂いと、昭和レトロのBGMの中、じいちゃんがコップを拭く音が聞こえてくる。
今日はバイトの日。
身内の店といえど、労働をしているのだからキチンと働かなくてはならない。
その思いとは裏腹に、これだけ客が来なければ働くにも働けない。
いや、客がいなくても、細々した仕事はある。掃除したり、備品の補充したり、洗い物したりと。
これらは手が付かない言い訳だ。
「世津。恋かい?」
コップを拭きながら、じいちゃんがそんなことを口走ってくる。
「はぇ?」
なんともまぁ間抜けな声が出ちまう。バイト中に出して良い声じゃねぇや。
「その腑抜け方。世津もようやく恋を知ったか」
「いや……」
「じいちゃんに話してみなさい」
渋い顔の奥に、他人の恋ばなを早くよこせ、なんて言わんとする雰囲気が感じ取れる。
「恋というか、頭の中が学校で見かけた美人で埋め尽くされているというか」
そう言うと、じいちゃんは心底呆れた顔をしてみせた。
「世津。それを恋と言わずなんという? 完全な一目惚れじゃないか」
「いやいや、今の言い方はなんだか惚れ倒しているみたいな言い方になっちまったな。そうじゃないんだよ」
「というと?」
「今まで一目惚れなんかしたことがないけどさ、もしもこれが一目惚れだというのなら、一目惚れというのはこんなにもモヤモヤするものかね」
「ほぅ。興味深いな。ドキドキではなく、モヤモヤと?」
「そりゃ見た目は美人だし、お近づきになれたら良いとは思う。でも、そうじゃないだよな。上手く言えないけど、惚れた腫れたみたいな単純な感情じゃない気がするんだ」
「思春期の恋愛は複雑だな」
ふふっと昔の自分でも思い出したのか、じいちゃんは微笑んでからそれ以上なにも言わなくなった。
しかし、なんだろうか、このモヤモヤは。
気持ちを晴らすため、彼女に会いたい。
休み時間に先生へ転校生の有無を聞きに言ったら、大笑いをされてしまった。
「高校で転校生なんて天然記念物だぞ」
だとよ。
だったらあの美女が俺達の学年にいるってことで、他のクラスを見て回ったが見つからなかった。
うそだろ、まじに幽霊かよ、なんて思っちまう。
カランカラン。
店の玄関が開く音と共に、鈴の音が響き渡る。
「いらっしゃいませ」
すぐさま反応し、玄関までお客様をお出迎え。
「何名さ──」
接客をしようとしたところで声が止まっちまう。
「ひとりです」
今朝、昇降口に立っていた彼女だ。我が校の制服姿を身にまとった彼女が来店してくれた。
「……あ、えっと、あの」
なんだか新人が初めて接客するみたく、あたふたしてしまう。
「どうぞ、お好きなお席におかけになってください」
なんとか言ってのけたセリフ。
彼女は迷わずにテーブル席に腰掛けた。
初めて、だよな?
それなのに店内を見渡すこともなく、来たことがあるかのようにテーブル席に向かったぞ。
なんだか少しだけ違和感を抱きながらも、お冷を淹れて、彼女に提供する。
「ご注文がお決まりなりましたらお声掛けください」
「……ふふっ」
彼女が可愛らしく笑う。
美人が笑うと、場に花が咲いたかのような華やかさが生まれるよな。
「約束、果たしてあげたわよ」
「えっと……」
戸惑いの声をあげると、彼女は儚げな顔を見せた。
「アイスコーヒーをください」
それも一瞬。
すぐさま注文を伝えてくれる。
「かしこまりました」
伝票にアイスコーヒーと書く。
さっきの言葉が気になったが、相手はお客様。
深く聞くのもためらってしまい、そのまま伝票をじいちゃんに渡した。
♢
アイスコーヒ―を飲む彼女の姿に目を奪われる。ただ飲んでいるだけ。
それだけなのに妙に絵になる。まるで絵画でも眺めているみたいだ。
「世津。お客様をジロジロ見るのは失礼だよ」
「すみません」
そりゃそうだ。それでも目が離せないでいる。
失礼だし、迷惑だし、嫌がれるだろう。わかっていても目が離せないでいるのはなぜだろうか。
「こりゃ重症だ」
呆れた声を出し、じいちゃんは仕方なしに言ってくる。
「お客様の空いたグラスを回収してきておくれ」
「あ、はい」
言われてそそくさと彼女の席へと駆け寄った。
「空いているグラスお下げしますね」
「はい」
空になったアイスコーヒーのグラスと、ミルクと砂糖を回収。
ほんの一瞬だけのやり取りだが、なんだか心が踊る。
あれ? これって本当に一目惚れってやつ?
「世津」
「へ?」
彼女が俺の名前を呼んだ気がした。
「ね、店員さん」
「あ、は、はい」
気のせいだったみたいだ。名前を呼ばれたい願望丸出しで恥ずかしい。
「シンデレラ効果って知ってる?」
「シンデレラ効果?」
なんともまぁ突拍子もないことを聞いてくるお客様なこって。
「知ってますよ」
「そう」
会話終了。
一体全体なんなのだろうか。
ここで、「お客さんはシンデレラ効果に興味があるんですね」とか言えたら良いんだけど、あまりに突拍子もない話題なもんで、目をパチクリさせて終了してしまった。
せっかく、美人が話題を提供してくれたのに、なにをやってんだよ、俺。
「今回も、お節介、やいてくれるんでしょ?」
「え?」
どういう意味なのかわからない。
しかし、彼女はそれ以上なにも言わずに席を立つ。
ドンッ!
「……っぅ!」
その時、彼女が椅子に小指をぶつけた。
「きゃっ!」
ビターン。
なんか、踊るように痛がっているところで、そのまま転んだ。
「あ、いちごパンツ」
彼女のお尻からは可愛いいちご畑が広がっていた。
「……っ!」
すぐさま立ち上がり、俺を睨みつける。
いやいや。今のはあんたが勝手に転んだだけだよ。
恥ずかしかったのか、そそくさと会計を済ますと、玄関のドアにぶつかる。
「ぁぅっ!」
美人なのにおっちょこちょいなの萌えるな。
しかし、美人でいちごパンツか……。
美人、いちごパンツ、歌手……?
なにか頭に引っ掛かりが見つかる。
いちごパンツをトリガーになにか──。
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