クーデレお嬢様のお世話をすることになりました

すずと

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第38話 お嬢様と妹が仲良しです

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 結局、2人は俺の事など無視して遊び呆けやがった。
 
 ウィンドウショッピングなんてさっきサユキは周ったばかりなのにもう1週するし。
 ゲーセンでやたら太鼓叩いた後に違うリズムゲーに手を出すし。シメにプリクラ撮るし。
 昼飯も食わず、目的の物も買わず、勉強の事も忘れて散々に遊んでやがる。

 でも、アヤノの奴がサユキと楽しそうにしているのを見るとなんだかほっこりしてしまう。



 ようやく目的地へやってきた昼下がり。

 ここまで来るのに随分とかかってしまった。

「久しぶりに来たなー」

 昔からあるスポーツ専門店を見渡してつい言葉が出てしまった。

「兄さん高校から部活入ってないから来る事ないもんね」
「そうだな」

 中学までは運動部に所属していた為に練習着や練習道具を買いにここまでチャリで走ったものだ。
 しかしながら、運動部に所属していない今となっては中々来る機会が無くなってしまった。

「続けても良かったんじゃない?」
「サユキには前から言ってるけど、俺はバイクに興味があったからな。バイト1択だったんだよ」
「部活とバイトの両立とか考え無かったの?」

 サユキの言葉に乾いた笑いが出てしまう。

「そんな器用な事は俺には出来ないよ。でも実際には両立が出来ている人もいるから、そんな人達は尊敬しちゃうよな」
「バイトの両立はしてるのに?」
「それは……」

 確かにバイトの両立はしてるね……。でも、何か違くない? 新聞配達とコンビニバイトとか、ファミレスとコンビニバイトとかのノリとは違くない?

 サユキの一言にアヤノがボソリと言ってくる。

「自画自賛。ナルシスト」
「違うわっ!」
「うーん。あはは……。兄さんあんまり自分の事を自慢するのは……」

 サユキも苦笑いで言ってくる。

「サ、サユキ? サユキはどうするんだ? 高校入ってもバスケ続けるのか?」

 話題を戻す。

「勿論!」

 流石我が妹。部活の話にはすぐ乗っかってくれる。

「ほんじゃ強い高校とか行くんか?」

 サユキは指を顎に持っていき考え込む。

「そこら辺はまだかな……。とりあえずは大会の事で頭いっぱいだよ」

 3年のこの時期にまだとは……。
 いや……。どうだったかな……? 俺も中学の時の今頃の時期はまだ志望校は漠然としていた気がするな……。

「大会?」

 アヤノが首を傾げて尋ねるとサユキがパッと反応する。

「もうすぐ最後の大会なんですよ。あ! 綾乃さん良かったら見に来てくれませんか? 夏休みなんですけど」
「えっと……」

 何故か俺をチラリと見る。
「ん?」と声を出すと特に俺に何を言ってくる訳もなくサユキに頷いた。

「う、うん。良いよ」
「わぁ! やったー!」

 まるで従姉妹のお姉ちゃんが応援に来てくれる事になって喜ぶ様な姿である。

「それじゃあ綾乃さんにすぐ私だって分かる様なバッシュ買わないと! ちょっと探してくるー!」
「あまり高いのはダメだぞー!」

 そんな俺の言葉を無視して嵐サユキは俺達を置いてどこかへ消え去ってしまった。

「サユキちゃんも……それでも短め……。周りに長いのはいない……。やっぱり短いのが好き……」

 ふとアヤノが誰にいう訳でもなく言葉を出す。
 思っていた事がつい出てしまった。そんな感じだったので、わざわざ言葉を拾わなくても良いと思ったがつい反応してしまう。

「どゆこと?」

 ハッとなったアヤノが少しあたふたとして言ってくる。

「か、可愛いね。サユキちゃん」

 多分そんな事を言いたかった訳じゃなさそうだが、妹が褒められて鼻高々である。

「誰の妹だと思ってるんだよ。俺やで!」

 そう言うとジト目で見てくる。

「リョータローは失敗作なんだね」
「お前ホント失礼な奴だな。ホントに失礼な奴だな!」

 大事な事なので2回言う。

「これとサユキちゃんが兄妹なんて信じられらない」

 やれやれ。と鼻で笑ってくる。

 コイツ、ホント最近失礼だ。
 この後の勉強量を3べぇにしてやる。

「――ね? リョータローはバイクの為に部活しなかっんだよね。本当は部活やりたくてやれなかった訳じゃなくて?」
「あはは。プロ注目の俺が肩壊して大好きな野球出来なくなったとか、Uー15に選ばれていた俺が足怪我してサッカー出来なくなったとか、そんなドラマがあれば良かったけど、カッコいい裏設定は一切ないよ。シンプルにバイクに乗りたかったからバイトを選択しただけ」
「いつから好きなの? バイク」
「いつからってそりゃ――」

 ――いつからだろう。

 あまり意識して考えた事なかった。いつの間にか好きになっていたからだ。

 中学生の時は――何歳からバイクの免許が取得出来て、いつから2人乗りが可能か。高速道路の乗り方とか、あとは免許費用はどれくらい等、もう乗る方に意識がいっていた気がするな。

 小学生の時は――バイクの車種とか排気量とかやたら覚えていた気がする。だけどまだ小学生だったから乗る意識は薄かった。でもバイクが好きだと断言出来たな。

 それじゃあそれより前?

 あ……。何か薄ーく誰かのバイクに触らせてもらった記憶があるような……。
 
 ――誰?

 父さんは普通自動車の免許しかなく、普通自動二輪の免許持ってない。母さんも同じくだし。叔父さん? いや、親戚もバイクに乗ってる人はいなかった。

「――わからん」
「そうな――!?」

 アヤノは急に2度見しだした。

 彼女の視線の先を追うとマネキンがランニングウェアを着ている。そのランニングウェアが【ウサギのヌタロー】だった。ヌタローがグラサンして走っているシンプルな絵がプリントされている。

 ヌタローに目がないお嬢様はスタコラセッセとマネキンの方へ向かう。

「か、可愛い……」

 アヤノはマネキンを360°見渡して鼻息を荒くしている。

 こういう時一般庶民の俺はすぐさま値札を確認してしまう。

 ――げっ! 値段は全然可愛くねー。何でこんな値段すんだよ……。
 まぁ有名スポーツメーカーとのコラボ商品だから言うなればブランド品。それなりにお高くなるのも当然か。多分性能が良いのだろう。ヌタローだけど。

「これ買う」
「え?」

 俺は耳を疑った。

「アヤノ? お前ランニングとかするのか?」
「しない」
「ですよねー。じゃあ意味なくない?」
「飾る。オブジェとして」
「オブジェねー」

 呟きながらヌタローウェアを触って見る。

「おお。触り心地良いな」
「当然。ヌタローだから」
「いやいや、ヌタロー関係なくない? このメーカーが良い所なんだろ」
「そうじゃない。ヌタローが凄い。ヌタローがいてこそのこの触り心地。ヌタローがいなければこの感触は出せない」

 意味不明な理論を唱えてくる。
 ヌタロー愛強すぎだろ……。

「そ、そうか……。まぁそうだとしても、着ないでオブジェにするんだから宝の持ち腐れだな」

 そう言うとアヤノは少し考えて後に言ってくる。
 
「分かった。じゃあこれ着て走れば文句ないんでしょ?」
「文句なんて言ってないっての。――つか、え? 走るの?」
「走る。その時はリョータローも付き合ってよね」
「何で俺が走らなきゃならんのだ」
「文句言ってきたからには付き合ってもらう」
「だから文句なんか言ってないっての」
「いや、ネチってきていた」
「そんな事――」
『痴話喧嘩ですかー?』

 俺達の会話に先程去って行ったはずのサユキが割って入ってくる。

「夫婦喧嘩は犬も食べないって言うよ? だからやめてくださーい」

「夫婦じゃない!」と俺達の声がシンクロする。

「わぁお。息ピッタリ」

 サユキは嬉しそうに笑った後に手に持っていた箱を見してくる。

「兄さん兄さん。これ買って良い?」

 そして箱を開けるとそこには目的の物であるバッシュが入っていた。
 これ見た事ある。すっげー高い奴だ。

「おまっ……。これ……」

 苦笑いを浮かべながら声が出る。

「ダメ?」
「流石に買ってやると言ったが、これ……」
「あはは……。やっぱりダメか……」

 ションボリ肩を落とすサユキ。それを見たアヤノが一言申す。

「ついでに買ってあげる」

「え!?」と次は俺達兄妹の声がシンクロした。

「別に構わない。私もこれを買うからついで」

 少し上機嫌にヌタローウェアをひらつかせる。

「いや、でも……」

 流石のサユキも気が引けている。そりゃそうだ。家族じゃない人にこんな高い物買ってもらうなんて気使う。
 つか、簡単にこの値段を買ってあげるとか、やっぱりコイツはお嬢様なんだな。

「今日遊んでくれたお礼。遊んでくれたからお礼をするのは当然」

 その言葉を聞いて俺はアヤノの肩に手を置いた。

「アヤノ。それは違うぞ?」
「どういう事?」

 彼女は心底分かってない様であった。

「サユキは別にお礼が欲しくてアヤノと遊んだ訳じゃない。ただ単純にアヤノと仲良くしたいから遊んだだけだ」

 俺の言葉に続いてサユキが声をかける。

「そうですよ。そもそも誘ったのは私ですし。一緒に遊ぶのにお礼なんてわざわざ要らないですよ」
「そうなの?」
「そうです。年上の方にこんな言い方も失礼かもしれませんが、私達もう友達じゃないですか!」
「とも……だち……」
「一緒に買い物したりゲーセン行ったり、凄く楽しかったです。だから友達です。友達なのにお礼とか変です」
「変……。友達……」

 アヤノは戸惑っている様子だった。
 あまり彼女の過去を深くは聞いていないが、体育祭の時に聞いた話から察するに、恐らく今まで面と向かってそう言われた経験がないのだと思う。

「アヤノ。またサユキと遊んであげてくれないか?」

 固まってしまっているアヤノに声をかける。

「また……遊んでくれるの?」
「当然ですよ!」

 そう言うとサユキはスマホを取り出した。

「綾乃さん。連絡先交換しませんか?」

 サユキが無邪気な笑顔で言うとアヤノは迷いなく頷いた。

 2人が連絡先を交換するとサユキは俺に箱を預けてアヤノの手を引いて歩き出す。

「やっぱり綾乃さんが選んで下さい。可愛いバッシュ」
「私が? 良いの?」
「勿論です。それ履いて大会がんばりますから!」

 そう言って仲良く2人は駆け出して行った。

 勿論。俺は置いてけぼりである。



♦︎



 ようやく目的の物が買えてショッピングモールを後にする。
 そしてサユキとは現地解散となった。流石に今から行われるテスト勉強までは付いて来ないみたいだ。
 しかし、後日サユキを家に招待したアヤノ。誘う時の彼女の顔は柔らかく、今まで見た事ない表情であった。

 そんなアヤノの家に行くまでの道のり。
 
 バイクはショッピングモールのバイク置き場に置いてきた。どうせいつも置いている病院までは目と鼻の先。もう既に満額を払わなくてはならないので、どちらに置いても同じである。

 あ……。そもそも病院に置いておけば駐輪代無料だった……。
 そう思っても後の祭りである。

「友達か……。ふふっ」

 アヤノが嬉しそうに呟きながら歩いていた。
 
「妹は友達で兄貴はパシリってか?」

 以前ゲーセンでプリクラを撮る時に言われた事を思い出し苦笑いで言ってやる。
 するとアヤノは少し考えて頷く。

「リョータローはパシリ」
「ははっ。まぁさっきは綺麗事言ったけど、所詮俺は給料を貰ってる雇われパシリですよ」
「でも、ちょっとだけ……。微かだけど特別なパシリ」

 ちょっとだけ微かな特別なパシリ?
 なんじゃそりゃ。結局パシリじゃん。

「喜んで良いのやら悲しんだら良いのやら」
「喜んで良い。昇格みたいなもの」
「お、日給アップとか?」
「テストで私が赤点取ったらもれなくリョータローも一緒に補習」
「いやな昇格だな! おいっ!」
「ふふっ。だったら私を赤点回避させるんだね」
「だから! 何でお前は他人事なんだよ」
「ファイト」
「オー! ――じゃねーわ! アヤノがファイトだから!」

 そんな会話をアヤノは楽しそうにしてくれた。
 サユキという友達が出来たの事がそんなに嬉しかったのか、帰るまではご機嫌であった。

 帰るまでは――。

 その後、勉強祭りで超不機嫌になったのは言うまでもあるまい。
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