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第29話 お嬢様の様子がいつもと違います①
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最近早起きにも慣れてきた。
アラームが鳴る前にベッドから起き上がる。
スマホをいじり設定していたアラームを止める。ちなみに本日は有名な演歌を設定してみたのだが聞く事は出来なかったな。
そして2度寝への欲求はない。以前までなら、欲求に完封負けして布団に潜り込み、夢の中というエデンを求めてドリームダイブしていただろう。しかしながら、今の俺には全くその欲が無い。
習慣というのは身につくものだと実感する。
こんな自分を1ヶ月前の俺が見たら驚く事だろうな。
あれだな、なんだったらもう少し早起きしてジョギングでも始めるか? アッハッハ。
なんて無理にテンションを上げようとするが、頭の奥底では、アヤノの事を考えてしまう。
今日はあの泣いてしまった日からのファーストコンタクトである。
どんな顔して顔を合わせれば正解なのか……。
「とりあえず起きるか……」
後の事はアヤノの家に着いた時に考えて、アヤノの家に着いたリョータローに任せよう、そうしよう。
寝巻きを脱いで制服に着替えて部屋を出る。
顔を洗ってリビングに行くといつも通りサユキがいた。
「おはよう兄さん」
「おはよう」
俺が早起きに慣れたとしても、小学生の頃より早起きが得意な妹にはどうやら勝てないみたいだ。
しかし……。ふむ……。彼女は一体誰に似たのだろうか……。
父さんと母さんも朝が強い訳ではない。むしろ弱い。いや、雑魚クラスだ。その雑魚の血を受け継いで俺も朝は強くない。
親子3人が朝弱いのにサユキだけが朝に強い。
もしや――。
俺はサユキの顔をジッと見つめる。
うん。父さんの面影が少しあり、母さんの顔にそっくりだわ。間違いなく俺の妹だ。
一瞬、血の繋がりのない事を疑ったが、1人だけ早起きが得意なだけで疑うとか失礼にも程があるな。
しかし、もしサユキが血の繋がりのない義妹であればラノベ 的展開が待っていたかもしれないのに……。それはそれでおしいな……。いや、もしかしかしたら薄い本が厚く――。
「――兄さん? 人の顔ジッと見てなに?」
「おっと……。ごめんごめん。何でもない」
くだらない事を考えていたと言うと兄としての何かを失いそうなのでお口はチャックでいつもの席に座る。
「兄さん早起き慣れたみたいだね」
「ん? ああ、まぁな。もう余裕よ、余裕」
「ふふ。初めの頃はこーんな目して全然開いて無かったけど」
言いながら目を細めて言ってくる。
妹よ、それは最早開いてないではないか。
「今ではぱっちりお目々だろ?」
パチパチっと瞬きをしてみせる。
「あはは。兄さん寝てる顔と起きてる顔一緒だから分かんないよ」
おいおい。いくら兄妹だからといって失礼な奴だ。
というか俺の顔はそんな顔ではない。
「今日も彼女さん起こしに行くの?」
「だーらっ。彼女じゃなくてバイト先のお客様だっての」
「でも、やってる事って傍目から見ればカップルみたいだよね」
「そんな事――」
あるな……。いや、あるな。
これ給料無かったらやってる事完璧にカップルだよな。
「寝坊助彼女さんを通い妻の兄さんが起こしに行く」
「誰が通い妻じゃ」
「違うの?」
「全然ちがわい! 給料もキチンといただいておる」
「彼女と過ごすだけでお金が貰えるなんて、詐欺だね。兄さん」
「人聞きの悪い言い方をする妹だな、こんちきしょー」
「あ! 給料と言えば……。ねー兄さん。約束覚えてる?」
「約束?」
一体俺は彼女とどんな約束をしたのだろう。全く記憶にない。
「給料良いから何でも買ってくれるってやつ」
「んぁ。あー」
そういや、そんな約束した気がする。
「何でも良いんだよね?」
いつも清楚で綺麗な妹の顔が小悪魔に変化した。
「何でも……。いや、現実的な物にしろよ? 家ぇ、とか、車ぁ、とか。そんな物は無理だぞ」
そう言うと「分かってるよ」と笑いながら言ってくる。
「新しいバッシュが欲しいんだよね」
「バッシュ?」
なんだバッシュって……。あれか? 魔界から来た金髪の電撃出す奴か?
「バッシュだよバッシュ。バスケットシューズ」
「あー! あーあー! はいはい。バッシュね。バッシュ。そっちね」
「どっち?」
「いや、電撃出す方かと」
「それ昔の漫画でしょ? 古いよネタが。兄さんいくつ?」
「今年で17歳です」
「おじさんみたい」
「おじっ!?」
まだまだピチピチの17歳なのにおっさん扱いされるのは辛い……。
「そんな事よりバッシュ買ってくれるの?」
「はいはいはい。バッシュね。オーケーオーケー。オーライオーライ。それなら買ってやるよ」
そう言うと満面の笑みで「やった」と喜ぶ。
バッシュを買ってやると言っただでこれ程美しくも可愛い笑顔を見れるなら万々歳だ。
しかし、この笑顔もいつか誰かのものになってしまうとなると悲しい……。いや、悔しい……。いや、そいつ許さないな。ぶん殴ってやる。
「ふふ。今度の休みに買いに行こう」
「ああ。良いよ」
そんな約束をしてテレビに目をやると丁度天気予報が始まる所であった。
「兄さん。兄さん」
バッシュを買ってやると宣言したからサユキは上機嫌に俺を呼ぶ。
「んー?」
「こういう日はどうするの?」
「こういう日?」
俺が尋ねるとサユキは立ち上がりリビングのカーテンを開ける。
「雨の日」
その台詞と共にテレビから『今日の降水確率は80%で1日傘が手放せない日となるでしょう』と告げられる。
「いつも朝はバイクで行ってるんだよね? こんな日もバイク?」
「くあああ! めんどー!」
「カッパ着て行くの?」
「――カッパだよ……。くぁ……」
♦︎
「忍たーん。ごめんよー。雨の中ー。ありがとう」
「気にすんな旦那。今日もいっぱつかましてやってくだせー。あねさんに!」と勝手に言っている想像をする。
「ありがとよー。ありがとよー」
そう言いながら雨の中を忍たんと共に走り抜けて、感謝の意を込めていつものバイク置き場で鍵をかける。
その時に気が付いた。
近くに人がいる事に。
雨の日のこんな時間にバイクで来る人なんているんだ……。
恐らく聞かれた独り言。
だってめっちゃこっち見てんもん。
恥ずかしくなったので、その場を光よりも速く立ち去る。
それは言い過ぎだが、競歩しながらカッパをビニール袋に詰めて、いつもは空のスクールバックに突っ込む。そして代わりに折り畳み傘をさしてアヤノの家に向かう。
いつ、どこで、誰が聞いてるか分からないよね。独り言って。
「おはようございまーす」
アヤノの家に入る。
最早なにも感じなくなった玄関。逆にこの広さじゃないと落ち着かない感じになっている自分がいる。
リビングに入ると――今日はもうお父さんはいない日であった。
そんな誰もいないダイニングテーブルを見ると、ついこの前の光景がフラッシュバックしてしまう。
泣きながら俺に抱きつくアヤノ。俺の胸でワンワンと子供みたいに泣きじゃくったアヤノ。めっちゃ良い匂いしたアヤノ。
あれ以来の対面……。
あー、やっぱり朝のうちに何か対策でも練っとけば良かった。一体どんな顔をして起こしに行ったらいいだろうか――。
パターン1
【超執事モード】
「お嬢様。起きて下さい。朝でございます。既にモーニングをご用意しておりますゆえ。お着替えを済ましてリビングへお越し下さい。お待ちしております」
――うん。ない。これはない。だってまず、あの子すぐに起きないもん。しかも急にこんな感じで来られたら向こうが逆に気使うわ。
パターン2
【逆にいじっちゃうぜお涙モード】
「へいへい。無表情キャラなのに泣いちゃったね。俺の料理は泣けたかい? 最高の料理だったろベイベー。俺の胸はどうだった? 最高の居心地だったろベイベー。いつでも言ってくれればどこでも貸してやるぜ俺の胸。だから俺にも貸してくれよなお前の胸」
――アウトだろ。つまんねーくせにセクハラだし、あの涙をいじるなんてしちゃ絶対だめ。人としてクズだよクズ。これ言ったら人として終わり。ゴミだ。何が貸してくれよなお前の胸だよ。ただの願望じゃねーか。
パターン3――
いやいや、いつも通り、いつも通りに接すれば良い。
アヤノだって振り返されたくないだろうし。普段のままが最高の答えだろ。
そうそう。いつも通りだよ。いつも通り。何を無駄な事をグダグダ考えているんだか……。あの泣き顔のアヤノを見て相当動揺してるな俺。
「ふぅ……。よっし」
気合いを入れてアヤノの部屋に向かう。
彼女の部屋の前に立ち、1呼吸してからドアノブを掴んで中に入る。
「アヤノー。朝だじょー」
噛んでもた。じょーって……。
でも、ちょっと噛んじゃったが関係な――。
「あ……」
――くなかった。
アヤノは体育祭の日に引き続き、眼福よろしく! 今日も可愛いらしい下着姿を披露してくれる。
この子は何でこんなにサービスしてくれんの? わざと? よもやわざとではなかろうか? 朝から俺元気になっちゃうよ? こんなのラッキースケベじゃないよ。ルーティンスケベだよ。
しかし股間は激アツでも心は割と冷静であった。下着姿は2回目。裸を入れると3回目のコンタクトだ。
もうベテランだね。ベテランの領域さ。
股間は新人教育生だけど、心はもう40年目の選手並に冷静である。
「うぃー。出直すわー」とその場を去ろうとすると俺は目を疑ったね。
「きゃ!」っとアヤノが可愛らしい悲鳴を上げて、腕で胸を隠す行為をする。
それに驚いて俺は逆にアヤノを注視してしまった。
いやいやいやいや! 待て待て待て待て!
そんな行動今まで取った事なかったやん。
「リョータロー……。は、恥ずかしいから、み、見ないで……」
セイセイセイセイ! ウェイトウェイトウェイトウェイト!
いつもなら「なに?」とかゴミを見る目で見てくんじゃん。何なの? 何で今日だけ恥じらってんの。そんな恥じらい可愛すぎるだろ! そんなん股間爆発するやん! ボンバーメーンかよこのやろー。
「いや……。その……」
内心ではアヤノに超ツッコミを入れているが、フタを開ければ動揺しまくりの為、言葉が全く出ない。
「で、出て行って……よ……」
頬を赤らめてウルウルの瞳に弱々しい声で俺はハッとなり「ごめんなさい!」と言って部屋を出る。
出て行って扉に背を預けて「はぁ……」と大きく溜息をついた。
アヤノのやつ……。恥じらったらめっちゃエロいな……。おい……。
あんな超激レアな姿……。恥じらいのアヤノSSRみたいな事されたら心臓の高鳴りが止まらなくなるだろ……。
アラームが鳴る前にベッドから起き上がる。
スマホをいじり設定していたアラームを止める。ちなみに本日は有名な演歌を設定してみたのだが聞く事は出来なかったな。
そして2度寝への欲求はない。以前までなら、欲求に完封負けして布団に潜り込み、夢の中というエデンを求めてドリームダイブしていただろう。しかしながら、今の俺には全くその欲が無い。
習慣というのは身につくものだと実感する。
こんな自分を1ヶ月前の俺が見たら驚く事だろうな。
あれだな、なんだったらもう少し早起きしてジョギングでも始めるか? アッハッハ。
なんて無理にテンションを上げようとするが、頭の奥底では、アヤノの事を考えてしまう。
今日はあの泣いてしまった日からのファーストコンタクトである。
どんな顔して顔を合わせれば正解なのか……。
「とりあえず起きるか……」
後の事はアヤノの家に着いた時に考えて、アヤノの家に着いたリョータローに任せよう、そうしよう。
寝巻きを脱いで制服に着替えて部屋を出る。
顔を洗ってリビングに行くといつも通りサユキがいた。
「おはよう兄さん」
「おはよう」
俺が早起きに慣れたとしても、小学生の頃より早起きが得意な妹にはどうやら勝てないみたいだ。
しかし……。ふむ……。彼女は一体誰に似たのだろうか……。
父さんと母さんも朝が強い訳ではない。むしろ弱い。いや、雑魚クラスだ。その雑魚の血を受け継いで俺も朝は強くない。
親子3人が朝弱いのにサユキだけが朝に強い。
もしや――。
俺はサユキの顔をジッと見つめる。
うん。父さんの面影が少しあり、母さんの顔にそっくりだわ。間違いなく俺の妹だ。
一瞬、血の繋がりのない事を疑ったが、1人だけ早起きが得意なだけで疑うとか失礼にも程があるな。
しかし、もしサユキが血の繋がりのない義妹であればラノベ 的展開が待っていたかもしれないのに……。それはそれでおしいな……。いや、もしかしかしたら薄い本が厚く――。
「――兄さん? 人の顔ジッと見てなに?」
「おっと……。ごめんごめん。何でもない」
くだらない事を考えていたと言うと兄としての何かを失いそうなのでお口はチャックでいつもの席に座る。
「兄さん早起き慣れたみたいだね」
「ん? ああ、まぁな。もう余裕よ、余裕」
「ふふ。初めの頃はこーんな目して全然開いて無かったけど」
言いながら目を細めて言ってくる。
妹よ、それは最早開いてないではないか。
「今ではぱっちりお目々だろ?」
パチパチっと瞬きをしてみせる。
「あはは。兄さん寝てる顔と起きてる顔一緒だから分かんないよ」
おいおい。いくら兄妹だからといって失礼な奴だ。
というか俺の顔はそんな顔ではない。
「今日も彼女さん起こしに行くの?」
「だーらっ。彼女じゃなくてバイト先のお客様だっての」
「でも、やってる事って傍目から見ればカップルみたいだよね」
「そんな事――」
あるな……。いや、あるな。
これ給料無かったらやってる事完璧にカップルだよな。
「寝坊助彼女さんを通い妻の兄さんが起こしに行く」
「誰が通い妻じゃ」
「違うの?」
「全然ちがわい! 給料もキチンといただいておる」
「彼女と過ごすだけでお金が貰えるなんて、詐欺だね。兄さん」
「人聞きの悪い言い方をする妹だな、こんちきしょー」
「あ! 給料と言えば……。ねー兄さん。約束覚えてる?」
「約束?」
一体俺は彼女とどんな約束をしたのだろう。全く記憶にない。
「給料良いから何でも買ってくれるってやつ」
「んぁ。あー」
そういや、そんな約束した気がする。
「何でも良いんだよね?」
いつも清楚で綺麗な妹の顔が小悪魔に変化した。
「何でも……。いや、現実的な物にしろよ? 家ぇ、とか、車ぁ、とか。そんな物は無理だぞ」
そう言うと「分かってるよ」と笑いながら言ってくる。
「新しいバッシュが欲しいんだよね」
「バッシュ?」
なんだバッシュって……。あれか? 魔界から来た金髪の電撃出す奴か?
「バッシュだよバッシュ。バスケットシューズ」
「あー! あーあー! はいはい。バッシュね。バッシュ。そっちね」
「どっち?」
「いや、電撃出す方かと」
「それ昔の漫画でしょ? 古いよネタが。兄さんいくつ?」
「今年で17歳です」
「おじさんみたい」
「おじっ!?」
まだまだピチピチの17歳なのにおっさん扱いされるのは辛い……。
「そんな事よりバッシュ買ってくれるの?」
「はいはいはい。バッシュね。オーケーオーケー。オーライオーライ。それなら買ってやるよ」
そう言うと満面の笑みで「やった」と喜ぶ。
バッシュを買ってやると言っただでこれ程美しくも可愛い笑顔を見れるなら万々歳だ。
しかし、この笑顔もいつか誰かのものになってしまうとなると悲しい……。いや、悔しい……。いや、そいつ許さないな。ぶん殴ってやる。
「ふふ。今度の休みに買いに行こう」
「ああ。良いよ」
そんな約束をしてテレビに目をやると丁度天気予報が始まる所であった。
「兄さん。兄さん」
バッシュを買ってやると宣言したからサユキは上機嫌に俺を呼ぶ。
「んー?」
「こういう日はどうするの?」
「こういう日?」
俺が尋ねるとサユキは立ち上がりリビングのカーテンを開ける。
「雨の日」
その台詞と共にテレビから『今日の降水確率は80%で1日傘が手放せない日となるでしょう』と告げられる。
「いつも朝はバイクで行ってるんだよね? こんな日もバイク?」
「くあああ! めんどー!」
「カッパ着て行くの?」
「――カッパだよ……。くぁ……」
♦︎
「忍たーん。ごめんよー。雨の中ー。ありがとう」
「気にすんな旦那。今日もいっぱつかましてやってくだせー。あねさんに!」と勝手に言っている想像をする。
「ありがとよー。ありがとよー」
そう言いながら雨の中を忍たんと共に走り抜けて、感謝の意を込めていつものバイク置き場で鍵をかける。
その時に気が付いた。
近くに人がいる事に。
雨の日のこんな時間にバイクで来る人なんているんだ……。
恐らく聞かれた独り言。
だってめっちゃこっち見てんもん。
恥ずかしくなったので、その場を光よりも速く立ち去る。
それは言い過ぎだが、競歩しながらカッパをビニール袋に詰めて、いつもは空のスクールバックに突っ込む。そして代わりに折り畳み傘をさしてアヤノの家に向かう。
いつ、どこで、誰が聞いてるか分からないよね。独り言って。
「おはようございまーす」
アヤノの家に入る。
最早なにも感じなくなった玄関。逆にこの広さじゃないと落ち着かない感じになっている自分がいる。
リビングに入ると――今日はもうお父さんはいない日であった。
そんな誰もいないダイニングテーブルを見ると、ついこの前の光景がフラッシュバックしてしまう。
泣きながら俺に抱きつくアヤノ。俺の胸でワンワンと子供みたいに泣きじゃくったアヤノ。めっちゃ良い匂いしたアヤノ。
あれ以来の対面……。
あー、やっぱり朝のうちに何か対策でも練っとけば良かった。一体どんな顔をして起こしに行ったらいいだろうか――。
パターン1
【超執事モード】
「お嬢様。起きて下さい。朝でございます。既にモーニングをご用意しておりますゆえ。お着替えを済ましてリビングへお越し下さい。お待ちしております」
――うん。ない。これはない。だってまず、あの子すぐに起きないもん。しかも急にこんな感じで来られたら向こうが逆に気使うわ。
パターン2
【逆にいじっちゃうぜお涙モード】
「へいへい。無表情キャラなのに泣いちゃったね。俺の料理は泣けたかい? 最高の料理だったろベイベー。俺の胸はどうだった? 最高の居心地だったろベイベー。いつでも言ってくれればどこでも貸してやるぜ俺の胸。だから俺にも貸してくれよなお前の胸」
――アウトだろ。つまんねーくせにセクハラだし、あの涙をいじるなんてしちゃ絶対だめ。人としてクズだよクズ。これ言ったら人として終わり。ゴミだ。何が貸してくれよなお前の胸だよ。ただの願望じゃねーか。
パターン3――
いやいや、いつも通り、いつも通りに接すれば良い。
アヤノだって振り返されたくないだろうし。普段のままが最高の答えだろ。
そうそう。いつも通りだよ。いつも通り。何を無駄な事をグダグダ考えているんだか……。あの泣き顔のアヤノを見て相当動揺してるな俺。
「ふぅ……。よっし」
気合いを入れてアヤノの部屋に向かう。
彼女の部屋の前に立ち、1呼吸してからドアノブを掴んで中に入る。
「アヤノー。朝だじょー」
噛んでもた。じょーって……。
でも、ちょっと噛んじゃったが関係な――。
「あ……」
――くなかった。
アヤノは体育祭の日に引き続き、眼福よろしく! 今日も可愛いらしい下着姿を披露してくれる。
この子は何でこんなにサービスしてくれんの? わざと? よもやわざとではなかろうか? 朝から俺元気になっちゃうよ? こんなのラッキースケベじゃないよ。ルーティンスケベだよ。
しかし股間は激アツでも心は割と冷静であった。下着姿は2回目。裸を入れると3回目のコンタクトだ。
もうベテランだね。ベテランの領域さ。
股間は新人教育生だけど、心はもう40年目の選手並に冷静である。
「うぃー。出直すわー」とその場を去ろうとすると俺は目を疑ったね。
「きゃ!」っとアヤノが可愛らしい悲鳴を上げて、腕で胸を隠す行為をする。
それに驚いて俺は逆にアヤノを注視してしまった。
いやいやいやいや! 待て待て待て待て!
そんな行動今まで取った事なかったやん。
「リョータロー……。は、恥ずかしいから、み、見ないで……」
セイセイセイセイ! ウェイトウェイトウェイトウェイト!
いつもなら「なに?」とかゴミを見る目で見てくんじゃん。何なの? 何で今日だけ恥じらってんの。そんな恥じらい可愛すぎるだろ! そんなん股間爆発するやん! ボンバーメーンかよこのやろー。
「いや……。その……」
内心ではアヤノに超ツッコミを入れているが、フタを開ければ動揺しまくりの為、言葉が全く出ない。
「で、出て行って……よ……」
頬を赤らめてウルウルの瞳に弱々しい声で俺はハッとなり「ごめんなさい!」と言って部屋を出る。
出て行って扉に背を預けて「はぁ……」と大きく溜息をついた。
アヤノのやつ……。恥じらったらめっちゃエロいな……。おい……。
あんな超激レアな姿……。恥じらいのアヤノSSRみたいな事されたら心臓の高鳴りが止まらなくなるだろ……。
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