彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

すずと

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第28話 高嶺の花が睨んでくる

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 優乃の様子がおかしい。

 授業中、こちらを振り返ってきては睨みつけてくるし、休み時間に廊下ですれ違ったら不機嫌に顔を逸らしてくるし。屋上に来るのかと思ったら今日は来ないし。いや、屋上の件は約束していないけど。

 まさか……。

 彼女の様子に気がついた時、日直の日誌を書いているペンが折れる。

 昨日の様々な俺のイタイタ発言に気がついてどん引いているのか?

『よくよく考えたら京太くんってめちゃくちゃ痛い人ですね。急に語り出すし。メイド服着させるし。正直、きもいです』
『ま、待て! メイド服はじじぃだろうが』
『俺のメイドとか言うし』
『それは言った』
『きもいのでもう関わらないでください』
『優乃おおお』

 うおおおおおお!

「おーい」

 5限終わりの休み時間に脳内悶絶していると、男子生徒の声が聞こえてくる。

 その声に反応して前を見てみると、短髪の男子生徒が立っていた。

「えっと……。沢村?」

 目の前にはクラスメイトの男子、沢村が立っていた。

「枚方も悶絶とかするんだな」

 野球部の彼は高校球児らしい爽やかな笑顔で言ってくる。

「悶絶してた?」
「してたぞ。こう、『ぉぉぉ』って」

 ぐおっ。声に出してしまっていたか。ただ、声にならない声って感じだったみたいなので良かった。

「枚方って、こう、シュッとしてるから、悶えるイメージがなかったけど、普通に悶絶すんだな」
「いや、ちょっと色々あってな」
「色々ね……」

 彼は何かを察したような顔をして周りを見渡した。

「ま、俺はよくわからんが気にすんな。もし、モヤモヤしてんなら野球部に入れよ。人数足りてないから即レギュラーだ」

 沢村は勘違いして慰めてくれる。多分、二股の噂を気にしているのだと勘違いしたのだろううな。

 良い奴だな。こいつ。

 わざわざ、悶絶していた理由を話す必要もないし、沢村なりに気を使ってくれてるんだから訂正する必要もない。

「ありがと。野球部は入らないけど」
「そこは入る流れだろ」

 あははと互いに笑い合う。

「それで? 俺に何か用?」
「おっと。そうだ、そうだ。昨日、日誌出してくれたんだよな?」
「ああ。そのこと。出したよ」
「わりっ。助かったよ。んで、昨日出してくれたお礼で今日は俺が代わるわ」

 そう言ってくれるが、俺は首を横に振った。

「いいよ。気にしなくて。昨日は時間に余裕があっただけだから」
「そうか? うーん」

 沢村は少し困惑した様な顔をした。しまったな。これなら素直に好意を受け入れば良かった。

「そうだ。今度なんか奢るわ。それでチャラで」
「いやいやいや。日誌出しただけだぞ?」

 夏目さんもそうだったが、なんで奢りたがるんだ。

「昨日はマジで助かったんだよ。まぁ俺は夏目に押し付けちゃったけど。結果は枚方に助けられたってことになるだろ? だから今度奢るのは当然の流れだろ」

 これ以上断ると、また違った条件を出してくれるかもしれないな。ここは素直に奢られるとしよう。

「ありがと。じゃあ、また今度奢ってもらおうかな」
「おっけ。また部活休みの時にでも奢るわ」
「え?」

 キーンコーンカーンコーンと休み時間が終わるチャイムが鳴り響く。

「しゃ。あと、1時間か。部活前に寝るかな」
「あ、ちょ」

 奢るって、ジュース1本とかのレベルじゃないの?

 部活休みの日って、ガッツリ奢ってくれるの? 日誌出しただけで?

 こっちの困惑を知る由もない沢村は、自分の席へと戻って行った。

「うぃーい。ロングホームルームとかいうわけわかめなお時間だぞ~。席着け~」

 担任の紫藤先生がゆるい感じで教室に入ってくる。

 クラスメイト達が、「言い方w」とか、「ふるっw」とか先生にツッコミを入れていた。

 紫藤先生は頭を、ガシガシっとかきながら教卓より言い放つ。

「この時期のロングホームルームってやることないんだよな。基本的には決め事をやっていく時間だけど、体育祭も文化祭も修学旅行もまだ先だ」

 学校の楽しいイベントを口に出すと、クラスメイト達が楽しそうな声を出す。

「1番近い楽しいイベントは中間テストくらいか?」

 一瞬でクラスがお通夜と化す。

 すごいな中間テスト。属性でいうと即死系だよ。

「まぁ……。中間も近いしこの時間は自習で良いと思ったんだけど、上から自習ばっかりだと怒られてね。ちゃんと教室で授業をしなさいとな。ロングホームルームで授業ってなによってなった結果、俺が導き出した答えがあるんだ。みんな、聞いてくれ」

 なんだかロックバンドのMCみたいな感じで語り出したけど、クラスメイト達は先生の言うことを黙って聞いていた。生徒に好かれてるなぁ、紫藤先生。

「席替えしよう」

 うえええええええええええええええええええい!

 歓声がわいた。

 一瞬、2年6組がアリーナかと思うくいらいに歓声がわくと、7組の美人先生がやってきて、紫藤先生が怒られていた。

「コホン。ちゅうわけで、くじあっから。みんな引け」

 用意よすぎだろ。







「よろしくね。枚方くん」
「あ、ああ。よろしく」

 俺のくじ運は良いらしい。

 窓際の1番後ろから1つ前の席。

 この席のメリットは、1番後ろの人からプリントを集めて来ての効果を受けず、しかも先生からの距離も遠いので、やりたい放題である。

 まぁ、授業はちゃんと受けるけど。

 それに隣の席には、今朝話しかけてくれたありがたい女バスの夏目さん。そして、夏目さんの後ろの席も、俺に話しかけてくれた沢村だ。沢村は早速寝てるけど。

 なによりも。

 ゴンッ!

「っいて」

 痛くはないが、椅子の裏を蹴られてしまい、つい反射的に声が出てしまった。

 後ろを振り返ると、そこには大翼高校の高嶺の花様が不機嫌に座っていた。

「ぅぅぅ」

 優乃はなんとも言えない表情で思いっきり睨んでくる。

 俺は嬉しかったのだけど……。

 昨日の発言はそんなにやばかったのだろうか。

「よ、よろしく」
「……ぷいっ」

 これは、早いところ昨日の汚名を返上しないといけない。
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